こんにちは、こさか歯科クリニックです。
今回もインプラントのメンテナンスについての内容ですが、
インプラントの上部構造とその周囲の状況を具体的に考えた上で、
どのようにケアを続けていくとよいかを説明します。
上部構造装着直後のブラッシング指導の重要性
上部構造装着直後、患者さんはインプラントで歯を補われた歯列に慣れていないため、
ブラッシング不良になりやすく注意が必要です。
とくに全く歯がない状態で長期にわたり総義歯を装着されていた患者さんの場合、
歯ブラシで歯を磨く習慣を忘れてしまっているため、
歯科衛生士が時間をかけてブラッシング指導をする必要があります。
また、インプラントは顎骨の幅や高さにより埋入する位置や長さが決定されるため、
上部構造の形態は顎骨の量や形態により清掃性の面で理想的な形態を付与できない場合があります。
左下奥にインプラントが埋入された状態のCT画像。天然の歯と比較すると、根の幅が大きく異なります。
この症例では、あまり骨の高さの差はありませんが、
このように整った条件ばかりではありません。
したがって、上部構造装着直後に患者にブラッシング指導をする際には、顎骨および上部構造の形態を説明し、
形態的に磨きにくい部位があることを理解していただくこと、
インプラント歯列のブラッシングに慣れていただくよう指導することが重要です。
インプラントの上部構造装着後、定期健診の重要性、インプラントを含めた歯磨きの方法等を説明しています。
患者さんが選んできた歯ブラシ等が、必ずしもインプラント周囲組織に適した製品ではない場合もあります。
私たちは、上部構造の装着直後に、インプラントに適した清掃用具およびブラッシング方法の説明を行っております。
バイオタイプによるセルフケアの注意点
バイオタイプというのは、歯茎の粘膜の質のことです。
インプラント周囲粘膜の形態は、
厚い(thick-fat)タイプと薄い(thin-scalloped)タイプの2つに大別されます。
また、歯周組織についてはlaynardらにより軟組織や骨の厚みの関係から
4つのバイオタイプに分類されます。
角化歯肉の幅や厚みが、インプラント周囲組織の安定に必要か否かの見解の一致は得られていません。
しかし、歯周組織において歯肉が薄く角化歯肉が不足している部位では、
臨床的にブラシや食物による擦過などの機械的刺激やプラークに対する抵抗性が低く、
炎症による歯肉退縮を起こしやすいことがわかっています。
インブラント周囲粘膜においても、粘膜がインプラント上部構造頭部に近接し角化歯肉の幅が不足している部位や、
薄い組織の部位において、ケアを行う際には十分な注意が必要です。
とくに前歯部においては、唇側粘膜の厚い(thick-1at)タイプ
では、粘膜の退縮は少なく、審美的問題も少ないでしょう。
一方、薄い(thin-scalloped)タイプでは、経時的な粘膜の退縮が生じやすく、
とくに強圧や間違った方向へのブラッシングを行った場合、粘膜退縮は大きくなり、
審美的問題を生じやすくなります。
セルフケアの指導は、バイオタイプを評価したうえで指導方法を選択する必要があります。
Thick-Alatタイプの場合は、通常のブラッシング指導を行い、
過度なブラッシング圧による粘膜損傷を起こさせないような指導が重要です。
一方、thin-scallopedタイプの場合、ブラッシングによる粘膜退縮を予防することが重要であり、
軟らかい毛質のブラシを選択し、ブラッシング圧を弱め、唇側面に直角に当てるようなブラッシング指導を厳密に行う必要があります。
セルフケアに使用する各種清掃用具は、天然歯とは異なる形態を呈しやすいインプラント上部構造は、清掃性が悪くなる部位があるため、
歯ブラシだけでは磨き残しやすいことも多くなります。
そのため、補助ブラシなどインプラント周囲組織と 上部構造の形態や材質に適した清掃用具の選択が重要となります。
①ワンタフトブラシ
豊隆が大きい部分やインプラントブリッジの鼓形空隙などは、通常の歯ブラシでは毛先が届かず磨き残しやすいため、
歯ブラシで磨いた後に補助的にワンタフトブラシを使用するよう指導します。
②歯間ブラシ
インプラント周囲粘膜は瘢痕状態であり、歯間ブラシの誤った使用方法により、容易に付着をしてしまうこともあります。
ブラシの使用を開始する際には、必ずサイズ確認を行い、挿入方向に十分注意するよう指導することが重要です。
歯間ブラシのサイズは、天然歯の歯間部に適合するサイズよりもワンサイズ小さいものを選択し、
歯肉を押し広げないように注意する必要があります。
筆者は、歯間ブラシのサイズSが抵抗なく挿入できる鼓形空隙より狭い部位には、
歯間ブラシの使用は避け、ワンタフトブラシでの清掃を中心に指導しています。
また、歯間ブラシの金属のワイヤーによって、チタン面やセラミックス表面を傷つけないために、
ワイヤーがナイロンやプラスチックコーティングされている歯間ブラシを使用することも重要です。
③軟毛ブラシ
可動粘膜がインプラント上部構造頸部に近接しており、ブラッシング時の擦過によって傷つきやすい部位や、
即時荷重インプラント治療において手術直後に暫間的補綴物を装着した部位など、
粘膜が脆弱な場合には、軟毛ブラシを選択します。
④音波振動歯ブラシ
音波の作用により効率的に磨くことができるため、とくに全顎無歯顎症例でインプラント治療された患者さんにおいて、
音波振動歯ブラシでのブラッシングは有効です。また、ブラッシング圧をコントロールできない患者においては、
とくに音波振動歯ブラシを勧めることが必要です。
なぜなら、インブラント周囲粘膜は瘢痕組織であるため過剰な圧のブラッシングによって粘膜を傷つけないためにも、
一定の振動で磨ける音波振動歯ブラシを選択することが重要だからです。
⑤電動歯ブラシ
電動歯ブラシの毛先の動きは、歯周組織と比較して粘膜が脆弱であると考えられるインプラント周囲組織に対して、
ブラッシング圧が強すぎる場合もあるため、なるべく使用を避けるように指導しています。
⑥歯磨剤
研磨剤が多く配合されている歯磨剤は、上部構造を摩耗させるため、インプラントのみならず天然歯に対しても使用を避けるべきです。
セラミックスや金属などインプラント上部構造の材質にかかわらず、研磨剤によって傷ついた表面はバイオフィルム、プラークの沈着を招きます。
また、審美的にも、研磨剤によって摩耗した細かい傷により、セラミックスの艶や輝きを失わせます。
低研磨性または研磨剤無配合の歯磨剤が望ましいと考えます。
インプラントの形態的特徴から、歯ブラシによるセルフケアでは磨き残しやすい部位を、含嗽剂による化学的清掃法で補うことも必要です。
とくに、インプラント上部構造装着直後は、インプラントで補綴された歯列形態でのブラッシングに慣れていないため、
化学的清掃によりプラークコントロールを行うことが重要となります。
うがい薬としておすすめなのは、エピオスです。
塩と精製水を電気分解した機能水で、院内の機械で製造しています。
殺菌作用は高く、生体には優しい性質で、口腔ケアにも適しています。
定期的な受診/strong>
インプラント治療での失敗の大多数は、2次手術より1年以内に起こるという報告があります。
したがって、インプラント上部構造装着後の1年間のメインテナンスはとくに重要となります。
ケア用品のフッ化物濃度
チタンは酸性下でフッ素イオンが存在すると耐食性が低下する2ため、
フッ化物局所応用として使用する製品は中性のものを選択しなければなりません。
口腔内において、粘膜などが炎症を起こすとpHが低くなり、酸性に傾きやすくなるため、
アバットメントなど露出しているチタン面が存在する場合は、
とくにpHとフッ素イオン濃度に注意することが重要です。
一般的にはインプラントが存在する口腔内において使用するフッ化物は、
pHが中性でフッ素イオン濃度は1,000ppm以下が望ましいとされています。