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インビザラインの歯の動かし方について

2024年11月8日

こんにちは、こさか歯科クリニックです。

今回は、インビザラインの歯の移動についてのお話です。

これはインビザラインの治療シミュレーションのソフトウェア、クリンチェックの画面です。

インビザライン治療を始める前は、まず口腔内のスキャンとアプリでの撮影を行います。

歯の動かし方を入力し、アライン社とクリンチェック作成のやりとりをします。

 

クリンチェックが届いた時にチェックすること

フィニッシング、アライナー枚数、ステージング、IPR、アタッチメント、エラスティック、バイトランプが、オーダーした治療計画と照らし合わせてどのように反映されているかをチェックします。

まず、バイトランプはアライナーによる臼歯の離開を防げるので、必須です。

臼歯の遠心移動ケースは、

①IPRで遠心移動量を減らしてください

②〇〇枚以内にしてください

というオーダーを出します。

 

class2の場合、咬頭を超えたclass2は抜歯矯正を計画します。

ステージング

①1WEEK交換の徹底。

基本的に1週間交換を前提とした素材で作られています。あまりにも長い期間一つのアライナーを使用すると、劣化の問題が生じます。アライン社によると、劣化したアライナーの中で矯正で動かした歯の後戻りが生じるため、一つのアライナーを延長したとしても2週間までを限度とするようにとのこと。

②枚数の目安

単純に週数を考えると、26枚で半年、54枚で1年かかります。あまりにも枚数が多い治療計画はそもそも破綻している可能性があります。ただ、例外もあって、3日交換&多いアライナーを使って細かい順次的な歯の移動をすることがあります。そういう計画の時はMAXの99枚の計画になることもあります。

③アタッチメントは3枚目から

アタッチメントの設定は任意に可能です。最初から設定しないのは、1枚目と2枚目はアライナー自体に慣れてもらう期間であるためです。アタッチメントは歯の移動に効果的な反面、アライナーの着脱がしにくいので、慣れてきた3枚目で設定しています。

④遠心移動は1〜2歯ずつ。

前歯が前方傾斜し広がっているような歯列なら、そこも同時に解決しておくと、枚数を減らすことができます。

大臼歯の遠心移動は時間をかけて確実に行います。1本ずつ計画しています。

小臼歯は2本ずつ遠心移動します。

⑤上下で枚数の差が大きいときは、追加アライナーの時期を予定に入れておく。

⑥正中離開は早めに解決する。

正中離開とは、中切歯(真ん中の歯のこと)の間の空隙です。

⑦動かす期間

歯列の問題が軽度な場合は数ヶ月のうちに終わりますが、全体を動かしていくような計画は長期間になります。1年目で大まかに排列し、2年目には細かい修正をすることが多いです。

どのようなアタッチメントをつけるか

動かし方によって設定を変えます。

①挺出 横長の長方形

②捻転 縦長の長方形

③近心、遠心移動 縦長の長方形

下顎前歯が一直線になっているケースにおいて、アライナーが掴みにくい形をしています。最初にアライン社から送られるクリンチェックでは、アタッチメントがないことも多いので、自分で長方形のアタッチメントを設置します。

ステージングの工夫

歯の移動量が多い場合や、動かしにくい状態の時、治療計画作成時に盛り込む工夫があります。

①全ての症例で1ステージから必ずバイトランプをつけますが、ディープバイトの症例で上顎前歯部を圧下させる場合は、バイトランプではなくプレッシャーポイントによって圧下させます。
②全ての症例で6番に大きい長方形のアタッチメントをつけます。
③全ての症例で臼歯部の咬合平面は前歯部と同じくらいの高さにします。
④全ての症例でSpeeはほぼ平坦にします。
⑤クロスバイトは必ず平坦にします。
⑥クラスⅡの場合は、プレシジョンカットによる顎間ゴムを使います。
⑦クラスⅢの場合は、下顎前歯部の舌側切縁に大きめのアタッチメントをつけます。
⑧下顎前歯は絶対に圧下させないで、臼歯部の咬合を上げて修正します。

⑨大臼歯は片側2本同時に動かさない。
⑩大臼歯の移動は1歯のみで行い、他の歯をアンカーにします。その際は、各歯3ステージごとに繰り返して動かします。
③上顎前歯部の圧下は、唇側に4°フレアさせた後に圧下を開始します。その際は、1番と2番は分けて2ステージごとに繰り返して行います。
④5ステージ以上の動きがある歯は、3ステージ動かしたら、一旦止めて他の歯を動かし、再び3ステージ動かすというのを繰り返します。

※ステージングについて、最終位置とアタッチメントが決まるまでは、ドクターからのステージングの指示はしません。クリンチェックは承認するまで何回かアライン社と修正のやり取りをします。細かいステージングを最初にオーダーすると、アライン社のエンジニアも大変ですし、こちらも修正がしにくいからです。

モニタリング

矯正治療期間中は、当院では1ヶ月ごとに経過を確認しています。アライナーをつけた状態でチェアーに来てもらいますが、フィットを確認するためです。

計画の中で何かしらのエラーが生じた場合、歯とアライナーがアンフィットになります。そのような部分は、気泡が多くみられます。

歯頸部側の適合もよくみます。特に挺出の時は、歯が予定通り提出していなければアンフィットが目立ちます。

追加アライナーするかどうかの判断

アンフィットが1本の場合、そこの部分だけエラスティックというゴムをかけて修正することがあります。アンフィットが数本にわたるようなら、程度によりますが、一つのアライナーを長めに装着して様子を見ます。解消できなければ、追加アライナーを発注し対応します。治療の終盤なら、早めに追加するのが望ましいと考えます。

計画の途中なら他の歯への影響が大きいため、そのまま進んで、まあまあ全体的がまとまったら追加アライナーで修正をします。

エラスティック

エラスティックとは、矯正治療で歯に作用させるゴムのことです。

Ⅲ級では下顎の遠心移動で最初から設定します。

Ⅱ級では上顎5の遠心移動の時から使いますが、抜歯ケースでは大臼歯の近心傾斜のリスクのため使用しないようにしています。

追加アライナーについて

全額にわたる矯正治療の場合、最初の計画のみで全て完了することはできず、2〜3回の追加アライナーで修正しつつ仕上げます。

できるだけ修正にかけられる時間を使えるように、最初のアライナーで60点〜70点くらいを目指してやります。そこから追加アライナーをやる方が簡単だからです。

よくあるトラブルケース

①前歯;惻切歯の排列、正中の修正

②小臼歯;ローテーション、挺出

③大臼歯;アップライト、遠心移動

特に注意なのは、再遠心移動、惻切歯の挺出、前歯の圧下、小臼歯捻転です。これらは枚数がかさむ歯の移動です。

 

オーバーコレクション

オーバーコレクションとは、動かしにくい歯の移動や後戻りしやすい部位への対応で、簡単にいうと必要な量より多めに歯を動かしておくことです。

①捻転

②ディープバイト

の場合、オーバーコレクションを計画します。

リテーナー

1年目は12時間、2年目は8時間と講習会で習いました。

リテーナーは可能な限り継続するのが望ましいです。

 

まとめ

インビザラインのシステムは、現在に至るまでアップデートし続けています。1日に1000万円の開発費を投じて、より歯の移動がしやすく、シミュレーションの実現性が高められる仕組みに改善してきています。

私の先輩が、日本にインビザラインが入ってきてすぐくらいの時期に、使ってみたらしいのですが、出立ての頃はあまり使えるシステムではなかったそうです。

現在はその先輩もインビザライン治療が主な矯正治療の方法に変わってきています。このようなシステムをうまく活用し、臨床に活かしていきたいです。

Link

こんにちは、こさか歯科クリニックです。

 

今回は、インビザラインの歯の動かし方と実際の症例についてのお話です。

 

インビザライン症例

歯が重なって生えている、叢生の改善ため治療を行いました。

術前術後の口腔内写真から見ていきます。

✳︎術後の歯に、一部アタッチメント(樹脂の突起)が残った状態での撮影です。

正面

術前

術後

右側

術前

術後

 

左側

術前

術後

上顎

術前

左上犬歯を抜歯しました。

術後

下顎

術前

右下中切歯を抜歯しました。

術後

叢生を改善するために

抜歯せずに、良い仕上がりで早く治療が終われたらとても良いです。ただ、叢生を改善するためには、狭いところに並んでいる歯をきれいに並べていくためのスペースが必要となります。

まずは、身体に侵襲の少ないことからスペース作りをしていきます。

①詰め物、被せ物を仮の材料に変える。

矯正治療後に、詰め物や被せ物をやりかえる予定のところは、最初から仮の材料に置き換えておきます。これにより元の歯の幅を減らすことができます。

②臼歯の遠心移動

臼歯を奥の方へ移動させ、葉を並べるスペースを作ります。MAXで上顎は4mm 、下顎は3mmまでとされています。例えば、矯正治療に先立ち親知らずを抜歯することも多いですが、その場合は第二大臼歯の後ろの骨がスカスカの状態になりますから、より遠心移動がしやすい状況になります。

遠心移動の際、歯を動かしやすくする目的で、頬側にアタッチメントをつけます。

③側方拡大

歯列を横に拡大することで、前歯のガタつきをきれいに並べるスペースを作ります。片方でMAX2mmまでです。

④IPR

歯と歯の間を機械で削り、スペースを作ります。一つの歯の面を1mm以上削ると、しみやすくなったりする健康上の問題が発生します。インビザラインのIPRの最大量は、一つの歯間につき0.5mmの設定ですので、健康上の問題にはなりません。

IPRを最大限に行うと、上顎で14.1mm、下顎で12.1mmのスペースを作り出すことができます。

インビザライン治療用の口腔内スキャナー(iTero)で口腔内をスキャンし、pcで矯正治療のシミュレーションをする際、1本ずつ正確な歯の幅径がわかります。IPRを行う際は、その中でもボルトン分析という項目もチェックし、周りや反対側の同じ歯と比較して、幅径が大きめの歯に対しIPRを行うプランにすると、バランスをとりやすいです。

IPRは基本、最初のプラン、30枚くらいで1回、追加の修正プランで1回で終わらせるようにしています。

細いバーを用いて、歯と歯の摩擦抵抗が大きいところに、歯肉縁下0.5mmまでIPRをします。

抜歯して矯正治療する上で考慮すること

①抜歯した方が患者さんにとってメリットが大きいか。

上に挙げた4つの方法を駆使して、患者さんの主訴が解消できるかという点が重要です。そこには、治療期間や費用とのバランスも入ってきます。例えば、4つの方法を全てやり尽くしたとしても、実現できないような治療ゴールなら意味がありませんし、抜歯を併用することで大幅に治療期間短縮と費用削減ができるのであれば、そちらの方がメリットが大きいと判断できます。

基本的に上下顎全体を触っていくような矯正治療であれば、一度のマウスピース作成だけで最後までシミュレーション通り行くことはなく、3回程度は修正のマウスピースをオーダーし、仕上げていきます。大体最初の計画で小臼歯抜歯したスペースは、30枚くらいでその半分のスペースを埋めていくくらいのイメージです。

ちなみに、マウスピース26枚で半年、54枚で一年かかります。

②主訴が上顎前突だけなのか。

上顎前突は、いわゆる出っ歯のこと。オーバージェットという出っ歯の指標があるのですが、上顎前歯が下顎前歯より何mm出ているか、という意味です。これが5mm以上ある場合、上顎の歯を抜歯した上で前歯を引っ込めるメリットが大きいと考えられます。

特に、臼歯関係が正常であるⅠ級においては、出っ歯のケースで奥歯の遠心移動を行うと、せっかく整っている臼歯関係が変わってしまうため、抜歯矯正が良好な結果となります。

③抜歯したところの隙間。

大体上顎抜歯矯正では前から4番目の第一小臼歯を抜歯します。犬歯と第二小臼歯が隣り合う関係に仕上がるのですが、必ずそこに隙間が残ります。目で見てわかるほどではなく、1mm以下のほんのわずかな隙間です。患者さん自身も普段の生活で気になることはないと思われます。

前歯の叢生の治療時の注意点

①唇側に出さない。

私たちアジア人の顎の骨の特徴でもありますが、欧米人と比較すると唇側の顎の骨が薄いです。CT撮影することでより正確に確認できます。矯正治療で前歯を唇側に出していくと、骨のないところに根が露出してくるため、最悪抜け落ちることになります。治療計画作成時に、前歯をこれ以上唇側に出さないように注意しています。

もちろん、前歯が歯列のアーチより舌側に位置している場合は唇側に出して揃えます。

 

②IPRをしっかり入れる。

歯の軸が捻転しているような時、歯と歯の重なりが大きいような状態とすると、IPRを0.5mmしっかり入れて、摩擦をとっていくことが重要です。

③1本抜歯を検討。

アーチから最も離れている歯や、根管治療など大きい治療介入されている歯を選んで抜歯を行い、できたスペースを使って歯を並べることも検討していきます。

 

アライナーの歯のうらに突起がある?

上顎前歯の裏に突起が設定されることが多いです。ほとんどのケースに用いられているのではないかと考えられます。

これは、バイトランプという仕組みです。

実は、アライナー装着した状態で過ごすだけで、上下顎奥歯は1.0mm〜1.5mm程度圧下させる力がかかります、圧下というのは、歯を顎の骨に押し込む力のことです。この理由は、上下顎の歯に装着したアライナー自体の厚みがあるからです。

歯列全体はきれいに整ってきているのに、奥歯が噛み合わなくなってきたというのは、アライナー矯正治療あるあると呼ばれているくらいです。

バイトランプが設置されていると、上下顎の歯を合わせたときに下の前歯の先端とバイトランプが先に接触するため、臼歯を圧下させる力がかかりにくくなります。

噛み合わせを仕上げる際に、シーソーの原理で、前歯がバイトランプで接触し、臼歯は逆に挺出(顎の骨から上に出てくること)が生じます。

奥歯の噛み合わせが弱くならないよう、治療計画作成時にもあらかじめ他の対策をしています。

インビザライン矯正では、上下の歯の接触強さを設定できるため、最初から奥歯の咬合接触を強くなるような歯の動きを盛り込みます。どうやっても奥歯は圧下されやすいため、このような計画にしておいて、最終的には生体がかみやすい位置まで落ち着いてきます。

他のバイトランプの目的としては、

・前歯の高さを揃えるレベリング

・逆被蓋改善

・歯並びに影響する舌の癖を解消する

・歯並びのカーブ(スピーの湾曲)の改善

が挙げられます。

 

治療がスタートしてから重要なこと

毎日アライナーを装着する日々がスタートするわけですが、マウスピース矯正治療全てに共通することとして、患者さんに装着する・しないが委ねられるわけで、

「なんとなくつけるの忘れちゃった」

という感じだと、シミュレーション通りに歯は動いてきません。あくまでも1日20〜22時間装着されていたら1週間で次のアライナーに変えるということが重要です。

「じゃあ、1日あまりつけられないから、1ヶ月くらいつけてたら十分動いてる?」

と聞かれたこともあります。アライナー自体が劣化して目に見えない範囲で後戻りが生じますので、やはり良くないです。

チューイーをしっかり噛んで装着しましょう

治療スタート時にチューイーという白いゴムを渡しています。

アライナーを外し、食後、歯磨きしてまた装着するのは毎日やることですよね。

必ずチューイーを使ってアライナーがしっかり適合するように噛み込んで入れる必要があります。

これで、治療計画の再現性が非常に高まります。

毎回面倒に思われるかもしれませんが、アライナーが甘く入っているか、しっかり適合しているかで治療経過に大きく差が出てきます。何より、治療期間の無駄な延長につながりますので、チューイーを常に持ち歩き、装着時に必ず使用することが重要です。

 

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子供の歯ぐきのトラブル

2024年10月9日

こんにちは、こさか歯科クリニックです。

 

今回は、子どもの歯ぐきの病気と、その特徴についてのお話です。

 

来院された時、歯の表面に何日も付着しているような汚れが多かった口腔内。

ブラシで清掃したところ、歯茎の赤みが強く、出血が多かったです。

 

⚫️子どもは歯周炎にならないのか?

 子どもに認められる歯周疾患は,デンタルプラークの蓄積が原因となる歯肉炎(プラーク性

歯肉炎)がほとんどで、歯周炎はごくまれです。

1歳半までの30%以上の子どもが、歯肉の発赤・腫脹を伴うプラーク性歯肉炎に罹患しているといわれています。その後,成長とともにプラーク性歯肉炎は増加しつづけ、思春期には半数以上にも及びます。それでも、成人になるまでにアタッチメントロスや歯槽骨の破壊を伴う歯周炎を発症することはほとんどありません。

 子どもの口腔内からは歯周病菌があまり検出されず、歯周組織の抵抗力も強いため、歯周炎を発症しにくいようです。しかし、成長するにつれて歯周病菌が増加していくだけでなく、歯周組織の抵抗力が低下していきます。そのようななかで、プラーク性歯肉炎は歯周炎を誘発するリスクファクターになるため、子どものうちから歯周状態の健康を意識しておくことが大切です。

●歯周病菌と歯周組織のバランス

子どもの歯周組織は抵抗力が強く、病原性の高い歯周病菌が存在することもまれです。そのため、デンタルプラークが蓄積しても、歯肉炎(プラーク性歯肉炎)を引き起こすだけで、歯周炎まで発症することはほとんどありません。しかし、プラーク性歯肉炎を放置したまま油断していると、子どもが成人になったときに、病原性の高い歯周病菌の定着と歯周組織の抵抗力の低下を生じて、歯周炎が引き起こされます。

⚫️歯周病菌の出現

 デンタルプラークは歯肉緑上プラークと歯肉

縁下プラークに分類され、それぞれの環境の違いにより構成される細菌の種類が異なります。

歯肉緑上プラークは歯面に形成され、酸素が浸透しやすい環境下で生存できるう蝕の原因菌をはじめとする口腔レンサ球菌などが生息しています。それに対して、歯肉縁下プラークが形成される歯肉溝は、構造的に酸素が侵入しにくい環境であるため、空気を嫌う多くの歯周病菌は歯肉溝に生息します。子どもでは歯肉縁上プラークの構成菌は成人とあまり変わりませんが、歯肉溝に存在する菌は成人とは大きく異なり、歯周病菌はあまり検出されません。

 しかし、歯周病にかかわる菌は成人になってから突如出現するわけではありません。子どものうちに定着する歯周病原性の弱い菌が、思春期になって現れる病原性のやや強い菌の定着のために必要であるとされています。さらに、成人になって出現する病原性の高い菌の定着に、小児期および思春期に形成された菌がかかわると考えられています。また、歯周病菌は保護者から子どもに伝播することが知られており、重度の歯肉炎に罹患した子どものデンタルプラークからは多くの歯周病菌種が検出されることがあります。したがって、子どもの歯肉炎を放置することは、歯周病菌の定着時期を早め,歯周炎を発症するリスクを高めることになります。

●歯肉縁上プラークと歯肉縁下プラーク

う蝕の原因や歯周病性の低い滞在菌は歯肉縁上プラークに生息しているのに対して、病原性の高い歯周病菌は歯肉炎縁下プラークに生息しています。子どもでは歯肉溝が浅く歯周病にかかわる菌は少ないですが、口腔衛生状態の悪い子どもでは病原性の高い歯周病菌が存在することがあります。

⚫️子どもの歯周炎

1. プラーク性歯肉炎

子どもの歯肉炎は、プラーク性歯肉炎がほとんどであるため,デンタルプラークを除去することで容易に解決できます。プラーク性歯肉炎を有する子どもでは,デンタルプラーク除去時に歯肉に痛みや出血を伴います。そのため,子どもは歯磨きを嫌がり、歯肉炎をさらに悪化させるという悪循環に陥ることがあります。また,子どもや保護者の十分な協力が得られなければ,歯肉炎が一時的に改善したとしてもすぐに再発します。子どもに歯磨きを習慣化させるためには、歯科衛生士が子どもや保護者に根気よく指導を行うことが必要です。

 萌出途中の永久歯の歯肉炎は、深い歯肉溝にデンタルプラークが蓄積することで容易に生じ,特に萌出性歯肉炎とよばれています。萌出性歯肉炎の好発部位は大臼歯ですが、前歯や小臼歯に生じることもあります。また、小学校高学年から中学生ごろには,ホルモンの変調,受験やクラブ活動による不規則な生活、口腔衛生に対する関心の低さなどが重なり、歯肉炎の罹患率が高くなることから、特に思春期性歯肉炎とよばれています。萌出性歯肉炎や思春期性歯肉炎による疼痛や炎症が頭著な場合には、抗菌薬や鎮痛薬を処方することもあります。これらの歯肉炎を発症する年代では、歯科受診の機会が少なくなる傾向にあるため、定期検診の重要性をよくご理解いただくことが大切です。

2.口呼吸由来の歯肉炎

 口呼吸由来の歯肉炎は上顎前歯部に好発し,露出した唇側歯肉が乾燥することにより発赤や

腫脹を生じます。口呼吸は、口唇閉鎖不全、歯列不正、気道の狭窄、鼻疾患などさまざまな原因により生じるため、原因を明確にして除去することが必要です。

 口呼吸由来の歯肉炎は,プラーク沈着が直接の原因ではありませんが、口腔衛生状態が不良なほど悪化するため,口腔内を清潔に保つことも大切です。

3.   歯肉増殖

 歯肉増殖は薬物の副作用や遺伝的要因に分類され、全顎的に歯肉肥大を認めます。薬物性の歯肉増殖は、てんかん発作の治療に用いる抗けいれん薬のフェニトイン、臓器移植の拒絶反応を抑える免疫抑制剤のシクロスポリン、高血圧や狭心症の治療に用いられるカルシウム拮抗薬のニフェジピンなどの服用により生じます。

 増殖した歯肉は非炎症性で硬く、歯冠を完全に覆うこともあり、歯肉切除を行わなければ改善させることは困難です。歯肉増殖の直接の原因はデンタルプラークではありませんが,歯肉

切除を行ったとしてもプラークコントロールが不十分であれば再発しやすくなります。

清掃状態をチェックするための染め出し液。

磨き残しがある部位について、患者さんと共有することで

普段お掃除ができてるようでできていないところを改善していきます。

小児歯科だけでなく、大人の方の歯周病治療や健診時にも必ず染め出しを行なっております。

 

 

4.歯肉退縮

  (咬合性外傷由来,機械的刺激由来)

 歯肉退縮は,叢生により唇側転位した下顎の

永久前歯の唇側に多く認められます。このような歯は、歯ブラシが他の歯よりも強くたることに加え、唇側の歯槽骨が非常に薄いために容易に歯肉退縮を生じます。

 また,特定の歯が歯ぎしりなどで強い咬合力を受けると。歯周組織に炎症を生じて歯肉退縮を引き起こすことがあります。ブラッシング指導や咬合調整だけでは改善が期待できない場合には、矯正治療で歯を適切な位置に移動させる必要があります。

⚫️子どもの歯肉炎

1.慢性歯周炎

 小児期に原因不明の重度の歯周炎を発症することがごくまれにあります。小児期の歯周炎は、乳歯と永久歯のそれぞれに認められ、短時間のうちに歯槽骨吸収や歯の動揺を生じることが多いです。

 小児期の歯周炎は全身疾患と関連していることがあり、遺伝性のものと免疫系に関連するものに分類されます。遺伝性のものとして、家族性周期性好中球減少症、ダウン症候群、白血球

接着能不全症候群、パピヨン・ルフェーブル症候群、チェディアック・東症候群、組織球症症候群などがあげられます。一方、免疫系に関連する疾患としては、白血病や糖尿病などがあげられます。これらの疾患をもつ患者さんは、小児科領域から紹介されて歯科領域でフォローすることが多いです。

 上記の全身疾患を有する子どもは、病原性の高い歯周病菌が存在しなくても、歯周組織の抵抗性が極端に弱いために歯周炎を発症します。

歯周炎の原因が全身状態に起因するため、歯周組織に対する治療で歯槽骨の吸収を抑えることは困難です。それでも、歯科医院ではスケーリングや抗菌薬の局所投与を行い,歯周炎の悪化を遅らせる必要があります。歯周組織の痛みや歯の動揺などの症状が改善しない場合には、該当する歯は自然脱落や抜歯の対象になることもあります。

 

小児患者さんのブラッシング用歯ブラシ。

毛先が柔らかく、歯肉炎のある状態でも用いやすいタイプです。

 

2.  非炎症性歯周病変

  (低ホスファターゼ症)

 デンタルプラークの蓄積による炎症が原因でない歯周疾患のことを「非炎症性歯周病変」というよび方が使われはじめています。たとえば、低ホスファターゼ症がこれに該当します。低ホスファターゼ症は、遺伝子の変異により血中のアルカリホスファターゼ活性が低下して骨の形成不全を生じる疾患であり、歯科的には乳歯の早期脱落が特徴的です。乳歯の早期脱落は、セメント質形成不全により乳歯と歯槽骨との結合が不十分であることに起因します。

 乳歯が早期脱落した症例では印象採得が可能になるころから、咀嚼や発音、審美性の改善のために小児義歯を装着します。これまで低ホスファターゼ症は、予後不良の難病とされてきましたが、近年開発された酵素補充療法という治療法により患者さんの寿命やQOLが向上してきています。

 低ホスファターゼ症では早期発見が重要であり、疑われる症例はできるだけ早期に小児科領域に紹介することが推奨されます。歯だけにしか症状が出ない症例もありますが、歯科領域から小児科領域に早期に紹介することができたおかげで、全身に生じていた骨の異常を早期に発見できた症例も存在します。

口腔と全身疾患、関節リウマチについて

2024年10月9日

こんにちは、こさか歯科クリニックです。

 

今回は、口腔内の病気と関節リウマチや全身疾患との関連についてです。

 

関節リウマチは、全国で70万人程の患者数であり、8割が女性に現れる病気です。

 発症したら、ステロイド剤・消炎鎮痛剤・免波抑制剤等を服用し続ける必要があります。

 近年では強力な効果のある生物学的製剤(レミケード・エンブレル等)が脚光を浴びていますが、これらの治療法は「感染症になりやすい」「治療費が月3~5万円以上と高額」といった難点があり、現在のリウマチにおける治療は、薬物を使用し、症状を抑えこむ対症療法が中心になっています。

 そんななか、体の使い方を変えて薬を減らしていくという独自の観点から医療のあり方を模索し、全国のリウマチ・アレルギー患者から支持を集めている一人の医師がいます。福岡県博多市に「みらいクリニック」を構える内科医、今井一彰氏です。

 今井氏は新薬などの薬剤による治療に疑問を感じ、数年にわたり漢方治療を試みる時期もありました。しかし、薬を飲み続けなければ良い状態が維持できないということへの疑問は解消することはありませんでした。

 「医学の東西を問わず、処方箋を通じた患者さんとのつながりを見直す必要があるだろう、そのために第三の道を考えなければならない」と思った頃、リウマチ患者に共通する特有の匂いに気づき、それが口腔内の炎症に起因すると分かったことが大きな転機になりました。

 今井氏は、匂いを消すには口を閉じる、唾液の分泌を促せばよいのではないかと考えました。

ところが、当時は口臭について周辺の歯科医院に聞いても確かな答えが得られません。やむなく独自に学びながら患者さんに指導を始めたのが10年以上前のこと。内科的な治療効果の意図

を持って歯科治療を依頼するようになったのは、ほんの数年前のことです。

⚫️上流医療とは

 上流医療」を理解するための象徴的なエピソードがあります。

宮城県気仙沼市の中心街から車で数十分。舞根湾に流れ込む大川の河口に畠山重篤氏の経営る牡蠣とホタテの養殖場、「水山養殖場」があります。

 畠山氏が海の異変に気づいたのは1970年前後のこと。夏に赤潮が発生し魚が捕れなくなったのです。「赤潮が湾の奥から発生するということは排水による川の汚れではないか」と畠山氏は思いました。84年、フランスの代表的な牡蠣生産地に視察に行くと、現地の養殖場は気仙沼市と同じようにローヌ川やシャロンド川などの河口域にあります。畠山氏は牡蠣の養殖にはあらためて川が重要であることを確信しました。

 しかし宮崎県は88年に新月ダム建設計画を発表。「これができたら気仙沼は死んでしまう」と、悩んだ末に畠山氏が辿り着いた結論は、大川の上流の室根山に木を植えることでした。この提案に70人の漁師が賛同し、89年に「牡蠣の森を慕う会」が誕生。大川の水源地である室根神社のそばで第1回の植祭が行われました。海をきれいにするには上流をきれいにすることが必要という畠山氏の考えは、北海道大学水産学部の松永勝彦教授(当時)の研究によって、←学的に森と川の関係が裏づけられ、新月ダム建築は廃案になったのです。

「河口域でおいしい牡蠣を育てるには、川の上流をきれいにしなければならない」という原理は、人の体でも同じことです。

 今井氏は人間の体の「鼻」と「口」が上流だとし、ます鼻と口をきれいにすることから全身を診る治療を考案しました。これを「上流医療」もしくは「源流医療」としています。

●口呼吸が引き起こす全身疾患

口呼吸が多く、乾燥が強い患者さんの口腔内写真。

わかりづらいですが、舌や粘膜は診察時、お口を開けていただくと乾いた質感になっています。

口臭が強く感じる程度あります。

 

口腔内に菌が増えやすいため、虫歯のリスクが高くなります。

修復されている箇所が多いです。

唾液には殺菌作用があるため、口呼吸で乾燥した状態だと

唾液の消化作用や殺菌作用が弱まってしまいます。

 

 上咽頭は呼吸をすると必ず汚れる部位で、風邪をひくと最初に痛くなる所といえば分かる方が多いのではと思います。上咽頭や歯肉のような粘膜には、リンパ組織が多く集まっています。

口腔の扁桃や歯肉などのように、細菌感染していながら同時に防御もしているという部位は人体でもあまり例がなく、これらの部位の感染と全身疾患の関係が顕著だった例は少なくありません。

 この重要な上咽頭部に炎症などの問題を抱えている患者の多くに共通する特徴は、「口呼吸」だと言われています。

 人間にとって本来、呼気も吸気も鼻だけで行うのが正しい呼吸法ですが、常に口で呼吸することが癖になっている人はとても多いです。日常的に口呼吸を続けていると、さまざまな病気の原因になります。口呼吸の習慣は、細菌を日々体内に取り込み、病巣感染となって身体の機能を蝕み、免疫力を徐々に下げていきます。

 口呼吸と関連すると考えられる疾患には、関節リウマチ、花粉症、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、過敏性腸症候群、潰瘍性大腸炎、尋常性乾癬、うつ病、化学物質過敏症、ドライマウス、慢性副鼻腔炎、ペリオ、いびき、睡眠時無呼吸症候群などがあげられます

 口呼吸する方の特徴は、以下のような特徴があります。

・いつも口を開けている

・口を閉じると、あごに梅干し状のふくらみと

 シワができる

・下唇が腫れぼったく、むくんでいる感じ

・左右の目の大きさが違う

・目がはれぼったく、むくんでいる感じ

・食べるときにクチャクチャ音を立てる

・朝起きたときに、喉がヒリヒリする

・朝起きたときに、口の中が乾いている

・口の中がよく乾く

・唇がよく乾く

・口をあけてものを食べる

・いびきや歯ぎしりをする

・口臭が強い

・たばこを吸っている

・激しいスポーツをしている

・前歯が出っ歯気味

・舌に歯形がついている

・二重顎のようになっている

・鼻血がよく出る

●生活習慣の改善は鼻呼吸から

 こうした治療の場合、常に問われるのがエビデンスの有無です。その一例として、今井氏は、いびきをかくお子さんのCRP(C反応性タンパク)は高いというデータを挙げられています。

なぜ口呼吸は悪くて鼻呼吸は良いのかというエビデンスについては、「人体造や、生物の進化の過程から当たり前なのだとしか今のところは、言いようがありませんもちろん、換気量や吸気の調温調湿においても鼻呼吸が当然良いのですが、それが全身の疾患とどのようにつながっているのかを解明するのが、現在の課題です」としています。

 上咽頭は呼吸すると必ず汚れる部位で、この部分の上皮細胞を洗浄し、炎症を制御することが大事ですが、うがいをしてもここまでは届きません。具体的な処置としては生理食塩水や次亜塩素酸などを点鼻するなどの方法が考えられますが、さらに大切なことは治療後の呼吸法など生活習慣の指導であると今井氏は述べています。

▪️呼吸の改善法

 当院では、「あいうべ体操」「口テープ」を患者さんに お勧めしています。

⚫️抜歯で失明?!ペーチェット病と歯科

 ベーチェット病は、消化管(とくに口腔内)と外陰部の潰瘍、皮膚症状(毛のう炎、結節性

紅斑)、眼症状(ぶどう膜炎)、関節炎や血管炎などの症状を呈する優性再発性炎症性疾患です。

 不良な口腔衛生状態に関連して白血球が活性化することによって発症・増悪する疾患があります。例えば、掌蹠膿疱症、ベーチェット病、潰瘍性大腸炎などです。これらは、口腔連鎖球菌が血液中に入ると白血球が活性化して発症や増悪の引き金になるという機序が共通す。

 ベーチェット病の患者さんが歯を抜いたあと、1日から2日後にぶどう膜炎が発症、または憎悪して視力が低下するというのはその典型例です。喫煙歴があり、う歯や歯周病など口腔衛生状態が不良であり、HLAIB51陽性といった遺伝的な素因も持っている場合は、発症のスクが高まります。

 目が見えなくなった患者さんはあわてて眼科に駆け込みますが、歯科の治療とは関係ないと思っていますので、トリガーとなった歯科治療のことは、眼科の先生には話しません。

 現在はレミケードなど強力な薬がありますが、ぶどう膜炎が重症の場合は失明に至ることもあります。べーチェット病の患者さんの場合は、予めコンヒチンという薬を1週間以上服用し、白血球を活性化しにくい状態にしておいて、抜歯すれば比較的安全です。歯科ではこういった情報は、知られていません。ベーチェット病の治療ガイドラインに載ってしかるべきと思いますし、こういった関連性があることはすべての歯科医師の方に知って頂くことを望んでいます。

子供の口腔機能の発達

2024年7月2日

こんにちは、こさか歯科クリニックです。

お子さんのお口周りの発達についてのトピックです。

 

口周りの癖が原因で治療対象となったケース

 

 


上唇を噛む癖があるお子さん:上唇を口の中に巻き込むように遊ぶ癖があったために、上の前歯が内側へ傾斜して受け口になっています。



小児矯正と口周りの筋機能訓練を行います。親御さんにも、矯正治療のマウスピースの取り扱い、お子さんのフォローをお願いしながらすすめます。


4ヶ月で正常咬合に変わりました。

 

⚫️子どもの口腔機能の発達

 

—離乳の準備期—
●原始反射

 

乳児は、出生直後からみられる原始反射によむて哺乳を行うことで栄養を摂取します。また、原始反射が出現している時期では、口唇、舌、顎などの口腔諸器官の一体動作により哺乳動作が行なわれています。これらは乳児自身の意思とは関係なく、不随運動で行われます。
乳児の時期は、口を開口させて乳首を取り込み、舌を下唇の上に置きながら舌の蠕動様の動きで乳汁を摂り取り込む、このときの口蓋には、「吸啜窩」という乳首がちょうど安定するようなくぼみがある。

・原始反射・・・乳児に備わっている、特有の刺激に応えて示す中枢神経系由来の反射行動。

 

●指しゃぶり・おもちゃしゃぶり

 

多くの乳児は,生後2カ月ごろから随意的に指しゃりを始めますが。手指の発達によって徐々にしゃぶりは減少していきます。さらに,4カ月ごろこなると上肢と手指の発達に伴い,おもちゃなどをロこもっていく行動(おもちゃしゃぶり)がみられはじめます。指しゃぶりやおもちゃしゃぶりによりさまざまな物性が口腔内に入ることで、口唇,舌,顎を随意的に動かすようになり、「原始反射を消失させて離乳食を開始するための準備運動」としても重要な行動と考えられています。そのため,離乳食開始時期に保護者から「離乳食をベロで押し出して食べてくれないんです」「うまく食べ物を喉のほうにもっていけないみたいなんです」というような質問があったときには,原始反射の残存を確認したり、指しゃぶりやおもちゃしゃぶりをしているか(あるいは,していたか)を確認しています。

 

 

—離乳期以降—

 

原始反射は、おおよそ離乳食を開始する5〜6カ月ごろには消失していきます。このころから身体の成長、発育が著しくなるとともに、摂食機能の獲得にもさまざまな変化がみられるため。
問診,観察を細かく行う必要性があります。離乳食が始まったら、歯の萌出程度と併せて口腔の形態、口腔機能の獲得をみていきます。
いずれの段階においても発達の程度には個人差が大きく、子どものもつ意欲によっても左右される場合があります。発達を促すためには、次に獲得する機能がすこしみえはじめた時点で次のステップにチャレンジし、学習するということも重要です。
しかし、あまり急ぎすぎても子どもがついていけなくなるため、保護者こ方は「自分の子はほかの子より遅れている」という不安になると思いますが、子どもの口腔発達には個人差があること忘れずに急がず発達段階を踏まえたアプローチをしていきましょう 。

 

⚫️子どもの口腔習癖
—指しゃぶり—

 

「指しゃぶり」は、授乳期の乳児には大切な行為であり,幼児期になってもおよそ20~40%にみられる生理的なものです、この指しゃぶりは、お母さんのお腹の中にいる胎生15〜20週から始まっています。そして、乳児は出生後。2~3カ月かけて自分の指を口にもっていけるようになり。盛んに指しゃぶりを行うようになります。このころは原始反射である哺乳反射が優位ですので,指しゃぶりも反射の動きで行われています。しかし,やがて大脳上位の発達がなされるとともに、哺乳反射が消えていくため。
徐々に随意的な動きに変わっていきます。また、哺乳反射の消失に伴い、5~6カ月ごろには哺乳機能から摂食機能へ移行していきます。
指しゃぶりは哺乳に通じる行為であり、心理的満足感や情緒の安定にもつながると考えられています。乳児は、はじめのうちは感覚の発達した器官である口への刺激として指しゃぶりを盛んに行っていますが、やがて1歳を過ぎてひとり歩きができるようになると、ほかに興味が広がり、徐々に指しゃぶりがなくなっていくことが多いようです.
これらのことを考えると、5カ月ぐらいのお子さんの指しゃぶりはまだやめさせる必要はありません。むしろ、口の機能や情緒の発達にとっては大切な行為ですから。無理にやめさせるのは逆効果になる恐れがあります。指しゃぶりが歯並びに影響してくるのは乳歯が萌出してからであり、遅くとも4歳までにやめれば後の歯並びに影響はないというのが一般的な見解です。
もし4歳以降~学童期にかけても指しゃぶりを行っている場合には、口腔機能や顎顔面の形態への影響が深刻になります。しかし、この時期においても指しゃぶりを行っているということは、生活環境や社会環境などの影響。心理的な問題など、多くの要素が関係していると考えられます.その行為だけに目を向けても解決することは難しく、小児科医や小児歯科医、矯正歯科医,言語聴覚士,臨床心理士など、専門職からの支援が必要です。

・哺乳反射・・・一連の乳汁摂取のために反射運動、胎生期の後半には獲得される原始反射であり、探索反射.口唇反射.呼吸反射.咬反射がある。

 

—口呼吸—

 

口呼吸の関連因子は多様ですが、幼少時の指しゃぶりが長期化することにより上顎前突や開咬が引き起こされ、その結果として口唇閉鎖不全が起こり、口呼吸となる可能性も指摘されています。全身への影響としては、鼻腔を通じた加温・加湿や防塵機能が働かないため呼吸器系の粘膜保護が作用せず、風邪などの感染症に罹りやすくなります。また、口呼吸の子どもでは下顎と舌が下行して顔面が上向きになり、頭部が前へ出るような不良姿勢になりやすいという報告もあります 。
このように、口呼吸は口腔顔面のみならず全身にも影響を及ぼす可能性がありますが、どのように対応したらよいでしょうか?耳鼻科疾患がある場合は、まずその治療が最優先でしょう.鼻呼吸を促すためにも,鼻孔の通過をよくしておく必要があります。もし、耳鼻科疾患がなく、ほかに口唇閉鎖を阻害する因子(筋緊張を低下させるような薬の服用等)がなけれは、口唇閉鎖力をつけるトレーニングや、鼻呼吸を促すトレーニングを行いましょう。
「口を閉じて!」と注意することも必要ですが、あまり言いすぎるとかえって逆効果になることがあります。すでに上顎前突になってしまっていたり。口輪筋の筋力が弱かったりする場合には、「口で言われて頭でわかっていてもできない!」という状況だからです。本人の負担にならないよう自覚させながら。楽しんでできるトレーニングプログラムを立てていきましょう!

 

—離乳食を嫌がる—
●離乳食開始の時期

 

離乳食は、首の座りがしっかりしている,支えてあげると座れる、食べ物に興味を示す、スプーンなどを口に入れても舌で押し出すことが少なくなるなど、子どもの育ちをみて開始します。離乳食を始めてみたものの。まだ身体や口や心の準備が整っていなしために食べることを嫌がってしまうことがあります。

 

●食べる機能の育ちと離乳食の固さのずれ

 

舌や顎の動かし方の発達に伴って、食べることのできる固さが変わってきます。そのため、食べる機能の育ちと食べ物の固さがずれていると,離乳食を嫌がる原因になることがあります。保護者には、調理した離乳食を子どもに食べさせる前に,自身の舌を使って試食するようにしてみましょう。さらに,子どもが食べているときの口元の動きを観察し、発達とそれに合った離乳食の固さにしましょう。食べる機能の育ちに合った固さにすることで食べやすくねります。

 

 

●食への興味を伸ばす

 

何にでも興味津々の子どもは、食べることにもワクワクしています。見た目や匂いに興味をもつだけでなく、”触ってみたい”とも感じていますが、手が器用になる以前の、微妙な力加減が難しい時期には、ほとんどの食材はグチャ、とつぶれてしまいます。そこでテーブルや服や床が汚れてしまうため、保護者がつい先まわりして食べ物に触れないように手の届かないところに避けたり、汚さないよう注意したりしてしまうことがあります.手づかみでのかじりとりは自食のスタートとして、手の経験だけでなく、手と口の動きの連動を学習するためにも必要であることですので、触れるための食材を準備するなど、十分に手づかみ食べを経験させるようにしましょう。

 

—あまり食べない—

 

保護者のなかには、「子どもが離乳食をあまり食べない」という悩みをもっている方がいますがまずは、食べる機能と食べ物の形態が合っているかを確認しましょう 。
食欲や食べる量の差は、体格.性格.体力などによる個人差もあります。そのときの体調(眠い.空腹でない.便秘.疲れているなど)、好き嫌い(新しいものが苦手、味,形態など)などさまざまな要因が考えられます。特に、離乳食の時期は、本人が気持ちを言葉で伝えることはできないので、なぜ食べないのかがわからず保護者が悩んでしまうことも多くあるでしょう。量だけにとらわれず、総合的な判断が必要です。
子どもの身体的な発育については成長曲線を確認し、問題がないようであれば、焦らず見守るようにしましょう。

お子さんの気になるお口についての相談はお気軽にこちらからお願いいたします。

小児矯正のメリット

2023年8月8日

歯並びの問題
昔と比べると、虫歯自体は減少傾向にあり、歯並びの問題は増えています。顎は現代の食生活を送る上でそんなに発達しなくても良くなり、歯が生えるスペースが狭くなっているためです。
 また、普段の生活の中で、正しい口唇と舌の動きができていないために、歯並びが乱れてしまう場合も多いです。

お子さんの治療例
 3歳1ヶ月でこの状態でした。

受け口で、食事の際の唇と舌の動きにも問題がありました。下唇で上唇を巻き込むような食事の取り方で、筋肉の動きとバランスの不調が認められました。歯並びが乱れてしまう原因として、口唇による外からの圧力、舌による内側からの圧力が適切でないため、受け口になってきたと考えられます。矯正装置と、筋肉の働きを正常にしていく訓練を行いました。

4ヶ月後

受け口の改善が認められます。筋肉の機能訓練と矯正装置の併用で、適切な舌と口唇の動きになるよう修正をしていきました。食事の際も、以前の癖が取れて、自然な筋肉の動きになるように変わってきました。

当院の小児歯科矯正治療については、こちらをご覧ください。大きく分けて2種類の矯正治療の方法がございます。

私たちの導入している矯正装置は、お子さんご自身で取り外し可能なものです。お子さんの矯正治療は、親御さんの協力なくしては成り立ちません。1日のうち、矯正器具を装着するタイミングと時間は装置により異なりますが、装着ができなければ何の効果も得られません。きちんと装着できれば、治療効果が得られる以外に、歯につけっぱなしの矯正器具と異なり、食事や清掃しやすいという大きいメリットがあります。

口唇や舌は柔らかいため、それらがしっかり生えている歯を動かすような影響があるのかと驚かれる患者さんは多いです。歯の移動は意外と簡単に生じるものです。無意識のうちにしていることで、
・舌先で歯と歯の間を触ってしまう
・口がぽかんと開いている
・頬杖
・片側のみで噛む癖
・うつ伏せ寝
などございませんか?これらは実は歯並びを乱す良くない習慣なのです。外からの力、手や机、枕などから持続的に力がかかることにより、その側の歯列が押されてへこんでくる変化が生じます。(すぐではありませんが)
 舌が無意識のうちに特定の場所を触ってしまうと、歯と歯の間が開いてきたり、傾斜が生じたりします。あの柔らかい舌が硬い歯を押して動かすような力を発揮してしまうのです。

歯並びが良いと老後も健康!

 健康的に老いていくことは誰しも望んでいることです。一番いいのは、ずーっと心身ともに健康であり続け、活動的に日々暮らしながら歳を重ねていき、ある日眠るように息を引き取る、天寿を全うするというイメージです。これが所謂ピンピンコロリ(PPK)ですね。私たちも今からピンピンコロリを目指してできる範囲で健康管理に取り組んでおります。具体的には、訳のわからないもの、身体にあまり良くないものはほどほどにしておくこと、食べ過ぎない、普段から運動する習慣形成、しっかり眠ることです。世の中には健康に良いとされる情報が溢れています。例えば牛乳が身体にいいという意見、それと真反対の意見もありますよね。さまざまな健康情報も、その人ごとに合う、合わないが違うでしょうし、自分に合った健康管理法を実践していきたいものです。
 しかし、多くの人は普段の健康へのありがたみはなく、病気がないのが当たり前に思っているようです。そのため、病気にならないために予防していくという意識は低く、病気になってからの事後対応がほとんどであります。その証拠に、我が国では80%の方が病院で亡くなっています。
 50%の人が自分は病院で死んでいっていいと思っています。人生の最後の段階で、不健康な期間が男性で9年、女性で12年もあります。では何歳まで生きたいかについてはどうでしょう。男性で80歳、女性で73歳まででいいというアンケート結果があるようです。果たして不健康なまま人生を終えて良いのでしょうか。
 死ぬ時に後悔することで何か多いかというと、健康を大切にしてこなかったということ、美味しいものを食べておかなかったことが挙げられるようです。お口の健康を守り、病気を予防してこなければ、高齢になるにつれ口腔内の状況は悪化してしまいます。それを回避し、できるだけ病気にならないよう予防をして良い状態を保つことが重要です。

歯並びと健康寿命との関係
1989年から厚生省と歯科医師会により推進されている8020運動というものがあります。80歳の時点で20本の歯が残っているようにすることで、噛める状態を維持し、健康寿命を伸ばそうという狙いがあります。前歯から一般的に生えそろっている奥歯まで、上下左右合わせて28本なんですが、8本無くなっても健康的に噛めるかというと、正直歯の欠損の場所によります。例えば上顎は歯が14本全て揃っており、下顎が6本でも8020達成ということになりますが、下顎が6本しかなかったら全然噛めないと思います。このようなツッコミはさておき、8020達成されている方の割合は年々増えておられます。昨年のデータではその割合は51.6%とのこと。その中で、歯並びや噛み合わせの状態を調べた興味深い統計があります。

出っ歯、受け口
 まず、前歯の問題のある歯並びについて、簡単に分類すると
①上顎前突(上の前歯が出ている出っ歯)

②反対咬合(下が出ている受け口)

の3つです。8020達成の方のうち、どのような割合かというと、
・正常:84.6%
・上顎前突:15.4%
・反対咬合0%
です。

前歯が噛み込みすぎ、または奥歯しか当たっていない噛み合わせ
 出っ歯、受け口よりも一般的に分かりづらいですが、これらも問題がある歯並びです。
①過蓋咬合

噛み合わせると、下の歯が全く見えないほど深く噛み込んでいる状態。顎の動きが阻害されてしまい、将来的に奥歯の負担が大きくなり失われる、顎関節症になるリスクが高いです。

②開咬

どのように噛み合わせても奥歯しか噛み合わないため、奥歯に力がかかりすぎて歯を失う、顎関節症になる、前歯で噛みきれず食事が取りづらい、口呼吸で口臭や感染症のトラブルが多いなどデメリットが多いです。

8020達成した方の割合は、
・正常:86.5%
・過蓋咬合:13.5%
・開咬:0%
です。

歯並びを良くしておくと・・・
 これらのことをまとめると、歯並びや噛み合わせを整えておくことで、結果的に8020を達成しやすく、健康寿命の延長!ピンピンコロリもいける!ということがわかります。可能ならば、人生の早い段階で治しておきたいこれらの歯並びの問題。特に子供の時期に適切なタイミングで適切な治療介入すると、成人矯正よりも治療の費用や期間がマシになることが本当に多いです。
 また、将来的なむし歯や歯周病のリスクを減らせるというメリットが大きいです。お子さんの時点で中高年、高齢になった将来像を想像しにくいとは思いますが、実際診療室で診させていただく方で、出っ歯や受け口のお年寄りの方は少ないです。もともとある歯から、大きい入れ歯やブリッジ、またはインプラントに変わっています。理由は、それまでの人生のどこかのタイミングで、歯を失ってしまうからです。毎回のお手入れがしにくい歯並びや力の負担が大きい噛み合わせだと、健康的な口腔内を保つのが困難になってしまいます。矯正治療により、若い段階で健康的な歯並びに整えておくのは、このようなメリットが大きいと考えられます。