Tag Archives: 歯周病、口臭、歯茎、出血、歯槽膿漏、歯周病治療、除菌、歯周内科、歯周外科

お口のケアについて

2023年9月19日

歯磨剤(歯磨き粉)の有効活用
こんにちは、こさか歯科クリニックです。
みなさんは、お気に入りの歯磨きペーストをお持ちでしょうか?
私たちがよく使っているのは、こちらです。

左:GC ルシェロホワイト  歯の白さを保ちやすい。ホワイトニングした後の歯面が長持ちする。フレーバーも爽やかでキツさがないです。歯が削れにくいのも特徴。
中央、右:高濃度フッ化物配合のジェル。歯磨きの仕上げに少量塗布したり、泡を口に含んで使うもの。うがいや飲食までの時間を空けると、フッ素の虫歯予防効果が高まります。お子さんにも使いやすいフレーバーです。

歯磨きを数秒で終わる人もいます。ペーストをつけると、泡が立って、大抵ミントっぽいフレーバーが多く、口の中がすっきりする感覚が得られますので、なんか磨いた感があるわけです。
流石に歯磨きをする時間が少なすぎると、汚れが十分除去できません。そのため、歯磨きペーストで泡立ちが強いものは、あまり良い評価がなかったと思います。昔の話ですが。。泡立つのがよくないのであれば、ジェルタイプや、発泡剤の配合が少ないものを選ぶと良いでしょう。使い方を工夫すると効果的に使用できます。また、歯磨剤を付けないでブラッシングしたあと、仕上げをペーストでやるのも良い方法です。
ペーストに含まれる成分はどんなものがあるでしょう。クロルヘキシジンや塩化セチルピリジウム、トリクロサンなどがあります。もちろんこれらの抗菌剤が歯周病に効果があるかもしれません。
歯の表面にしっかりくっついているベタベタヌルヌル汚れがありますよね。このような汚れを細菌バイオフィルムと呼びます。これらは機械的に除去するのが最も有効です。ペーストやうがい薬の薬効を期待しすぎるのはあまりよくなくて、歯ブラシそのもので細菌を減らすのが良いでしょう。つまり細菌除去の主役は歯ブラシで、ペーストはわき役です。

しかもクロルヘキシジンや塩化セチルピリジウムのようなプラスの電気を帯びた抗菌剤は発泡剤の代表選手でありるラウリン酸ナトリウムで不活化される可能性がありますし、トリクロサンは電気を帯びていないもののその分効果に持続性がありません。もちろん発泡剤の入っていないようなクロルヘキシジン配合の歯磨剤の併用は細菌減少につながります。ただし歯ぐきの上だけの話で、ポケット内(歯ぐきの中)には残念ながらほとんど効果がありません。歯周病は歯茎の骨がなくなっていく病気ですので、歯周ポケットという病的な溝が、歯の周りに存在しています。歯科受診されて、専用の器具でポケットの内部を洗浄し、歯の根の表面についている感染源を除去をするのは、家ではできないことで、とても治療効果が高いものです。
歯周病の患者さんで、歯茎が下がってしまい、歯の根が大きく露出している場合があります。そこは根面う蝕(歯の根元のむしば)予備軍ですので、その予防として有効利用することがお勧めです。歯磨剤に含まれるフッ素濃度は薬事法で1500ppmFまでとなっておりましてそのぎりぎりまで含まれているものを選ぶようにしましょう。

歯磨剤に配合されてるフッ素にはフッ化ナトリウムやモノフルオロリン酸ナトリウムなどありますが、どの種類でも効果にほとんど差はありません。吐き出した後のだ液のフッ素濃度が1~2時間、0.1~0.05ppmF保ことがよいです。そのためには約0.5ℊの歯磨剤を使うこと、歯の根元にいきわたれせるように歯磨きすること、うがいの際は水量を少なくし(約30㎖)うがい回数を減らすことがポイントです。この方法ができれば毎食後、少なくとも就寝前には必ず行い、歯磨きごは飲食を控えるようにします。
歯磨剤はほとんどの患者さんが使っておられますので、その使用方法と選択だけ気を使っていただければこれだけでも十分効果が現れます。
研磨剤については、粗いものは避けましょう。歯の根元はけずれやすいので粒子の細かいものを選びましょう。しかし全く入っていないものは細菌バイオフィルムの破壊効率が悪くなってしまいますので適当ではないです。

歯科医院で染め出しをし、ブラッシングの不十分なところを改善する指導がよくありますね。一旦染め出しをすると、きれいに除去し切るのもの大変ですが・・・

メンテナスにおける根面デブライドメント
根面デブライドメントは根面(歯の根元)への付着物や変化を起こした根面そのものをきれいにしていく、かなり広い意味の言葉です。おもに歯石をターゲットに行う歯石除去や歯石の入り込んだ根面表層を除去していく(ルートプレーニング)も含まれますし、一旦滑らかになった根面に再付着してくる細菌バイオフィルムの破壊の含まれます。歯周病治療の中心は根面に付着したあるいは根面に
入り込んだ歯石を除去して細菌バイオフィルムも破壊します。(SRP)これにより歯ぐきの炎症は激減し、患者さんのセルフケアとタッグを組めば劇的な改善が見込まれます。

根面でブライドメントに用いる器具の一種。歯の種類や方向により用いる器具を分けて、根面を滑沢にきれいにしていきます。

では、メインテナンスにおいてはどうでしょう。歯周病治療で歯周組織や棍面の性状が改善したのであれば、根面は滑らかになっています。メインテナンスでは悪くならないことを目標にしているわけですから、滑らかになった根面に再付着してきた細菌バイオフィルムを除去することをメインに考えます。根面がさらに削れてしまうと知覚過敏になったり、ガタガタになった根面は歯石や細菌バイオフィルムが付着しやすくなります。
歯周病治療では手用スケーラーや超音波スケーラーを使いますが、その理由は根面や歯石の感触を感じながら細部に適応させてデブライドメントすることと超音波スケーラーで大量の歯石を除去していくためです。それに対してメインテナンスでは、超音波スケーラーの出番がかなり多くなります。到達性のよいチップと低く抑えたパワーで、場合によっては薬液の併用により効率よく細菌バイオフィルムを破壊することができるからです。

歯周病治療、メンテナンスはこちらを参考にしてみてください。

細菌バイオフィルムはたくさんの細菌がグリコカリックスという自前の材料で作ったマンションの中で集団生活しているようなものです。じつはマンションの中には抗菌剤が届きにくかったり、奥深いところの細菌が冬眠状態のために抗菌剤の効きが悪かったり、マンション内では細菌は抗菌剤にたいして耐久性をもっていたりします。抗菌剤を作用させても、
一人暮らしの細菌と集団生活をしている細菌とでは抗菌剤の効きが何倍も何十倍も違いがあります。それだけ細菌バイオフィルムに抗菌剤が効きにくいことが分かっています。
そのため細菌バイオフィルムの破壊の基本は機械的除去です。心臓の人工弁などに付着する細菌バイオフィルムと違って根面に付着する細菌バイオフィルムはスケーラーなどで除去できるのでありがたいほうです。薬で治すよりせっせと機械的除去するほうがずっと効果があるのです。

ペーストをつけて機械的歯面清掃で用いる機械です。

毎日のセルフケア
まずは歯肉縁上(歯茎の上)の細菌バイオフィルム破壊からです。ここで一番大切なのは患者さん自身の毎日のセルフケアです。歯肉縁上は毎日のセルフケアとして患者さんが除去しておくべき領域です。もちろん完璧に除去できるわけではありませんが”歯科医院に行くと歯肉縁上も歯肉縁下(歯茎の中)もきれいにクリーニングしてくれて気持ちが良い”というイメージだけが残るのは良くないです。

ブラシの選定は色々ありますが、気軽に歯ブラシの指導をする用のCiブラシは、安価ですが優れものだと思います。

私たちが患者さんの口腔内を清掃できる時間は、ほんの一部の時間ですから、患者さんご自身が清掃されて、ツルッとした歯面で歯茎の出血・腫れもなく気持ちがいいな、と毎日感じてもらうようなケアが理想的ですね。そのような口腔内のケアができるように、しっかりサポートさせていただきます。

食事を楽しみ、十分な栄養を摂るために…

2023年9月4日

私たちの診療室では様々なご病気の状態に出会います。
軽度のものから、
「これは大変な、、、」と考えてしまうケースもあります。

治療前

虫歯と歯の欠損が放置されて、噛み合わせが乱れてしまった症例。

歯が虫歯でなくなってしまっています。

歯と歯茎でものを噛んでおられた様子です。食事内容は大きく制限されます。

パノラマX線写真。歯の欠損が長期間放置されていたため、噛み合う相手がいない歯が顎から出てきています。

この患者さんは比較的お若い50代の方でしたが、口腔内の状況により食事内容の制限があり、食事量と質も低下しておられました。

 私たちは、患者さんの食事内容について、日本補綴歯科学会の食品アンケートを用いることがあります。
これは、何段階かに分けて、食事内容の程度や口腔機能の評価を行ったり、摂取可能な具体的な食品名を聞き取り、避けている食品がないか調べたりします。
GCというメーカーが出している咀嚼機能検査も活用します。患者さんにグミゼリーを咀嚼してもらい、機械でどの程度咀嚼消化の段階が行われたかを調べます。グミゼリーの噛み砕かれた状態も写真で記録しておくと、思ったよりも噛めていない状態を自覚できることになります。
このように術前の検査から、機能低下が生じているという結果が得られた場合、要注意です。
オーラルフレイルといって、口腔内の機能低下から心身の虚弱を招くような状態につながります。治療の費用はあまりかけられないとのことでしたので、保険診療の範囲内でできる限りのことをしていきました。
歯周基本治療とそれぞれの歯が保存可能か判断し、可能な歯は根管治療など歯の中の感染をとっていきました。
噛み合う相手のいない歯は病的な移動が生じていましたので、高さを噛み合う面に揃えていきます。
治療期間中に使う入れ歯を作成し、ひとまず上下顎両側で噛み合わせられるストッパーを作ります。
長期間噛み合わせができずに過ごされていたため、本来の噛み方がよくわからなかったりすることが多いです。
残っている歯と歯茎で無理やり食べておられたため、顎を変にずらして噛む癖がついていました。
なので、治療用の仮歯でリハビリをするという意味があります。
苦戦することが多いのは、今まで入れ歯を装着された経験がない方です。
入れ歯は入れ歯のメリットがあります。外科処置を必要とせず、一度に多くの歯の欠損を補うことができます。
入れ歯を入れるのが初めての方には、歯のところ以外の構成物(ピンクの床、残っている歯に引っかかる金属、床をつなぐ金属のバーなど)の異物感が大きく、気持ち悪かったりします。
「このピンクの床のところ、もう少し短くできない?」
など言われることもあります。
可能な範囲で調整しつつ、患者さんのリハビリに付き添います。

入れ歯によるリハビリを続けながら、残っている歯を使えるようにしていきます。
歯茎の中の方まで進行している虫歯もありました。虫歯をとっていくと、歯茎にめり込むような形になってしまい、そのままでは歯根を利用して上に歯を作っていくことができません。
歯周外科を行い、根面の感染源を除去するとともに、歯周病で吸収した骨の形態を平坦化して、歯茎を縫合します。そうすることで、歯茎に埋まっていた歯の根を歯茎の上に位置付けることができるのです。歯周外科終了後、歯肉の治りを4週くらい待っておくと、周囲の歯肉の質感と同じくらいになってきますので、歯の根に土台を立てて仮歯を装着します。
最終的なブリッジや部分入れ歯を装着し、その後はリハビリをしていきました。

治療後

正面観。

右側。

左側。

オーラルフレイルと他業種連携
全ての団塊の世代が75歳以上となる2025年、高齢者のフレイルの問題がありますが、患者さんによってはよりお若い年代の方もある程度フレイル予備軍としておられます。フレイルの兆候としては、意識・無意識に関わらず特定の食事を避けるところから始まります。高齢者だけの問題ではないと言えます。ただ、一般的に高齢になるにつれて歯周病で歯を失ってしまう割合が高くなり、全ての方が適切に歯科受診されるわけではありませんので、高齢者に焦点が当たるのは仕方ないことです。
 加齢とともに欠損や噛み合わせの乱れなどが生じ、口腔内に変化が出てくると、食事内容も変化していきます。歯科受診も大切ですし、栄養や摂食の正しい情報を得ることが大切です。管理栄養士による食事指導などはとても有効と考えられます。厚生労働省もこうしたオーラルフレイル対策は重要と考えているようです。特に歯科では、欠損や入れ歯を装着されている方に対して、フレイルになって行かないように注目しやすいです。フレイルになる流れは人それぞれであり、歯科で言うと欠損や噛み合わせの問題から咀嚼障害となって、栄養面から身体の虚弱を招くわけです。他の要因で言うと、退職や家族との別れなどで、社会とのつながりが希薄になり、生活範囲が狭まり、心が虚弱になってしまうことが挙げられます。私たちはもちろん口腔内の要因に気づきやすい職種であり、他科の診療所や介護事業に携わっておられる方ともしっかり連携をとっていくことが重要であります。たとえばケアマネージャーの方とお話ししていると、家族構成や生活習慣、ペットや趣味に至るまで、患者さんの背景を詳しく知ることができます。それを踏まえて口腔内の治療もより効果的に行うことができます。

 次に、食事や栄養摂取については、管理栄養士に相談しアドバイスを得ると大きいメリットがあります。何をどれくらい食べたら良いか、自分の食事内容が栄養の偏りがないかなど相談できます。たとえば、入れ歯を装着されていたり、歯の欠損を放置されているような方ですと、「なんでも噛めてますよ」とおっしゃられるのですが、食事内容はあまりバランスが良くなかったりします。具体的には、スルッと食べられ調理が簡単な麺類などです。菓子パンのみという方もいらっしゃるのではないでしょうか。炭水化物のみ多く取られて、タンパク質量が不十分であったりします。

とても豪華な一皿。個人差はありますが、肉や魚などの主菜は、両手に乗るくらいの量を摂取すると良いと大まかに言われています。
タンパク質が卵やひき肉でも良いわけです。摂取しやすい食材や形から取り入れると良いでしょう。野菜なども切り方と調理法を工夫すると摂取しやすくなります。筋肉量の多さも重要です。歩けなくなるのは避けなければなりません。日頃から外に出て簡単な運動をするとか、散歩も効果的です。このような活動がフレイル予防になります。

 冒頭の写真の患者さんのように、病気を放置していると無意識のうちにフレイルに近づいていきます。食事は毎日のことなので、ちょっとした変化があってもなかなか気づきにくいですね。同居されているご家族が、最近色が細くなったなとか思われるようでしたら、口腔内に何かしら咀嚼障害がある可能性が高いです。一緒に暮らしていても、家族の口の中がどうなっているかはなかなか把握していないものです。私も実家に住んでいたときは、歯科の勉強もしていなかったこともあり、両親や兄妹の口腔内がどうなっているか、全く知りませんでした。ですが、健康維持のために、ご自身やご家族の口腔内の状態を知ること、どの程度食事ができていて、栄養バランスが取れた食事なのか、注目するのは大切ですね。

歯周病の炎症、お口の清掃について

2023年8月31日

①炎症に影響する変化
この場合の炎症は細菌に対する体の反応のことです。細菌バイオフィルムバイオフィルムが蓄積しやすくなるのは基本的には患者さんのセルフケアレベルが低下してきたこと意味しますので磨き残しを減らすことが重要です。メンテナンスという現状維持のための治療では患者さんのお口内の意識も薄くなるでしょう。昔、雑なブラッシングだった方は雑に戻りやすいし、ブラッシングに苦手な場所がある方は苦手なところに汚れが残りやすくなります。ただ患者さんの生活習慣の変化も考慮して指導を行う必要があります。家や仕事で疲れている患者さんにパーフェクトなケアを求めるのではなくその患者さんが最低限守るべきセルフケアから再指導する余裕も必要です。病気やけがで今までのようにケアができなくなっているときも配慮します。


清掃指導といえば、プラークの染め出しが分かりやすいです。歯科医院や学校の保健の授業でやったことがあるのではないでしょうか?
長期間清掃ができていない歯には、頑固なヌルヌル汚れが多く残っています。
「しっかり磨いてます」と患者さんがおっしゃられて、ヌルヌル汚れが多く残っていた場合、やはり、再度清掃指導をした方が安心です。
磨けているつもりでも、こういうところに汚れが残っていて、どのように清掃したら効果的に除去できるか、プロの視点から指導を行います。
繰り返すことでより清掃効果が期待できます。

また、プラークの染め出しと関係なく付着している茶渋など、歯面の着色については、パウダーによるクリーニングで効果的に除去することができます。
このクローニングの方法では、歯の表面を傷つけることなく着色除去が可能です。
審美的な目的のクリーニングに近いですが、滑沢な歯の表面にすることで、汚れや色が再付着することを抑制し、長期間ツルツルした歯を保つことが期待できます。
このクリーニングで用いているエアフローは、保険診療では認められていないものです。
ご興味ある方はぜひご相談ください。

花粉症や風邪のため口呼吸になったり、飲んでいる薬でだ液が減ることもあります。このような場合、細菌バイオフィルムはほとんどないにもかかわらず、炎症が強くなっていることもあります。このようの病気や薬の影響も考慮しなければなりません。また、メインテナンス患者さんがいつにまにか糖尿病にかかっていて口腔内の状況が悪化していくこともありますし、糖尿病の治療を受けていてもうまくコントロールされていないこともあります。コントロールできていない糖尿病患者さんでは、プロービング値は大きくなりプロービング時の出血も多くなります。コントロールされるとこれらの数値や症状も安定することも分かっています。

また心筋梗塞や脳梗塞のリスクを下げるために低用量アスピリンを常用している患者さんが最近急増しています。アスピリンにより血小板の凝集を抑え、血管が詰まることを防いでいますがこのアスピリン常用者は歯ぐきからの出血が多くなることが分かっています。特に元々炎症が強い患者さんがアスピリンを飲みだすと歯ぐきの出血が増えるという報告もあります。
また喫煙の影響もあります。喫煙量がめいんてなんすの途中で変わっていないかチェックする必要があります。きんえんを実行された患者さんのサポートをする心構えも必要です。アスピリンは歯ぐきの出血が増えますが、喫煙者は逆に歯ぐきの出血が減ることがあります。つまり喫煙者に歯ぐきの検査を行っても出血しにくくなりますので、出血が少ないからといって油断は禁物です。

②咬合に影響する変化
心配なのは歯ぎしりで、これによりせっかく安定していたところでも急に噛めなくなったり、歯が浮いたような症状でたりします。追加的に嚙み合わせの調整やマウスピースの装着が必要になることもあります。

③ブラッシング指導
ブラッシングが不足して磨き残しがある状態をアンダーブラッシングといいます。それに対してブラッシングが過剰になり磨きすぎの状態をオーバーブラッシングといいます。
アンダーブラッシングになると根面う蝕(歯の根元のむしば)ができたり、歯周病の再発、進行が起こり最終的に骨がなくなりますが、オーバーブラッシングになると歯ぐきが下がりますので、歯ぐきがなくなるわけです。しかも歯も歯ぐきも骨もなくなったら基本的には元に戻りません。歯も歯ぐきも骨もなくさないように適切なブラッシングを維持することは、並大抵のことではできません。モチベーションの維持も難しいです。
メンテナンス患者さんのブラッシングはかなりデリケートです。私たちは口癖のように‘‘頑張ってください‘‘と声をかけてしまいがちですがメンテナンス患者さんがブラッシングを頑張るとオーバーブラッシングになることが多いのです。
それではメンテナンスでアンダーブラッシングが及ぼす弊害について考えてみたいと思います。
アンダーブラッシングになっていて細菌バイオフィルムが残っていると歯の根元のむしばと歯周病の再発、進行が心配です。根元は表面がざらついていますのでバイオフィルムが形成されやすいだけでなく、凹みがあることが多いためブラッシングしにくくなっています。しかも細菌がつきやすく、除去しにくく、酸で溶けやすいのでむしば要注意部位となっております。


外来でのクリーニングにはこのような器具を用いています。

歯周病患者さんの多くは生活習慣病年齢ですから、何らかの疾患を抱えて服用されていることがあります。疾患や投薬の影響でだ液が少なくなりむしばのリスクが上がっていることがありますので要注意です。
アンダーブラッシングは歯周病にももちろん結びつきます。歯周病菌が新たに歯ぐきのポケットに入り込む可能性もあります。メンテナンス患者さんの口内に深いポケットが残っているような場合、プロケアとしてポッケト内の細菌バイオフィルムの破壊をしても時間とともに後戻りはしますが、患者さんのブラッシングが悪ければ後戻りは早いです。大雑把な言い方ですが、ブラッシング良好な患者さんで数か月、ブラッシング不得意な患者さんで数週間で後戻りがあるようです。

メンテナンス患者さんのオーバーブラッシングの弊害については、歯ぐきが傷つき歯ぐきが下がることがあります。また歯ぐきが下がっているところでは根元が削れてしまい、知覚過敏が起こることがあります。ブラッシングに熱心な患者さんは、冷たいのでしみるのであればブラッシングがたりないと勘違いして、さらにブラッシングを過剰にしてしまうことがあります。患者さんはブラッシング‘‘がんばれ‘‘という言葉を‘‘強く磨け‘‘y長い時間磨けという言葉に変換してしまうのです。それによって指導の通りにやっているにもかかわらず、オーバーブラッシングになっていることがあるわけです。
実際オーバーブラッシングで歯が削れてしまったり、歯肉にダメージがある患者さんの中には、電動歯ブラシの使用が誤っているケースもあります。電動歯ブラシは適切に使用すれば時間がかからず清掃効果の高いものですので、電動歯ブラシそのものは良いと言えます。通常のブラシと同様に扱ってはいけないのです。たとえば、研磨剤の入っている歯磨きペーストは多いですが、電動歯ブラシと併用すると歯が削れすぎてしまいます。研磨剤の入っていないジェルが適切です。最近は、自動で止まる電動歯ブラシもあり、歯面モード、歯肉モードなど切り替わるものもあります。

歯周病治療のメンテナンス

2023年8月22日

歯周治療の流れのメインテナンス

歯周治療には、「動的治療」と「メインテナンス」の大きな2つのステージに分かれます。動的治療は、一般的な歯周病治療のイメージです。清掃指導や葉の表面についている歯石やバイオフィルムを除去し、口の中から感染源を除去していきます。歯周組織の炎症が改善され破壊された組織が修正されていきます。そしてこの動的治療には、歯周基本治療、歯周外科治療がふくまれます。

歯周基本治療で用いる器具の一種。歯根に付着している歯石を除去します。

 それに対してメインテナンスではメインテナンス門家による定期的なプロフェッショナルケアと患者さん自身のよる毎日のセルフケアにより動的治療で獲得した健康を長期にわたって維持していくわけです。定期的なプロケアも結局は患者さんのセルフケアの及ばないところをサポートしたり、セルフケアを続けていくためのテクニックとモチベーションを提供するわけです。なので、メインテナンスをsupportive periodontal therapy (SPT)という言葉で置き換えることもあります。

動的治療とメインテナンスの違いは?

 歯周病治療の流れは、まず、清掃指導や歯石除去といった歯周基本治療に始まり、歯周組織の状態を検査をして評価します。その後、必要に応じて歯周外科処置を行い、再度状態を検査して評価します。そこで治療の目的を達成できていれば、メンテナンスへ移行するのです。これが歯周病治療の教科書的な分類といえます。しかし、このようなステージ分けですと、メンテナンスの位置づけが弱いように感じます。メンテナンスはただのクリーニングではありません。
 動的治療とメンテナンスで分けて考えているのは、それぞれの治療の目的が違うからです。一言で言うと動的治療とは良くなるための治療、メインテナンスは悪くならないための治療なのです。動的治療で良くなった歯周組織を悪くしないためにメインテナンスがあるわけです。動的治療では、自分の歯ぐき(歯肉)が良くなっていることを患者さん自身体験することができるので、それがモチベーションにつながり、より上を目指そうという上昇志向が生まれやすいです。しかし、メインテナンスに移ったとたんモチベーションが下がらないようにしないといけないので大変です。

治療前

歯肉の炎症が強く、多量の歯石、歯肉からの排膿、腫れが見られます。

治療後

歯肉が引き締まり、歯石も排膿もなくなりました。ここまでが動的治療で達成したことです。この後、メンテナスへ移行します。

悪くならないための治療の落とし穴

 悪くならないための治療というのは、意識をしないとできるのもではありません。治療を控えめにすれば良いというわけではないのです。それでは単なるアンダートリートメント(不十分な治療)になるだけです。かといって良くなるための治療をそのまま続けていれば、オーバートリートメント(過剰な治療)になってしまいます。
 メインテナンスで気をつけるべきポイントは①オーバープロービングをさける②オーバーブラッシングをさける③オーバーデブライドメントをさける④オーバーメディケーションをさけるです。

メインテナンスの必要性と有効性

 超音波スケーラーやキュレットを使用してポッケト内から細菌を除去しても、時間が経つとまたいつか細菌が居座っています。歯周治療を受けたからといって歯周病菌が完全になくなることは稀です。動的治療で環境整備が十分できなかったような場合、たとえば深いポケットが残ってしまったり、根分岐部病変が残ってる場合や、患者さんのプラークコントロールが悪く歯肉に炎症が起きてしまう場合は、歯周病菌にとって復活にチャンス大です。どのくらいの期間で細菌が後戻りしてくるのかは条件しだいですが、プラークコントロールの良い患者さんで数か月、悪い患者さんで数週間です。患者さんのプラークコントロールのレベルによってリコール間隔を加減する根拠はこのあたりにあるわけです。また、口腔内環境の整備状況によっても変わってきます。深いポケットや根分岐部病変、多数歯補綴などがあれば細菌が増殖しやすいため、リコール間隔も短めに設定しなければなりません。
 
 動的治療からメインテナンスに移行する基準
 
 動的治療のゴール
 歯周基本治療では患者さんにセルフケアの指導をするとともにSRPを中心ととした炎症のコントロール、咬合調整、固定などによる力のコントロールを行い、症状の改善を目指します。これで口腔内の環境が十分改善できればメインテナンスに移行します。一方歯周外科治療では、歯周基本治療で改善できなかった環境を外科的に改善していきます。SRP後でも残存するポッケトや根分岐部病変、根近接の問題などは外科的に骨形態や歯の形態を修正することで改善することができ、付着歯肉が少なくブラッシングしにくいような環境も、外科的に改善可能です。歯周外科治療で目的が達成されれば、動的治療のゴールということになります。

 メインテナンスの分類と移行基準
①予防的メインテナンス
 歯周病菌による破壊もほとんど見られず、患者さんによるセルフケアも良好な場合です。動的治療における究極のゴールあるいはそれに近いゴールを切ってる患者さんが対象となります。メインテナンスプログラムもセルフケアのチェックや歯肉炎上のバイオフィルムの破壊、PMTCなどがメインとなるのでリコールの間隔も一番長くなります。
②治療後メインテナンス 
 動的治療を終了した患者さんに対して行うメインテナンスです。歯周動的治療により獲得した健康を維持するものですが、歯周病菌による破壊があったわけなので歯周病菌の復活を阻止する必要があります。治療後のリコール間隔は基本的に三か月といわれていますが、残存するリスクによって加減する必要があります。
③試行的メインテナンス
 本当は歯周外科をした方が良いが、さまざまな状況でそれをあえてしないで、より歯周病菌の侵襲の少ない治療を改善策として行います。歯周病菌の感染や歯周組織の破壊があり、しなければならないメインテナンスプログラムも多くなります。当然リコール間隔も短く設定した方が無難です。
④妥協的メインテナンス
 さまざまな理由から積極的な治療ができない場合で、もっともリスクが高くなります。歯周病菌は大量に残存しているためメインテナンスプログラムもフルコースになりますし、リコール間隔のもっとも短く設定した方がいいでしょう。

メンテナンスの流れ

①問診
  ↓
②診査
  ↓
③セルフケアのチェック
  ↓
④プロケア(細菌バイオフィルム破壊、PMTC)
  ↓
⑤フッ化物歯面塗布

これは基本的な歯周病のメンテナンスの流れです。患者さんとの会話から始まり、診査、セルフケアのチェック、細菌バイオフィルムの破壊、フッ化物の塗布が大きな流れで、これは歯科衛生士が行います。そしてこのままですと私の出る幕がありませんので、細菌バイオフィルムの破壊プログラムが終了した時点で、診査結果を患者さんに説明し、次のメインテナンスまでの間隔を決定します。
このプログラムを限られた時間の中で行うには、ひとつひとつの処置を効率良くこなすとともに、その患者さんのとってそのときにもっとも大切な処置に時間を重点的に使うように時間配分することになります。
例えば、セルフケアが不十分なのでブラッシングの再指導に時間をかけるのか、プロービング(歯ぐきの検査)で出血が多いところを中心に歯ぐきの中の細菌バイオフィルムの破壊の時間を使うのかという具合です。このような時間配分の決定権は歯科衛生士が握っていて、その意味ではメインテナンスに与えられた時間配分は担当歯科衛生士が握っています。
私たちのクリニックでは、歯周基本治療、必要な場合歯周外科を行い、検査により再評価、メンテナンスという流れに則り、基本に忠実に施術を行っております。
詳細は

こちら

です。
歯周病でお悩みの方は、ぜひご相談ください。