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高齢者の栄養摂取

2024年8月29日

こんにちは、こさか歯科クリニックです。

今回は高齢の方の栄養摂取についてのお話です。

 

⚫️高齢者の栄養と食事・食形態

NYUの留学中に食べたステーキ。赤身で食べ応えがありました。

高齢の方の栄養摂取について、補綴の勉強会でも取り扱われる問題であります。

歯が弱っていたり、噛めない入れ歯を装着されておられる場合、

柔らかく炊いたお米や麺が多くなりがちであると。

この写真のような塊である必要はありませんが、とにかくタンパク質不足になる方が多いとのこと。

 

 

プロテインやビタミンでも栄養摂取できるという意見もありますが、

楽しみがないですね。

 

 

 高齢者にとって「口から食べる」ことは生活の楽しみであり、生きがいでもあります。しかし、ときに食事という行為が命取りになってしまうこともあります。その原因の1つは、「本人の摂食感下機能に合わない食事をとること」です。食事中にむせ込みが生じたり、食事時間が長くなったりする場合、「食事が摂食の下機能に合っていない可能性」が考えられます。そして、これらの問題に対して何も対策を講じなければ、いずれは誤嚥性肺炎や窒息を引き起こしてしまうかもしれません。

 もう1点、機能に合わない食事をとることの弊害として、「食欲低下や偏食などによって食事量が減少し、低栄養(栄養失調)や脱水が生じてしまうこと」があげられます。高齢者は成人に比べて体内水分量が減少することから、もともと蓄えている水分量が少ないために脱水状態に陥りやすくなります。そのため、食欲不振やの下障害による水分摂取量の減少には注意が必要です。また。高齢者のなかには喉の渇きを感じづらくなっていたり、トイレに行<のが億劫で水分を控えてしまったりする方も少なからずいるため、心疾患などによる制限がない限り、季節に関係なく水分は十分に摂取する必要があります。

 

●低栄養

 

—低栄養の問題点—

 低栄養の問題点

低栄養になると、体重や筋肉量が減少することでADL (日常生活動作:Activity of Daily Life)が低下し,寝たきり状態になってしまう可能性があります。また,免疫力が低下して風邪などの感染症に罹りやすくなったり。重症化して肺炎になったりするリスクが高くなります。誤嚥も肺炎のリスク要因ですが、栄養状態がよく、免疫力が低下していなければ,たとえ誤嚥をしても肺炎にまで至らない場合もあるのです.ほかにも。低栄養により(床ずれ)ができたり、傷や病気の治りが遅くなったりします。

 低栄養は、特別なきっかけで生じるわけではなく,ちょっとした不注意で簡単に陥ってしまいます。たとえば「歯が抜けた」「義歯が合わない」などは高齢者に容易に起こりうることですが、それがきっかけとなって歯ごたえのある食べ物を避けたり、食欲が低下したりすると、食事量が減少し、栄養バランスが偏ってきます。そのため必要な栄養量を確保できなくなり、低栄養状態に陥ってしまいます。

 特に問題視されているのは,PEM (Protein Energy Malnutrition)といわれる,タンパク質とエネルギー不足の低栄養状態です。高齢になると肉類を敬遠しがちですが、その理由の1つに「噛みにくさ」「飲み込みにくさ」があります.肉や魚など筋肉のもととなるタンパク質を摂取して栄養状態を維持するためには,歯の治療だけでなく、肉や魚を食べやすくする工夫も考ラス要があります。

 

—低栄養のリスク評価—

 

 高齢者の栄養状態を評価するには、まずは体重(kg) を測ることから始まります。加えてBMI(体格指数:Body Mass Index)と体重減少率を算出します。

BMIと体重減少率は、高齢者の低栄養のリスク評価を行う指標となります。BMIは「体重(kg)→(身長(m) 身長(m))」で求められ、18.5~25未満を標準とし、25以上は肥満。18.5未満をやせとしています。

体重減少率は,「(通常体重(kg)一現体重(kg))→通常体重(kg)100」で求められ、どのくらいの期間で体重減少が起こったかによってリスクが異なります。診療室においても、高齢者の体重を把握することが必要でしょう。

 

このくらい歯があり、しかも修復された跡がないような口腔内だと、

病気のリスクが低いと考えられます。

 

咬合が崩壊してしまった患者さんのレントゲン写真。

残っている歯も揺れが大きく、残すことが難しい部分があります。

下の歯が残っている側は、上の歯茎の吸収が著明です。

力の問題が顎の骨の吸収を進行させると考えられます。

このような状態だと、義歯を入れて安定させるのが非常に難しいです。

天然の歯のようには噛めないですし、ここまでになる前に歯科を受診し、治療を受ける必要がありました。

 

—高齢者の必要栄養量とは?—

 

 

 高齢者が必要とする1日の栄養量はどのくらいでしょうか。厚生労働省が示している日本人の食事摂取基準の一部ですが、18~29歳の成人期と比較して、70歳以上では必要エネルギー量は減少します。これは、加齢による除脂肪組織(筋肉や骨など)が減少することで基礎代謝が低下するためです。しかし、タンパク質をはじめとするほかの栄養素は、同等量の摂取が必要であることがわかります。つまり,高齢になっても、肉や魚の摂取量を若いときより減らす必要はないということです。

 

—必要栄養量を確保する方法—

 

 十分なエネルギー量とタンパク質量を摂取しないと,PEMとよばれる低栄養状態になること、また水分量の摂取不足は脱水を引き起こすことは冒頭で述べました。そこで、1日に必要なエネルギー量とタンパク質量。水分量を確保するためのポイントを以下にあげます。

 

①できるかぎり欠食をしない

 

 朝.昼.夕と規則正しく食事を摂るようにします。体調の悪いときや食欲のないときでも、レトルト食品や果物、デザート類をすこしでもいいので食べるほうがよいでしょう.体調の崩れをきっかけに欠食が慢性化することがありますが、そうなると摂取栄養量が不足しつづけてしまうことになります。

 

②間食を取り入れる、少量頻回食にする

 

1回で1食分の量を食べられないという場合は、1日3食にこだわらず、間食を摂ったり、5食にするなど食事回数を増やしたりすることで、1日の必要量を補給するようにします。

 

③毎食タンパク質を含む食品を取り入れる

 

 肉,魚卵,大豆製品、乳製品のいずれかを毎食摂ることで、筋肉のもととなるタンパク質を補給します。

 

④水分補給はこまめに

 

 水分はこまめに摂取するようにします。食事が十分摂れていて、食事時にお茶などの飲み物を摂取している場合でも,食事時以外で計500mLくらいは摂取できるとよいでしょう。

 

⑤栄養バランスを考える

 

 エネルギー源となる主食,筋肉のもとになるタンパク源を補給する主菜、身体の調子を整えるビタミン・ミネラル類を補給する副菜や汁物、というように、一汁二菜または一汁三菜を目安にしましょう 。すべてを手作りしなくても、スーパーの総菜やレトルト食品。冷凍食品などを取り入れながら、なるべく多品目の食材を食べるようにします。

 

⑥栄養補助食品を活用する

 

 通常の食事量が摂れない場合は、少量でも必要なエネルギー量やタンパク質量などを摂取できる、栄養補助食品を活用してもよいでしょう。

 

●摂食嚥下機能に適した食形態とは?

 

 「噛みにくい」「飲み込みにくい」と感じている高齢者が必要栄養量を確実に摂取するためには、摂食の下機能に合った食形態に調整する必要があります。では,噛みにくい、飲み込みにくい場合はどのような工夫が必要か考えてみましょう。

 「パンがパサパサして食べづらい」という場合は、飲み物やスープに浸したり,フレンチトーストにしたりすると食べやすくなります。また、まとまりにくくばらつきやすい米飯は,ひきわり納豆やとろろなど粘りがあるものといっしょに摂ることで,ばらつきやすさが軽減されます。

 

●その他の工夫

 

 認知機能の低下や覚醒状態の悪化などにより食事が進まない場合は、「はっきりとした味つけにする」「香辛料などを利用して香りを強くする」「体温と差がある温度にする」などの刺激があったほうがよいでしょう。

 また、好きなものや好きな味、なじみのある料理を中心にした献立にしたり、きれいな器に盛りつけたりすることで,食欲が増進されて食事が進むこともあります。こうした工夫は医学的ではないかもしれませんが、高齢者の食事を提案するうえで、本人や家族の「語り(ナラティブ)」から得られる情報がとても重要です。食形態を含む食事内容の提案は、摂食嚥下機能評価に基づいて行うことが大前提ですが、本人や家族の嗜好や生活スタイルに合わなければ、難しいです。食事はあくまで生活の一部です。高齢者が食事を楽しめるようなサポートができるといいですね。

成人期以降〜高齢の方の口腔機能について

2024年7月27日

こんにちは、こさか歯科クリニックです。

口腔機能についてのトピックです。

⚫️成人期以降(高齢者)の口腔機能の変化
—まずは知っておきたい!食べることのメカニズム—

 

①食べ物の認識

 

NY大学の短期留学中、よく食べていたチキンオーバーライス。

初めて見る食べ物ですし、見た目はぐちゃっとしていてどんな味かわからないわけです。

それに対して、よく食べるものは目で見て食物の性状や味、温度も予想できます。

ちなみにこのチキンオーバーライスは、外食した中でもピカイチのお味でした。

本来、私たちがものを食べるとき、捕食すること前に過去の経験などからその食べ物はどのようなものか(噛む必要がある食品なのか?舌で押しつぶして食べるものなのか?嚥下だけで対応するものなのか?など)について、食べ物を見る、触る、匂いを嗅ぐなどして判断します。

 

②食べ物の取り込みと咀嚼

 

前歯は、ものを噛み切る「咬断」に向いた、シャベルのような形状をしています。

 

食べ物を口腔内に取り込む前に、口唇や前歯によって適当な大きさに切り取られ、舌は食べ物を迎えるかのように切歯の付近まで突出します。この際にも口唇や舌は食べ物の物性や温度などを感知して、その後の処理方法にかかわる情報を得ます。ある程度の固さをもち、咀嚼のが必要な食品に対しては、舌で受け取った後。すばやく咀嚼する側の歯の上に舌で食べ物を移動させ、舌と顎の動きの協調運動により上下の歯列で粉砕処理します。プリンのような軟らかい食品の場合、舌と口蓋で押しつぶすように処理されます。このとき、鼻腔は咽頭と交通し、呼吸をすることが可能です。

 

奥歯はものを噛み砕くために適した形態です。

特に第一大臼歯は、7割くらいの人がものを最初に噛み砕く機能を有しており、

主機能部位と呼ばれる噛み合わせのエリアがあります。

 

③食塊形成と飲み込みの開始

 

咀嚼が進んで口の中にバラバラに粉砕した食べ物は、そのまま飲もうとすると誤嚥してしまうことがあります。なぜなら、嚥下の際に私たちが息を止めていられる時間は0.5秒ときわめて短いためです。口の中でバラバラに広がった状態で飲もうとすると,早く喉に向かうもの、後から向かうものも含め、0.5秒に間に合わなくなってしまいます。そこで,バラバラに広がった食べ物を舌で上手に一塊にまとめあげることが必要になります(食塊形成)、この際に、唾液と十分に混ぜられるとより飲み込みやすくなります。
食べ物が一塊にまとめられると、軟口蓋が持ち上がることで鼻咽腔が閉鎖されます。この際に舌の前方が強く口蓋に押しつけられ、波打つように動かしながら咽頭に食べ物を押し込みます。

 

 

④咽頭(のど)への送り込み

 

舌の後方は口蓋や軟口蓋に向かって動き、食べ物を押し込みます.食べ物は一気に咽頭の下方に流れ込みます。そのとき、気管の入り口にある喉頭蓋が倒れ込み、同時に声帯など気管を保護するいくつかの構造物が閉鎖し、気管を閉じます.これにより、食べ物が気管に入り込むのを防止します(この食べ物を飲み込む間,息が止まっている時間が0.5秒)。

 

⑤食道への送り込み

 

舌根部は咽頭の後壁に向かって食べ物を押し込み、咽頭の後壁は前方に張り出すことで食道への押し込みを助けます。

 

 

⑥飲み込みの完了

 

食べ物は、すべて食道内に押し込まれました。あとは食道の蠕動運動により胃に向かいます.食べ物が食道に押し込まれたと同時に、喉頭蓋は跳ね上がって気道が開放され、呼吸が再開されます。

 

—高齢期にみられる口腔機能の変化—

 

成人期以降に起きる口腔機能の問題としては、一度獲得した機能が生理的に低下したり、病気が原因で失われたりすることがあげられます。

 

—筋力の低下–

 

加齢とともに全身の筋力は低下します。これは、生理的に起こる筋肉量の低下に加えて、低栄養などによる筋肉量の減少からも影響を受けます。この変化は、口腔や咽頭の筋肉にとっても例外ではありません。ロ腔や咽頭の筋力が低下することで、結果、噛む機能や飲み込む機能も低下するのです。特に舌は筋肉の塊ですので,舌の筋力の低下は、噛む機能。飲み込む機能に加えて、話す機能に影響を与えます。

 

—唾液の減少—

 

唾液は、噛んだ後の食べ物に湿り気を与え、まとまりやすく変化させるのに必須です。また、食べ物の味を含んだ物質を、味を感じる細胞(味蕾)に届けるのは、唾液の役目です。唾液の分泌量は、加齢そのものでは大きく変化しないといわれています。しかし,高齢者が服用している薬の多くは唾液の分泌を妨げる作用をもっています。特に「多剤服用患者」とよばれる。
多くの薬を飲んでいる高齢者では、唾液分泌が薬の影響を受けている場合が多くなります。

 

–喪失歯の増加—

 

現在、80歳で20本の歯を有する人の割合は、50%を超えているといわれています。しかしながら、いまだに残りの50%の人は歯を喪失し、義歯などの補綴装置を使うことで口腔機能を保っているといえます。しかし、義歯による咀嚼機能の回復には限界があり、組織機能の面では天然歯の有意性は揺るぎません。つまり、喪失歯の増加は咀嚼機能の低下につながるといえます。

 

⚫️口腔機能が低下することによる問題

 

—摂食嚥下障害—

 

高齢になると、加齢による機能の低下に加えて、複数の全身疾患をもっていたり、多種多様な薬を服用していたりするため、摂食嚥下障害になる危険性が非常に高まります。高齢者に多いの嚥下障害の症状としては、咀嚼ができない、食べこぼし、嚥下反射が遅くなる、食道の入口の開きが悪くなる、飲み込むのに時間がかかる、唾液が少なくなる,むせたときに咳をすることが下手になる、などがあります。また、摂食嚥下機能に影響を及ぼす副作用がある服用薬としてアトロピンなどの抗コリン薬、三環系抗うつ薬、抗てんかん薬などがあり、注意が必要です。

 

—誤嚥—

 

気道と食道はこのように交差しているので、

摂食嚥下の過程で誤って食物が気管内に入らないよう、

筋肉が協調運動をしているのです。

食物が通る際は、通常気管へ入らないように蓋がされるわけです。

声帯を越えて気管内に唾液や食べ物が侵入することを「誤嚥」といいます。声帯を越えなく喉頭内にこれらが入り込んでしまった際には、「喉頭侵入」といいます。食べ物や唾液が誤嚥や設
喉頭侵入を示すと、それを喀出するために咳嗽反射が起こり、「むせ込み」がみられます。ですから「むせ」がみられた際には,誤嚥や喉頭侵入を起こしていると考えて間違いありません。一方で、誤嚥してもむせず、睡眠中に無自覚に唾液とともに細菌が気管や肺に入る場合もあり、「むせなし誤嘸(不顕性誤嚥)」とよばれています。

 

—窒息—

 

「窒息」とは、空気の道である気道、すなわち口から咽頭、喉頭、気管にかけての道に食べ物が詰まり、呼吸ができなくなったことを指します。この窒息は、命の危険に直結するために注意が必要です。窒息事故は、さまざまな食品によって起こります。死亡に至た窒息事故の原因食品を消費者庁の報告からみてみると、1位である「餅」についで,「米飯」「パン」「肉」「魚介類」と続き、われわれ日本人が普段から食べてい食品が並びます。特に嚥下機能が低下した高齢者おいては、窒息への配慮が必要です。

 

—脱水・低栄養—

 

私たちが1日に食べたり飲んだりしている食事やお茶の量を想像してみてください。3度の食事に加えて、おやつや夜食、紅茶やコーヒーなどを頻繁に摂取していると結構な量になることがわかります。1日分を並べれば、テーブルいっぱいになるような量です。一方。摂食嚥下障害がある人では、十分な食事を摂ることが難しくなれば、当然「低栄養(栄養障害)」に陥ります。
「嚥下障害の人はスプーン1杯の水で溺れる」という言葉があります。通常、水というと誰しも飲みやすいものと思いがちです。しかし、嚥下障害の人にとって、水は動きが速く口腔内でバラバラに広がることから。もっとも誤嚥をしやすく、飲みにくいものなのです.水は、私たちが生きていくために毎日摂取しなければならない重要なものです。嚥下障害になり、水やお茶,みそ汁などの水分を摂るときにむせるようになると、知らず知らずのうちに摂取量が減少し。「脱水」につながります。

 

—食べる楽しみの消失—

 

「生きるために食べよ、食べるために生きるな」・ギリシアの哲学者・ソクラテスの名言としていまも残るこの言葉は、日々、忙しく働く私たちにも教訓を与えてくれます。しかし、「食べることは生きることである」ことも事実で、特に摂食嚥下障害患者さんにとっては、食べることが制限されるなか、「食事を楽しめない人生なんて!」と思うのも無理はありません。
食べるものに制限があっても、食べる楽しみを味わってもらえるような支援を継続することが必要です。

お子さんの食べ方、気になることはありませんか?

2024年7月2日

こんにちは、こさか歯科クリニックです。

小児の患者さんの、口腔機能についてのトピックです。
ご家庭でお食事される時、ふとした時、
「よく見たらうちの子、食事中の癖が強いな」
「いつも口がポカンって開いてる」
「舌がよく出てる」
「食事でよく噛めてないようで、時間がかかる」
「他のお友達と比べて、永久歯の生え変わりが進んでないな」
と気づかれることがあるかもしれません。
実は、それらはお口の発達不全につながっているのです。

 

リットレメーター

 


お口がよく開いているお子さんの、口唇閉鎖機能を検査するリットレメーター:マウスピースを唇で保持してもらい、どのくらいまで引っ張れるかテストをします。診断の一つの根拠になります。実は口が常に開いていると、口臭がキツくなる、虫歯や歯肉炎が悪化しやすい、アレルギーになりやすいなどよくないことにつながります。

 

⚫️食べることの問題

 

—噛まない—
①歯は生えそろっているか?

 

食べ物を噛んで食べるには、臼歯の咬み合わせが重要です。摂食機能の発達から事例をみると,通常2歳であれば咀嚼機能は獲得されていますが,歯の萌出状態によっては繊維の多い野菜や肉、かまぼこなどの練り製品は咀嚼しきれずに口の中に残ってしまう場合があります。そうすると,丸のみや口から出してしまうといった行動につながりやすくなります。萌出前の歯肉しかない時期や生えはじめの時期、また永久歯への交換の時期には、食事のメニューの選択の配慮が必要です。

 

②弱い力でもすりつぶせるか?

 

咀嚼機能の発達にも個人差があり、2歳でもまだ十分に機能が育っていない可能性があります。口の動きを観察し、「左右の口角は非対称に動いているか」「噛んでいる顎のほうに、口唇や顎は引っ張られているか」「舌は横に動いているか」を確認します。
これらができていなければ、まだ咀嚼機能が十分に育っていない可能性があります。


小児の方に、というわけではないですが、咀嚼能力を検査する機器がこちらです。検査用のグミを噛んでもらい、どの程度噛み砕けたか、センサーで確認できるものです。歯を失って機能に影響が出ている方の診断と、治療後の咀嚼機能を評価する基準に用いられます。

 

③かじりとりはできるか?

 

咀嚼するためには、まず自分の前歯で自分の口に合った一口量をかじりとることが大切です。それによって、前歯の歯根膜に食べ物の感覚が伝わり、口に入る食べ物の固さや量を感知し、その後の咀嚼運動へとつながっていきます。逆に、前歯でかじらず口の奥にポーンと放り込むような食べ方をしていると,口の中の感覚情報が得られず、咀嚼運動が引き出されにくくなります。

 

④食べることを急かされていないか?

 

咀嚼しないことの弊害は、「丸のみ」につながることです、臼歯が生えそろい、咀嚼機能が獲得されているにもかかわらずあまり噛まない場合。環境に原因があることも多いようです。「急いで食べなさい」などと急かされていたり、あるいは兄弟や姉妹と争うように食べていたりなど、早食いせざるをえないような環境にあるのかもしれません。早食いが定着すると窒息事故にもつながる恐れがあります。心身ともにリラックスして食事ができる環境を整えてあげることが大切です。
また。食べるのが速い。噛む回数が少ないことは、肥満の原因となります。よく噛むことは食べ物のおいしさを引き出し。消化吸収を助け、満腹中枢に作用して満腹感を得ることにつながります。子どものころからしっかり噛んで食べる習慣をつけ、生活習慣病にならないように指導しましょう。
※正常な咀嚼機能の見方
①咀嚼しているほうへ口唇.顎.舌が寄るのがみ
られる。
②歯の上の食べ物を舌と頬で支えている。

 

—口に溜めて飲み込まない—
①口の機能の発育段階と食べ物の形・固さは合っているか?

 

「食べる意欲はありそうなのに、口に溜めたまま飲み込まない」…..そのような場合は、食べ物の形・固さが摂食機能の発達段階に合っていない可能性があります。たとえば、小学校入学前の6歳では、咀嚼機能も十分に育ち、第一乳臼歯の萌出とともに咀嚼の力は強くなりますが、まだ大人と同じくらいの力までは身についておらず、固い食べ物を何でも食べられるわけではありません。同時に、前歯の交換も始まるため、前歯が動揺していたり、抜けていたりすることから、かじりとりができない時期でもあります。その結果として、口の中の食べ物をうまく飲み込めずに、口に溜めたままになってしまうことも考えられます。このような時期に摂食機能に合わない固い食べ物ばかり食べさせていると、口に溜めたままになってしまうか,あるいは無理に丸のみする癖がついてしまいます。子どものそのときどきの口の環境や摂食機能の状態に合わせて、食べられる形・固さの食べ物を与え、すこしずつ機能を伸ばしていくようにします。
※摂食機能の発育段階に適さない形・固さの食べ物を与えると、正常な摂食が困難になってしまいます。

 

②食べる意欲はあるか?生活は乱れていないか?

 

子どもは同じ年齢でも個人差が大きく、食欲もまちまちです。食欲旺盛な子もいれば、小食の子もいます。子どもが小食の場合,親は「ちゃんと栄養が摂れているのかしら?」と心配しがちです。そうすると。「もっと食べなさい」と食事の量を増やしたり、追いかけ回して食べさせようとしたりしてしまい。子どもにとっては食事が苦しいものになっている可能性があります。また,間食(おやつ)やジュースを摂る量が多くなっている場合は、つねに満腹で食べる意欲も育ちません。それでも食べなくてはいけない状況になると,結果的に「口に溜めたまま飲み込まない」ということになってしまいます。
外遊びや友だちとの遊びをとおして適度に運動をさせ、自然に空腹感を味わえるような生活リズムをつくることも大切です。

 

—食べるときに舌がいつも出る—
①嚥下はきちんとできているか?

 

口が開きっぱなしで,の嚥下時に舌が出るということは、まだ「乳児の下」をしていると考えられます。通常、離乳食が開始された5~6カ月ころには、口を閉じての下する「成人の下」が獲得されますが、哺乳を継続しているお子さんだと、舌の使い方が哺乳のときのまま残ってしまうことがあります。その場合,まずは哺乳瓶をやめて、水分をスプーンやコップから飲むように促していきます。もし、哺乳瓶の使用をやめてしばらく経っても乳児嚥下が改善されなければ、成人嚥下を覚えてもらう練習が必要かもしれません。その場合,口唇と顎をしっかり閉じた状態での嚥下できるよう、お母さんなどの指で、口唇を閉じる介助を試みるようにします。

 

②口唇の力はあるか? いつも口が開いたままか?

 

咀嚼の動きはできているようなので、幼児食程度の固さのものでも食べられるかもしれません。しかし,口を閉じるための筋肉,特に口輪筋が低緊張であるといつも口が開きっぱなしになり、そのためにの下時に舌が出てしまう可能性もあります。また、鼻炎などで鼻から呼吸ができない場合は口呼吸となりますので、やはり口が開きっぱなしとなり、安静時の筋肉の緊張度にも影響が出てしまいます。


「うちの子、いつも口開いてるんです」というお話は、診療室でよく聞きます。お口や顔面の成長は、生まれた時からの授乳をどうしていくか、から考える必要があります。母乳が可能な場合は、赤ちゃんが顔を真っ赤にしておっぱいを飲む、この行為自体に非常に意味があります。一生懸命吸っていくことにより、骨が正常に成長していきます。
よくないのは、小さい力で飲みやすいようにと哺乳瓶の吸い口を大きくすることです。楽に飲めるようにと考慮されたものかもしれませんが、発育にとっては逆効果のものなので、使用されない方が良いです。

 

③食べ物は咀幅機能に合っているか?

 

「咀嚼はできるけれど舌を出しての下してしまう」・・・・・・このような場合、いったいどのような食べ物が合っているのでしょうか、ここで大切なのは「咀嚼の動きがどこまでできているのか」ということです。咀嚼の動きというのは、顎や舌が側方に動くことだけを指すのではありません。顎や舌とともに口唇や頰も上手に協調させながら、奥歯で食べ物を十分にすりつぶし,唾液と混ぜ、そして舌の上で一塊にすることができなければ、上手には飲み込めません。したがって、咀嚼しきれない食べ物を飲み込もうとするために、舌が出てしまっている可能性が考えられます.そのような場合は、咀嚼機能に食べ物が合っていない (食べ物が固すぎる)可能性が高いので、咀嚼できる軟らかいものに変えていくようにしましょう同時に、舌を出さずに嚥下する機能を獲得するためにのアプローチを行っていきます。
摂食機能の発達には、ある程度順番があります。しかしときには,この順番が違ってしまうこともあります。本人の発達段階に合わせて摂食機能を促すことが原則ですが、安全面を考慮しながら、獲得している咀嚼機能を大切に育てていくことも考えていくようにしましょう。
ほかにも、食行動の問題は、齲蝕など口腔内の痛みが原因のことも考えられます。まずは口腔内にこうした器質的な問題がないかをチェックし、そのうえで機能面の対応をしていきましょう。

 

小児の口腔機能発達不全の診断基準

 

○離乳前    以下の2つ以上該当する
・お口ポカン
・小帯付着異常
・授乳時間、回数のムラ
・スプーンを押し出す癖
・離乳がすすまない

○離乳後    Aから1つ以上、Bから2つ以上該当する
A:歯の萌出の遅れ、歯列不正、偏咀嚼、虫歯があって咀嚼に影響ある、強く噛みしめられない、咀嚼時間が長すぎる
B:舌突出癖、口唇閉鎖不全、小帯の異常、舌や口唇、指吸いなどの癖あり、食べる量や回数のムラあり、構音の異常。

口腔機能発達不全に対する検査、筋機能訓練、生活習慣指導は、保険診療でも認められております。
お子さんのお口が気になったら、こちらからお気軽にご相談ください。

口腔機能、その成り立ち

2024年7月2日

こんにちは、こさか歯科クリニックです。

なぜ、歯科診療室で口腔機能をみることが重要なのか?
ヒトは、どのように口腔機能を発達させるのか?
についてのお話です。


下の前歯の方が上の前歯よりも出ている、逆被蓋の状態。不正咬合の一種。

 

⚫️ヒトの口腔の発達は母胎内から始まる!

 

口は、「呼吸」と「嚥下」という,ヒトが生きていくうえでなくてはならない2つの機能を担う器官です。そのため、これらの機能は胎生期のかなり初期から発達しています。
受精後,胎児は胎生24週には吸啜の動きが出現し,28週ころには吸啜との下が同期するようになります。吸啜の動きを自分の指で繰り返し練習することで、出生後すぐに哺乳を行い。栄養を摂取することができるのです。このように、胎児の吸啜・嚥下運動は、母胎内ですでに感覚・運動系の発達として獲得されています。そして,出生後の食べる機能(摂食嚥下機能)もまた,感覚・運動系の発達としてなされていきます。
この機能は、口腔と咽頭の形態発育との関連がとても深いのです。ヒトの哺乳期の口腔や咽頭は,吸啜(哺乳)を行うのに適した形態をしていますが、その後離乳が始まり、固形の食べ物が食べられるようになるにしたがって口や顎が成長し、ものを噛んで食べるのにふさわしい形態に発達していくのです。

 

●成長・発達による口・喉の変化(嚥下時)

 

①乳児のころ(乳児嚥下)
哺乳期の舌は前後の動きが主であり、喉の位置(気管と食道の入り口)は高い。
②離乳食が始まったころ
舌は上下に動いて食べ物をつぶすようになり、下唇が内側にめくれ込む動きもみられる。
③乳歯が生えはじめたころ
舌のさらに複雑な動きができるようになり、下唇のめくれ込みはみられなくなる。また、喉の位置も下がり、発声のための音をつくる空間ができていく。

 

●”食べる機能”発達の原則

 

食べる機能(摂食嚥下機能)の発達には、原則があるとされます。それは、「個体と環境の相互作用」です。子ども本人の「発達する力」と、周りを取り巻く「環境」からの刺激がバランスよく働きかけあうことで,感覚・運動の統合がなされ、食べるために必要な機能の発達が促進されます。また、食べる機能の発達には適切な時期があり、年齢が低いほど内発的な力が旺盛です。しかし、最適な時期を過ぎたとしても,時間がかかるかもしれませんが食べる機能の獲得はなされていくと考えられており、何歳になってもあきらめるべきではありません。

乳歯列から成長し、生え替わりの途中の時期。このように乳歯の間の隙間が目立ってきます。永久歯への生え変わりに向けて、顎が成長していきます。

 

●“食べる機能”の発達の順序とは?

 

食べる機能はある一定の順番で発達していきます。全身の姿勢や運動に関連する粗大運動の発達では、じめに頸定し(首がすわり),座位がとれるようにり、つかまり立ちをし,一人歩きをする,といった番がありますが、食べる機能も同様で、哺乳からしなり咀嚼機能が獲得されるわけではなく、口唇を閉たり、舌が前後から上下,左右へと動いたりするこができるようになりながら咀の動きが獲得されてきます。そして、その動きには”予行性”があることもいわれています。これは、「獲得された動きを十分に経験することで、次の段階の機能が獲得されやすくなる」ということです。つまり、そのとき食べられる形、軟らかさの食事を十分に食べているうちに、次の段階の機能が自然と引き出されてくるということなのです.

 

●口腔機能の発達はヒトそれぞれ

 

機能の発達は、日々順調に進んでいくわけではありません。階段を上がったり降りたり、あるいは螺旋階段を登るように遠まわりしながら伸びていく場合もあります。ヒトほど個人差の大きい動物はいないといわれるほど、食べる機能の発達過程にも個人差があります.これは機能面のみならず、歯の萌出時期や口腔形態の違い,個人の性格や家庭環境による違いなど、さまざまな要因が影響するためです。したがって、同じ月齢,年齢で比較することは意味がないばかりか、かえって弊害を招くことが多くなります。
このように、ヒトは自分のもっている力に加え、実にさまざまな要因の影響を受けながら口の機能を発達させていきます。このことは、健康な子どもも発達に遅れのある子どもも、変わりはないのです。


下の前歯が見えないほど深く噛み込んでいる、過蓋咬合の状態。顎の成長に影響があります。

 

⚫️人は、どのように老いるのか?
●いま来院している高齢者はいずれ通院不可能となる

 

日本人はどのように老いていくのでしょうか?全国の高齢者を20年間追跡調査し(N=5717),高齢者の自立度の変化パターンを調べた報告があります。その調査によると、男性では
60歳代前半から一気に自立度を低下させるパターンは19%で、脳血管疾患への罹患など全身疾患がその原因となります。一方で,75歳以降に徐々に身体機能の低下を示すのは約70%であり、加齢とともにその発症率を増すさまざまな疾患に加え、低栄養に伴う筋力の低下などが原因と考えられます。
高齢者の多くが憧れる“ぴんぴんころり (亡くなる直前まで元気に生活すること)”は10%程度にすぎず、多くの高齢者が徐々に身体機能・認知機能を低下させ、自立度を低下させていることがわかります。手段的日常生活動作について援助が必要。加えて基礎的日常生活動作についても援助を必要とする。
「手段日常生活動作」とは、買い物や洗濯などの家事や、交通機関を利用した外出や服薬管理、金銭の管理など高次の生活機能を維持するために必要な能力です。一方、「基礎的日常生活動作」は、食事や着替え、就寝・起床、入浴やトイレに行くなどの基本的な生活動作を示しています。つまり、70%の人が80歳を前にして、齲蝕や歯周病の予防が可能な口腔衛生管理ができなくなる恐れがあり,80歳代前半には外来受診が困難になるといえます。また、晩年まで自立を維持できる10%の人を除いて、期間の長短はあるにしろほぼすべての人が自立した生活が困難な時期を過ごすことになり、歯科医院への通院が不可能となることを示しています。
60歳代前半から一気に自立度を低下させる19%の多くは、病気などで一気に通院が困難になった方たちで,皆さんが診療室に勤めている限りはお会いすることはないかもしれません。一方で、いま、元気に来院してくれている高齢者のなかには、もうすぐに、約70%のコースに乗っている人たちも多くいるはずです。
つまり、高齢者についてはある意味,ほぼすべての人が通院不可能になることを考えて,歯科治療の計画を立てる必要があります。次のリコールやメインテナンスの際には、もしかしたら体調を崩して診療室に来ることが困難になっているかもしれませんし,「次の診療の機会は訪問診療で…」ということになる可能性もおおいにあるのです。

 

●口腔機能は低下する〜診療室でも早めの対応を!

 

すべての人の口腔機能は低下します。70歳の患者さんも80歳の患者さんもいつまでも口だけが健康というわけにはいきません。誰もが老いたくはありませんし、いつまでも若いままでいることを望みます。しかし、残念ながらすべての人に老いは訪れ、身体機能。認知機能の低下に伴って口腔機能も低下し。口腔衛生管理が徐々に困難になってきます。手を細かく動かすことが困難になり、口腔器官の運動能が低下することで自浄作用も低下し、口腔内が不潔になりがちになります。
つまり、高齢者の口の機能の低下に気づき、早い段階で改善・予防することができれば、齲蝕や歯周病の予防となるだけではなく、その後の口腔機能をできる限り維持し、最期まで自分の口で食事を楽しむことにもつながってくるのです。

 

●運動障害性咀嚼障害とは?

 

咀嚼障害は、その原因から「器質性咀嚼障害」と「運動障害性咀嚼障害」に分けることができます。器質性咀嚼障害とは、歯をはじめとする咀嚼器官の欠損によって起こる咀嚼障害です。この器質性咀嚼障害に対しては、義歯などの補綴治療による咬合回復が咀い機能改善のための唯一の方法となります。
一方,避けては通れない生理的老化により身体機能は低下を示し、また、依然日本人の死亡原因の上位を占める脳血管疾患などによっても身体機能は障害されます。これら身体機能の低下や障害は、口腔にも及んで咀嚼障害を引き起こし、これを「運動障害性咀嚼障害」とよびます。この場合には、一般的な歯科治療による咬合回復に加えて,筋肉に負荷を与え運動機能の回復を目指すレジスタンス訓練や,巧緻性の訓練の実施も必須となり、歯科診療室においても「器質性咀噂障害」と「運動障害性咀嚼障害」の両面からアプローチしていくことが求められています。
このように、社会が高齢化し、歯科においても齲蝕・歯周病などの口腔疾患だけではなく「口腔機能」にもアプローチすることが重要視されています。

口腔機能の発達や、機能障害を回復するリハビリなど、お問い合わせはお気軽にこちらからお願いします。

メンテナンスの始まり

2024年7月2日

こんにちは、こさか歯科クリニックです。


メンテナンスで用いる機材の一部:手前の小さいブラシは超音波で汚れを除去するサスブラシです。


エアフロー:審美的にも清掃効果を感じやすい機器です。パウダーを吹き付けて着色除去します。

 

◼️治療後メインテナンスの始まり

 

 

●治療後メインテナンスとは?

 

歯周動的治療をして歯周病の進行リスク、再発リスクを下げたうえでメインテナンスに移行するのが、歯周治療の原則です。ということは基本的にはすべて動的治療をするわけですから、わざわざ「治療後メインテナンス」というメインテナンスを設ける必要はないような気がします。歯周病のメインテナンスのすべてが治療後メインテナンスなわけですから。では、なぜ設けるのでしょうか。
メインテナンスに移行するときのリスクの程度は患者さんによってさまざまです。動的治療のゴールの設定にはある幅があって、その幅があるためにメインテナンスにも幅が出てきます。この幅の中に現れるのが治療後メインテナンスというもので厳密な言葉の使い方にこだわると、メインテナンスはすべて治療後メインテナンスということになってしまいますので注意が必要です。
予防的メインテナンスの患者さんは元々初診時にリスクが低いわけですから、動的治療のゴールも究極のゴールになっていて、場合によってはほとんど自力でそのすばらしいゴールを切られる患者さんもいらっしゃいます。動的治療における私たちの関与がもっとも少ないメインテナンスです。それに対して治療後メインテナンスでは最初はリスクが高く、それを動的治療によりリスクを下げた後に行うメインテナンスということになります。その場合の動的治療は、その患者さんにとって望ましいと思われるような治療オプションを採用しています。同じようにリスクの高い患者さんに動的治療をする場合でも、次善の策をしている試行的メインテナンスやほとんど手をつけていな(手をつけられない)妥協的メインテナンスとはリスクの下がり方が異なってきます。
このように治療後メインテナンスは初診時にリスクの高い患者さんに対して動的治療をしっかり行った後のメインテナンスということになりますので、どのような症例に対してどのような動的治療を行ったかによって、リスクの程度や治療のポイント、メインテナンスプログラムの内容などに違いが出てきます。そこで動的治療の内容によってこの治療後メインテナンスも分類していきます。

 

●歯周動的治療の分類

 

メインテナンスの話の途中ですが動的治療に逆戻りしてみましょう。それは、動的治療を理解していないと治療後メインテナンスが理解できないからです。歯周動的治療の分類にもいくつかあります。
歯周治療では、ポケットをいかに浅くしていくかという大きなテーマがあります。そして病的歯肉溝(ポケット、pocket)から健康歯肉溝(サルカス、sulcus)にする場合、サルカスにはシャローサルカス(shallow sulcus)とディープサルカス(deepsulcus)の2種類があって、そのどちらを目指すのかというテーマもあります。この2つのテーマを同時に考えることで動的治療の理解を深めてみましょう。
ポケットが浅くなる!つまりプローピング値が小さくなるときには、大きく分けて2つの治り方があります。1つが歯肉退縮(gingival recession)で、もう1つが付着の獲得(attachment gain)です。プロービング値というのは歯肉頂からプロープ先端までの距離ですから、歯肉頂が下がるかプロープ先端が入らなくなるかすれば、プロービング値が小さくなります。前者が歯肉退縮、後者が付着の獲得となるわけです。付着の獲得というのは軟組織による付着が治療後に起こるということで、上皮性の付着による獲得と結合組織性付着による獲得の2種類がありますが、多くは上皮性の付着による付着の獲得が起こります。
この場合、通常は1mm程度の長さの上皮性付着が数mmと長く付着しますので、長い接合上皮(longjunctional epithelium、LJE)による治癒といわれます。
さて、歯肉退縮と付着の獲得という治癒の経過をとるとどのような治癒形態となるでしょうか?結論をいいますと、歯肉退縮ではシャローサルカス、付着の組ではデープサルカスンというパターンで考えればいいでしょう。これで先に述べた2つのテーマが結びつきました。
さて、一般論を理解したところで各論に移りましょう。歯周動的治療は、非外科療法と外科療法に大きく分かれます。まずは非外科療法から見ていきます。
非外科療法は根面デブライドメントを中心にした治療になります。動的治療における根面デブライドメントは従来のSRPとなりますので、ここではSRPという言葉を使うことにします。このSRPを行うとどのような治癒が起こるのでしょうか?実は非常に多様な治癒の仕方をしますので一言では表現できません。シャローサルカス、ディープサルカス両方の可能性があるのです。詳細は後述しますが、浮腫性の歯肉や水平性骨欠損の症例ですとシャローサルカス、線維性の歯肉や垂直性骨欠損の症例ですとディープサルカスができやすいという傾向があります。もちろんあまり深いポケットでは、ちゃんと治癒せずポケットの残存ということもあります。
では外科療法ではどうでしょう?外科療法には切除療法、組織付着療法、再生療法、歯周形成外科療法の4種類がありますので、順を追って見ていきます。
まず切除療法はどうでしょう?これは歯肉弁根尖側移動術に代表される歯周外科ですが、これらの治療法を採用すると歯肉退縮が起こり、術後シャローサルカスができます。通常骨整形により骨を生理的な形態に修正し、フラップ断端を骨頂に位置づけることによりもっとも浅い歯肉溝、つまりシャローサルカスができあがります。
改良型ウィッドマンフラップに代表される組織付着療法では逆に付着の獲得で治りますので、術後はディープサルカスによる治癒が起こります。この場合骨整形は行わず、SRPをしっかり行った後フラップをできるだけ元の根面上に戻すようにすることにより、長い接合上皮による治癒が起こるわけです。
再生療法では垂直性骨欠損部に膜や骨移植材、エムドゲインなどを適用して新たに組織を誘導してきますので、主に付着の獲得による治癒となります。ただ前述の組織付着療法と違って結合組織性付着ができる可能性が高くなっています。再生療法単独ではある程度上皮の埋入などがあってディープサルカスとして治ることが多いように思いますが、仕上げに切除療法をすることにより、組織が再生したうえにシャローサルカスができます。
最後に歯周形成外科療法ですが、これもいくつか種類があるので、結合組織移植術を用いた根面被覆術だけに絞って話をします。歯肉退縮を起こした根面に結合組織移植をすることで歯肉を元に戻そうという治療法ですが、移植片と根面は多くの場合長い接合上皮で治癒しているようです。つまり上皮性付着による付着の獲得が起こり、その結果できあがる歯肉溝はディープサルカスということになります。
このように動的治療と一言でいっても内容は多岐に渡りそれぞれによって治癒の仕方が違うわけですから、それを治療後メインテナンスとしてメインテナンスしていく場合も単純ではありません。つまり非外科療法後の治療後メインテナンスや外科療法後の治療後メインテナンスがあって、外科療法も4種類分かれるわけですから、切除療法後、組織付着療法後、再生療法後、歯周形成外科後の治療後メインテナンスが存在することになります。


超音波で歯石を除去する機器:外科療法、非外科療法ともに用います。外科というとたいそうな手術を想像されるかもしれませんが、実際は歯肉に隠れた感染源を除去する目的の小規模な手術です。歯科領域の虫歯治療、歯周病治療とは、原因を除去する外科の部分が多いと感じます。

 

●治療後メインテナンスの特徴

 

治療後メインテナンスを受ける患者さんの初診時は歯周病菌が繁殖し、すでに歯周組織の破壊が進んでいます。付着の喪失や骨の喪失、場合によっては歯の喪失をされていることもあるでしょう。つまり予防的メインテナンスに比べて初診時のリスクがかなり高いということになります。そのため積極的な動的治療が必要になり、その動的治療も症例によっていろいろ使い分けていくことになります。
動的治療後の治癒形態は多岐にわたります。動的治療で採用したオプションによってももちろん異なりますし、思い通りに治らないことがあるというのも臨床です。もちろん同じ口腔内でもさまざまな治癒形態が混在するわけです。予防的メインテナンスの患者さんの口腔内はシャローサルカスがほとんどと考えていいでしょうが、治療後メインテナンスの患者さんではシャローサルカスとディープサルカスが混在します。試行的メインテナンスや妥協的メインテナンスの患者さんに比べてポケットの残存は少ないのですが、理想的に事が進まないことも経験します。このように治療後メインテナンスでは、動的治療でどれだけ改善できたかによってメインテナンス移行時のリスクが異なってくることになります。


染め出し液、清掃用ペースト:歯科受診時に汚れを染め出したりされていますか?私たちはよほど小さなお子さんでない限り、基本的に染め出しを行います。理由は、患者さん自ら効果的に清掃できるようにサポートしていきたいからです。メンテナンスも汚れが付着しやすい部位が視覚的にわかりますので、やりやすいです。

 

●治療後メインテナンスのリコール間隔

 

通常、治療後メインテナンスのリコール間隔の基本は、3ヵ月といわれています。3ヵ月に一度というメインテナンスをしていれば、動的治療の内容にかかわらず悪化を防ぐことができたという論文が発表されています。この場合、動的治療の内容にかかわらずというところがミソで、これにより治療後メインテナンスのリコール間隔は3ヵ月ということになるわけです。
もちろん動的治療も理想どおりにできないこともあるわけですし、そのような場合は3ヵ月よりも短くする方が無難でしょう。また動的治療終了後いきなり3ヵ月リコールに移行するのではなく、最初は1ヵ月など、短めに設定する方が良いです。

私たちは、定期健診の施術時間を60分とり、歯肉も歯もスッキリ気持ち良い施術を行なっております。
お問い合わせはこちらからお願いいたします。

歯茎に潜んでいる菌って?

2024年5月21日

こんにちは、こさか歯科クリニックです。

私たちは歯周病治療と予防に力を入れて診療しております。
保険診療の範囲でも、歯周病の炎症を安定させる目的で、歯周病重症化予防治療・歯周病安定期治療という項目があり、歯科疾患を抑えることが医療費全体を抑えることにつながるため、歯科治療の方向性は、予防が大きなテーマとなっていることは間違い無いです。

今回は、歯周病や虫歯の原因となる、よくない菌、そして身体の健康を保つために良い菌のトピックです。

 

⚫️細菌の世界もバランスと多様性が大事です。

 

私たちの健康は、私たちのからだにすみついている細菌たちと切り離して考えることはできません。自然なやり方で感染症を防いでいくには、善玉菌、悪玉菌、日和見菌のバランスを維持しなるべく暴れずに暮らしてもらうことが大事です。ストレスや食生活の乱れで失われがちなバランスをプロバイオティクスの力を借りて育菌して、しっかりと維持していきましょう。
▪️お口のなかで悪さをするむし歯菌や歯周病菌は、体外から侵入して重大な健康被害をもたらすようなコレラ菌、チフス菌といった極悪菌ではありません。だれのお口のなかにもすんでいて、口腔環境さえ悪化しなければ、おとなしく過ごしてくれる平凡な細菌(日和見菌)です。ですから、むし歯菌や歯周病菌が活躍しないようにするには、お口のなかの環境を整えることがいちばん大事なのです。

お口の中の力、細菌感染で噛み合わせが崩壊・・・

上顎前歯に大きい修復物が入っている口腔内写真。


同じ患者さんのレントゲン写真。この時、奥歯がなくなって何年も経過しており、噛み合う歯がない歯を中心に病的な移動が生じています。
治療計画を立てて、これからやっていきましょう!と患者さんと決めてすぐ、お仕事の事情により3年間来院が途絶えてしまいました。
再来院された時には、歯がぐちゃぐちゃになってしまっていました・・・

修復物が取れてしまった歯。虫歯が進行しすぎて、歯茎にめり込んでいます。歯の上にお肉ものっかってすごい状態。

再来院時のレントゲン写真。もうブリッジの再治療は不可能で、土台の歯は全て抜かないといけなくなりました。
まず、奥歯がないために過剰に前歯に力がかかってしまっていること、虫歯菌が活躍しやすい生活習慣があったと考えられます。
お仕事も大事ですが、ご自身の健康を害してしまうほどに優先すると、回復がとても大変ですね。

取れちゃったブリッジ。内側には虫歯でグズグズになった歯のかけらが残っていました。

 

細菌叢は人それぞれ

 

私たちのお口の細菌叢(細菌の群れ)は、人それぞれ個性があります。むし歯菌も歯周病菌もほとんどいないというラッキーな人は少数派で、ある人の口のなかはむし歯菌はほとんどいないけれど歯周病菌がが多かったり、むし歯は多いけれど歯周病菌は少ない、といった具合に、その濃淡はさまざまです。そうしたお口のなかの細菌叢の違いが、むし歯のなりやすさ、歯周病のなりやすさに大きな影響を与えているのです。
そこで欠かせないのが、歯みがきでプラーク(悪さをする細菌の塊)をきれいに取り除くという従来の方法です。口のなかに、いつか暴れ出すかもしれない細菌をたくさん培養していては、その被害にあいやすくなってしまいます。だからこそ、毎日のていねいな歯みがきはとても重要なのです。
それに加えて有効なのがプロバイオティクスです。善玉菌をたくさんお口に送り込んで育菌し細菌のバランスを整える、つまりむし歯菌や歯周病菌の縄張りを減らして押さえつけ、おとなしくさせてしまうという方法です。この方法のメリットは、トラブルの根本原因である細菌にアプローチでき、病気のリスクそのものを減らせるということです。
また、たとえばL・ロイテリ菌などは、お口によい効果をもたらすたけでなく、腸にもよい効果をもたらすことがわかっています。腸の細菌バランスも維持されれば、免疫物質がさかんに作られ、からだ全体の免疫力アップが期待されますし、また、そのことによって歯ぐきに起きた歯周病の炎症が治りやすくなったり、口内炎ができにくくなったりする効果にもつながります。
そのほかにも、私たちの皮膚にすむ細菌が原因であるニキビが減るなどのうれしい報告も、プロバイオティクスの効果を実感する人からはよく聞かれるところです。
抗生物質というたいへん重要な薬が生まれてから、私たちはほとんどの感染症を征服したという気持ちになりがちでした。しかし現在は、抗生物質の使い過ぎによって生まれてしまった副産物である耐性菌の問題が指摘され、抗生物質の使用をいかに減らすかが重要なテーマになっています。
また、細菌感染によって病気が発症してから対処するのではなく、ふだんから細菌と共存し、細菌の力を借りながらいかに健康を増進するか、感染症を予防するかということも、大切なテーマになっています。
私たちは、多種多様な細菌とともに暮らしています。この細菌たちといっしょに健康を育んでいくために、お口のためのプロバイオティクスを、ぜひ一度お試しください。

 

⚫️出産すると歯が悪くなるのは仕方ないこと?

 

「出産すると歯が悪くなる」。
よく言われている言い伝えで、実際に妊娠期や授乳期に歯を悪くする女性は多いです。しかし、「赤ちゃんが原因だ」というのは間違いです。
本当の原因はほかにあります。まず、つわりで歯みがきがつらい期間がある。それに、お腹が大きくなるといっぺんに食べられないから間食が増えます。授乳中もお腹がすくから間食しますよね。そのたびにむし歯菌は栄養がもらえて大喜び。それでむし歯が増えやすいんです。
また、妊娠中盛んに分泌されるホルモンは歯周病菌の大好物。妊婦さんの歯ぐきの溝のなかで歯周病菌が元気になっちゃうので歯周病にもなりやすい。
とはいえ「つわりでも歯みがきしなさい」「間食を止めなさい」ってわけにはいきませんよね。つらいんだし、必要だから間食しているわけですからね。
じつはこういうとき、歯の健康に大きく差が出るのが、妊娠する以前から歯科に定期受診して予防処置を受けているかどうかなんです。ふだんから口内環境がうまくコントロールされていて、細菌が大暴れしにくい状態かどうかが大事です。それに定期受診していれば、困ったとき歯科医師や歯科衛生士に相談できますよね。「つわりで歯みがきがつらいんですけど」って。
かかりつけの歯科医院なら、つわりの程度を見つつ、ふだんのお口の状態(むし歯、歯周病のなりやすさ)も知っているわけですから、「じゃあ、つらい時期はこの手で乗り切りましょう」と、患者さんにあった次善の策を教えてもらえます。
こういうとき、真剣に考えてくれる人を持つか持たないかで、妊婦さんのその後のお口の健康に、大きな差が出るんです。
もうひとつ大事なのは赤ちゃんの歯の相談もできること。お母さんが予防処置を受けていると、むし歯菌が赤ちゃんに移りにくいし、赤ちゃんに歯が生えたら予防処置も受けられる。歯科って、みなさんが想像する以上に、みなさんの生活の手助けができるんですよ。かかりつけの歯科医をぜひ持ちましょう。
※妊婦さんの歯が悪くなりやすいのは、赤ちゃんがお腹で育つからではありません。つわりや食生活の変化でリスクがふやすからなんです。かかりつけの歯科を持ち、口内環境を整えるとともにいざというとき相談できるようにしておきましょう。

 

●歯肉溝(しにくこう)とは

 

歯と歯ぐきのあいだにあって、歯を囲むような浅いミゾのことです。健康な歯肉溝の深さは1〜2ミリです。
歯周病になって深くなってしまった歯肉溝のことを歯周ポケットといいます。
歯肉溝は歯ぐきと同じく丈夫にできていますが、細胞と細胞のあいだが広くできているので、水分や小さな細胞ざスイスイと通れるのです。歯肉溝のあたりは、毛細血管が集まっているので外からはいってくる細菌とたたかう免疫細胞が出入りしやすく細菌の出す毒素がたまりやすい。そういう悪いものがからだのなかに入りこまないように、守っています。

歯周病は歯そのものの病気ではなく、歯の周りの骨や歯ぐきの病気です。歯の土台にあたる骨(歯槽骨)や根っこを包んでいる歯根膜、歯ぐきがこわれて、歯がグラグラしてしまうのです。レントゲンを撮ると、骨の溶けてしまった部分が黒く写ってくるので、骨がなくなっていることがわかります。骨が溶けてなくなりはじめると、ミゾは3〜5ミリくらい。これが歯周ポケットです。さらにすすんで重度になると6ミリ以上にもなってしまいます。
歯周ポケットの深さは、歯医者さんで細い器具(プローブ)を使って測ってもらわないとわからないので、ぜひ調べてもらってくださいね!
歯肉溝は、細菌や、細菌がつくり出すプラークがたまりやすく炎症もおきやすです。炎症がおきると、歯ぐきがこわれてミゾがどんどん深くなる。するとそこにプラークがたまって毒素を出します。それに対読し血流を増やして免疫細胞がガンガンたたかいますが戦場となった歯ぐきは荒廃して弱くなってしまい、腫れて出血しやすくなるというわけです。
ど、戦場となった歯ぐきは荒廃して弱くなってしまい、腫れて出血しやすくなるというわけです。
歯周病は、食生活の変化やタバコやストレスもかかわる生活習慣病だって知ってましたか?
からだに元気がないと悪化しやすくて、糖尿病、骨粗しょう症、心臓や自管の病気、遺伝も関係するんです。歯肉溝にプラーク(細菌や細菌の毒素)がたまるとなりやすいので、毎日の歯みがきが何よりも大事なんです。
しっかりきれいにするには、デンタルフロスと歯間ブラシがとても役に立ちます。抗菌剤やうがいもいいですが、やっぱり大事なのは毎日の歯みがき。それと定期的に歯医者さんでメインテナンスを受けるととてもいいです。
歯石が歯ぐきのなかにたまると、そこにベタベタのプラークがついてどんどん毒素を出し、歯をささえる骨をこわしてしまう。自分では取れないから、歯医者さんで取ってもらおう!
歯ぐきの奥深くに歯石がついたときは、歯ぐきを切って歯石を取らなくてはいけないので。こうならないためにも、日頃の歯みがきが大切なんです。

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入れ歯とインプラントを組み合わせて、動かない入れ歯にできる?

2024年5月14日

こんにちは、こさか歯科クリニックです。

今回は、部分入れ歯とインプラントを組み合わせた治療例のトピックです。

 

入れ歯治療について

 

どんな入れ歯でも、人工の歯と歯茎に接するピンクの床の部分があります。床の素材はレジンが広く使われていますが、見えない部分をチタンやコバルトの合金を用いて作られる場合もあります。
総入れ歯は歯茎に入れ歯が乗っかるのみですが、部分入れ歯は、入れ歯の部分と天然の歯の部分が混在している状態ですので、
残っている歯に維持力を得るため、クラスプという引っ掛けを作ります。よくあるのが、ワイヤーを曲げたものや、合金を鋳造して作ったものです。
審美的なクラスプとして、ノンクラスプデンチャーというものがあります。これは、通常金属製のクラスプの部分を、
特殊な床の材料に変えて、歯茎の色調に馴染ませて作られています。

こちらの写真は、よくある合金で作成されたクラスプです。歯の付け根あたりに金属の引っ掛けがありますね。保険診療で認められていますので、広く使われています。

入れ歯が入ったお口の状況ですが、歯茎のお肉の上にプラスチックの歯がのっており、それを介して物をかむということですので、
考えてみたら、結構大変な状況です。グッと力を入れて噛むと、入れ歯の床がズブっと歯茎に沈むことになります。
骨から生えている歯とかみごたえや使いやすさが異なるのはしょうがないことです。どんなに良い材料を用いても、天然の歯にはかないません。
そして、インプラントと入れ歯でも、かみやすさではインプラントにかないません。インプラントは骨に植立されていますので、天然の歯と同様に噛めるわけです。
あまり良くないことを書きましたが、しっかり物を噛むという面では、天然歯やインプラントが得意なのです。
一方で、入れ歯にも得意なことがいくつかあります。治療費の安さ、外科処置がほとんどいらないこと。
個人的には、一旦お試しができる治療であることがメリットと感じます。
入れ歯治療をして、リハビリが上手くいかなかったとして、
他の治療法に変更しよう、というのが可能であるため、後戻りができる治療法と言えます。

 

治療例

 

歯の欠損の部位に部分入れ歯を装着されていた方です。
「入れ歯で噛むと痛んで、しっかり噛めない」
「入れ歯が動く、浮いてくる」
というお悩みがありました。


術前正面


術前左側:奥歯の欠損があります。部分入れ歯を装着されていましたが、使いづらいとのこと。


術前下顎咬合面:歯を失ってから長期間経過しており、形態は落ち着いています。

 

治療計画

 

旧義歯の問題点を修正するため、外形、噛み合わせの状態を確認します。インプラントオーバーデンチャーを最終義歯とする場合、インプラントの治癒期間(オッセオインテグレーションと言います)に使用する、安定した治療用義歯が必要です。最終義歯の外形がある治療用義歯を作製、装着します。そして、インプラントの治癒期間が終わり、アタッチメントを取り付けるのですが、この治療用義歯を改造し、インプラントオーバーデンチャーへ移行します。患者さんはインプラントオーバーデンチャーに適合しやすくなります。
インプラントの位置決めですが、治療用義歯を作製中に、ガイド作製も行います。義歯は歯型をとってすぐに出来上がるものではなく、噛み合わせの記録取り、人工歯を排列し試適の工程を必ずやります。この試適の段階で診断用ステントを作ります。義歯を試適した状態で型を取り、レジンを流し込みます。最終的な歯に対して、インプラントが理想的な位置にくるように、このような手法を取ります。インプラント埋入部位は、維持のためのアタッチメントが義歯の中におさまるよう、クリアランスが確保できること、機能時の義歯の動きを抑制できることが要件です。また、今回は部分入れ歯ですので、クラスプがかかる歯の軸、義歯の着脱方向が非常に重要で、着脱方向と大きく維持装置の角度が違うと、適切な維持力が発揮できないことになりますので、これらを確認し、計画を立てていきます。

 

術後

 


術後CT:欠損部にインプラント埋入された状態。


術後正面


術後左側:アタッチメントが奥に見えます。


術後下顎咬合面:欠損の後方にインプラントが埋入され、ロケーターアタッチメントが装着されています。ボタンが歯茎から生えているように見えますね。


術後義歯装着した咬合面:このようにして装着した入れ歯は、噛む力が骨に伝わりしっかり噛むことが可能となります。

最終義歯の構造には、メタルのフレームが使われています。レジンのみの義歯床だと、アタッチメントの部分の強度不足により破折のリスクが高まります。
また、装着後の顎堤の形態変化にも対応するため、維持各子はレジン床内に取り込み、リライン(内面の敷き直しの処置)しやすい形状にします。

 

メンテナンス

 

一般的な義歯のメンテナンスといえば、経年的な人工歯の磨耗、床と顎堤の適合の変化に注意して、必要な時に早期に義歯の修正をします。これは、顎堤の保全にも、インプラントへの過剰な負担にも対応するものです。義歯設計やインプラント埋入位置の問題があると、術後の義歯破損を招きます。
ロケーターアタッチメントは、インプラント埋入された上にある凸部と、義歯床内の凹みが噛み込むことで維持力が発現します。義歯に組み込まれた部分には、維持のためのリテンションディスクがあります。6種類用意されており、維持力やインプラントの角度により使い分けをします。場合によってはこのリテンションディスクの交換が頻発する可能性もあります。研究では、1〜3年の間に0〜9回と幅があります。Vere Jら2012年の論文より。
この理由としては、義歯の着脱方向とインプラントの角度が大きいことが考えられます。これらの角度は可能であれば20°以内におさえられていることが望ましいです。また、咬合の強さと頻度によっては維持力が大きく減衰するという研究もあります。Abi Naderら2011年。
患者さんへの取り扱い指導も重要です。着脱方向から大きくずれて強引に引っ張ったり、ずれて装着した状態で噛み合わせたりすると、ディスクの変形が不可逆的になり、交換を余儀なくされます。

私たちは、術後の良い経過のために、まずインプラント埋入時に高い初期固定を確実に得るように注意をしています、具体的には、初期固定が得やすいインプラントの選定と、ドリリングの際のアダプテーションテクニックです。最終義歯のコピーデンチャーを作製し、造影剤を用いてサージカルステントとするとともに、歯肉の厚みも術前に確定し設計に反映します。このことにより、
・適切なデンチャーのスペースが確保できるよう、埋入方向を確実にプランニングできる
・術直後の荷重に対し、適度な高さのパーツの選択
を可能にしています。

 

まとめ

 

義歯とインプラントを組み合わせた治療により、少ない本数のインプラントで機能上優れた効果が得られる義歯作製が可能となります。
義歯が単体で十分患者さんが満足できるような機能を得るには、条件が整っている必要があります。具体的には、顎堤の高さ、幅、骨隆起やアンダーカット、口腔周囲筋の習癖の有無などの条件が整っていること、義歯の経験があることも患者さんのリハビリを行う上ではかなり慣れに関する差が出てきます。
条件が整っている患者さんばかりではありませんので、義歯でしっかり噛めない場合や義歯が動いてしまい、機能に問題がある場合、このようなインプラントを併用した治療を検討する価値があると考えられます。

義歯でお困りの方、どうぞお気軽にご相談ください。
お電話 072−767−7685
WEB予約もこちらから可能です。

肥満と歯周病についてラスト

2024年5月14日

こんにちは、こさか歯科クリニックです。

肥満と歯周病の関連のお話をしてきましたが、今回がラストです。

 

歯周病が進行しやすい

 


下の奥歯のレントゲン写真:歯周病が進行し、歯を支える骨が吸収してなくなってきています。奥歯は根が二股に分かれていたりしますが、支える骨がなくなってくるとこのように歯の根の分岐部のところがトンネル状になってきます。分岐部病変と呼ばれます。この状態になると、歯周病治療のスケーラーなどの器具が、トンネル状のところに到達しないため、歯周病が進行しやすい状態になってしまいます。

 

●肥満症とは

 

日本肥満学会は「肥満に起因ないし関連する健康障害を合併するか、その合併が予測される場合で、医学的に減量を必要とする病態」を肥満症と定義し疾患として位置づけしました。ここでいう健康障害とは10の疾患群、すなわち、2型糖尿病・耐糖能障害,脂質代謝異常,高血圧,高尿酸血症・痛風,冠動脈性疾患,脳梗塞,睡眠時無呼吸症候群,脂肪肝、整形外科的疾患,月経異常です。これらはいずれも減量による病態の改善が望まれるものばかりです。肥満症はこれらの健康障害の有無や、BMI,ウエスト値,腹部CT検査によって診断されます。

 

●肥満の現状

米国の1988〜94年の調査ではBMI30以上の肥満者の割合は男性で20%,女性で24.9%と非常に多かったのですが、さらに12年前と比べたところ男女ともおよそ8%も増加していました。喫煙対策が進んだ米国において、肥満は健康上最も深刻な問題であるとされています。その後,米国疾病対策センターは、BMI 30を超える肥満者の割合を州別に調査し、過去18年間にわたる分布図を作成しインターネットで公表していますが、これを見る限り中東部を中心に始まった肥満者の「蔓延」は全米に広がり深刻です。急速に広まる伝染病のアウトブレイクのように、肥満は全米で急増しています。
イギリスでも1980年から1995年の間に、肥満者は8%から15%に増加したと報告されています。肥満は先進国に限らず、多くの途上国、アジアや太平洋の島々でも増加しています。幸い日本では約15万人を対象にした大規模調査でBMI 30以上の肥満者の割合は男性1.86%,女性1.98%と欧米に比常に少ないようです。しかし肥満と最も関連の強い糖尿病の発病率は米国と同程度なのです。そこで肥満の基準値を BMI25以上とするとその割合は男性27.5%,女性18.9%となり、欧米と同程度になることから日本人では25が基準値として提唱されています。また国民栄養調査によると1980年以降、男性ではすべての年齢層においてBMIは増加しています。女性では高齢者で増加していますが、逆に中年期より前では痩せが増加しています。われわれの関与する福岡県久山町における疫学調査では、1961年以降、BMI 25以上の肥満者の割合は40歳以降で男女とも増加しています。BMI 25以上ではさまざまな疾患のリスクが上昇することや、糖尿病やその予備軍が急増していることから、やはり日本でも肥満は健康上の重要な問題となりつつあるといわれています。

 

●肥満が危険因子となる生活習慣病

 

肥満になると糖尿病,高血圧,高脂血症,動脈硬化,心疾患などになりやすくなります。これらの疾患のうち2型糖尿病へ及ぼす影響は特に強いのです。日本人の場合、前述のようにBMI 30を超える肥満は2%で、20%を超える米国にくらべ非常に少ないのですが、糖尿病人口は米国白人が7~15%であるのに対し日本人は4~12%と大きな差はありません。つまり日本人は軽度の肥満でも病気になりやすいようです。
肥満と心疾患に関する米国の大規模な調査です。
肥満と心疾患に関する米国の大規模な調査で成人の死亡率が最も低かったのはBMI 19〜21.9でした。面白いことに肥満の影響は若いほど強く 30~44歳の男性ではBMIが1増加する毎に虚血性心疾患(冠動脈疾患)による死亡率が10%増加していました。虚血性心疾患や脳血管障害の多くは動脈硬化によりますが、動脈硬化は肥満を始めとするいくつかの危険因子が関与しています。これらの危険因子(たとえば肥満,高血圧、高脂血症など)をひとつの集合体としてとらえるものとして、シンドロームX,インスリン抵抗性症候群、死の四重奏、内臓脂肪症候群、などが提唱されてきましたが、これらは近年,糖代謝異常,脂質代謝異常,高血圧,中心性肥満(内臓脂肪の蓄積)などの組み合わせによって定義されるメタボリックシンドローム(metabolicsyndrome)として統一されつうあります。
また2003年に米国で報告された大規模調査で肥満は癌による死亡率も高めていることが明らかなりました。16年間の追跡調査で90万人中 6万人弱が癌で死亡していたのですが、肥満はあらゆる部位の癌による死亡と有意に関連していました。

 

●肥満と歯周病

 

肥満は2型糖尿病の最大の危険因子ですが、糖尿病が歯周病を増悪させることは古くから知られていますので、肥満→糖尿病→歯周病という図式ができ上がります。では肥満が歯周病に直接影響するのでしょうか。1977年に動物実験で高血圧を伴う肥満ラットでは歯周病が悪化しやすいことが報告されていますが、20年以上たって初めて、ヒトにおいても肥満と歯周病が関連していることが福岡市健康づくりセンターにおける健診結果から明らかになりました。
この報告では肥満の指標としてはBMIと体脂肪率が、歯周病の指標としてはWHOのCPI
(community periodontal index)が用いられました。その結果、特に疾患のない20~59歳の成人において BMIが高いほど歯周病の有病率が増加していました。さらに、歯周病の危険因子と考えられている年齢,性別,口腔清掃習慣,喫煙の影響を調整した分析でも、BMIが20未満の痩せている人を基準とした場合、BMIが高くなると何倍も歯周病の危険度が上がっていました。同様の分析を体脂肪率について行ったところ、体脂肪率が5%上がるごとに歯周病の危険度は30%増加していました。この報告には明らかな糖尿病の方などは含まれていないことから、特に疾患はなくても肥満に関連した全身の状態、たとえば前述のメタボリックシンドロームなどの状態によって歯周病が悪化している可能性が指摘されました。
さらに種々の運動能力テストの結果と歯周病との関連を調べたところ、日常の運動量保存則と強い関連を示す最大酸素摂取量が歯周病と関連しており、運動面からも肥満と歯周病との関連が支持されました。その後の調査で同センターはウエスト/ヒップ比と歯周病との関連を報告しています。それによると643人を対象に詳細な分析を行ったところ、BMIL,体脂防率,ウエスト/ヒップ比いずれについても、その値が高いほど深い歯周ポケットをもつ者の割合が多いことがわかりました。さらにウエスト/ヒップ比を用いて、対象者を上半身肥満とそうでない
グループに分けた分析を行ったところ、ウエスト/ヒップの高い上半身肥満のグループでのみ
BMIが高いほど歯周病のリスクが有意に上昇していました。体脂肪率でも同様の結果が得られたことから、歯周病が上半身肥満と関連していることが示され、内臓脂肪の蓄積との関連が予測されています。
その後,肥満と歯周病との関連を示す報告が徐々に増えてきました。米国の国民健康栄養調査(NHANES II)の結果から、アタッチメントロスと肥満の各指標が有意に関連していることが示されました。同じくNHANES Ⅲの結果から、特に18〜34歳の若いグループにおいて、BMIやウエスト値が歯周病と有意に関連していることが明らかとなりました。別の調査では、40歳未満の肥満者では歯槽骨吸収が大きいことが報告されています。逆に50歳以上を対象として歯周病の危険因子を調べたタイの報告では、BMIもウエスト値も歯周病と関連していませんでした。これらの報告は、肥満が心疾患や死亡率に及ぼす影響は若いほど強いという前述の報告とも一致していて、たいへん興味深いと思います。日本からは、喫煙が歯周病の最大の危険因子で次に大きいのが肥満であると報告されています。私たちの最近の結果ですが、糖尿病の診断基準となる糖負荷試験を行い、歯周病の危険因子として肥満と糖尿病を女性について同時に分析した結果、肥満と歯周病は有意に関連していましたが、糖尿病と歯周病との関係は有意ではありませんでした。つまり,糖尿病が歯周病に及ぼす影響とは別のメカニズムで、肥満が歯周病に影響している可能性があるのです.


歯周病と肥満が合わさっているケース:お顔や全身状態のお写真は掲載できませんが、肥満体型で歯周病もかなり全体が進行している患者さんです。レントゲンで、歯を支える顎の骨が全体なくなっているのがわかります。

 

●なぜ肥満は歯周病と関連しているのか?

 

現時点で、肥満と歯周病を関連づけるメカニズムについての報告はほとんどありませんが、多くの医学論文からさまざまなことが予測されます。低栄養が免疫能に及ぼす影響については古くから調べられてきましたが、肥満については、1980年代にさまざまな疾患の危険因子として注目されるようになってから、免疫との関連を示す報告が増えてきました。肥満者では単球の殺菌能の低下、ナチュラルキラー(NK)細胞の活性や免疫グロブリンの低下、Bリンパ球やTリンパ球の機能低下、またB型肝炎ワクチンによる抗体ができにくいことなど、さまざまな報告がなされてきましたが、統一した見解は見当たりませんでした。
その後1994年に、脂肪細胞から分泌されるレプチンが発見され、食欲の抑制やエネルギー消費を増大させることが明らかとなり、「ダイエット新薬」の開発が期待され脚光を浴びました。それをきっかけに脂肪細胞の研究が盛んになり、脂肪細胞からは種々の生理活性物質が分泌され,全身へさまざまな影響を及ぼしていることがわかってきました。
このように、脂肪細胞はレプチン以外にもTNE-a,アディポネクチン、PAI-1 (plasminogenactivator inhibitor-1),性ホルモン、アディプシンなど、さまざまな生理活性物質を産生しますので、肥満になればなるほど巨大な内分泌器官となり影響も大きいのです。そして脂肪細胞はエネルギー貯蔵以外に、善悪いずれにおいても重要な役割を持っていると考えられるようになってきました。
そこで、これらの物質と歯周病との関連について述べてみます。歯周炎によって歯周局所には TNF-a が発現し、歯槽骨吸収を引き起こすことがわかっています。TNF-aは肥満者の脂肪組織からも多量に分泌されますので、歯周局所における歯槽骨吸収を促進する可能性があります。実際、若年の肥満者では、歯肉溝浸出液中のTNF-aの濃度がBMIと相関していることが報告されています 。肥満のマウスやラットでは、肝臓におけるLPS(菌体内毒素)の感受性が強くなることが報生されています。つまり、肥満によって肝臓にあるマイクロファージ(クッパー細胞)の機能が低下したり、肝細胞の素)の感受性が強くなることが報告されています
191.つまり、肥満によって肝臓にあるマクロファージ(クッパー細胞)の機能が低下したり、肝細胞のTNE-aに対する感受性が増強するのではないかと推測されています。歯周組織においても肥満がマクロファージの機能低下やTNE-a 感受性の上昇を引き起こすとすれば、歯周病が悪化しやすいと考えられます.
糖尿病は血管や神経組織に障害を及ぼします。糖尿病の前段階である肥満や高脂血症などの状態で血管に何らかの悪影響があるとすれば、歯周局所にも影響を及ぼしている可能性が考えられます。血液凝固を促進し虚血性心疾患を起こしやすくする PAI-1は、脂肪組織から分泌されますので、な血中にPAI-1が増加すると歯周組織の微細な血管にも血液循環障害が生じる可能性があります。実際、歯肉の炎症において、プラスミノーゲンの活性化が何らかの役割をもつことが報告されています。肥満者では血管内膜でマクロファージが泡沫化しアテローム動脈硬化症となりやすいのですが、歯周局所においても同様にマクロファージや単球が影響されているかもしれません。また,脂肪組織は補体活性因子を分泌しますので、これも歯周炎と関連しているかもしれません。このように脂肪組織からはさまざまな物質が分泌され複雑なネットワークを形成していますので、歯周病との関連があきらかになるにはしばらくかかるでしょう。

 

◼️おわりに

 

WHOによると2005年現在,世界人口60億人のうち10億人がBMI25を超えており、このまま増加傾向が続くと2015年には15億人に達すると推計されています。一方、地球上には肥満者とほぼ同じ数の人が飢餓にさらされています。この不均衡は私たちの社会が解決していかなければなりません。食べる量を少し減らしてその分を最貧国へ回せればいいのですが、なかなかそう簡単にはいきません。喫煙については医療費や税金など経済的な視点から、すでに多方面にわたる検討が進んでいます。健康づくりにつながる肥満対策は医療費の削減にもつながるでしょう.そう考えると、そろそろ社会経済的な取り組みをしていかなければならない時期ではないでしょうか.歯周病と肥満との関連はまだまだ不明な点が多いのですが、食に直接関連した歯科医院での助言や指導が、患者さんの肥満解消のモチベーションにつながればと思います。

肥満と歯科の関連について1回目

2024年4月24日

こんにちは、こさか歯科クリニックです。

肥満と歯科の病気の関連についてのお話1回目です。
まずは、肥満や脂肪についてです。

 

●肥満とは?

 

▪️肥満とは、中性脂肪(ほとんどがトリグリセリド)が脂肪組織に過剰に蓄積した状態と定義されます。これは、エネルギーの摂取がその消費に対し過剰な状態が続くことによって生じます。食事と運動のバランスが悪く、食事の量に対して運動量が少ないと、余ったエネルギーは脂肪となって体内に蓄えられます。非常に優れた生理学的なシステムによって脂肪は蓄えられていくのです。このエネルギー貯蔵システムは、太古から人や動物に必要なものとして築き上げられてきました。人が安定して食料を得ることができるようになったのは、農耕を始めた新石器時代からなので、せいぜい1万年ほど前で、それ以前は狩猟が食料を得る主な手段でした。狩猟では、日々安定して食料を得ることは困難ですが、狩りが成功すると大量の食料が手に入ります。当時は保存する方法もありませんので、食べられるだけ食べて中性脂肪に変換して体内に蓄積することのよって,飢えに備えてきたわけです。脂肪細胞のおよそ80%は中性脂肪です。中性脂肪のエネルギー変換率は非常に高く、1gで9.2キロカロリーのエネルギーに相当します。ヒトはこのエネルギー貯蔵システムを備えることによって何度かの氷河期を乗りこえてきたのです。

 

気になる肥満とダイエット

 

細い体型に憧れてダイエットする方は多いですよね。この世にはあらゆるダイエットが存在していますが、カロリーとダイエットの関係には、
・摂取カロリー<消費カロリー ならば痩せ、 ・摂取カロリー>消費カロリーならば太り、
・摂取カロリー=消費カロリーならば維持
という原則があります。
ここで言う痩せたとか太ったとかは、体重の増減なわけですが、健康的に痩せていくとしたら、栄養価を考慮する必要があります。栄養価が足りなければ、人間が生きていくために消費するエネルギーである代謝が落ちてしまいます。痩せたけど身体に不調をきたすなら、本末転倒であります。
3大栄養素である、タンパク質、脂質、炭水化物の割合をバランスよく取っていくことが必要です。このマクロバランスをすっ飛ばして、「〇〇を飲んでいればあとは好きに食べてOK!」とかいうダイエットはインチキなので、騙されてはいけません。過激なダイエットでは、確かに一時的に痩せることができます。ですがいつまで続けるのでしょう?元に戻した瞬間からリバウンド王になってしまいますよ。もし、ダイエットのストレスから過食と拒食のサイクルに入ってしまうと、健康被害が心配です。
さらに、ダイエットネタを続けますと、ランニングなどの有酸素運動をイメージされる方も多いのではないでしょうか?カロリー消費以外にもリフレッシュできたりする側面があります。しかし、ランニングのような有酸素運動を主軸としたダイエットが効果的かというと、そうでもないようです。ランニングの消費カロリーは、おおよそ体重✖️距離で、例えば60kgの人が10km走ったら600kcalということになります。一方で、体脂肪を1kg落とそうと思ったら約7200kcal消費しなくてはなりません。マラソン3回分でやっと1kgの体脂肪が除去されるわけです。また、身体の恒常性維持(ホメオスタシス)がありますから、習慣的にランニングするような場合、燃費のよくない身体に変わってくるのです。痩せにくい身体という意味です。こういうわけで、健康的に痩せていくことを考えると、筋肉量が落ちないようにトレーニングやタンパク質を意識して摂取し、脂質や炭水化物の取りすぎを避けていくのが適切であるということです。

 

歯科的にダイエットに効果的なことって?

 

固形のものをよく噛むことが重要です。まず、固形って何?って話ですが、栄養ゼリーやプロテインドリンクのみだと、口腔内で固形物を咀嚼する過程がないわけです。口腔内でものを噛み砕き、唾液と混ぜる過程で、食物は消化の第一段階を通ります。同じものを摂るにしても、歯でしっかり噛まないと、その食物の栄養吸収状態は悪くなるわけです。リアルフードをしっかりかみましょう。噛めないくらい歯の状態が良くないのであれば、歯科でちゃんと噛めるように治しましょう。

そうは言ってもタンパク質摂取に便利なプロテイン。ドリンクになりますが、口腔内で咀嚼しつつ飲み込むと良いでしょう。こちらはWPIと言って、乳糖不耐症の方でもお腹がゴロゴロしないホエイプロテインであります。チョコ味がとても美味しく仕上がっています。個人的にはザバスやマイプロテイン、ビーレジェンドよりもコクがありチョコドリンクとしても美味しい部類ではないでしょうか!ち


さらに、トレーニングネタ。院長室には懸垂とディップスが可能なこのようなスタンドが設置してあります。上半身を鍛えるのにうってつけです。脚はスクワットのいろんな種類をしてバランスよくトレーニングするように心がけています。
どうして懸垂とディップスなのか?というと、まず、歯科の職業病といっても良い、猫背になりがちな姿勢が関係しています。診療台でも、入れ歯などを機械で調整する際も、カルテの入力をする際も、意識をしないと前屈みの姿勢になりがちです。口の中を覗き込むような体勢になることも多いです。これに対して懸垂はバランスよく背中の筋肉を発達、維持できる運動であります。運動強度は高いですので、私は最初1回しかできませんでした。背中のトレーニング以前に、手のひらの皮が痛くてそんなに回数できなかったです。やり続けることで背中はもちろん、バーを握る手や肩の後ろの筋肉も使われていますので、健康的にスタイルアップが可能となります。手の皮も鍛えられて、分厚くなります。手の皮が鍛えられて日常生活のメリットはほとんどないですが、アスレチックなどで登る系のアクティビティの際、恩恵を感じられます。
ディップスは大胸筋に効かせる良い運動です。身体の前側と後ろ側両方をバランスよく整える必要がありますので、セットで行うと良いでしょう。
そのほかに、レッグレイズと言って身体のミドルセクション(腹筋群)の運動もできますので、1台このようなスタンドがあればかなり良いトレーニングができるわけです
。思い立ったらパッとできますので、自宅トレーニングしたいなっていう場合、おすすめの機材です。Amazonで1〜2万円だったと思います。

 

脂肪組織について

 

脂肪組織にはいろいろな役割があります。まず、脂肪の合成や分解でエネルギーの出し入れを行います。また油にしか溶けない脂溶性物質の貯蔵庫となります。ラクダの背中のこぶは脂肪のかたまりです。つまり脂肪組織は、まず冷蔵庫みたいな働きをしています。山や海の遭難でたいてい女性のほうが長く生き残っているのは、女性のほうが脂肪が多いためだといわれています。次に脂肪組織はアンドロゲンからエストロゲン、つまり女性ホルモンをつくることが知られていましたが、近年、脂肪組織はさまざまな生理活性物質をつくり出す,巨大な臓器であることがわかってきました。これについては疾患との関連のところで詳しく述べます。このような生理的な役割以外にも保温、外力からの保護、美容などの役割があります。
体重の維持には食事と運動のバランスが大切ですが、もうひとつ忘れてはならないことがあります。それはエネルギーの消費は運動だけではないということです。私たちはたとえ眠っていても、心臓は重くし呼吸もしなければなりません。体温も維持しなくてはなりませんし、新陳代謝で古い細胞は不要物となり新しい細胞と少しずつ置き換わっていきます。基礎代謝といいますがこのようなことにも然エネルギーが必要となります。そこで注意しなければならないのは、私たちの体の基礎代謝に必要なエネルギーは、年齢とともに低下していくということです。つまり、食事の量と運動量がうまくバランスがとれていても、年をとるにつれ少しずつ減少した基礎代謝の分だけエネルギーが余ってしまいます。通常は年齢とともに運動する機会も減るので、若い時と同じ量を食べ続けていると、気がついたらずいぶん脂肪組織が蓄えられているということになるのです。これがいわゆる中年太りがおこりやすい理由です。ただ高齢になると栄養の取り込みが悪くなり体重は減少していきます。そのための蓄えとも考えられますので、疾患の危険因子とならない程度の多少の中年太りはむしろ歓迎されるべきかもしれません。
一般に太り気味の方ほど骨量も多いようですが、過度のダイエットは骨密度の低下につながります。骨は成長期に作られ、20歳以降、骨密度は徐々に低下していきますので、若いうちにしっかりと食事をとり運動をすることで骨を蓄えておかなければなりません。若い女性は少しも太っていなにもかかわらずダイエットを行うことがありますが、肥満でない方の成長期のダイエットは骨粗鬆症の予備軍を増やしていることになります。あたりまえのことですが健康体重を維持することが大切なのです。

臭いの原因、舌苔&フッ素塗布について

2024年4月17日

こんにちは、こさか歯科クリニックです。

口臭についてのお話です。

 

舌苔、溜まっていませんか?

 


においの大きな原因「舌苔」 歯は毎日しっかりみがいているという人でも、意外に忘れていることが多いのが舌のお掃除。舌の汚れである「舌苔」は、口臭の原因でも最たるもののひとつです。 舌苔は、読んで字のごとく舌の表面を苔のように覆っている汚れです。舌の表面は一見平坦のようですが、じつは非常に微細なひだが無数に存在しています。これらの突起は「舌乳頭」(乳頭は「突起」の意)と呼ばれ、毛足の長いじゅうたんのような構造になっています。 この”肉のじゅうたん”に、新陳代謝ではがれたお口の粘膜の細胞(つまり老廃物ですね)や細菌が付着します。そしてそれがベットリと厚い層になったものが舌苔なのです。

 

糸状乳頭の白い点と誤解されがち 

 

舌苔がない状態だと、舌の表面には無数の小さな白い点と、それより大きな赤い点がポツポツと見えます。それぞれ舌乳頭の一種で、白い点は「糸状乳頭」、赤い点は「茸状乳頭」といいます。糸状乳頭は表層が角質化しているので白く見えます。 ときどき、糸状乳頭の白い点を舌苔と勘違いして、「ちゃんと舌の汚れを落とさなきゃ!」と歯ブラシでゴシゴシとみがいてしまうかたもいらっしゃいますが、それはよくありません。舌を傷つけて、出血による口臭が生じたり、味覚に影響してしまうおそれがあります。白い点が見えるのなら、舌苔はできていないと考えていいでしょう。

 

舌ブラシと洗浄液をかつようしよう!

 


舌ブラシで舌苔を落とす 舌苔のお掃除には舌ブラシがおすすめです。舌を傷つけないよう、やわらかめの毛のブラシで、力を入れずに表面をなぞるように動かします。ブラシを動かす方向は奥から手前です。手前から奥に動かすと、汚れを舌の奥に追いやってしまいます。 舌だけにブラシを当てているつもりでも、唾液を介して舌の洗れがお口のなかに広がりますので、できれば1回ブラシを走らせるごとにブラシとお口をすすぎましょう。お口のなかから汚れ(=におい物質)を追い出すことが大切です。 舌はデリケートですので、みがきすぎにはご注意を。うっすら舌苔がついている程度なら、綿などの不織布でぬぐうだけでもよいですよ。

 

洗浄液のうがいは長めに

 

殺菌作用のある洗口液は、口臭予防に効果的です。細菌のかたまりであるプラークのかたまりを壊してからのほうが殺菌効果が上がるため、歯みがきをしてから使用するのがべストです。 その際は、殺菌成分がよく細菌に浸透するよう、製品が推奨している時間分、しっかりお口に含むようにしてください。テレビのCMなどで見られるように、ほんの数秒グチュグチュうがいするだけでは、効果は得られません。  ちなみに洗口液には、殺菌作用以外にも、におい物質を凝集して拡散を抑える銅イオンや亜鉛イオンが入ったものもあります。

 

歯科受診が口臭対策の早道です。

 

口臭が気になりつつも歯医者さんには行かない人が多数 自分の口臭が気になると答えた人は90.6%いたのに対して、「実際に歯科で口臭に関する診察・指導を受ける」という人はわずか5.1%でした。 歯周病などのお口の病気は、治療をしなくては解消されません。そうした病的口臭の原因が取り除かれないかぎり、においの元は残ったまま。ブレスケア製品でにおいをごまかそうとしても、焼け石に水です。 とりわけ歯周病は、初期のうちは自覚症状がなく進行するもの。最近歯ぐきがうずく、歯みがきすると歯ぐきから血が出るというかたは要注意。お口のなかで歯周病菌が暴れているのかもしれませんよ。 また、みがき残したプラークもにおいの元ですので気をつけたいところ。「えー、私、歯はちゃんとみがいてますけど?」と思うかもしれませんが、自分流の歯みがきでは、意外にみがけていない部分が多いものです。 歯科で歯のクリーニングを受けるのにくわえて、みがき残しのある場所をチェックしてもらい、さらにあなたのお口に合った歯ブラシとデンタルフロスの使いかたを教えてもらいましょう。そして舌苔を落とすのも忘れずに。 歯の健康を取り戻す、または維持してもらうついでに口臭予防もできるわけですから、定期的に歯医者さんに行きましょう!  口臭 Q&A ブレスケア製品は口臭に効果がありますか?・単にミント味のブレスケア製品を摂取したとしても、においをマスクするだけですので、病的口臭が原因の場合は根本的な解決にはなりません。ただ、ガムは噛んでいるうちに唾液が出て、お口のなかの老廃物や舌苔も洗い流されますので、そういう意味ではいいかもしれません。むし歯にならないように、砂糖不使用のものをお選びくださいね。 ストレスが口臭に影響するってホントですか?・口臭には、心理的な要因も影響します。ホラー映画を見たときに、のどの渇きを覚えた経験はありませんか。人は緊張状態にあると唾液の分泌が減り、唾液の性質もドロッとしたものになります。ですから、人が近づいてきたときに「におっていないかな?」と緊張することで、唾液の量と性質が変わって口臭が強まることも考えられます。

 

フッ素歯面塗布って知ってますか?

 


歯の表面に高濃度のフッ素を塗るむし歯予防の方法です。ところで、フッ素歯面塗布は何歳ぐらいから受けていいと思いますか?それは一歳半です。●フッ素歯面て塗布って受けたことありますか? 「フッ素歯面塗布」ってむし歯の予防法、知っていますか?歯の表面に直接ジェルやフォーム(泡)状のフッ素を塗って、歯を丈夫にする方法です。歯医者さんで受けたことのある方、きっと多いのでないでしょうか?歯みがき剤やフッ素洗口液を使ったむし歯予防といちばん違うのは、歯医者さんでないと受けられないってことです。それは、フッ素歯面塗布に使うフッ素の濃度が高いからです。 日本の歯みがき剤に入っているフツ素は、いちばん濃くても1500ppm。でもフッ素歯面塗布で使うフッ素の場合、なんと9000ppm(濃い!)。プロ向けの医薬品だから、患者さんがおうちに持って帰って使うことはできないんです。 フッ素塗布剤を歯に塗って3~4分間そっとしておくと、歯の表面に硬いアパタイトができて丈夫になるんですけど、じつはこの方法は、歯医者さんで定期的に受けないと、むし歯予防効果が下がります。なぜかというと、ご飯を食べたり歯みがきしたりしているうちに、少しずつ取れてきてしまうからです。1回塗布したからといって、油断しないで下さいね! 少なくとも年に2回、もしむし歯になりやすいのなら年に3〜4回受けて頂くことが理想です。というのも、年2回塗布のむし歯予防効果は20%程度ありますが、やったりやらなかったりだと、あまり効果が上がらないことがわかっています。

 

生えたての歯や象牙質むき出しの歯に。

 

フッ素歯面塗布はどんな歯にいちばん効果的か知ってますか?それは「生えたての歯」なんです、生えたての歯は軟らかくてむし歯に弱い。でも、そのぶんフッ素を取り込みやすく、表面が硬くなりやすのです。 乳歯を守るなら奥歯が生えはじめる1歳半くらいから。永久歯を守るなら第2大臼歯が生え終わるまで。つまり15歳くらいまで定期的に受けるのがベストです。 あと、歯の根本の象牙質がむき出している人の「大人むし歯」(根面う蝕)の予防にもピッタリなんです。

銀歯が入っている歯の根元が大きく露出している写真。根面う蝕とは、このような根が露出した部分にできる虫歯です。歯の頭の部分、エナメル質の組織と異なり、虫歯に対し弱い特徴があります。

エナメル質より軟らかい象牙質の表面を硬くしてくれるんです。 フッ素歯面塗布っていうと、「費用がかかるからなあ」って思ってる人もいるかもしれません」ね。たしかに、フッ素歯面塗布は歯の「治療」ではないから、通常は保険がききません。 しかし、むし歯の多いお子さんの場合や、初期むし歯の治療などには保険がききますし、塗布の無料サービスを行っている自治体もありますからそういうのも利用しながらぜひ続けてください。