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口腔がん

2024年10月29日

こんにちは、こさか歯科クリニックです。

 

前回に引き続き、口腔内の病気についてのトピックです。

 

⚫️口腔がんには前触れがある

—口腔潜在的悪性疾患を知っていますか—

 “口腔潜在的悪性疾患(Oral Potentially Malignant Disorders;OPMDs,)”という名前を聞いたことがあるでしょうか。

2017年にWHOにより新たに定義された“疾患概念”で,「口腔がんになりやすい口腔粘膜疾患の総称」を意味します。

これまでは“前がん病変、前がん状態”とよばれていた疾患を含んでいます。

 

 口腔がんは人口10万人あたり6人未満の希少がんと前述しましたが、

OPMDSの保有率は2.5%(100人に2,3人)です。

 口腔潜在的悪性疾患(OPMDs)

  1. 白板症

  2. 紅板症

  3. 紅板白板症

  4. 口腔扁平苔癬

  5. 口腔カンジダ症

  6. 円板状エリテマトーデス

  7. 先天性角化不全症

  8. 日光角化症(光線角化症)

  9. 梅毒性舌炎

10. 口腔粘膜下線維症

11. 無煙タバコ角化症

12. リバーススモーキング関連口蓋病変

●頻度の高いOPMDs(特に注意)

1. 白板症

 

比較的頻度が高く,癌化の可能性が高い

(4.4~17.5%)ため注意を要する粘膜疾患です。文字どおり、板状に粘膜が白く分厚くなっている状態です.粘膜が分厚くなっているため、拭っても除去はできないのが特徴です。

 舌の辺縁や歯肉、頰粘膜に好発します。粘膜の白色肥厚の正体は角化です。義歯や補綴物の不適合や慢性刺で同様に粘膜が角化し、白く見えることがありますが、これは白板症ではありません。

 特に原因が明確でないにもかかわらず、粘膜が白色肥厚していれば、白板症を疑います。疣状になって大きくなったり拡大したり、濃を伴う場合はすでに癌化している可能性もあります。

2. 紅板症

 まれですが、癌化の可能性がきわめて高い(30~70%)ため注意を要します。鮮紅色で表面が斑状でビロード状の病変です、舌,口底,歯肉、粘膜などに見られます。

 発見時にすでに癌化している可能性がく、“口腔がん”に準じて扱う必要がある病変です。

3. 紅板白板症

 白板症のなかに赤みを伴う部分が存在する場合があり、これを紅白板症といいます。白板症のなかでも癌化しやすい状態ですので、特に注意が必要です。

4.口腔扁平苔癬

 頻度が高く、注意が必要な粘膜疾患です。粘膜にレース状の白斑を呈し、赤みを帯びる病変です。中年期以降の女性に多く、頬粘膜に好発します。発生原因に自己免疫系の異常が関与しているといわれており、免疫系の細胞が粘膜を攻撃するために炎症を起こす結果、このような症状をきたします。炎症の程度により「刺激物がしみる」「ヒリヒリした痛み」訴えることがあります。

 癌化の可能性は2〜6%と、さほど高くありませんが、目にする頻度も多いので発見した場合は、長期のフォローや症状の程度によっては口腔外科専門医へ紹介する必要があります。

5.口腔カンジタ症

 近年、高齢化が進んだことで頻度が高くなっています。口腔カンジダ症は、口腔粘膜が真菌(カビ)に感染することで起こります。

口腔カンジダ症といえば“ガーゼなどで拭い取れる”白斑が特徴ですが、白斑を伴わず“赤く、ただれたような”病変が広がる、いわゆる“赤い口腔カンジダ症”が存在することに注意が必要です。特に高齢者の場合、義歯の下部に白い口腔カンジダ症も、赤い口腔カンジダ症も発生していることが多く,慢性化して癌化の可能性が高くなります。高齢者の義歯下の粘膜の変化には注意が必要です。

⚫️きわめてまれなOPMDs(全身の疾患に伴うもの)

6.円板状エリテマトーデス

 皮膚に角化やびらんを伴う不規則な形態の紅斑性病変です。自己免疫疾患の1つですが、紫外線により悪化や発症することが知られています。口の中では口唇や頰粘膜に紅斑やびらんが出現し、癌化することがあります。

7.先天性角化不全症

 血球の減少を伴う爪の委縮、口腔の白板症,皮膚色素沈着を主徴とする先天性の疾患です。前記の症状は必ずしもそろうことはなく、不全型も多いとされています。口腔の白板症から癌化することが報告されています。

8 .日光角化症(光線角化症)

慢性の紫外線刺により皮膚細胞のDNA変異が生じて発症します。表面がザラザラした斑状になり、わずかに隆起する、皮膚がんの前駆病変でもあります.口唇は紫外線が当たりやすい場所であり、口腔がんに移行しやすいです。

9.梅毒性舌炎

近年、日本で梅毒感染が増加しているとの報告があります。梅毒に罹患すると早期の段階から特に舌に炎症を起こすことが知られており、病期によって紅斑や白斑などさまざまな症状を呈します。このような舌の症状を梅毒性舌炎といいますが、癌化しやすいことが報告されています。

⚫️日本では見られないOPMDs

 以下に示すものは、特別な喫煙状態により生じるもので、日本人に見られることはないと考えられていますが簡単に特徴だけ説明します。

10.口腔粘膜下線維症

 東南アジアで噛みタバコと同じくらいポピュラーな嗜好品である“ビンロウジュ”によって口腔粘膜下が固くなる疾患です。頰粘膜に出現します。

11.無煙タバコ角化症

世界的には無煙タバコの1種である噛みタバコを嗜好する習慣があり、噛みタバコにより口腔粘膜表面の著しい角化が生じます。これも頼粘膜に好発します.

“無煙タバコ”というと電子タバコをイメージしがちですが、そうではありません。電子タバコも通常のタバコ同様のリスクがあると考えられています。

12.リバーススモーキング関連口蓋病変

 喫煙の特別な方法として、「タバコの火のついたほうを口の中に入れて喫煙する」というリバーススモーキングというものがあります。特に、口蓋に火傷とともに高度の炎症を起こし、慢性化すると癌化します。

⚫️鑑別できたほうがよい頻度の高い口腔粘膜疾患

 癌化する可能性のない、日常よく遭遇する口腔粘膜疾患について紹介します。

1.褥瘡性漬瘍

 不適合な義歯や補綴物により、舌や粘膜に傷が生じ,そこから細菌感染により清瘍が拡大します。補綴物などの刺激を改善すると、7日程度で消失します。原因が明らかになっていることが重要です。

2.再発性アフタ

特に原因となるものがないにもかかわらず、口唇や舌などに周期的にできる口内炎を指して、再発性アフタとよびます。直径数mm大の類円形の浅い潰瘍です。周囲に発赤を伴うこと(紅量)が特徴です。7~14日くらいで自然に消退するのが特徴です。

3.溝状舌

舌背部に多数の溝が生じる状態を指して、溝状舌といいます。遺伝的素因で生じると考えられています。加齢とともに明らかに溝が深くなってくるため、不安に思われる患者さんも多くおられます。治療の必要はありません。

4 地図状舌

 舌背部に地図状の模様をきたす状態を地図状舌といいます。中央部が鮮紅色でその周囲に白色の縁取りを示す大小の斑が現われ、日によって形状が変化します。原因不明ですが、自覚症状がないことが多く、治療の必要はありません。

5.エプーリス

 歯肉上に発生した”炎症性”の増殖物のことです。歯肉に発生する増殖性変化としてもっとも多いものです。

 エプーリスの粘膜表面はツルツルしていて正常粘膜色で,歯肉から有茎性に増殖してくることが特徴です。

※良性、悪性かは腫瘤の辺縁を上方に持ち上げ、腫瘤が茎性であることを確かめます。癌は正常組織に浸潤し、下広の腫瘤であるのに対し、エプーリスは、歯肉に茎状に付着しています。

 

口腔内の変化が気になったら、まずネットなどで調べる方が多いです。

気になったら歯科受診し、必要な検査と診断されると安心と思います。

当院へのご相談はこちらから。

歯石のつきやすさ、糖尿病と歯周病、砂糖についてのお話

2024年10月9日

こんにちは、こさか歯科クリニックです。

今回は、歯周病と全身疾患、糖尿病について詳しくお話ししていきます。

甘いものと健康管理については、聞いたことありますでしょうか。

今は様々なおやつや甘味料が世に溢れていますから、

それらを全く避けて生きていくことは不可能です。

自炊で徹底することはやろうと思えばできますが、

他の人と集まり、食事をするような機会がありますし、その場で自分だけ食べないのも変ですよね。

実は、砂糖の弊害ってたくさんあるので、それについてもお話ししていきます。

 

⚫️歯石は、いわば「細菌の化石」。

 

歯石自体がむし歯や歯周病を起こすことはありませんが、デコボコした表面は細菌の温床となります。歯石を放置すると、結果的に歯周病が悪化することになります。
歯石とは、簡単にいうとプラーク(細菌のかたまり)が唾液中のミネラルなどの影響により、石のように固まって歯にこびりついたもので、いわば「細菌の化石」です。歯石そのものに大きな害はありませんが、表面がザラザラしているのでプラークが付着しやすくなります。
歯石を放置すると、そこにプラークがたまり、周りの歯ぐきに炎症を起こして歯周病になったり、悪化する可能性が高くなります。

ネットなどで「歯石は取らないほうがいい」という話を目にすることがあります。「歯石には歯を固定する効果があり、取ってしまうと歯がぐらつく」というのが理由ですが、これは間違い。まず歯を固定することそのものに、歯をもたせる効果はありません。それよりも、歯をきれいにして細菌をつきにくくすることが大切です。歯石がベッタリついていると歯みがきがしづらくなり、結果的に歯周病が悪化してしまいます。
歯石を取ると、歯と歯のあいだにすき間が空いたようになったり、歯がしみることがあります。歯と歯のあいだのすき間は、歯石がついていた時点ですでに空いていたと考えられます。つまり歯周病の進行により歯ぐきが下がり、歯と歯のあいだにすき間ができて、そこに歯石が入り込んでいたのです。歯石がなくなると歯間ブラシなどが入りやすくなるので、掃除が容易になります。
また、歯がしみるようになるのは、歯石が歯の表面の凹みなどのなかにも入り込んでいるので、取るときにどうしても歯の表面が一層削られてしまうからです。歯がしみる症状は、歯みがきをしっかり続けるうちにほとんどが治まっていきます。
お口のなかには、みがいていても、どうしても歯石がつきやすい場所があります。それは唾液腺(唾液の出口)の近くにある歯で、たとえば舌下腺は舌の裏側にあるため、下の前歯の裏側は歯石がつきやすいです。一方、上の奥歯の表側も、耳下腺が近くにあるため、歯石ができやすいです。歯石はプラークが唾液中のミネラルとくっついて形成されるので、少量のプラークでも、唾液腺の近くにある歯には歯石がつきやすいのです。
さて、これまで歯ぐきの上にできる歯石、専門用語でいえば「歯肉縁上歯石」についてお話ししてきましたが、じつは歯ぐきの溝のなか、歯の根元にも歯石はできます。
これは「歯肉縁下歯石」といい、色は黒く、歯ぐきの上にできる歯石より硬いことが多いです。表面はザラザラしていて、歯周病を悪化させる細菌をたくさん含んだプラークが付着します。しかも歯ぐきの深いところに入り込んでいるので、いくら歯みがきをがんばっても取れません。
歯ぐきの上にあるにしろ下にあるにしろ、歯石は患者さんの手では取れないので、歯科医院で取ってもらう必要があります。取ってもらったあとは、歯石が再びつくられないよう、しっかり歯みがきをしましょう。歯みがきのしかたも歯科医院でチェックしてもらうといいですよ。

 

⚫️糖尿病の入り口はお口にあり!

ラーメンにはテンションが上がりますね。

しかし、健康的ではありません。わかっちゃいるけど・・・

 

 

「医者さんで糖尿病のお話」というと、場違いな感じがするかもしれませんが、じつは糖尿病とお口にはとても深~い関係があるのです。
1つ目の共通点は「病気の古さ」。人類で一番古い病気はむし歯といわれていますが、糖尿病も古く、3千年以上昔の古文書に記されています。時代を重ねるごとに患者数が激増している点もよく似ています。日本歯周病患者は成人の8割、糖尿病患者は予備軍も含めると成人の4割にも達するといわれています。糖尿病のかたは歯周病になりやすく、また重症化しやすいため、必ず歯医者さんに定期通院しなければなりません。
2つ目は「歯に悪い食べ物は糖尿病にもよくない」ということ。昔は砂糖は希少品でしたが、いまの時代はお菓子や菓子パン、清涼飲料水などがあふれており、小さな子どもからお年寄りに至るまで、国民全員が毎日、口にしています。砂糖はむし歯菌が喜ぶだけでなく、血糖値の急上昇にもつながりますので、そのまま摂り続けていると糖尿病まっしぐらとなってしまいます。逆に、噛みごたえのある野菜や玄米など、「歯にやさしい食べ物は糖尿病になりにくい」ことも覚えておきましょう。

砂糖の弊害

医科の先生とお話しする機会がありますが、

西洋医学での対処療法だけでなく、東洋医学の原因除去のアプローチをとっている先生方もたくさんいらっしゃいます。非常に勉強になりますし、私たち歯科の診療室でも、患者さんの健康管理のため、効果的にカウンセリングする上で参考になっています。

例えば、清涼飲料水を常飲しているようなお子さんは、歯が大体ボロボロに変わっていきます。口腔内が酸性に傾いたままで、歯がどんどん溶けていく現象が起きます。

歯が丈夫で、清涼飲料水や菓子パンなどを取り続けている場合、次に多い問題が実はうつ病であるとのこと。砂糖の多い食生活により、短鎖脂肪酸を作れる腸内細菌が減ってしまい、この短鎖脂肪酸が腸内で少なくなると、うつ傾向になりやすいのです。

その他の弊害が、糖尿病です。こういう病気は、動物では見られないものです。

なぜかというと、野生の動物は砂糖のように甘いものを摂りたくても摂れません。

昔の人も、現代のようにしょっちゅう砂糖を取れませんでしたので、

このような病気は以前はなかったわけです。

甘いものを摂ると、血管の内壁がダメージを受けます。内出血が起こりやすいため、脳出血やくも膜下出血のリスクが高まります。

記念のケーキなんかはいいものですよね・・・

 

また、甘いものを食べると、例えばお菓子やジュースなどですが、血糖値を下げるインシュリンというホルモンがたくさん出ます。必ず下がりすぎるので、今度は血糖値を上げるホルモンが働きます。副腎にあるコルチゾールや、グルカゴンというホルモンを使って、徐々に血糖値を上げていくという現象が起きます。このコルチゾールやグルカゴンの働きは糖新生と言って、体の中の内臓や筋肉を壊しながらブドウ糖を出すようにします。この時、筋肉には窒素が含まれているので、アンモニアができてしまいます。脂肪を分解するとケトンができます。この2つは、両方とも発癌物質なのです。なので、甘いものを食べていて、血糖値の急上昇・急降下が生じている状態を高血糖スパイクと言いますが、これを生活習慣のように長く続けている人は、糖尿病に関係なく癌になりやすいです。1度に大量に摂るよりも、1日に何回も高頻度でとっている方が、癌になりやすいです。甘いものは、脳の快楽報酬系に入るので、依存性があります。大脳の前頭前野にドーパミンが出て、多幸感が得られます。なので、ケーキとかを食べると脳が幸せに感じるのです。インシュリンが出るのはそれから15〜20分後。そこから血糖値が下がって、グルカゴンとかが出てくると、今度はイライラ、不機嫌の状態になります。で、また甘いものを食べてしまうというループに陥るのです。

睡眠時無呼吸症候群、口呼吸、歯根膜について

2024年10月9日

こんにちは、こさか歯科クリニックです。

健康に関するトピックです。

⚫️自宅でもできる睡眠時無呼吸症候群予防

 睡眠時無呼吸症は、何らかの原因により舌の根元が喉を塞ぐことから起こります。

舌根はこのような構造になっています。

 

 つまり、「舌が下がっている」ことが原因なわけです。舌は筋肉ですから、自分で意識して鍛えることも可能です。

 いびきが気になる人は、口周りや舌の筋肉を鍛えることができる「あいうべ体操」を普段から心がけることで、症状がかなり改善されます。

 睡眠時無呼吸症候群は、口呼吸の癖がある人もなりやすいとされています。口周りの筋肉を鍛え、口を閉じて鼻で呼吸することができるようになる「あいうべ体操」は、睡眠時無呼吸症候群の予防として最適と言えます。

⚫️掌蹠膿疱症と口呼吸

 皮膚病のひとつである「掌蹠膿疱症」。手掌、足底に無菌性の膿疱が反復して出現する、慢性難治性の疾患です。

 この病気の原因は明らかにされていませんが、膿疱は無菌性であることから、金属アレルギーや病巣感染が大きな誘因となるのではと考えられています。

 病巣感染とは、「身体のどこかに限局した慢性炎病があり、それ自体は異常を引き起こさないが(あっても軽徴)、まったく関係のなさそうな臓器に、反応性の器質的・機能的な二次疾患を引き起こす病態」です。

 病巣感染の一次病巣は、扁桃と口腔内でそのほとんどを占めていることはすでに述べた通りです。口呼吸を続けていると、上咽頭や扁桃部が細菌感染を起こし、免疫システムに異常を来します。その結果、風邪をひきやすくなったり、掌蹠膿疱症やアトピー、その他さまざまなアレルギー疾患となって現れるのです。

 扁桃は、風邪をひいて喉が痛くなったり、疲れが溜まったときに腫れたり、身体防御機能が落ちるとよく症状を示すところです。慢性的に細菌が侵入してしまう場所です。

 また、口腔内は体の中で最も細菌が棲みつきやすい場所です。口呼吸は、口腔乾燥症によって歯周病や口内炎を発症し、「歯性病巣感染」としてさまざまな臓器における疾患の起点となります。

 掌蹠膿疱症などの皮膚疾患は、病巣感染を無くすことによって、ステロイド剤などの薬剤を

使用しなくても、治療をすることが可能です。

 病巣感染を取り除き、鼻うがいと鼻呼吸を心がけてもらうことで、治る可能性は非常に高くなります。

⚫️咀嚼運動と脳の関係

 NHKの人気番組で、咀嚼運動が脳に与える影響が紹介されました。

 ほぼ寝たきり状態だった高齢者の歯を治療して口から食事を摂れるようにすると、なんと自立歩行するまで回復したというのです。

 また、終日ベッドに横たわり、介護者の問いかけにも反応しなかった男性に、歯科医師が義歯を製作して装着すると、QOLが劇的に回復しました。「気力が甦った」といきいきとした表情で述べる男性の姿が印象的でした。

 ある大学の研究では、歯の本数が少ない人ほどアルツハイマー症で脳内の海馬が萎縮していたことも明らかにされました。

 番組内で、東北福祉大学の渡邉識教授は、「噛むことは脳を活性化するだけでなく、体のバランスを取る重要な役割を担う、生きるために必要な力」と、結論づけています。

 歯の組織には、歯根膜という歯槽骨をつなぐ繊維性合組織が存在します。咀嚼と脳をつなぐ重要な働きをするのが、この歯根膜です。歯根膜は、歯と歯槽骨をつなぐという役割以外にも、「噛み応え」を感じるという役割や、咀嚼の際には歯にかかる衝撃を和らげる役割があります。それだけではありません。歯根膜は、脳内の三叉神経につながっているのです。

 咀嚼運動にらよって発生した刺激は、歯根膜から三叉神経を通して脳の中枢に送られます。そして、脳内の運動、感覚、記憶、思考、意欲を司る前頭前野まだ活性化させます。

 本来、食べるという行為は、非常に刺激的な作業です。味覚においては、舌の味蕾ご食べ物の味を電気信号に換え、顔面神経、舌咽神経、延髄、視床を経て大脳の味覚野に送られ、海馬、扁桃体、前頭前野へ伝えられます。脳には過去の記憶ぎ保存されているので、味とともに食事にまつわる思い出が蘇ります。まさに脳を活性化する大切な作業なのです。

 高齢者ほど噛むことによって脳の連合野が顕著に活性化することも明らかになりました。脳の連合野は、五感情報や運動情報などを、より高次のレベルで処理する領域です。積極的な咀嚼が加齢による衰えに歯止めをかける、いわばアンチエイジング効果が期待できることになります。

 また、認知症によるコミュニケーション力の喪失や徘徊行動などを見ると、前頭前野の働きに直結していることがよく分かります。脳の神経細胞は加齢によって減少するものですが、脳に刺激を与えて活性化させれば、残った神経細胞によって脳の機能を維持することができるのです。

 歯が抜けると歯根膜も失われますが、その場合には口腔内の軟組織が歯根膜の代わりを果たすことが明らかになっています。義歯でも噛むことができれば、脳は活性化します。

 近年では、義歯を装着することによって車椅子を使用していた高齢者が自立歩行できるようになった事例を日本歯科医師会が再三にわたり紹介しています。理由として、食物の経口摂取が可能になって体力が回復したことに加え、正しい咬合を回復したことで身体のバランスを取りやすくなったことが、大きな理由として指摘されています。

⚫️子どもと歯根膜

 

 

 噛み合わせが悪い不正咬合の子どもは、集中力が低下する、学力が伸びないなど、脳への悪影響が見られることがあります。

 それには口呼吸がひとつの原因になっていることは、すでに述べた通りです。本来なら鼻から入れる乾燥して冷えた空気が脳を冷却してくれますが、不正咬合により口が閉じられない状

 また、噛み合わせが悪い状態というのは、ちゃんと噛めていない状態なわけです。ということは、歯根膜に刺激が伝達されていないのです。歯根膜に刺激が伝達されないと、脳にも十分に刺激が伝わっていきません。ちゃんと噛めてい状態なわけです。ということは、歯根膜に刺激が伝達されていないのです。歯根膜に刺激が伝達されないと、脳にも十分に刺激が伝わっていきません。ちゃんとと噛めない、咀嚼がしにくい、というのも、子どもの集中力や学力低下の立派な原因です。

 だからこそ、子どものうちから矯正治療をしてちゃんと噛めるような歯にすることが大事なのですが、矯正治療は根本的な解決にまで結びつきません。編正治療で見た目を美しくできても、正しい咀嚼ができない状態、口呼吸のままの状態では、脳への悪影響は継続されていくからです。

 不正咬合でなくても、正しい咀嚼ができない子どもは多く見られます。子どもが好む柔らかい食べ物が多くなったせいか、昔ほど「よく噛んで食べる」ことの大切さを子どもに伝えている家庭は少ないように感じます。

 子どもたちがこれから先の長い人生、生涯にわたって心身の健康を維持していけるように、口呼吸の大切さや咀嚼の大切さを、周りの大人たちは伝えていかなければいけません。

 

⚫️セロトニンと歯根膜

 人間の精神面に大きな影響を与える神経伝達物質であるセロトニン。このセロトニンが不足すると、うつ病などの精神疾患に陥りやすいと言われています。

 セロトニン研究の第一人者である有田秀穂氏は、うつ病治療において代表的な治療薬とされ

るSSRIの使用を「あくまで対症療法に過ぎない」とし、「生活習慣を改善しなければ本質的な治癒には至らない」と述べています。セロトニン神経を活性化させるために効果のとのひとつとして、有田氏はリズムを伴う運動を挙げ、「咀嚼」をその代表例と指摘しています。咀嚼運動の前後の状態を調べると、脳内に増加したセロトニンが血管内に輩出されていることが確かめられています。

⚫️ダイエットと歯根膜

 歯根膜は、ダイエットや肥満防止にも関わっています。噛む回数が増えると、脳にヒスタミンという物質が分泌されます。ヒスタミンは、脳の満腹中枢を刺激し、脂肪を燃やす脳内物質なので、噛む回数を増やし、歯根膜への伝達をしっかり行うことで、痩せるというわけです。

噛むときに大切なのは、柔らかい食べ物でもしっかり噛むことを心がけ、必要以上に固いものを噛もうとしないことです。噛み過ぎは、歯の摩耗を招きます。

ドライマウス

2024年10月9日

こんにちは、こさか歯科クリニックです。

 

今回は、口腔内の乾燥、口呼吸についてのお話です。

 

⚫️口臭歯周病の原因になるドライマウス

 唾液の量が減少し、口の中が乾きやすくなるドライマウス(口腔乾燥症)。唾液の量が減少すると、口内に細菌が繁殖しやすくなり、さまざまな口腔トラブルを引き起こす原因になります。

 唾液量の不足により口内の殺菌作用が低下すると、それまで抑えられていた細菌が活発に繁殖し始めます。細菌が増加すると、細菌の活動によって発生する酸(乳酸)や毒素(エンドトキシン)も増加することになります。酸は歯の表面のエナメル質を溶解し、虫歯を発生させ、毒素は歯肉(歯周組織)に炎症をもたらし、歯周病を作る原因になります。

 また、細菌が活発に活動することにより、臭いを発生させる代謝産物も多く生じ、口臭の原因にもなります。

 ドライマウスはどんな人がなりやすいのでしょうか?

 カフェインやアルコール、ニコチンの過剰摂取は、ドライマウスの原因になります。

これらの物質は高い利尿作用があり、体内に脱水症状を来します。脱水症状になると、唾液量が減少し、口腔乾燥を引き起こすというわけです。コーヒーなどのカフェインが多く含まれる嗜好品や、アルコールをよく摂取する方、喫煙習慣のある方は注意が必要です。

 また、男女の比率でいうと、ドライマウスは、女性が多いのです。

 とくに閉経後、女性のドライマウスは進行していきます。

 女性は閉経後体内にあるエストロゲンの量が低下します。エストロゲンは、女性ホルモンの一種です。

 エストロゲンが低下すると、唾液の量も減少することで知られています。

 その他、無理なダイエットで水分や食物を過剰に制限することにより、水分摂取量が低下し、唾液の分泌が抑制されて、ドライマウスを引き起こすこともあります。

⚫️ドライマウスを予防するには

 ドライマウスは、口の中が乾燥する症状です。ドライマウスを予防するには、口の中を乾燥させないようにすることが大切です。

 それにはまず、「口呼吸」を止めること。ドライマウスの人のほとんどは、口で息をする「ロ呼吸」です。口がいつも開いていたり、唇や口の中がよく乾くという症状が見られます。噛み合わせが悪いと、口を閉じにくくなり、口呼吸になりやすくなります。

 口呼吸は、ドライマウスだけでなく、イビキや睡眠時無呼吸症候群、アレルギーや膠原病、関節リウマチや身体のさまざまな疾患の原因になります。

 口呼吸から鼻呼吸にすることで、口内の乾燥を防ぐことができ、さまざまな症状が観和されます。

 あとは、唾液の分泌量がへらないように、適切な水分補給をすること。カフェインやアルコール、ニコチンなど、体内の水分を奪ってしまうような物質の過剰摂取は、避けるべきです。

⚫️口呼吸予防 【あいうべ体操】

 

 口呼吸の改善には、「あいうべ体操」が効果的です。

「あいうべ体操」は、内科医の今井一彰氏が考案した、口呼吸を改善するための体操です。

「あいうべ体操」をしっかり継続している人は、自然に鼻で呼吸ができるようになります。

 口を閉じて鼻で呼吸するためには、口の周りの筋肉と舌を突き出す筋肉を鍛える必要ごあります。また、筋肉のポンプ作用によっね、唾液の分泌が促されます。

 あいうべ体操のうち、「あいう」は口の周りの筋肉の、「べ」は舌を突き出す筋肉のトレーニングです。

 まず、口を楕円形にして、喉の奥が見えるまで大きく開き、「あ1」と言います。つぎに、前歯を出して、首の筋が浮き出るくらい口をグッと横に開いて、「いー」と言います。「う」は口を閉じる筋肉の体操で、唇を尖らせて前に突き出して、「うー」と言います。最後の「べ」では、舌の付け根が引っ張られるくらい、思い切り舌を前に突き出して、「ベー」と言いましょう。

【あいうべ体操手順】

①「あー」と口を大きく開く

②「いー」と口を大きく横に広げる

③「うー」と口を強く前に突き出す

④「べー」と舌を突き出して伸ばす

①〜④を、1セットとし、1日30セットを目安に毎日続ける

 この体操は、真剣に行うとかなり疲れます。慣れるまでは、2〜3度に分けたほうが続けやすいでしょう。

 また、「あいうべ体操」は、しゃべるときより口をしっかり、大きく動かす必要がありますが、無理は禁物です。

 とくに顎関節症の人や顎を開けると痛むという場合は、回数を減らすか、「いー」「うー」のみを繰り返してみてください。「いー」「うー」の部分の体操は、関節に負担がかからないため、何回行っても大丈夫です。

 唾液の分泌が増えることで免疫力が上がるので、いろんな病気の予防にもなります。

 あいうべ体操で口呼吸を改善し、体そのものが強くなり、今まで飲んでいた薬を卒業したという人も少なくありません。

 

 

⚫️顎関節症や肩こり、頭痛などの原因になるブラキシズム

食いしばり、噛み締めにより噛み合わせの筋肉は過緊張し、筋肉痛状態になります。

顎の関節にも良くない影響が及んでしまうのです。

 

 歯ぎしりがひどい。顎が痛む。慢性的な肩こりや頭痛がある。それは、歯の「ブラキシズム」によるものかもしれません。

 Bruxism:ブラキシズムとは咀嚼筋(咬むための筋肉)が無意識に異常な動きをする異常運動のことです。口腔悪習癖と呼ばれている悪い癖のひとつにも分類され、言葉の語源はギリシや語のBrychein から得ています。

 睡眠中の「歯ぎしり」や、強い力で必要以上に噛みしめてしまう「食いしばり」がこれに当たります。ブラキシズムは、歯の摩耗や折損、顎の関節の障害など重大なトラブルを引き起こします。

 無意識下の異常運動には3つの要素があり、歯をすり合わせるグラインディング、食いしばるクレンチング、上下の歯をカチカチと小刻みに接触させるタッピングがあります。

 朝起きると顎が疲れていたり、歯に負担がかかっていることがあります。これは睡眠中に過度の力が加わっているため起こる症状です。ブラキシズムは、噛み合わせの問題もありますが、

最も大きな原因は精神的ストレスであるとされています。つまり、誰でも起こり得る可能性があるということです。歯ぎしりやくいしばりの習慣が長期化すると、歯や顎にふたんがかかり、重症化します。

 歯が折れる、割れる、抜けるほか、口があかない、顎が痛いなどの顎関節症は、その代表例です。ほかにも、頭痛、首や肩こり、腰痛、めまい、耳鳴りなどさまざまなな症状の原因になります。

 

歯が折れていても外からは見えませんよね。

歯根は接している歯はこのような状態で、歯茎の中で完全に割れているところには、

口腔内の良くない菌の感染が顎の骨に及びますので、

痛みや歯茎の腫れが生じることが多いです。

 

 ブラキシズムは無意識で行われているので、夜間の歯ぎしりで、家族などに「歯ぎしりがすごい」「うるさい」などと指摘されたりする以外は、なかなか自覚することが難しいでしょう。

 ブラキシズムの治療には、マウスピースやプレートなど防止装置を使用し歯の磨耗や就寝時の騒音を防ぐ対策療法がよく使われます。ほかにも、噛み合わせ治療や矯正治療、薬物療法もあります。

 家族に夜間の歯ぎしりの騒音で指摘を受けている、顎が疲れたり痛むことごよくある、慢性的な肩こりや頭痛がある!そんな症状が見られる患者さんがいる場合には、ブラキシズムを疑ってみましょう。そして、重症化し生活に支障をきたす前に、早めに歯科医への受診を促して欲しいです。

⚫️舌と顎が大きく関わる睡眠時無呼吸症候群

 「睡眠時無呼吸症候群」という病気が広く知られるようになってきました。睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは、「睡眠中10秒以上の呼吸停止が1時間あたり5回以上。もしくは7時間以上の睡眠で30回以上起きること」と定義されています。

 重篤の場合、心筋梗塞や脳梗塞などによる突発死、成長ホルモンの30%減少などの影響が明らかにされています。

 ここで言う無呼吸の状態とは、いびきがやんでいるときで、定義では10秒以上となっていますが、通常20〜30秒くらい、ひどい場合には1分から2分近く続く人もいるようです。

 また、30回どころか、ひと晩に100回も無呼吸を繰り返す場合もあります。

 無呼吸というのはいわば窒息状態ですから、こんな長い間、無呼吸でいたら、苦しくないはずがありません。無呼吸のあとに爆発音のような大いびきをかくのは、酸素を体内に供給しようと、大きく空気を吸い込もうとするためで、激しくもがくような動きを伴なうこともしばしばです。

 一般的に、睡眠時無呼吸症候群は、肥満体型の人がなりやすいと言われてきます。睡眠時無呼吸症候群は、空気の通り道である上気道が閉塞するとこにより起こります。上気道は、鼻腔、アデノイド、口蓋扁桃、軟口蓋、舌根部で構成されています。上気道は首回りの脂肪の沈着により閉塞しやすくなります。ですので、痩せることが睡眠時無呼吸症候群を治す、予防する方法と考えている方も多いようです。しかし、欧米人の患者にはたしかに肥満体型の人は多いのですが、日本では痩せていると人でも睡眠時無呼吸症候群になるケースが多くみられています。

 上気道が閉塞する原因は他にもあります。それは「舌」と「顎」です。噛み合わせが深い(過蓋咬合)状態だと、舌と歯列のバランスが悪くなり、舌は後退し、喉の方向に押し出されやすくなります。また、下顎が小さい(小下顎状症)と、口の中の容積ぎ小さくなり、舌は喉の方へ押し出されやすくなります。その結果、気道には狭まり、睡眠時無呼吸症候群を発症する原因となるのです。

 また、出っ歯(上顎前突)、噛んだときに前歯に隙間がある(開咬)症状がらみられると、口は閉じにくくなり、口を開けたままでいることが多くなります。

 口を開けたまま寝てします(口呼吸)と、重力の作用で下顎は後退し、舌は後ろ(喉の方向)に押し出されやすくなります。結果、気道は狭まり、睡眠時無呼吸症候群を発症する原因となります。

 歯科医で行う治療としては、マウスピースを用いて行う方法が一般的です。寝ているときに装着し、舌や顎が後退するのを防ぎます。

歯肉の性状、口呼吸、食と栄養について

2024年10月9日

こんにちは、こさか歯科クリニックです。

今回は、歯肉の状態の詳しいお話、食事の栄養についてです。

 

⚫️健康な歯肉・炎症のある歯肉

 

【健康な歯肉】

健康な歯肉は薄いピンク色で、セメント質と歯肉を結合するコラーゲンの機能が歯肉上皮を引っ張っているというスティップリングが点状に見えます。歯間乳頭は歯間空隙にフィットし引き締まった三角形をしています。

 

【炎症のある歯肉】

炎症のある歯肉は、辺縁が赤く丸みがあります。歯間乳頭は歯間空隙からはみ出るように赤く膨れ、スティップリングが消失しているのがわかります。

▶︎拡大して見ると・・・

健康な歯肉にエアーをかけて観察すると、硬く引き締まって歯面に密着しており弾力があるため、プローブで触った跡はすぐ元に戻ります。そして、スティップリングは大きさが一つひとつ異なるようすや、歯冠側からの観察では立体的な小窩になっているようすを確認できます。
一方、プラークに反応して炎症が起きた歯肉は、毛細血管が怒張し血管透過性が亢進して組織液が増えるため、赤く膨らんでいます。炎症の起きた歯肉では、毛細血管が線状に走行しているようすは見えにくくなることが多いですが、辺縁歯肉に赤い点としてはっきり見えることもあります。そしてここにプローブを挿入すると、容易に出血しBOP(+)となるのです。また、歯肉に密着しておらず弾力がなくなり、プローブで押した跡やポケットに挿入した跡がしばらく残ります。スティップリングは消失していますが、炎症がある歯肉でも確認される場合があり、健康を判断するうえでの十分な指標にはならないといわれています。

▪️炎症がある部位には肉芽組織が見られることもある

歯肉溝内に肉芽組織も観察すると赤く柔らかく、表面に顆粒状の膨らみが見えるときは、肉芽組織は、傷の治癒欠損した組織の補充、異物の処理に大切なはたらきをしますが、炎症(特に慢性炎症または炎症の治癒期)にも見られることがあります。
マイクロスコープは視軸と光軸がほぼ同軸で、深いポケット内も非常に明るく拡大して観察することができます。もともとこの部位にBOP(検査器具で触ったときの出血)はなかったため、肉眼だけで観察したのでは、正常に治癒してると判断してしまうこともあります。
肉芽組織が生じた原因は不明ですが、これは、部位の歯肉が正常でまないことを示しています。肉芽組織が観察されたら、その後も継続に観察を行い、治癒に至るのか、歯周炎が残存しているのかを判断する材料の一つにしています。

▪️パッと見ると、健康そうでも炎症があるかも…?!

一見、歯肉が薄いピンク色で硬く引き締まっているように見えても、炎症を生じている場合があります。
拡大してよく見ると、辺縁歯肉が丸みを帯びて歯面に密着しておらず、エアーをかけると歯面との間にわずかな隙間があることがわかりました。プローブを挿入するとプラークの付着が確認でき、BOPが確認できたことからも、炎症を生じている可能性があると考えられます。

炎症のあるなしで、このような違いがあるのですね。

ちなみに、口呼吸と歯肉の炎症って関係なさそうですが、

口呼吸で口腔内が乾燥するため、菌が増えて炎症しやすくなってしまいます。

気づかないだけで、多くの人が口呼吸をしてしまっています。

どのように改善したらよいのでしょうか?

 

⚫️口呼吸をやめるために効果が認められている方法は?

 

口唇閉鎖力がポイント

リットレメーターという機器です。

シンプルな構造ですが、これで小児患者さんの口唇閉鎖の力がどの程度か、

検査することができます。

 

 

▪️一時しのぎの方法ではなく、口輪筋を主とした筋群を鍛えることによって口唇閉鎖力を改善することが有効だと思われます。

鼻咽腔の機能に異常がなく、上下前歯の被蓋関係や骨格的な関係に不調和がないのに口呼吸の癖がある方の場合、口唇を閉じる力である「口唇閉鎖力」が低下している可能性が高いと思われます。口唇閉鎖力は、口呼吸の方は健常者に比べて有意に低く、60歳前後から低下傾向が見られることがわかっています。また、口唇閉鎖力は、特に高齢者においては食べこぼしや流涎と関連し、他の身体機能や疾患などの影響を受けやすいとも考えられています。
口呼吸の改善方法としては、鼻に特殊なテープを貼って鼻腔を広げる方法や、口に絆創膏を貼って寝る方法などがありますが、どれも一時しのぎに過ぎません。訓練などを行って、口輪筋を主とした筋群を鍛えることによって口唇閉鎖力を改善することが、口呼吸を鼻呼吸に変えるのに有効だと思われます。
自主訓練について、日本摂食の下リハビリテーション学会がまとめた訓練法を紹介します。自分で口唇を動かす口唇川練としては、指で口唇をつまんで外側に膨らませるように伸び縮みさせて口輪筋を伸ばす「口唇伸展」があります。また、口唇突出(「ウー」と発音して行う)
と口角引き(「イー」と発音して行う)を繰り返す運動も有効です。さらなる効果を望むなら、抵抗法として負荷をかけた運動を行うとよいでしょう。これは、舌圧子や木べら、ストロー、定規などを口唇で強く挟んで保持する方法です。
また、臼歯部でしっかり咬んだ状態で、前歯と口唇の間に紐を付けたボタンを挿入し、口唇でしっかり挟んだ状態で紐を引っ張ってボタンが口腔外へ飛び出さないよう口唇に力を込める訓練である「ボタンプル法」も有効だと思われます。
その他として、最近では口閉鎖訓練のためのさまざまな器具が市販されており、これらを用いた訓練法も考案されています。いずれの訓練も、やり過ぎはよくありません。各食事前(1日2~3回)に5分程度行うのがよいとされています。

⚫️食と栄養の疑問
カフェインは天然に存在する成分の1つで、コーヒー豆、茶葉、カカオ豆などに含まれており、さまざまな効能を持つことが明らかになってきていますが、摂りすぎると心拍数の増加、不眠症、頭痛、吐き気などをもたらすこともあります。海外では健康への影響を検討し、妊婦・子どものカフェイン摂取目安量を示している国や機関があります。
日本では、カフェインの感受性に個人差が大きいため、健康に及ぼす影響を正確に評価することは難しいということで、カフェインの1日の摂取許容量が数字として明確に定められていませんが、「妊婦の方、お子さんはカフェインを摂り過ぎないように留意してください」と注意喚起が行われています。
そこで、最近注目されてきているのが、「デカフェ」飲料です。デカフェとは、本来カフェインを含んでいる飲食物からカフェインを取り除く、あるいは通常カフェインを添加する飲食物に添加を行わないことで、カフェインを含んでいないものをいいます。カフェインの除去方法には、①有機溶媒による抽出法、②水による抽出法、③超臨界二酸化炭素抽出法がありますが、
①は有機溶媒の残留の危険性があることから日本では許可されていません。③はカフェイン以外の成分に損失が少なく、コーヒー豆本来の香りなどを守ることができる点や、二酸化炭素を使用するため安全性が高い点から、現在主流になっているようです。
日本では、デカフェに対する明確な基準はありませんが、コーヒー飲料などの表示に関する公正競争規約によると、デカフェと表示できる商品はカフェイン含有量が10%未満とされています。メーカーや商品によってカフェイン含有量は異なるため、利用の際には実際にどれだけ含まれているかの確認が必要です。
以上の点から、デカフェコーヒーは、妊娠中・授乳中の女性や体の小さな子どもたちも利用して問題はありません。ただし、カフェインが含まれているのはコーヒーだけではなく、紅茶、緑茶、ココア、ウーロン茶のほか、これらを原料としている食品にも含まれています。カフェインは原料由来成分で本来表示義務がないため、コーヒー以外のデカフェ表示商品については、正確な含有量を知ることができないのが現状です。気になる方は、メーカーに確認するなどしてから利用すとよいでしょう。

高齢者の栄養摂取

2024年8月29日

こんにちは、こさか歯科クリニックです。

今回は高齢の方の栄養摂取についてのお話です。

 

⚫️高齢者の栄養と食事・食形態

NYUの留学中に食べたステーキ。赤身で食べ応えがありました。

高齢の方の栄養摂取について、補綴の勉強会でも取り扱われる問題であります。

歯が弱っていたり、噛めない入れ歯を装着されておられる場合、

柔らかく炊いたお米や麺が多くなりがちであると。

この写真のような塊である必要はありませんが、とにかくタンパク質不足になる方が多いとのこと。

 

 

プロテインやビタミンでも栄養摂取できるという意見もありますが、

楽しみがないですね。

 

 

 高齢者にとって「口から食べる」ことは生活の楽しみであり、生きがいでもあります。しかし、ときに食事という行為が命取りになってしまうこともあります。その原因の1つは、「本人の摂食感下機能に合わない食事をとること」です。食事中にむせ込みが生じたり、食事時間が長くなったりする場合、「食事が摂食の下機能に合っていない可能性」が考えられます。そして、これらの問題に対して何も対策を講じなければ、いずれは誤嚥性肺炎や窒息を引き起こしてしまうかもしれません。

 もう1点、機能に合わない食事をとることの弊害として、「食欲低下や偏食などによって食事量が減少し、低栄養(栄養失調)や脱水が生じてしまうこと」があげられます。高齢者は成人に比べて体内水分量が減少することから、もともと蓄えている水分量が少ないために脱水状態に陥りやすくなります。そのため、食欲不振やの下障害による水分摂取量の減少には注意が必要です。また。高齢者のなかには喉の渇きを感じづらくなっていたり、トイレに行<のが億劫で水分を控えてしまったりする方も少なからずいるため、心疾患などによる制限がない限り、季節に関係なく水分は十分に摂取する必要があります。

 

●低栄養

 

—低栄養の問題点—

 低栄養の問題点

低栄養になると、体重や筋肉量が減少することでADL (日常生活動作:Activity of Daily Life)が低下し,寝たきり状態になってしまう可能性があります。また,免疫力が低下して風邪などの感染症に罹りやすくなったり。重症化して肺炎になったりするリスクが高くなります。誤嚥も肺炎のリスク要因ですが、栄養状態がよく、免疫力が低下していなければ,たとえ誤嚥をしても肺炎にまで至らない場合もあるのです.ほかにも。低栄養により(床ずれ)ができたり、傷や病気の治りが遅くなったりします。

 低栄養は、特別なきっかけで生じるわけではなく,ちょっとした不注意で簡単に陥ってしまいます。たとえば「歯が抜けた」「義歯が合わない」などは高齢者に容易に起こりうることですが、それがきっかけとなって歯ごたえのある食べ物を避けたり、食欲が低下したりすると、食事量が減少し、栄養バランスが偏ってきます。そのため必要な栄養量を確保できなくなり、低栄養状態に陥ってしまいます。

 特に問題視されているのは,PEM (Protein Energy Malnutrition)といわれる,タンパク質とエネルギー不足の低栄養状態です。高齢になると肉類を敬遠しがちですが、その理由の1つに「噛みにくさ」「飲み込みにくさ」があります.肉や魚など筋肉のもととなるタンパク質を摂取して栄養状態を維持するためには,歯の治療だけでなく、肉や魚を食べやすくする工夫も考ラス要があります。

 

—低栄養のリスク評価—

 

 高齢者の栄養状態を評価するには、まずは体重(kg) を測ることから始まります。加えてBMI(体格指数:Body Mass Index)と体重減少率を算出します。

BMIと体重減少率は、高齢者の低栄養のリスク評価を行う指標となります。BMIは「体重(kg)→(身長(m) 身長(m))」で求められ、18.5~25未満を標準とし、25以上は肥満。18.5未満をやせとしています。

体重減少率は,「(通常体重(kg)一現体重(kg))→通常体重(kg)100」で求められ、どのくらいの期間で体重減少が起こったかによってリスクが異なります。診療室においても、高齢者の体重を把握することが必要でしょう。

 

このくらい歯があり、しかも修復された跡がないような口腔内だと、

病気のリスクが低いと考えられます。

 

咬合が崩壊してしまった患者さんのレントゲン写真。

残っている歯も揺れが大きく、残すことが難しい部分があります。

下の歯が残っている側は、上の歯茎の吸収が著明です。

力の問題が顎の骨の吸収を進行させると考えられます。

このような状態だと、義歯を入れて安定させるのが非常に難しいです。

天然の歯のようには噛めないですし、ここまでになる前に歯科を受診し、治療を受ける必要がありました。

 

—高齢者の必要栄養量とは?—

 

 

 高齢者が必要とする1日の栄養量はどのくらいでしょうか。厚生労働省が示している日本人の食事摂取基準の一部ですが、18~29歳の成人期と比較して、70歳以上では必要エネルギー量は減少します。これは、加齢による除脂肪組織(筋肉や骨など)が減少することで基礎代謝が低下するためです。しかし、タンパク質をはじめとするほかの栄養素は、同等量の摂取が必要であることがわかります。つまり,高齢になっても、肉や魚の摂取量を若いときより減らす必要はないということです。

 

—必要栄養量を確保する方法—

 

 十分なエネルギー量とタンパク質量を摂取しないと,PEMとよばれる低栄養状態になること、また水分量の摂取不足は脱水を引き起こすことは冒頭で述べました。そこで、1日に必要なエネルギー量とタンパク質量。水分量を確保するためのポイントを以下にあげます。

 

①できるかぎり欠食をしない

 

 朝.昼.夕と規則正しく食事を摂るようにします。体調の悪いときや食欲のないときでも、レトルト食品や果物、デザート類をすこしでもいいので食べるほうがよいでしょう.体調の崩れをきっかけに欠食が慢性化することがありますが、そうなると摂取栄養量が不足しつづけてしまうことになります。

 

②間食を取り入れる、少量頻回食にする

 

1回で1食分の量を食べられないという場合は、1日3食にこだわらず、間食を摂ったり、5食にするなど食事回数を増やしたりすることで、1日の必要量を補給するようにします。

 

③毎食タンパク質を含む食品を取り入れる

 

 肉,魚卵,大豆製品、乳製品のいずれかを毎食摂ることで、筋肉のもととなるタンパク質を補給します。

 

④水分補給はこまめに

 

 水分はこまめに摂取するようにします。食事が十分摂れていて、食事時にお茶などの飲み物を摂取している場合でも,食事時以外で計500mLくらいは摂取できるとよいでしょう。

 

⑤栄養バランスを考える

 

 エネルギー源となる主食,筋肉のもとになるタンパク源を補給する主菜、身体の調子を整えるビタミン・ミネラル類を補給する副菜や汁物、というように、一汁二菜または一汁三菜を目安にしましょう 。すべてを手作りしなくても、スーパーの総菜やレトルト食品。冷凍食品などを取り入れながら、なるべく多品目の食材を食べるようにします。

 

⑥栄養補助食品を活用する

 

 通常の食事量が摂れない場合は、少量でも必要なエネルギー量やタンパク質量などを摂取できる、栄養補助食品を活用してもよいでしょう。

 

●摂食嚥下機能に適した食形態とは?

 

 「噛みにくい」「飲み込みにくい」と感じている高齢者が必要栄養量を確実に摂取するためには、摂食の下機能に合った食形態に調整する必要があります。では,噛みにくい、飲み込みにくい場合はどのような工夫が必要か考えてみましょう。

 「パンがパサパサして食べづらい」という場合は、飲み物やスープに浸したり,フレンチトーストにしたりすると食べやすくなります。また、まとまりにくくばらつきやすい米飯は,ひきわり納豆やとろろなど粘りがあるものといっしょに摂ることで,ばらつきやすさが軽減されます。

 

●その他の工夫

 

 認知機能の低下や覚醒状態の悪化などにより食事が進まない場合は、「はっきりとした味つけにする」「香辛料などを利用して香りを強くする」「体温と差がある温度にする」などの刺激があったほうがよいでしょう。

 また、好きなものや好きな味、なじみのある料理を中心にした献立にしたり、きれいな器に盛りつけたりすることで,食欲が増進されて食事が進むこともあります。こうした工夫は医学的ではないかもしれませんが、高齢者の食事を提案するうえで、本人や家族の「語り(ナラティブ)」から得られる情報がとても重要です。食形態を含む食事内容の提案は、摂食嚥下機能評価に基づいて行うことが大前提ですが、本人や家族の嗜好や生活スタイルに合わなければ、難しいです。食事はあくまで生活の一部です。高齢者が食事を楽しめるようなサポートができるといいですね。

成人期以降〜高齢の方の口腔機能について

2024年7月27日

こんにちは、こさか歯科クリニックです。

口腔機能についてのトピックです。

⚫️成人期以降(高齢者)の口腔機能の変化
—まずは知っておきたい!食べることのメカニズム—

 

①食べ物の認識

 

NY大学の短期留学中、よく食べていたチキンオーバーライス。

初めて見る食べ物ですし、見た目はぐちゃっとしていてどんな味かわからないわけです。

それに対して、よく食べるものは目で見て食物の性状や味、温度も予想できます。

ちなみにこのチキンオーバーライスは、外食した中でもピカイチのお味でした。

本来、私たちがものを食べるとき、捕食すること前に過去の経験などからその食べ物はどのようなものか(噛む必要がある食品なのか?舌で押しつぶして食べるものなのか?嚥下だけで対応するものなのか?など)について、食べ物を見る、触る、匂いを嗅ぐなどして判断します。

 

②食べ物の取り込みと咀嚼

 

前歯は、ものを噛み切る「咬断」に向いた、シャベルのような形状をしています。

 

食べ物を口腔内に取り込む前に、口唇や前歯によって適当な大きさに切り取られ、舌は食べ物を迎えるかのように切歯の付近まで突出します。この際にも口唇や舌は食べ物の物性や温度などを感知して、その後の処理方法にかかわる情報を得ます。ある程度の固さをもち、咀嚼のが必要な食品に対しては、舌で受け取った後。すばやく咀嚼する側の歯の上に舌で食べ物を移動させ、舌と顎の動きの協調運動により上下の歯列で粉砕処理します。プリンのような軟らかい食品の場合、舌と口蓋で押しつぶすように処理されます。このとき、鼻腔は咽頭と交通し、呼吸をすることが可能です。

 

奥歯はものを噛み砕くために適した形態です。

特に第一大臼歯は、7割くらいの人がものを最初に噛み砕く機能を有しており、

主機能部位と呼ばれる噛み合わせのエリアがあります。

 

③食塊形成と飲み込みの開始

 

咀嚼が進んで口の中にバラバラに粉砕した食べ物は、そのまま飲もうとすると誤嚥してしまうことがあります。なぜなら、嚥下の際に私たちが息を止めていられる時間は0.5秒ときわめて短いためです。口の中でバラバラに広がった状態で飲もうとすると,早く喉に向かうもの、後から向かうものも含め、0.5秒に間に合わなくなってしまいます。そこで,バラバラに広がった食べ物を舌で上手に一塊にまとめあげることが必要になります(食塊形成)、この際に、唾液と十分に混ぜられるとより飲み込みやすくなります。
食べ物が一塊にまとめられると、軟口蓋が持ち上がることで鼻咽腔が閉鎖されます。この際に舌の前方が強く口蓋に押しつけられ、波打つように動かしながら咽頭に食べ物を押し込みます。

 

 

④咽頭(のど)への送り込み

 

舌の後方は口蓋や軟口蓋に向かって動き、食べ物を押し込みます.食べ物は一気に咽頭の下方に流れ込みます。そのとき、気管の入り口にある喉頭蓋が倒れ込み、同時に声帯など気管を保護するいくつかの構造物が閉鎖し、気管を閉じます.これにより、食べ物が気管に入り込むのを防止します(この食べ物を飲み込む間,息が止まっている時間が0.5秒)。

 

⑤食道への送り込み

 

舌根部は咽頭の後壁に向かって食べ物を押し込み、咽頭の後壁は前方に張り出すことで食道への押し込みを助けます。

 

 

⑥飲み込みの完了

 

食べ物は、すべて食道内に押し込まれました。あとは食道の蠕動運動により胃に向かいます.食べ物が食道に押し込まれたと同時に、喉頭蓋は跳ね上がって気道が開放され、呼吸が再開されます。

 

—高齢期にみられる口腔機能の変化—

 

成人期以降に起きる口腔機能の問題としては、一度獲得した機能が生理的に低下したり、病気が原因で失われたりすることがあげられます。

 

—筋力の低下–

 

加齢とともに全身の筋力は低下します。これは、生理的に起こる筋肉量の低下に加えて、低栄養などによる筋肉量の減少からも影響を受けます。この変化は、口腔や咽頭の筋肉にとっても例外ではありません。ロ腔や咽頭の筋力が低下することで、結果、噛む機能や飲み込む機能も低下するのです。特に舌は筋肉の塊ですので,舌の筋力の低下は、噛む機能。飲み込む機能に加えて、話す機能に影響を与えます。

 

—唾液の減少—

 

唾液は、噛んだ後の食べ物に湿り気を与え、まとまりやすく変化させるのに必須です。また、食べ物の味を含んだ物質を、味を感じる細胞(味蕾)に届けるのは、唾液の役目です。唾液の分泌量は、加齢そのものでは大きく変化しないといわれています。しかし,高齢者が服用している薬の多くは唾液の分泌を妨げる作用をもっています。特に「多剤服用患者」とよばれる。
多くの薬を飲んでいる高齢者では、唾液分泌が薬の影響を受けている場合が多くなります。

 

–喪失歯の増加—

 

現在、80歳で20本の歯を有する人の割合は、50%を超えているといわれています。しかしながら、いまだに残りの50%の人は歯を喪失し、義歯などの補綴装置を使うことで口腔機能を保っているといえます。しかし、義歯による咀嚼機能の回復には限界があり、組織機能の面では天然歯の有意性は揺るぎません。つまり、喪失歯の増加は咀嚼機能の低下につながるといえます。

 

⚫️口腔機能が低下することによる問題

 

—摂食嚥下障害—

 

高齢になると、加齢による機能の低下に加えて、複数の全身疾患をもっていたり、多種多様な薬を服用していたりするため、摂食嚥下障害になる危険性が非常に高まります。高齢者に多いの嚥下障害の症状としては、咀嚼ができない、食べこぼし、嚥下反射が遅くなる、食道の入口の開きが悪くなる、飲み込むのに時間がかかる、唾液が少なくなる,むせたときに咳をすることが下手になる、などがあります。また、摂食嚥下機能に影響を及ぼす副作用がある服用薬としてアトロピンなどの抗コリン薬、三環系抗うつ薬、抗てんかん薬などがあり、注意が必要です。

 

—誤嚥—

 

気道と食道はこのように交差しているので、

摂食嚥下の過程で誤って食物が気管内に入らないよう、

筋肉が協調運動をしているのです。

食物が通る際は、通常気管へ入らないように蓋がされるわけです。

声帯を越えて気管内に唾液や食べ物が侵入することを「誤嚥」といいます。声帯を越えなく喉頭内にこれらが入り込んでしまった際には、「喉頭侵入」といいます。食べ物や唾液が誤嚥や設
喉頭侵入を示すと、それを喀出するために咳嗽反射が起こり、「むせ込み」がみられます。ですから「むせ」がみられた際には,誤嚥や喉頭侵入を起こしていると考えて間違いありません。一方で、誤嚥してもむせず、睡眠中に無自覚に唾液とともに細菌が気管や肺に入る場合もあり、「むせなし誤嘸(不顕性誤嚥)」とよばれています。

 

—窒息—

 

「窒息」とは、空気の道である気道、すなわち口から咽頭、喉頭、気管にかけての道に食べ物が詰まり、呼吸ができなくなったことを指します。この窒息は、命の危険に直結するために注意が必要です。窒息事故は、さまざまな食品によって起こります。死亡に至た窒息事故の原因食品を消費者庁の報告からみてみると、1位である「餅」についで,「米飯」「パン」「肉」「魚介類」と続き、われわれ日本人が普段から食べてい食品が並びます。特に嚥下機能が低下した高齢者おいては、窒息への配慮が必要です。

 

—脱水・低栄養—

 

私たちが1日に食べたり飲んだりしている食事やお茶の量を想像してみてください。3度の食事に加えて、おやつや夜食、紅茶やコーヒーなどを頻繁に摂取していると結構な量になることがわかります。1日分を並べれば、テーブルいっぱいになるような量です。一方。摂食嚥下障害がある人では、十分な食事を摂ることが難しくなれば、当然「低栄養(栄養障害)」に陥ります。
「嚥下障害の人はスプーン1杯の水で溺れる」という言葉があります。通常、水というと誰しも飲みやすいものと思いがちです。しかし、嚥下障害の人にとって、水は動きが速く口腔内でバラバラに広がることから。もっとも誤嚥をしやすく、飲みにくいものなのです.水は、私たちが生きていくために毎日摂取しなければならない重要なものです。嚥下障害になり、水やお茶,みそ汁などの水分を摂るときにむせるようになると、知らず知らずのうちに摂取量が減少し。「脱水」につながります。

 

—食べる楽しみの消失—

 

「生きるために食べよ、食べるために生きるな」・ギリシアの哲学者・ソクラテスの名言としていまも残るこの言葉は、日々、忙しく働く私たちにも教訓を与えてくれます。しかし、「食べることは生きることである」ことも事実で、特に摂食嚥下障害患者さんにとっては、食べることが制限されるなか、「食事を楽しめない人生なんて!」と思うのも無理はありません。
食べるものに制限があっても、食べる楽しみを味わってもらえるような支援を継続することが必要です。

お子さんの食べ方、気になることはありませんか?

2024年7月2日

こんにちは、こさか歯科クリニックです。

小児の患者さんの、口腔機能についてのトピックです。
ご家庭でお食事される時、ふとした時、
「よく見たらうちの子、食事中の癖が強いな」
「いつも口がポカンって開いてる」
「舌がよく出てる」
「食事でよく噛めてないようで、時間がかかる」
「他のお友達と比べて、永久歯の生え変わりが進んでないな」
と気づかれることがあるかもしれません。
実は、それらはお口の発達不全につながっているのです。

 

リットレメーター

 


お口がよく開いているお子さんの、口唇閉鎖機能を検査するリットレメーター:マウスピースを唇で保持してもらい、どのくらいまで引っ張れるかテストをします。診断の一つの根拠になります。実は口が常に開いていると、口臭がキツくなる、虫歯や歯肉炎が悪化しやすい、アレルギーになりやすいなどよくないことにつながります。

 

⚫️食べることの問題

 

—噛まない—
①歯は生えそろっているか?

 

食べ物を噛んで食べるには、臼歯の咬み合わせが重要です。摂食機能の発達から事例をみると,通常2歳であれば咀嚼機能は獲得されていますが,歯の萌出状態によっては繊維の多い野菜や肉、かまぼこなどの練り製品は咀嚼しきれずに口の中に残ってしまう場合があります。そうすると,丸のみや口から出してしまうといった行動につながりやすくなります。萌出前の歯肉しかない時期や生えはじめの時期、また永久歯への交換の時期には、食事のメニューの選択の配慮が必要です。

 

②弱い力でもすりつぶせるか?

 

咀嚼機能の発達にも個人差があり、2歳でもまだ十分に機能が育っていない可能性があります。口の動きを観察し、「左右の口角は非対称に動いているか」「噛んでいる顎のほうに、口唇や顎は引っ張られているか」「舌は横に動いているか」を確認します。
これらができていなければ、まだ咀嚼機能が十分に育っていない可能性があります。


小児の方に、というわけではないですが、咀嚼能力を検査する機器がこちらです。検査用のグミを噛んでもらい、どの程度噛み砕けたか、センサーで確認できるものです。歯を失って機能に影響が出ている方の診断と、治療後の咀嚼機能を評価する基準に用いられます。

 

③かじりとりはできるか?

 

咀嚼するためには、まず自分の前歯で自分の口に合った一口量をかじりとることが大切です。それによって、前歯の歯根膜に食べ物の感覚が伝わり、口に入る食べ物の固さや量を感知し、その後の咀嚼運動へとつながっていきます。逆に、前歯でかじらず口の奥にポーンと放り込むような食べ方をしていると,口の中の感覚情報が得られず、咀嚼運動が引き出されにくくなります。

 

④食べることを急かされていないか?

 

咀嚼しないことの弊害は、「丸のみ」につながることです、臼歯が生えそろい、咀嚼機能が獲得されているにもかかわらずあまり噛まない場合。環境に原因があることも多いようです。「急いで食べなさい」などと急かされていたり、あるいは兄弟や姉妹と争うように食べていたりなど、早食いせざるをえないような環境にあるのかもしれません。早食いが定着すると窒息事故にもつながる恐れがあります。心身ともにリラックスして食事ができる環境を整えてあげることが大切です。
また。食べるのが速い。噛む回数が少ないことは、肥満の原因となります。よく噛むことは食べ物のおいしさを引き出し。消化吸収を助け、満腹中枢に作用して満腹感を得ることにつながります。子どものころからしっかり噛んで食べる習慣をつけ、生活習慣病にならないように指導しましょう。
※正常な咀嚼機能の見方
①咀嚼しているほうへ口唇.顎.舌が寄るのがみ
られる。
②歯の上の食べ物を舌と頬で支えている。

 

—口に溜めて飲み込まない—
①口の機能の発育段階と食べ物の形・固さは合っているか?

 

「食べる意欲はありそうなのに、口に溜めたまま飲み込まない」…..そのような場合は、食べ物の形・固さが摂食機能の発達段階に合っていない可能性があります。たとえば、小学校入学前の6歳では、咀嚼機能も十分に育ち、第一乳臼歯の萌出とともに咀嚼の力は強くなりますが、まだ大人と同じくらいの力までは身についておらず、固い食べ物を何でも食べられるわけではありません。同時に、前歯の交換も始まるため、前歯が動揺していたり、抜けていたりすることから、かじりとりができない時期でもあります。その結果として、口の中の食べ物をうまく飲み込めずに、口に溜めたままになってしまうことも考えられます。このような時期に摂食機能に合わない固い食べ物ばかり食べさせていると、口に溜めたままになってしまうか,あるいは無理に丸のみする癖がついてしまいます。子どものそのときどきの口の環境や摂食機能の状態に合わせて、食べられる形・固さの食べ物を与え、すこしずつ機能を伸ばしていくようにします。
※摂食機能の発育段階に適さない形・固さの食べ物を与えると、正常な摂食が困難になってしまいます。

 

②食べる意欲はあるか?生活は乱れていないか?

 

子どもは同じ年齢でも個人差が大きく、食欲もまちまちです。食欲旺盛な子もいれば、小食の子もいます。子どもが小食の場合,親は「ちゃんと栄養が摂れているのかしら?」と心配しがちです。そうすると。「もっと食べなさい」と食事の量を増やしたり、追いかけ回して食べさせようとしたりしてしまい。子どもにとっては食事が苦しいものになっている可能性があります。また,間食(おやつ)やジュースを摂る量が多くなっている場合は、つねに満腹で食べる意欲も育ちません。それでも食べなくてはいけない状況になると,結果的に「口に溜めたまま飲み込まない」ということになってしまいます。
外遊びや友だちとの遊びをとおして適度に運動をさせ、自然に空腹感を味わえるような生活リズムをつくることも大切です。

 

—食べるときに舌がいつも出る—
①嚥下はきちんとできているか?

 

口が開きっぱなしで,の嚥下時に舌が出るということは、まだ「乳児の下」をしていると考えられます。通常、離乳食が開始された5~6カ月ころには、口を閉じての下する「成人の下」が獲得されますが、哺乳を継続しているお子さんだと、舌の使い方が哺乳のときのまま残ってしまうことがあります。その場合,まずは哺乳瓶をやめて、水分をスプーンやコップから飲むように促していきます。もし、哺乳瓶の使用をやめてしばらく経っても乳児嚥下が改善されなければ、成人嚥下を覚えてもらう練習が必要かもしれません。その場合,口唇と顎をしっかり閉じた状態での嚥下できるよう、お母さんなどの指で、口唇を閉じる介助を試みるようにします。

 

②口唇の力はあるか? いつも口が開いたままか?

 

咀嚼の動きはできているようなので、幼児食程度の固さのものでも食べられるかもしれません。しかし,口を閉じるための筋肉,特に口輪筋が低緊張であるといつも口が開きっぱなしになり、そのためにの下時に舌が出てしまう可能性もあります。また、鼻炎などで鼻から呼吸ができない場合は口呼吸となりますので、やはり口が開きっぱなしとなり、安静時の筋肉の緊張度にも影響が出てしまいます。


「うちの子、いつも口開いてるんです」というお話は、診療室でよく聞きます。お口や顔面の成長は、生まれた時からの授乳をどうしていくか、から考える必要があります。母乳が可能な場合は、赤ちゃんが顔を真っ赤にしておっぱいを飲む、この行為自体に非常に意味があります。一生懸命吸っていくことにより、骨が正常に成長していきます。
よくないのは、小さい力で飲みやすいようにと哺乳瓶の吸い口を大きくすることです。楽に飲めるようにと考慮されたものかもしれませんが、発育にとっては逆効果のものなので、使用されない方が良いです。

 

③食べ物は咀幅機能に合っているか?

 

「咀嚼はできるけれど舌を出しての下してしまう」・・・・・・このような場合、いったいどのような食べ物が合っているのでしょうか、ここで大切なのは「咀嚼の動きがどこまでできているのか」ということです。咀嚼の動きというのは、顎や舌が側方に動くことだけを指すのではありません。顎や舌とともに口唇や頰も上手に協調させながら、奥歯で食べ物を十分にすりつぶし,唾液と混ぜ、そして舌の上で一塊にすることができなければ、上手には飲み込めません。したがって、咀嚼しきれない食べ物を飲み込もうとするために、舌が出てしまっている可能性が考えられます.そのような場合は、咀嚼機能に食べ物が合っていない (食べ物が固すぎる)可能性が高いので、咀嚼できる軟らかいものに変えていくようにしましょう同時に、舌を出さずに嚥下する機能を獲得するためにのアプローチを行っていきます。
摂食機能の発達には、ある程度順番があります。しかしときには,この順番が違ってしまうこともあります。本人の発達段階に合わせて摂食機能を促すことが原則ですが、安全面を考慮しながら、獲得している咀嚼機能を大切に育てていくことも考えていくようにしましょう。
ほかにも、食行動の問題は、齲蝕など口腔内の痛みが原因のことも考えられます。まずは口腔内にこうした器質的な問題がないかをチェックし、そのうえで機能面の対応をしていきましょう。

 

小児の口腔機能発達不全の診断基準

 

○離乳前    以下の2つ以上該当する
・お口ポカン
・小帯付着異常
・授乳時間、回数のムラ
・スプーンを押し出す癖
・離乳がすすまない

○離乳後    Aから1つ以上、Bから2つ以上該当する
A:歯の萌出の遅れ、歯列不正、偏咀嚼、虫歯があって咀嚼に影響ある、強く噛みしめられない、咀嚼時間が長すぎる
B:舌突出癖、口唇閉鎖不全、小帯の異常、舌や口唇、指吸いなどの癖あり、食べる量や回数のムラあり、構音の異常。

口腔機能発達不全に対する検査、筋機能訓練、生活習慣指導は、保険診療でも認められております。
お子さんのお口が気になったら、こちらからお気軽にご相談ください。

口腔機能、その成り立ち

2024年7月2日

こんにちは、こさか歯科クリニックです。

なぜ、歯科診療室で口腔機能をみることが重要なのか?
ヒトは、どのように口腔機能を発達させるのか?
についてのお話です。


下の前歯の方が上の前歯よりも出ている、逆被蓋の状態。不正咬合の一種。

 

⚫️ヒトの口腔の発達は母胎内から始まる!

 

口は、「呼吸」と「嚥下」という,ヒトが生きていくうえでなくてはならない2つの機能を担う器官です。そのため、これらの機能は胎生期のかなり初期から発達しています。
受精後,胎児は胎生24週には吸啜の動きが出現し,28週ころには吸啜との下が同期するようになります。吸啜の動きを自分の指で繰り返し練習することで、出生後すぐに哺乳を行い。栄養を摂取することができるのです。このように、胎児の吸啜・嚥下運動は、母胎内ですでに感覚・運動系の発達として獲得されています。そして,出生後の食べる機能(摂食嚥下機能)もまた,感覚・運動系の発達としてなされていきます。
この機能は、口腔と咽頭の形態発育との関連がとても深いのです。ヒトの哺乳期の口腔や咽頭は,吸啜(哺乳)を行うのに適した形態をしていますが、その後離乳が始まり、固形の食べ物が食べられるようになるにしたがって口や顎が成長し、ものを噛んで食べるのにふさわしい形態に発達していくのです。

 

●成長・発達による口・喉の変化(嚥下時)

 

①乳児のころ(乳児嚥下)
哺乳期の舌は前後の動きが主であり、喉の位置(気管と食道の入り口)は高い。
②離乳食が始まったころ
舌は上下に動いて食べ物をつぶすようになり、下唇が内側にめくれ込む動きもみられる。
③乳歯が生えはじめたころ
舌のさらに複雑な動きができるようになり、下唇のめくれ込みはみられなくなる。また、喉の位置も下がり、発声のための音をつくる空間ができていく。

 

●”食べる機能”発達の原則

 

食べる機能(摂食嚥下機能)の発達には、原則があるとされます。それは、「個体と環境の相互作用」です。子ども本人の「発達する力」と、周りを取り巻く「環境」からの刺激がバランスよく働きかけあうことで,感覚・運動の統合がなされ、食べるために必要な機能の発達が促進されます。また、食べる機能の発達には適切な時期があり、年齢が低いほど内発的な力が旺盛です。しかし、最適な時期を過ぎたとしても,時間がかかるかもしれませんが食べる機能の獲得はなされていくと考えられており、何歳になってもあきらめるべきではありません。

乳歯列から成長し、生え替わりの途中の時期。このように乳歯の間の隙間が目立ってきます。永久歯への生え変わりに向けて、顎が成長していきます。

 

●“食べる機能”の発達の順序とは?

 

食べる機能はある一定の順番で発達していきます。全身の姿勢や運動に関連する粗大運動の発達では、じめに頸定し(首がすわり),座位がとれるようにり、つかまり立ちをし,一人歩きをする,といった番がありますが、食べる機能も同様で、哺乳からしなり咀嚼機能が獲得されるわけではなく、口唇を閉たり、舌が前後から上下,左右へと動いたりするこができるようになりながら咀の動きが獲得されてきます。そして、その動きには”予行性”があることもいわれています。これは、「獲得された動きを十分に経験することで、次の段階の機能が獲得されやすくなる」ということです。つまり、そのとき食べられる形、軟らかさの食事を十分に食べているうちに、次の段階の機能が自然と引き出されてくるということなのです.

 

●口腔機能の発達はヒトそれぞれ

 

機能の発達は、日々順調に進んでいくわけではありません。階段を上がったり降りたり、あるいは螺旋階段を登るように遠まわりしながら伸びていく場合もあります。ヒトほど個人差の大きい動物はいないといわれるほど、食べる機能の発達過程にも個人差があります.これは機能面のみならず、歯の萌出時期や口腔形態の違い,個人の性格や家庭環境による違いなど、さまざまな要因が影響するためです。したがって、同じ月齢,年齢で比較することは意味がないばかりか、かえって弊害を招くことが多くなります。
このように、ヒトは自分のもっている力に加え、実にさまざまな要因の影響を受けながら口の機能を発達させていきます。このことは、健康な子どもも発達に遅れのある子どもも、変わりはないのです。


下の前歯が見えないほど深く噛み込んでいる、過蓋咬合の状態。顎の成長に影響があります。

 

⚫️人は、どのように老いるのか?
●いま来院している高齢者はいずれ通院不可能となる

 

日本人はどのように老いていくのでしょうか?全国の高齢者を20年間追跡調査し(N=5717),高齢者の自立度の変化パターンを調べた報告があります。その調査によると、男性では
60歳代前半から一気に自立度を低下させるパターンは19%で、脳血管疾患への罹患など全身疾患がその原因となります。一方で,75歳以降に徐々に身体機能の低下を示すのは約70%であり、加齢とともにその発症率を増すさまざまな疾患に加え、低栄養に伴う筋力の低下などが原因と考えられます。
高齢者の多くが憧れる“ぴんぴんころり (亡くなる直前まで元気に生活すること)”は10%程度にすぎず、多くの高齢者が徐々に身体機能・認知機能を低下させ、自立度を低下させていることがわかります。手段的日常生活動作について援助が必要。加えて基礎的日常生活動作についても援助を必要とする。
「手段日常生活動作」とは、買い物や洗濯などの家事や、交通機関を利用した外出や服薬管理、金銭の管理など高次の生活機能を維持するために必要な能力です。一方、「基礎的日常生活動作」は、食事や着替え、就寝・起床、入浴やトイレに行くなどの基本的な生活動作を示しています。つまり、70%の人が80歳を前にして、齲蝕や歯周病の予防が可能な口腔衛生管理ができなくなる恐れがあり,80歳代前半には外来受診が困難になるといえます。また、晩年まで自立を維持できる10%の人を除いて、期間の長短はあるにしろほぼすべての人が自立した生活が困難な時期を過ごすことになり、歯科医院への通院が不可能となることを示しています。
60歳代前半から一気に自立度を低下させる19%の多くは、病気などで一気に通院が困難になった方たちで,皆さんが診療室に勤めている限りはお会いすることはないかもしれません。一方で、いま、元気に来院してくれている高齢者のなかには、もうすぐに、約70%のコースに乗っている人たちも多くいるはずです。
つまり、高齢者についてはある意味,ほぼすべての人が通院不可能になることを考えて,歯科治療の計画を立てる必要があります。次のリコールやメインテナンスの際には、もしかしたら体調を崩して診療室に来ることが困難になっているかもしれませんし,「次の診療の機会は訪問診療で…」ということになる可能性もおおいにあるのです。

 

●口腔機能は低下する〜診療室でも早めの対応を!

 

すべての人の口腔機能は低下します。70歳の患者さんも80歳の患者さんもいつまでも口だけが健康というわけにはいきません。誰もが老いたくはありませんし、いつまでも若いままでいることを望みます。しかし、残念ながらすべての人に老いは訪れ、身体機能。認知機能の低下に伴って口腔機能も低下し。口腔衛生管理が徐々に困難になってきます。手を細かく動かすことが困難になり、口腔器官の運動能が低下することで自浄作用も低下し、口腔内が不潔になりがちになります。
つまり、高齢者の口の機能の低下に気づき、早い段階で改善・予防することができれば、齲蝕や歯周病の予防となるだけではなく、その後の口腔機能をできる限り維持し、最期まで自分の口で食事を楽しむことにもつながってくるのです。

 

●運動障害性咀嚼障害とは?

 

咀嚼障害は、その原因から「器質性咀嚼障害」と「運動障害性咀嚼障害」に分けることができます。器質性咀嚼障害とは、歯をはじめとする咀嚼器官の欠損によって起こる咀嚼障害です。この器質性咀嚼障害に対しては、義歯などの補綴治療による咬合回復が咀い機能改善のための唯一の方法となります。
一方,避けては通れない生理的老化により身体機能は低下を示し、また、依然日本人の死亡原因の上位を占める脳血管疾患などによっても身体機能は障害されます。これら身体機能の低下や障害は、口腔にも及んで咀嚼障害を引き起こし、これを「運動障害性咀嚼障害」とよびます。この場合には、一般的な歯科治療による咬合回復に加えて,筋肉に負荷を与え運動機能の回復を目指すレジスタンス訓練や,巧緻性の訓練の実施も必須となり、歯科診療室においても「器質性咀噂障害」と「運動障害性咀嚼障害」の両面からアプローチしていくことが求められています。
このように、社会が高齢化し、歯科においても齲蝕・歯周病などの口腔疾患だけではなく「口腔機能」にもアプローチすることが重要視されています。

口腔機能の発達や、機能障害を回復するリハビリなど、お問い合わせはお気軽にこちらからお願いします。

メンテナンスの始まり

2024年7月2日

こんにちは、こさか歯科クリニックです。


メンテナンスで用いる機材の一部:手前の小さいブラシは超音波で汚れを除去するサスブラシです。


エアフロー:審美的にも清掃効果を感じやすい機器です。パウダーを吹き付けて着色除去します。

 

◼️治療後メインテナンスの始まり

 

 

●治療後メインテナンスとは?

 

歯周動的治療をして歯周病の進行リスク、再発リスクを下げたうえでメインテナンスに移行するのが、歯周治療の原則です。ということは基本的にはすべて動的治療をするわけですから、わざわざ「治療後メインテナンス」というメインテナンスを設ける必要はないような気がします。歯周病のメインテナンスのすべてが治療後メインテナンスなわけですから。では、なぜ設けるのでしょうか。
メインテナンスに移行するときのリスクの程度は患者さんによってさまざまです。動的治療のゴールの設定にはある幅があって、その幅があるためにメインテナンスにも幅が出てきます。この幅の中に現れるのが治療後メインテナンスというもので厳密な言葉の使い方にこだわると、メインテナンスはすべて治療後メインテナンスということになってしまいますので注意が必要です。
予防的メインテナンスの患者さんは元々初診時にリスクが低いわけですから、動的治療のゴールも究極のゴールになっていて、場合によってはほとんど自力でそのすばらしいゴールを切られる患者さんもいらっしゃいます。動的治療における私たちの関与がもっとも少ないメインテナンスです。それに対して治療後メインテナンスでは最初はリスクが高く、それを動的治療によりリスクを下げた後に行うメインテナンスということになります。その場合の動的治療は、その患者さんにとって望ましいと思われるような治療オプションを採用しています。同じようにリスクの高い患者さんに動的治療をする場合でも、次善の策をしている試行的メインテナンスやほとんど手をつけていな(手をつけられない)妥協的メインテナンスとはリスクの下がり方が異なってきます。
このように治療後メインテナンスは初診時にリスクの高い患者さんに対して動的治療をしっかり行った後のメインテナンスということになりますので、どのような症例に対してどのような動的治療を行ったかによって、リスクの程度や治療のポイント、メインテナンスプログラムの内容などに違いが出てきます。そこで動的治療の内容によってこの治療後メインテナンスも分類していきます。

 

●歯周動的治療の分類

 

メインテナンスの話の途中ですが動的治療に逆戻りしてみましょう。それは、動的治療を理解していないと治療後メインテナンスが理解できないからです。歯周動的治療の分類にもいくつかあります。
歯周治療では、ポケットをいかに浅くしていくかという大きなテーマがあります。そして病的歯肉溝(ポケット、pocket)から健康歯肉溝(サルカス、sulcus)にする場合、サルカスにはシャローサルカス(shallow sulcus)とディープサルカス(deepsulcus)の2種類があって、そのどちらを目指すのかというテーマもあります。この2つのテーマを同時に考えることで動的治療の理解を深めてみましょう。
ポケットが浅くなる!つまりプローピング値が小さくなるときには、大きく分けて2つの治り方があります。1つが歯肉退縮(gingival recession)で、もう1つが付着の獲得(attachment gain)です。プロービング値というのは歯肉頂からプロープ先端までの距離ですから、歯肉頂が下がるかプロープ先端が入らなくなるかすれば、プロービング値が小さくなります。前者が歯肉退縮、後者が付着の獲得となるわけです。付着の獲得というのは軟組織による付着が治療後に起こるということで、上皮性の付着による獲得と結合組織性付着による獲得の2種類がありますが、多くは上皮性の付着による付着の獲得が起こります。
この場合、通常は1mm程度の長さの上皮性付着が数mmと長く付着しますので、長い接合上皮(longjunctional epithelium、LJE)による治癒といわれます。
さて、歯肉退縮と付着の獲得という治癒の経過をとるとどのような治癒形態となるでしょうか?結論をいいますと、歯肉退縮ではシャローサルカス、付着の組ではデープサルカスンというパターンで考えればいいでしょう。これで先に述べた2つのテーマが結びつきました。
さて、一般論を理解したところで各論に移りましょう。歯周動的治療は、非外科療法と外科療法に大きく分かれます。まずは非外科療法から見ていきます。
非外科療法は根面デブライドメントを中心にした治療になります。動的治療における根面デブライドメントは従来のSRPとなりますので、ここではSRPという言葉を使うことにします。このSRPを行うとどのような治癒が起こるのでしょうか?実は非常に多様な治癒の仕方をしますので一言では表現できません。シャローサルカス、ディープサルカス両方の可能性があるのです。詳細は後述しますが、浮腫性の歯肉や水平性骨欠損の症例ですとシャローサルカス、線維性の歯肉や垂直性骨欠損の症例ですとディープサルカスができやすいという傾向があります。もちろんあまり深いポケットでは、ちゃんと治癒せずポケットの残存ということもあります。
では外科療法ではどうでしょう?外科療法には切除療法、組織付着療法、再生療法、歯周形成外科療法の4種類がありますので、順を追って見ていきます。
まず切除療法はどうでしょう?これは歯肉弁根尖側移動術に代表される歯周外科ですが、これらの治療法を採用すると歯肉退縮が起こり、術後シャローサルカスができます。通常骨整形により骨を生理的な形態に修正し、フラップ断端を骨頂に位置づけることによりもっとも浅い歯肉溝、つまりシャローサルカスができあがります。
改良型ウィッドマンフラップに代表される組織付着療法では逆に付着の獲得で治りますので、術後はディープサルカスによる治癒が起こります。この場合骨整形は行わず、SRPをしっかり行った後フラップをできるだけ元の根面上に戻すようにすることにより、長い接合上皮による治癒が起こるわけです。
再生療法では垂直性骨欠損部に膜や骨移植材、エムドゲインなどを適用して新たに組織を誘導してきますので、主に付着の獲得による治癒となります。ただ前述の組織付着療法と違って結合組織性付着ができる可能性が高くなっています。再生療法単独ではある程度上皮の埋入などがあってディープサルカスとして治ることが多いように思いますが、仕上げに切除療法をすることにより、組織が再生したうえにシャローサルカスができます。
最後に歯周形成外科療法ですが、これもいくつか種類があるので、結合組織移植術を用いた根面被覆術だけに絞って話をします。歯肉退縮を起こした根面に結合組織移植をすることで歯肉を元に戻そうという治療法ですが、移植片と根面は多くの場合長い接合上皮で治癒しているようです。つまり上皮性付着による付着の獲得が起こり、その結果できあがる歯肉溝はディープサルカスということになります。
このように動的治療と一言でいっても内容は多岐に渡りそれぞれによって治癒の仕方が違うわけですから、それを治療後メインテナンスとしてメインテナンスしていく場合も単純ではありません。つまり非外科療法後の治療後メインテナンスや外科療法後の治療後メインテナンスがあって、外科療法も4種類分かれるわけですから、切除療法後、組織付着療法後、再生療法後、歯周形成外科後の治療後メインテナンスが存在することになります。


超音波で歯石を除去する機器:外科療法、非外科療法ともに用います。外科というとたいそうな手術を想像されるかもしれませんが、実際は歯肉に隠れた感染源を除去する目的の小規模な手術です。歯科領域の虫歯治療、歯周病治療とは、原因を除去する外科の部分が多いと感じます。

 

●治療後メインテナンスの特徴

 

治療後メインテナンスを受ける患者さんの初診時は歯周病菌が繁殖し、すでに歯周組織の破壊が進んでいます。付着の喪失や骨の喪失、場合によっては歯の喪失をされていることもあるでしょう。つまり予防的メインテナンスに比べて初診時のリスクがかなり高いということになります。そのため積極的な動的治療が必要になり、その動的治療も症例によっていろいろ使い分けていくことになります。
動的治療後の治癒形態は多岐にわたります。動的治療で採用したオプションによってももちろん異なりますし、思い通りに治らないことがあるというのも臨床です。もちろん同じ口腔内でもさまざまな治癒形態が混在するわけです。予防的メインテナンスの患者さんの口腔内はシャローサルカスがほとんどと考えていいでしょうが、治療後メインテナンスの患者さんではシャローサルカスとディープサルカスが混在します。試行的メインテナンスや妥協的メインテナンスの患者さんに比べてポケットの残存は少ないのですが、理想的に事が進まないことも経験します。このように治療後メインテナンスでは、動的治療でどれだけ改善できたかによってメインテナンス移行時のリスクが異なってくることになります。


染め出し液、清掃用ペースト:歯科受診時に汚れを染め出したりされていますか?私たちはよほど小さなお子さんでない限り、基本的に染め出しを行います。理由は、患者さん自ら効果的に清掃できるようにサポートしていきたいからです。メンテナンスも汚れが付着しやすい部位が視覚的にわかりますので、やりやすいです。

 

●治療後メインテナンスのリコール間隔

 

通常、治療後メインテナンスのリコール間隔の基本は、3ヵ月といわれています。3ヵ月に一度というメインテナンスをしていれば、動的治療の内容にかかわらず悪化を防ぐことができたという論文が発表されています。この場合、動的治療の内容にかかわらずというところがミソで、これにより治療後メインテナンスのリコール間隔は3ヵ月ということになるわけです。
もちろん動的治療も理想どおりにできないこともあるわけですし、そのような場合は3ヵ月よりも短くする方が無難でしょう。また動的治療終了後いきなり3ヵ月リコールに移行するのではなく、最初は1ヵ月など、短めに設定する方が良いです。

私たちは、定期健診の施術時間を60分とり、歯肉も歯もスッキリ気持ち良い施術を行なっております。
お問い合わせはこちらからお願いいたします。