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インプラントと入れ歯を組み合わせた治療

2024年2月11日

⚫️オーバーデンチャーを用いた下顎無歯顎症例へのインプラント治療

こんにちは、こさか歯科クリニックです。
今回は、歯がない下顎に対して、インプラントと入れ歯を組み合わせた治療=インプラントオーバーデンチャーについてです。
最初に、インプラントオーバーデンチャーについての、学術的な裏付けについてです。

「2本のインプラントによるオーバーデンチャーが今後、下顎無歯顎の補綴治療の第一選択となる」
 2002年のカナダのMcGilのコンセンサスレポートにはこのように述べられています、Feine らは、このレポートのエビデンスとなる無歯顎に対するインプラントオーバーデンチャー治療に関する多数の調査・報告を「Implant Overdentures - The Standard of Care for Edentulous Patients」と題する著書のなかで行っています。
 オトガイ孔間に埋入した2~4本のインプラントの予知性については、良好な結果が多数報告され、特に長期間総義歯を装着し顎堤が吸収し義歯の不調に悩む患者さんに対し,インプラントオーバーデンチャーの使用による咀嚼能力、義歯の安定性の改善に伴うQOLの向上、栄養改善が報告されています。またボーンアンカードブリッジとインプラントオーバーデンチャーの比較において、その清掃性、発音、審美性の優位性から、インプラントオーバーデンチャーを最終的に選択した被験者さんが多かったとも報告されています。
固定性のインプラント補綴装置と、取り外し式のインプラントオーバーデンチャー、それらの優劣については、以下のような研究論文が発表されています。

・下顎におけるバーアタッチメントによるインプラントオーバーデンチャーと固定式インプラント義歯の比較:de Grandmont P 1994年
予想を覆して、インプラントオーバーデンチャーは決して機能的には固定式インプラント補綴装置には劣らない、また難性食品を除けば、一般的には概ね両者とも患者満足度は同等である、そして高齢になる程最終的に取り外し式の入れ歯を好むという結果を示しました。

バー➕インプラント4本支持のインプラントオーバーデンチャーと、2本支持のものの比較:Tangら 1997年
4本支持は安定感、快適さ、噛みやすさが優れるものの、その他大半の評価項目には同等の結果を示しました。この研究では、2本支持の下顎のインプラントオーバーデンチャーを正当化する一つの根拠となります。

上顎のインプラントオーバーデンチャーに関する患者評価:de Albuquerque Junior RF 2000年
下顎と異なり、上顎の無歯顎に対しては、インプラントオーバーデンチャーが必ずしも第一選択とならないという結果を示しています。ですので、上顎に関してはインプラントと取り外し式の義歯を組み合わせることに関しては、今のところ絶対的評価はありません。

McGillコンセンサス 2002年
下顎無歯顎の第一選択はインプラントオーバーデンチャーが最良であるという論文。

インプラント領域における社会経済学的コスト分析の先駆け論文:Takahashi Y2002年
下顎インプラントオーバーデンチャーは、生活の質の改善に大きく寄与することを多数示しています。

栄養状態の改善がなされるのか検討:Morais JA 2003年
下顎インプラントオーバーデンチャーの使用により、栄養状態の改善が見られるのか調べた論文です。アルブミン、ヘモグロビン、B12に有意差が見られたとされています。

受容する患者さんの性差に注目した研究:Pan S 2008年
女性に対する義歯作製、リハビリの困難さは多く報告されていますが、インプラントオーバーデンチャーはその差を帳消しにするほどの大きな改善をもたらすことを意味しています。従来の総義歯治療に関しては、女性の満足度は決して高くありません。インプラントオーバーデンチャーにした場合の性差はなく、満足度は向上しました。

8編の論文を包含した分析:Emami E 2009年
これまでを振り返った研究。改めて、インプラントオーバーデンチャーは、従来の総義歯治療と比較して生活の質の向上に寄与することが示唆されました。一方で、対象となるメインの年齢層の高齢者には、同治療を助け入れない場合もあることもわかりました。

社会心理学的研究:Esfandiari 2009年
インプラントオーバーデンチャーは、インプラントによる固定式補綴装置と比較すると安価にはなりますが、それでも治療費用が受療を阻害していることも事実であります。さらに、他の主要因としては、老化による痛みへの恐れ、術後の偶発症が挙げられました。

下顎にインプラントと入れ歯を組み合わせた治療例

歯がない顎に対して、インプラントを2本埋入し、その上には入れ歯をとめる「ロケーター」というパーツが取り付けられています。

ロケーターとは?
ロケーターとは商品名で、Zest Anchors社から発売されているシステムです。簡単にいうと、シャツのボタン的な構造を想像してもらったら良いと思います。入れ歯の内側に弾性のあるパーツが組み込まれ、インプラント側にスタッド型のメタルパーツが設置されます。現在、国内では、私たちが採用しているノーベルバイオケア社、その他ストローマン社、白鵬社からそれぞれ自社インプラント用アタッチメントとして正規輸入販売されています。
他のアタッチメントのシステムとの比較について、患者さんの主観的評価の調査の報告があります。他のシステム、ボール型のアタッチメント、バー型アタッチメントに対し、有意差がないという結果の論文もあれば、QOLが向上したという論文もあり、一致はしていません。しかし、決して劣るシステムではないようです。
利点はいくつかあります。
①従来のバー型、ボール型アタッチメントよりもパーツの高さが低く設置できること。専門的な話ですが、これはとても重要な要素で、高さのあるアタッチメントの場合、どうしても入れ歯の構造に薄く強度の低い部分ができてしまいます。そのため、低いパーツが選択できるロケーターの場合、インプラントの位置付けや、入れ歯の設計に自由度が大きくなります。入れ歯の強度不足による破損などの偶発症に関しても、リスクを下げることができます。
②ボール型、マグネット型よりも安価である。
③1mm違いのサイズ展開があること。インプラント埋入深度や歯肉の厚みが何ミリであっても、その状況に応じてサイズ選択が可能であり、治療がやりやすいメリットがあります。
④維持力のバリエーション。通常ラインナップでは、0.7kg,1.4kg,2.3kgが選択できること。患者さんの取り扱いのしやすいキツさを選択できるわけです。
✳︎使用上の注意点:インプラントオペの計画に関することになりますが、ロケーターをつけるインプラント同士の角度が、可能な限り平行であることが求められます。これが20度以下に抑えられていることが望ましいです。これ以上の角度になると、急速に維持力の低下があります。つまり、フリーハンドや目測でのオペではなく、コンピューター支援のガイドオペを併用し、インプラント間の角度をコントロールする計画を立てる必要があります。


義歯を装着した状態の口腔内写真。着脱方向を間違えて強引に行ってしまったり、しっかりはまっていない状態で噛み込んで入れ歯を入れるような使用法は、アタッチメントの維持パーツの早期交換に繋がりますので、事前の患者さんへの指導を注意深く行う必要があります。


下顎骨両側の小臼歯部には、オトガイ孔という穴が空いています。オトガイ孔間には歯を失った後でも骨量が残っていることが多く、その部位に対して平行な角度にインプラント埋入をします。

これらのようなアタッチメントの利点をしっかり把握した上で、治療計画を立て、義歯装着後のフォローを行っております。

インプラント治療後のメンテナス その2

2024年1月7日

こんにちは、こさか歯科クリニックです。

今回もインプラントのメンテナンスについての内容ですが、
インプラントの上部構造とその周囲の状況を具体的に考えた上で、
どのようにケアを続けていくとよいかを説明します。

上部構造装着直後のブラッシング指導の重要性
上部構造装着直後、患者さんはインプラントで歯を補われた歯列に慣れていないため、
ブラッシング不良になりやすく注意が必要です。

とくに全く歯がない状態で長期にわたり総義歯を装着されていた患者さんの場合、
歯ブラシで歯を磨く習慣を忘れてしまっているため、
歯科衛生士が時間をかけてブラッシング指導をする必要があります。

また、インプラントは顎骨の幅や高さにより埋入する位置や長さが決定されるため、
上部構造の形態は顎骨の量や形態により清掃性の面で理想的な形態を付与できない場合があります。

左下奥にインプラントが埋入された状態のCT画像。天然の歯と比較すると、根の幅が大きく異なります。
この症例では、あまり骨の高さの差はありませんが、
このように整った条件ばかりではありません。

したがって、上部構造装着直後に患者にブラッシング指導をする際には、顎骨および上部構造の形態を説明し、
形態的に磨きにくい部位があることを理解していただくこと、
インプラント歯列のブラッシングに慣れていただくよう指導することが重要です。

インプラントの上部構造装着後、定期健診の重要性、インプラントを含めた歯磨きの方法等を説明しています。
患者さんが選んできた歯ブラシ等が、必ずしもインプラント周囲組織に適した製品ではない場合もあります。
私たちは、上部構造の装着直後に、インプラントに適した清掃用具およびブラッシング方法の説明を行っております。

バイオタイプによるセルフケアの注意点
バイオタイプというのは、歯茎の粘膜の質のことです。
インプラント周囲粘膜の形態は、
厚い(thick-fat)タイプと薄い(thin-scalloped)タイプの2つに大別されます。
また、歯周組織についてはlaynardらにより軟組織や骨の厚みの関係から
4つのバイオタイプに分類されます。

角化歯肉の幅や厚みが、インプラント周囲組織の安定に必要か否かの見解の一致は得られていません。
しかし、歯周組織において歯肉が薄く角化歯肉が不足している部位では、
臨床的にブラシや食物による擦過などの機械的刺激やプラークに対する抵抗性が低く、
炎症による歯肉退縮を起こしやすいことがわかっています。
インブラント周囲粘膜においても、粘膜がインプラント上部構造頭部に近接し角化歯肉の幅が不足している部位や、
薄い組織の部位において、ケアを行う際には十分な注意が必要です。

とくに前歯部においては、唇側粘膜の厚い(thick-1at)タイプ
では、粘膜の退縮は少なく、審美的問題も少ないでしょう。
一方、薄い(thin-scalloped)タイプでは、経時的な粘膜の退縮が生じやすく、
とくに強圧や間違った方向へのブラッシングを行った場合、粘膜退縮は大きくなり、
審美的問題を生じやすくなります。

セルフケアの指導は、バイオタイプを評価したうえで指導方法を選択する必要があります。
Thick-Alatタイプの場合は、通常のブラッシング指導を行い、
過度なブラッシング圧による粘膜損傷を起こさせないような指導が重要です。

一方、thin-scallopedタイプの場合、ブラッシングによる粘膜退縮を予防することが重要であり、
軟らかい毛質のブラシを選択し、ブラッシング圧を弱め、唇側面に直角に当てるようなブラッシング指導を厳密に行う必要があります。
セルフケアに使用する各種清掃用具は、天然歯とは異なる形態を呈しやすいインプラント上部構造は、清掃性が悪くなる部位があるため、
歯ブラシだけでは磨き残しやすいことも多くなります。
そのため、補助ブラシなどインプラント周囲組織と 上部構造の形態や材質に適した清掃用具の選択が重要となります。
①ワンタフトブラシ
豊隆が大きい部分やインプラントブリッジの鼓形空隙などは、通常の歯ブラシでは毛先が届かず磨き残しやすいため、
歯ブラシで磨いた後に補助的にワンタフトブラシを使用するよう指導します。
②歯間ブラシ
インプラント周囲粘膜は瘢痕状態であり、歯間ブラシの誤った使用方法により、容易に付着をしてしまうこともあります。
ブラシの使用を開始する際には、必ずサイズ確認を行い、挿入方向に十分注意するよう指導することが重要です。

歯間ブラシのサイズは、天然歯の歯間部に適合するサイズよりもワンサイズ小さいものを選択し、
歯肉を押し広げないように注意する必要があります。
筆者は、歯間ブラシのサイズSが抵抗なく挿入できる鼓形空隙より狭い部位には、
歯間ブラシの使用は避け、ワンタフトブラシでの清掃を中心に指導しています。

また、歯間ブラシの金属のワイヤーによって、チタン面やセラミックス表面を傷つけないために、
ワイヤーがナイロンやプラスチックコーティングされている歯間ブラシを使用することも重要です。

③軟毛ブラシ
可動粘膜がインプラント上部構造頸部に近接しており、ブラッシング時の擦過によって傷つきやすい部位や、
即時荷重インプラント治療において手術直後に暫間的補綴物を装着した部位など、
粘膜が脆弱な場合には、軟毛ブラシを選択します。

④音波振動歯ブラシ
音波の作用により効率的に磨くことができるため、とくに全顎無歯顎症例でインプラント治療された患者さんにおいて、
音波振動歯ブラシでのブラッシングは有効です。また、ブラッシング圧をコントロールできない患者においては、
とくに音波振動歯ブラシを勧めることが必要です。
なぜなら、インブラント周囲粘膜は瘢痕組織であるため過剰な圧のブラッシングによって粘膜を傷つけないためにも、
一定の振動で磨ける音波振動歯ブラシを選択することが重要だからです。

⑤電動歯ブラシ
電動歯ブラシの毛先の動きは、歯周組織と比較して粘膜が脆弱であると考えられるインプラント周囲組織に対して、
ブラッシング圧が強すぎる場合もあるため、なるべく使用を避けるように指導しています。

⑥歯磨剤
研磨剤が多く配合されている歯磨剤は、上部構造を摩耗させるため、インプラントのみならず天然歯に対しても使用を避けるべきです。
セラミックスや金属などインプラント上部構造の材質にかかわらず、研磨剤によって傷ついた表面はバイオフィルム、プラークの沈着を招きます。
また、審美的にも、研磨剤によって摩耗した細かい傷により、セラミックスの艶や輝きを失わせます。
低研磨性または研磨剤無配合の歯磨剤が望ましいと考えます。
インプラントの形態的特徴から、歯ブラシによるセルフケアでは磨き残しやすい部位を、含嗽剂による化学的清掃法で補うことも必要です。
とくに、インプラント上部構造装着直後は、インプラントで補綴された歯列形態でのブラッシングに慣れていないため、
化学的清掃によりプラークコントロールを行うことが重要となります。
うがい薬としておすすめなのは、エピオスです。
塩と精製水を電気分解した機能水で、院内の機械で製造しています。
殺菌作用は高く、生体には優しい性質で、口腔ケアにも適しています。

定期的な受診/strong>
インプラント治療での失敗の大多数は、2次手術より1年以内に起こるという報告があります。
したがって、インプラント上部構造装着後の1年間のメインテナンスはとくに重要となります。

ケア用品のフッ化物濃度
チタンは酸性下でフッ素イオンが存在すると耐食性が低下する2ため、
フッ化物局所応用として使用する製品は中性のものを選択しなければなりません。
口腔内において、粘膜などが炎症を起こすとpHが低くなり、酸性に傾きやすくなるため、
アバットメントなど露出しているチタン面が存在する場合は、
とくにpHとフッ素イオン濃度に注意することが重要です。
一般的にはインプラントが存在する口腔内において使用するフッ化物は、
pHが中性でフッ素イオン濃度は1,000ppm以下が望ましいとされています。

診断のための資料とりについて

2023年11月20日

こんにちは、こさか歯科クリニックです。

私たちは初診時や治療経過、メンテナンスなどのタイミングで、お口の資料取りを行なっています。
レントゲン撮影、歯周組織検査、口腔内写真、顔貌写真です。
レントゲンで写るものは、硬い組織です。
口腔内でいうと顎の骨、歯、顎の関節、上顎洞などです。
虫歯や歯周病、顎の関節の病気、歯の根の病気を画像診断するためです。

歯周組織検査というのは、成人の方ならご経験あるかもしれませんが、
歯と歯ぐきの境目の溝の深さを測定し、歯周病の状態を判定する検査です。
歯周ポケットが〇〇mmある、ということも重要な検査の項目ですし、
ポケット測定した際の歯ぐきからの出血の程度も重要です。
歯の揺れの程度も記録します。

口腔内写真は、このようなものです。

正面、左右、上下顎咬合面をカメラとミラーを用いて撮影します。
顔貌写真も正面、側方から撮影します。
なぜ、顔の写真が必要なのか?と思われるかもしれません。
そこで、口腔内の状態とともに、表情も変化する現象についてお話しします。

なぜ、患者さんの表情を診る必要があるのか?
口腔機能関連器官に起こる加齢変化を診ています。年齢を経ると口腔周囲の筋組織が変性します。また、歯の喪失がある場合、
咬合力の低下を招きます。私たちが食事をとるときに無意識に動かしている筋肉は、歯の喪失があると機能しにくくなります。
たとえば頬筋は臼歯などの喪失により変性し、口腔前庭部の食塊の咬合面への押し戻し機能の低下が生じます。
臼歯の咬合面の摩耗や歯の喪失によって噛み合わせの高さ(咬合高径)の減少を引き起こし、口腔容積が減ります。
舌の稼働空間が小さくなるのです。舌が動かしにくくなり、嚥下反射も弱くなります。

噛み合わせの高さが低下しているため、下顔面が短くなっている状態。


口周りのシワが深くなる、筋肉が衰え、はりがなくなる印象に変わっていきます。

高齢者の20%は、口底部に液体を貯めてから嚥下するタイプになりますが、このタイプになると、舌の運動量を大きくする必要があるため、
嚥下に時間がかかるようになります。
咀嚼筋は退化し、顔面の表情筋は垂れ下がり、口腔全体に加齢変化が起こります。

このように複雑な症状をかかえる高齢者、あるいは高齢者予備軍の60代の患者さんはたくさんおられます。

入れ歯を使い続けることにより、身体は代償を払っている?
入れ歯で生活されている方の歯茎を見ると、顎の骨吸収をともなうことが多いです。
抜歯をして義歯を装着すれば、初めの1年間で骨の高さが4mm 減少するという研究もあります。(1996年 World Workshop in Periodontics)

歯がない側の下顎の骨は、高さがなくなっています。

25年間に及んで義歯を装着された患者のレントゲン撮影による長期研究によると、この間に連続続的な骨吸収が起き、
上顎は約4倍の骨吸収が生じると報告されています。(Warrerら1995年) 

合わない義歯を入れられていたため、上顎の歯がない部分は、骨の高さがなくなっています。
つまり、歯槽骨を維持するためには歯の存在が不可欠であり、入れ歯は骨吸収を加速させる、ということです。
以前、歯やインプラントにかかる力がどのように骨に伝わるかを解析した研究発表を見ました。
噛んだ時の力は、顎の骨の広い範囲に散っていくような画像でした。
歯やインプラントは顎の骨に植っているために、
このような力の伝わり方になるのだと理解できました。
だから、身体は骨をしっかりさせようと反応し、歯槽骨が維持されるわけです。

骨吸収により、口腔内の加齢変化は加速していきます。
合わない入れ歯がある場合には、骨の吸収が早まり、
また、患者さんも抜歯後に適合の悪い義歯を使用することで、さらに骨が吸収することの説明を受けていない場合もあります。
ほとんどの入れ歯の患者さんは、そのような事実を理解されていません。

私たちは、歯の保存だけでなく抜歯後の骨の保存も考慮した治療計画を立てねばなりません。
また、義歯が引き起こす危険性も十分に説明する必要があります。
患者さんは、ご自身の体験として、入れ歯の引っかかっている歯がダメになることを知っておられます。
「入れ歯ってだんだん大きくなるよね」
「入れ歯が浮いてきて噛めないけど、そういうものだよね」

このような状況を経た場合、噛むための筋肉の短縮を招き、咀嚼力の低下を起こし、顔面諸筋は下垂し、表情に多くの退化が見られます。

私たちは資料とりでお顔の写真を撮影するのは、受診に至るまでの表情の状態を把握するためです。
そして、治療がすすみ、治療用の仮歯などでリハビリをするときに、スムーズにトレーニングを行うことができます。
表情の特徴を分析し患者さんと共有することが、治療する上で重要であります。

唾液分泌低下は味覚障害、口腔乾燥につながる
上顎義歯を装着すると、奥歯の領域にある唾液腺を圧迫してしまいます。
加齢とともに唾液分泌量は低下するうえ、その唾液腺を義歯が圧迫するため、
より唾液がでにくくなります。
そのようにして、口腔内には以下のような変化が生じます。
(1)口腔内の湿潤が低下し食塊の滑りが悪くなるため、粘膜へ食物が付きやすく、咽頭へ食塊を送りづらくなる。
(2)食塊に十分な水分を混ぜ込むことができなくなり、むせやすくなり、味がわかりにくい。誤嚥のリスクが高まる。
(3)味覚の低下。。
 
口腔周囲筋トレーニングについて
健康寿命を伸ばすことへの関心は増加しています。
歯を失うことなく、予防管理していくことが最重要であります。
他科疾患の罹患率も減り、人生における医療費は大きく削減できます。
歯がグラグラしたり、抜けてきたりして、ああやばいなー歯医者行こうってなる場合が多いです。
非常に勿体無いです。それに、噛めない状態、合わない入れ歯の状態でずっと過ごされていると、
身体の代償として、筋肉の機能低下、顎骨の吸収が生じます。
入れ歯の名医と言われる先生でも、なんでもかんでもなおせるわけではありません。
過度に吸収してしまった歯茎に対しては、入れ歯が浮いてくるのは必然ですし、
インプラントも場合によっては難しくなるでしょう。
歯の欠損を放置することで、結果的に寝たきり→不健康で楽しめない人生となってしまいます。
本当は、入れ歯やインプラントがないお口が一番いいです。

では、歯周病や事故で歯を失ってしまった場合、
1ヶ月くらいで出来上がる保険の入れ歯で機能回復できるのでしょうか。
しっかり歯があった頃くらいに噛めるようにするには、ある程度の高額な治療費がかかってしまいます。
はっきり言って、健康はお金で買えるのです。
幸せな人生のために必要なこととして、
・健康
・人間関係
・経済
・楽しみ
・承認
など、いくつか要素が考えられます。
全て満たされていたらとても充実した人生と言えますね。
口腔内のトラブルから、寝たきりになってしまったとしたらどうでしょう。
健康を失えば、ベッド1つ分の人生と思うと、健康って当たり前じゃなくて、ありがたいことだなと思いますね。

オーラルフレイル:口の中の問題から全身の虚弱を招きます。

現在、若年労働者の減少とともに、高齢者でも現役で社会参加しなければならない状況になった今こそ、
お口の中から予防に取り組むこと、
治療が必要になったら身体の代償を払うような治療は避けること、
しっかり噛める状態を作り、維持していくこと
が大切ですね。

インプラントのブリッジ症例

2023年10月26日

インプラントのブリッジ症例

ほとんど歯が残っていない上顎に対して、インプラントのブリッジで治療した症例です。

以前、歯がない顎に対して、All on 4コンセプトの治療を行った症例をご紹介しました。
今回もほとんど歯が残っていない上顎に対する治療ですが、残っている歯が治療したら問題なく使っていける状態でしたので、
それを温存して尚且つ固定式の歯を入れるにはどのようにするのか、という治療プランを考える必要がありました。

当院を受診された時のお悩みは、
「上の入れ歯でしっかり噛めない」
というものでした。上顎は3本歯が残っておられて、あとは部分入れ歯が入っていました。
術前はこのような状態でした。


術前正面:歯の欠損が広範囲に認められます。


術前右側:惻切歯、犬歯、第一小臼歯のみ残存していました。


術前左側:すべて欠損でした。

欠損に至った原因ですが、虫歯がひどくなり、治療を繰り返すうちに徐々に歯が抜かれていったとのことでした。
虫歯の治療も際限なくできるわけではありませんので、最初は虫歯のところを埋める簡単な施術で済むのですが、
根管治療をして被せ物を入れる→虫歯が再発し最治療、となったら、残っている歯の量が少なすぎて抜歯になってしまいます。
抜歯後にブリッジや部分入れ歯で欠損を補ったあとは、欠損の負担がブリッジや部分入れ歯の土台の歯にかかってきますので、
長い時間をかけて抜歯に近づいてくようなものです。
そのようにして、この方は徐々に欠損の範囲が拡大していき、10本の欠損に至ったわけです。
大きい部分入れ歯が入った後、このようなお悩みが出てきました。
・ガタガタして硬いものが噛めない。
・食事の際、入れ歯と歯ぐきの隙間に食べ物が入り込む。
・歯ぐきが痩せてくるので、作り直さないといけない。
・入れ歯の金属のバネをしばしば調整しないとゆるくなってしまう。
。入れ歯のピンクの床の部分が割れてきた。
などなど、入れ歯あるあると言えます。
インプラントだからできる生活があると思います。それは、天然の歯があった頃を取り戻せる方法だからこそ、
自然に自由な生活を楽しむことができます。非常に治療効果が高いと考えております。

今回の症例の話に戻ります。
実は、この治療を行ったのはかなり前で、私たちはその時ノーベルガイドのシステムを導入していませんでした。
ノーベルバイオケアのインプラントをずっと使用していたのは変わらないのですが、
この症例後に、ノーベルガイドのクリニシャンというソフトと、ガイド用のオペキットがクリニックに導入されたのを覚えています。
今ならノーベルガイドを使用し、よりスムーズに治療が進んでいただようと思われます。今更ごちゃごちゃ言ってもしょうがないですが。。。

ところで、インプラント治療ならではのやり方で、トップダウントリートメントというものがあります。
簡単に言うと、最終的な歯から逆算した位置にインプラントを埋入するやり方です。

ワックスアップ


右下奥歯の欠損

歯型をとり、石膏模型を作ります。このように歯がないところに、ワックスを用いて歯の形を作ります。残っている歯や歯列、噛み合わせを踏まえて、理想的な歯の形・位置を設定します。この最終的な歯の設計図を準備するところから始まります。ワックスアップと呼ばれています。



上顎前歯のケース


下顎両側第臼歯部のケース



上顎全部のケース

ノーベルガイドが使用できる状況でしたら、ノーベルバイオケアのソフトにワックスアップ模型のデータを入れて、ガイドを作製していきます。
今回のケースは、ガイド導入前でしたので、技工の先生と手製のガイドを作製し、それを用いて手術を行いました。
院内で、石膏模型上にレジンを使ってガイドを作り、インプラント埋入を行いました。

手製のガイドは、ノーベルガイドと比較すると手術の正確さにおいては劣ってしまいますが、何も手掛かりがないフリーハンドの手術を行うよりかは、最終的な上部構造を反映した位置にインプラント埋入がしやすいと考えています。この症例は、比較的顎の骨の厚みや高さに余裕があったので、このやり方でも問題なかったと考えます。

まだ、現在のようなCTがない時代、インプラントの施術はパノラマX線写真などの平面の写真のみで行われていたわけで、ガイドも当然ない状況でした。そのような中で当時の歯科の先生方は工夫してされていたのだと思います。と考えると、ガイドのシステムがある現在は、医療の技術開発ならではの施術も可能になり、画期的で良いことだと感じております。

埋入後、インプラントと骨が結合する現象が起きます。オッセオインテグレーションと言います。インプラントの表面と骨の組織が直接結合する間は、負荷をかけないようにします。埋入する際、インプラントにかけるトルクを35N以上で固定できたら、初期固定が良好であると判断できます。手術の時はこの良好な初期固定を得るために、工夫をします。たとえば、柔らかい骨質の場合はあまりドリルで形成しすぎないようにします。小さめの穴を開けて、インプラントをねじ込んでいくイメージです。
この1次手術 のあと、一旦骨の組織とインプラントの結合は弱まります。スタビリティーディップと呼ばれます。それがあったあと、徐々に固定がしっかりしてきます。そのため、すぐに力をかけない方が良いです。
ただし、例外はあって、インプラントの先端が鼻腔底や上顎洞底の皮質骨噛み込むよう埋入するやり方では、待機せずに加重することもあります。ALL on コンセプトの治療はそうです。

最終上部構造装着後

術後正面観:機能的で審美的な歯が入りました。


術後左側:今回の症例のように、顎の骨の高さが豊富に残っている場合、最終上部構造は歯の形そのままを再現したような状態になります。これが骨の高さが吸収して低くなっている場合、歯の部分だけではなく、歯肉も一体となった上部構造を装着することになります。


術後右側:入れ歯と違って何でも噛める!と、患者さんに非常に喜ばれました。

インプラント治療って痛い?/strong>
よくあるご質問にお答えします。
Q.インプラント治療って痛いですか?
手術のことが一番気になると思います。顎の骨にネジを入れていくのってなんかこわいイメージがあるようです。
手術中は、麻酔をしっかりとかけます。痛みは感じない状態で手術を行います。少しでも痛みを感じられるようなら、麻酔を追加して行います。
全身麻酔ではないので、手術で触られている感覚は当然あります。
音や振動を感じてしまうのが、インプラント治療の埋入時ですね。
埋入後の待機期間や2次手術、上部構造装着などのステップと比べると、
埋入時のストレスが1番大きいわけです。麻酔の量も一番多いです。
また、お口の中は体の他の部分に比べて、傷が治りやすいという特徴があります。
実際に手術された患者さんの感想は、思ったよりも楽だった、早くやっておいてよかったと言うものが多いです。
では全く痛みや腫れがないのかというと、人によって身体の傷の感じ方、治り具合に差がありますので、
侵襲の大きい手術予定の方には特に、腫れや痛みが出る可能性が高いこと、
その際の対処法、不快症状が出ると思われる期間などを詳しくお伝えしております。

当院のインプラント治療のページはこちらです。
ぜひご覧ください。
セカンドオピニオン、相談のみなど歓迎いたします。

少ない本数で最大の効果のインプラント治療

2023年9月24日

こんにちは、こさか歯科クリニックです。
今回は、入れ歯で噛めないことでお困りの方の治療例です。
少ない本数で最大の効果というタイトルですが、まさにその通りで、
要は歯がない顎に対して、いかにコスパよく固定式の歯を入れて機能回復するかというのがテーマであります。
All on 4というインプラント治療のコンセプトです。

術前正面

上顎には大きい入れ歯が入っておられました。

術前左側

左下奥歯は欠損で噛めない状態です。

術前右側

残っている2本に入れ歯の金属のバネがかかっています。

術前パノラマX線写真

上顎は左右ともに2本ずつ歯が残っています。下顎は欠損もありますがほとんど歯が残っています。
主訴は上顎の歯でしっかり噛みづらいとのことで、大きい入れ歯を長年使われていたのですが、それがしっかり噛めない状態でした。
上顎に残っている歯は4本。あとの10本は入れ歯で補われています。
このくらい歯がなくなっている場合、義歯の設計を考えるときに、上顎を大きく覆う床を用います。
理由は、残っている歯が少ないため、そこに入れ歯のバネを引っ掛けるのですが、それだけでは入れ歯を維持するのに足りないのです。
粘膜を大きく覆い、入れ歯の床で吸着を得ようと考えます。
入れ歯が吸着する原理というと、入れ歯が入っている口の中って、粘膜の上にプラスチックの板が乗っかっている状態なわけですが、
真っ平なガラスの板2枚を想像してみてください。
このガラス板をくっつけただけではすぐ離れてしまいます。しかし、水をその間に介在させると、ピタッとくっ付きますね。
この状態、空気の出入りがないのです。総入れ歯が口の中で吸着したりする原理は、口腔内の粘膜と入れ歯の床の間に、
唾液があり、顎を動かしても空気の出入りがない床の形態を作れているということです。

この方の口腔内で、入れ歯の吸着や維持が適切にできているかというと、全くできていませんでした。
まず、入れ歯の床が邪魔だからと、上顎を覆う部分をくり抜いており、そこから口腔内粘膜と入れ歯の床の間に空気の出入りがどうやっても生じてしまいます。
だから入れ歯がパカパカ浮いてしまうのでした。

入れ歯治療と身体が払う代償
また、部分入れ歯の宿命といってもいいですが、入れ歯のバネが引っかかっている歯に、歯を揺らすような力が常にかかるので、
ゆっくり抜歯しているようなものです。残っている4本の歯いずれも、食事に支障があるほど揺れが大きくなっていました。

この患者さんは、今までの人生で、もっと歯が残っていたけれども、このように入れ歯のバネがかかっている歯は揺らされてダメになってしまい、
どんどん入れ歯が大きくなって行く流れになっていました。
入れ歯を作る際に、必ず歯科ではこのような話をします。部分入れ歯は徐々に大きくなる、総入れ歯に近づいて行くのです。
部分入れ歯を入れる前に、入れ歯のバネをひっかける部分を削って形を整えたり、被せ物を作ったりします。
これらは、入れ歯の着脱方向に可能な限り平行になっている面を作り、維持力を得るためのものです。
どんなに良い部分入れ歯を作ったとしても、必ずバネの部分の負担があり、残っている歯が失われていきます。

入れ歯の床が接している歯茎に関してはどうでしょう?ここでも、身体の代償が払われています。
噛むときに粘膜に入れ歯の床がグッと押し込まれます。すると血流が悪くなり顎の骨が吸収してやせていきます。
ずっと入れ歯を使用していて、顎の骨がものすごく痩せてしまっている方、
少しずつ身体が代償を払っていて、尚且つ生活の質が悪くなってしまっています。

あまりにも骨が吸収しすぎていると、入れ歯を作り直しても入れ歯が歯茎をしっかり掴むこともできず、
入れ歯と粘膜の間に空気が出入りしやすく、噛もうとしても動いてしまう入れ歯にしかなりません。
そして、骨がなさすぎると、インプラント治療も難しくなってしまうこともあります。
骨を作るために、他のところからブロック骨を削り出して移植をするような手術になるかもしれません。
ではインプラントしよう!となっても、一苦労なのです。

ダブルテンプレートテクニック
この方は、上顎の残っている歯がグラグラすぎて抜歯が必要でした。
いきなり抜歯してインプラントを埋入することはありません。
最終的な歯の設計図を模型上で作って臨みます。
インプラントの位置付けに、コンピューター支援のガイドシステムを使います。
これはノーベルガイドと呼ばれるものです。
口腔内にはめ込み、ガイドのスリーブに沿ってドリルとインプラント埋入操作を行います。
欠損が比較的小さい症例は、作製したガイドを口腔内に装着し手術に用いるというシンプルな活用法になります。
今回のようなほとんど歯が残っていないような場合、作製したガイドが口腔内のシミュレーションした位置に留まっていて欲しいですが、
そうもいきません。歯がたくさん残っていたら、ガイドをはめ込んでもあまりがたつくことなく口腔内に留まってくれますが、
歯がない状態でインプラントを6本埋入するプランですので、何もとっかかりがない口腔内ではガイドがツルツル滑ってしまい、
シミュレーションとずれてしまいます。ガイドが所定の位置に来るように工夫が必要です。

このため、歯を抜く前の状態に合うガイド、抜歯後の口腔内に合うガイドの二つを作製して手術に臨みます。
麻酔をして、残っている歯がある状態でガイドを口腔内に位置付けます。
前方や最後方のインプラントの埋入を先に行います。
そこで1つ目のガイドの役目は終わりです。
抜歯を行い、2つ目のガイドを口腔内に装着します。
歯のとっかかりは無くなりましたが、1つ目のガイドで埋入したインプラントがありますので、
2つ目のガイドと埋入済みのインプラントをスクリューで締結します。
そうすると、全く口腔内でずれることなく2つ目のガイドを位置付けられます。
抜歯をしたエリアには、2つ目のガイドを用いてインプラント埋入を行います。


インプラント埋入後のパノラマX線写真。All on 4コンセプトの治療では、インプラント埋入時、しっかりとした初期固定を狙います。35Nというトルクをかけても、インプラントが骨内で回らない状態が、目指すところです。そのために、インプラントの先端を上顎洞や鼻腔底の皮質骨に噛み込ませて、しっかりとした初期固定を得るようにします。そのインプラントを用いて、固定式の仮歯を装着し、即日で機能回復を図るのが特徴です。


上部構造の一例。チタンのフレームに口腔内にマッチするようなピンクの歯茎部分、人工歯の部分で構成されています。


インプラントにスクリュー固定されるところがネジ穴に見えるところです。口腔内に装着されると、インプラントとインプラントの間を歯間ブラシで清掃していくことになります。


術後正面:歯茎部がある場合、必要ない場合とがあります。顎の骨がどれだけ吸収しているかによります。吸収が大きいと、人工物で補うところが大きくなります。この方の場合、すべて歯の部分にすると、異様に長い歯になってしまいますので、歯茎部分もあったほうがむしろ自然な仕上がりになります。


術後右側:適切な形に回復できています。


術後左側:左下奥の欠損にはインプラントで歯を作っています。


術後咬合面:ネジ穴にはふたがしてあります。

このように、All on 4の治療には独特の工夫が必要で、専門性が高い治療と思います。
この方のように、歯がほどんとない、全くない顎に対して固定式の歯を入れるにはどのようにするかというと、
8本くらいインプラント埋入し、前歯、奥歯にわけてブリッジを作製する、
All on4コンセプトで作製する、
ということになります。しかし、前者では治療後の長期予後が期待できる分、どうしても費用が高額になりがちです。
All on 4は、費用を抑えて早期の機能回復を図ることができ、コスパに優れた治療法と言えます。
当院のインプラント治療のページです。
 入れ歯でお困りの方、是非ご相談ください。

食事を楽しみ、十分な栄養を摂るために…

2023年9月4日

私たちの診療室では様々なご病気の状態に出会います。
軽度のものから、
「これは大変な、、、」と考えてしまうケースもあります。

治療前

虫歯と歯の欠損が放置されて、噛み合わせが乱れてしまった症例。

歯が虫歯でなくなってしまっています。

歯と歯茎でものを噛んでおられた様子です。食事内容は大きく制限されます。

パノラマX線写真。歯の欠損が長期間放置されていたため、噛み合う相手がいない歯が顎から出てきています。

この患者さんは比較的お若い50代の方でしたが、口腔内の状況により食事内容の制限があり、食事量と質も低下しておられました。

 私たちは、患者さんの食事内容について、日本補綴歯科学会の食品アンケートを用いることがあります。
これは、何段階かに分けて、食事内容の程度や口腔機能の評価を行ったり、摂取可能な具体的な食品名を聞き取り、避けている食品がないか調べたりします。
GCというメーカーが出している咀嚼機能検査も活用します。患者さんにグミゼリーを咀嚼してもらい、機械でどの程度咀嚼消化の段階が行われたかを調べます。グミゼリーの噛み砕かれた状態も写真で記録しておくと、思ったよりも噛めていない状態を自覚できることになります。
このように術前の検査から、機能低下が生じているという結果が得られた場合、要注意です。
オーラルフレイルといって、口腔内の機能低下から心身の虚弱を招くような状態につながります。治療の費用はあまりかけられないとのことでしたので、保険診療の範囲内でできる限りのことをしていきました。
歯周基本治療とそれぞれの歯が保存可能か判断し、可能な歯は根管治療など歯の中の感染をとっていきました。
噛み合う相手のいない歯は病的な移動が生じていましたので、高さを噛み合う面に揃えていきます。
治療期間中に使う入れ歯を作成し、ひとまず上下顎両側で噛み合わせられるストッパーを作ります。
長期間噛み合わせができずに過ごされていたため、本来の噛み方がよくわからなかったりすることが多いです。
残っている歯と歯茎で無理やり食べておられたため、顎を変にずらして噛む癖がついていました。
なので、治療用の仮歯でリハビリをするという意味があります。
苦戦することが多いのは、今まで入れ歯を装着された経験がない方です。
入れ歯は入れ歯のメリットがあります。外科処置を必要とせず、一度に多くの歯の欠損を補うことができます。
入れ歯を入れるのが初めての方には、歯のところ以外の構成物(ピンクの床、残っている歯に引っかかる金属、床をつなぐ金属のバーなど)の異物感が大きく、気持ち悪かったりします。
「このピンクの床のところ、もう少し短くできない?」
など言われることもあります。
可能な範囲で調整しつつ、患者さんのリハビリに付き添います。

入れ歯によるリハビリを続けながら、残っている歯を使えるようにしていきます。
歯茎の中の方まで進行している虫歯もありました。虫歯をとっていくと、歯茎にめり込むような形になってしまい、そのままでは歯根を利用して上に歯を作っていくことができません。
歯周外科を行い、根面の感染源を除去するとともに、歯周病で吸収した骨の形態を平坦化して、歯茎を縫合します。そうすることで、歯茎に埋まっていた歯の根を歯茎の上に位置付けることができるのです。歯周外科終了後、歯肉の治りを4週くらい待っておくと、周囲の歯肉の質感と同じくらいになってきますので、歯の根に土台を立てて仮歯を装着します。
最終的なブリッジや部分入れ歯を装着し、その後はリハビリをしていきました。

治療後

正面観。

右側。

左側。

オーラルフレイルと他業種連携
全ての団塊の世代が75歳以上となる2025年、高齢者のフレイルの問題がありますが、患者さんによってはよりお若い年代の方もある程度フレイル予備軍としておられます。フレイルの兆候としては、意識・無意識に関わらず特定の食事を避けるところから始まります。高齢者だけの問題ではないと言えます。ただ、一般的に高齢になるにつれて歯周病で歯を失ってしまう割合が高くなり、全ての方が適切に歯科受診されるわけではありませんので、高齢者に焦点が当たるのは仕方ないことです。
 加齢とともに欠損や噛み合わせの乱れなどが生じ、口腔内に変化が出てくると、食事内容も変化していきます。歯科受診も大切ですし、栄養や摂食の正しい情報を得ることが大切です。管理栄養士による食事指導などはとても有効と考えられます。厚生労働省もこうしたオーラルフレイル対策は重要と考えているようです。特に歯科では、欠損や入れ歯を装着されている方に対して、フレイルになって行かないように注目しやすいです。フレイルになる流れは人それぞれであり、歯科で言うと欠損や噛み合わせの問題から咀嚼障害となって、栄養面から身体の虚弱を招くわけです。他の要因で言うと、退職や家族との別れなどで、社会とのつながりが希薄になり、生活範囲が狭まり、心が虚弱になってしまうことが挙げられます。私たちはもちろん口腔内の要因に気づきやすい職種であり、他科の診療所や介護事業に携わっておられる方ともしっかり連携をとっていくことが重要であります。たとえばケアマネージャーの方とお話ししていると、家族構成や生活習慣、ペットや趣味に至るまで、患者さんの背景を詳しく知ることができます。それを踏まえて口腔内の治療もより効果的に行うことができます。

 次に、食事や栄養摂取については、管理栄養士に相談しアドバイスを得ると大きいメリットがあります。何をどれくらい食べたら良いか、自分の食事内容が栄養の偏りがないかなど相談できます。たとえば、入れ歯を装着されていたり、歯の欠損を放置されているような方ですと、「なんでも噛めてますよ」とおっしゃられるのですが、食事内容はあまりバランスが良くなかったりします。具体的には、スルッと食べられ調理が簡単な麺類などです。菓子パンのみという方もいらっしゃるのではないでしょうか。炭水化物のみ多く取られて、タンパク質量が不十分であったりします。

とても豪華な一皿。個人差はありますが、肉や魚などの主菜は、両手に乗るくらいの量を摂取すると良いと大まかに言われています。
タンパク質が卵やひき肉でも良いわけです。摂取しやすい食材や形から取り入れると良いでしょう。野菜なども切り方と調理法を工夫すると摂取しやすくなります。筋肉量の多さも重要です。歩けなくなるのは避けなければなりません。日頃から外に出て簡単な運動をするとか、散歩も効果的です。このような活動がフレイル予防になります。

 冒頭の写真の患者さんのように、病気を放置していると無意識のうちにフレイルに近づいていきます。食事は毎日のことなので、ちょっとした変化があってもなかなか気づきにくいですね。同居されているご家族が、最近色が細くなったなとか思われるようでしたら、口腔内に何かしら咀嚼障害がある可能性が高いです。一緒に暮らしていても、家族の口の中がどうなっているかはなかなか把握していないものです。私も実家に住んでいたときは、歯科の勉強もしていなかったこともあり、両親や兄妹の口腔内がどうなっているか、全く知りませんでした。ですが、健康維持のために、ご自身やご家族の口腔内の状態を知ること、どの程度食事ができていて、栄養バランスが取れた食事なのか、注目するのは大切ですね。

歯茎がやせることと治療の難しさ

2023年7月22日

「お食事、問題なくできていますか?」
「なんでも噛めてます」

 残っておられる歯が少なくなっている方、大きい入れ歯がお口に装着されている方とお話しすると、「なんでも噛めています」とおっしゃられる方が意外と多いです。もう少し踏み込んで、お食事内容を聞くようにしています。そうすると、あることが浮かび上がってきます。実際のお食事は、意識するしないに関わらず特定の食材やかみごたえのあるものを避けておられるということです。お食事は毎日のことなので、何かの食品を避けていることに気づきにくいです。

 歯が残っている本数により、このように摂取できる食品に差が出てきます。歯の欠損が多くなり、入れ歯を装着し、使っていくとしたらこのように摂取できる食品を選んでいくことになります。入れ歯治療で歯の数を元あった通りに回復すると、なんでも噛めるようになるんじゃないか?と思われる方もいらっしゃいます。そこで、入れ歯の状態を思い浮かべてみてください。

 歯がなくなったところは柔らかい歯茎になっていますね。そこに樹脂でできた入れ歯を入れます。そして何かを噛むわけです。樹脂でできた入れ歯(金属の床の入れ歯も同様)で噛むとすると、柔らかい歯茎に沈み込んでいきます。本来歯というのは硬いものです。歯で噛むと歯の根を通じて顎の骨に力が伝わります。入れ歯の場合は柔らかい歯茎に力が伝わります。つまり、柔らかい歯茎に固い入れ歯を入れて、固いものを噛むというのは、特別なことであると思いませんか?
 また、それぞれの患者さんの歯茎は同一の状態ではなく、顎の骨の吸収により歯茎が痩せてしまい、入れ歯が安定しにくかったりします。しっかり噛む力を受け止められるような歯茎の質でないこともあります。同じ方でも、加齢により歯茎の状態も変化していきます。患者さん特有の状態に合わせて入れ歯治療を行う必要があるのです。画一的に、入れ歯で歯を補ってはいおしまい、ということにはならないのです。加齢による変化で言うと、例えば老眼や補聴器もその時の状態によって変えていくわけです。歯ももちろんその時の状態で必要なものが違ってきます。それがいつ来るかは経過を見ていかないとわかりませんし、それを先送りするにはリハビリテーションが必要です。そもそも老化は病気ではないですよね。止められません。不幸にも歯の欠損の状態になってしまったら、オーラルフレイルの図を用いて、患者さんによくお話をします。フレイルになる前に事前対応ができるなら、やっておきませんか?というように。


 
 入れ歯の調子が良ければ、精神的、肉体的にも状態が良くなります。日中は常に入れ歯を装着することが望ましいです。なぜなら、上下の歯を噛み合わせられると身体に力を入れることができるからです。入れ歯は運動機能の向上に寄与します。生理的な噛み締める顎の位置があります。日中に入れ歯を入れておらず、身体のバランスが取れない、力が入らない状態でもし転倒でもしたら、最悪寝たきりになってしまいます。寝たきりのきっかけは骨折だからです。
 低栄養の方におすすめなのが、ひき肉です。包丁で叩いたり、フードプロセッサーで細かく調理しても良いと思います。入れ歯で硬いものを噛んでいたら、顎が吸収していきます。でもそればしょうがないことです。それが老化というものです。しかし、家族とかけ離れたものを食べるものよくないです。お世話をするご家族の負担が大きいです。調理法を変えて準備していくもの重要です。
 治療を受けること自体は、そんな快適なものではありません。みんな嫌なのです。病気の初期段階で、放置してどうにもならない状態を避けるため、早い手を打つと良いです。例えば歯周病で歯の周りの骨が溶けていっている状態があるとすると、それを放置しておくことにより炎症で骨がなくなっていきます。歯を残せる治療もできない、抜歯後にブリッジやインプラントができない状態かもしれません。歯周病の放置により、入れ歯しか選択肢がなくなってきます。その入れ歯を作製していく歯茎も、条件が悪くなってしまいます。安定しにくい入れ歯になるということです。
 といっても一般的に事前対応をバッチリしている場合というのは、少ないものです。
・学童期・・・親が頑張る
・成人期・・・健康が当たり前と思って気がゆるむ。言っても響かない
・高齢期・・・ようやく健康に気をつけ始める。
これは、歯科の勉強会である先生がお話しされていたことですが、本当に同感です。歯を失う原因の一位が歯周病ですが、症状がなく経過しますので、歯が揺れ出した頃には重症すぎて救うことができなかったりします。
 では歯が多く失われてしまった場合、機能回復のために何ができるでしょう。どうして歯周病にならないよう、進行しないようにしてこなかったんだとかごちゃごちゃ言ってもしょうがないです。積極的な治療をするとしてインプラントは非常に有効な手段ですが、全ての患者さんには適応できません。全身疾患や外科処置を受け入れがたいなどの理由があるからです。入れ歯でなんでもできるわけではありませんが、状態を放置するよりかは随分QOL向上や健康寿命延長に役立つと思われます。

 入れ歯を装着し生活することで、脳が活発に働きます。話したり食べたりするときに実は脳の機能をたくさん使います(高次脳機能)。食事をするときに今から食べるものを見ますよね。海馬は前に食べたものを再び見たときに働いています。咀嚼できるように準備します。噛めずにおやゆやとろみペーストばかりの食事を摂り続けると、脳が働かなくなるのです。

入れ歯治療で難しいことって?
 歯茎がしっかり残っているかどうかについてお話しします。

 こちらのレントゲン写真の症例のように、顎の骨が細くなってしまうことがあります。入れ歯を使い続けることで歯茎が痩せるのですが、下顎の場合、舌の圧も関係しています。舌圧のため吸収は舌側から大きく生じます。
 歯茎の中には顎の骨があります。吸収するのは歯茎のお肉というより顎の骨です。吸収する因子は次の3つが考えられます。
①解剖学的因子
②新陳代謝的因子
 これは不衛生な口腔内環境に関係あります。入れ歯も食後の洗浄が必要で、不衛生な状態ですと入れ歯の床の汚れに菌が増えてきて、その内毒素により吸収が生じると考えられています。
③力学的因子
 過大な噛みしめなどの力が力が発現することで生じます。
④骨密度の因子
 骨粗鬆症などの理由です。高齢の女性に多く認められます。運動、日光にあたること、睡眠が不足していることが原因です。

 これらの因子から顎の骨を保全する必要があります。骨の吸収が進行しないように歯周病治療にしっかり取り組むこと、温存することで周囲の骨の状態が悪くなるような歯を抜歯すること、入れ歯治療にて咀嚼能率の高い人工歯を選択するなどです。

顎が痩せてしまったら・・・
 顎の骨が吸収し続けて、お口の中をみるとまるで歯茎が凹んだような状態の方もおられます。そこまで病気が進行してしまうと、どうしても入れ歯の安定は得られず、せっかく入れ歯を作ってもふわっと入れ歯が浮き上がってしまう、噛むときに動いてしまう、入れ歯がずれて歯茎に傷ができて痛いという困ったことになります。入れ歯単独での治療では、患者さんの望まれる機能回復が難しいです、インプラント治療を組み合わせて、入れ歯の動きを止めてしまうという方法も考えられます。

 入れ歯が動いてしっかり噛めないなどお困りの方は、こちらの治療も検討されても良いかと思います。