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口腔機能、その成り立ち

2024年7月2日

こんにちは、こさか歯科クリニックです。

なぜ、歯科診療室で口腔機能をみることが重要なのか?
ヒトは、どのように口腔機能を発達させるのか?
についてのお話です。


下の前歯の方が上の前歯よりも出ている、逆被蓋の状態。不正咬合の一種。

 

⚫️ヒトの口腔の発達は母胎内から始まる!

 

口は、「呼吸」と「嚥下」という,ヒトが生きていくうえでなくてはならない2つの機能を担う器官です。そのため、これらの機能は胎生期のかなり初期から発達しています。
受精後,胎児は胎生24週には吸啜の動きが出現し,28週ころには吸啜との下が同期するようになります。吸啜の動きを自分の指で繰り返し練習することで、出生後すぐに哺乳を行い。栄養を摂取することができるのです。このように、胎児の吸啜・嚥下運動は、母胎内ですでに感覚・運動系の発達として獲得されています。そして,出生後の食べる機能(摂食嚥下機能)もまた,感覚・運動系の発達としてなされていきます。
この機能は、口腔と咽頭の形態発育との関連がとても深いのです。ヒトの哺乳期の口腔や咽頭は,吸啜(哺乳)を行うのに適した形態をしていますが、その後離乳が始まり、固形の食べ物が食べられるようになるにしたがって口や顎が成長し、ものを噛んで食べるのにふさわしい形態に発達していくのです。

 

●成長・発達による口・喉の変化(嚥下時)

 

①乳児のころ(乳児嚥下)
哺乳期の舌は前後の動きが主であり、喉の位置(気管と食道の入り口)は高い。
②離乳食が始まったころ
舌は上下に動いて食べ物をつぶすようになり、下唇が内側にめくれ込む動きもみられる。
③乳歯が生えはじめたころ
舌のさらに複雑な動きができるようになり、下唇のめくれ込みはみられなくなる。また、喉の位置も下がり、発声のための音をつくる空間ができていく。

 

●”食べる機能”発達の原則

 

食べる機能(摂食嚥下機能)の発達には、原則があるとされます。それは、「個体と環境の相互作用」です。子ども本人の「発達する力」と、周りを取り巻く「環境」からの刺激がバランスよく働きかけあうことで,感覚・運動の統合がなされ、食べるために必要な機能の発達が促進されます。また、食べる機能の発達には適切な時期があり、年齢が低いほど内発的な力が旺盛です。しかし、最適な時期を過ぎたとしても,時間がかかるかもしれませんが食べる機能の獲得はなされていくと考えられており、何歳になってもあきらめるべきではありません。

乳歯列から成長し、生え替わりの途中の時期。このように乳歯の間の隙間が目立ってきます。永久歯への生え変わりに向けて、顎が成長していきます。

 

●“食べる機能”の発達の順序とは?

 

食べる機能はある一定の順番で発達していきます。全身の姿勢や運動に関連する粗大運動の発達では、じめに頸定し(首がすわり),座位がとれるようにり、つかまり立ちをし,一人歩きをする,といった番がありますが、食べる機能も同様で、哺乳からしなり咀嚼機能が獲得されるわけではなく、口唇を閉たり、舌が前後から上下,左右へと動いたりするこができるようになりながら咀の動きが獲得されてきます。そして、その動きには”予行性”があることもいわれています。これは、「獲得された動きを十分に経験することで、次の段階の機能が獲得されやすくなる」ということです。つまり、そのとき食べられる形、軟らかさの食事を十分に食べているうちに、次の段階の機能が自然と引き出されてくるということなのです.

 

●口腔機能の発達はヒトそれぞれ

 

機能の発達は、日々順調に進んでいくわけではありません。階段を上がったり降りたり、あるいは螺旋階段を登るように遠まわりしながら伸びていく場合もあります。ヒトほど個人差の大きい動物はいないといわれるほど、食べる機能の発達過程にも個人差があります.これは機能面のみならず、歯の萌出時期や口腔形態の違い,個人の性格や家庭環境による違いなど、さまざまな要因が影響するためです。したがって、同じ月齢,年齢で比較することは意味がないばかりか、かえって弊害を招くことが多くなります。
このように、ヒトは自分のもっている力に加え、実にさまざまな要因の影響を受けながら口の機能を発達させていきます。このことは、健康な子どもも発達に遅れのある子どもも、変わりはないのです。


下の前歯が見えないほど深く噛み込んでいる、過蓋咬合の状態。顎の成長に影響があります。

 

⚫️人は、どのように老いるのか?
●いま来院している高齢者はいずれ通院不可能となる

 

日本人はどのように老いていくのでしょうか?全国の高齢者を20年間追跡調査し(N=5717),高齢者の自立度の変化パターンを調べた報告があります。その調査によると、男性では
60歳代前半から一気に自立度を低下させるパターンは19%で、脳血管疾患への罹患など全身疾患がその原因となります。一方で,75歳以降に徐々に身体機能の低下を示すのは約70%であり、加齢とともにその発症率を増すさまざまな疾患に加え、低栄養に伴う筋力の低下などが原因と考えられます。
高齢者の多くが憧れる“ぴんぴんころり (亡くなる直前まで元気に生活すること)”は10%程度にすぎず、多くの高齢者が徐々に身体機能・認知機能を低下させ、自立度を低下させていることがわかります。手段的日常生活動作について援助が必要。加えて基礎的日常生活動作についても援助を必要とする。
「手段日常生活動作」とは、買い物や洗濯などの家事や、交通機関を利用した外出や服薬管理、金銭の管理など高次の生活機能を維持するために必要な能力です。一方、「基礎的日常生活動作」は、食事や着替え、就寝・起床、入浴やトイレに行くなどの基本的な生活動作を示しています。つまり、70%の人が80歳を前にして、齲蝕や歯周病の予防が可能な口腔衛生管理ができなくなる恐れがあり,80歳代前半には外来受診が困難になるといえます。また、晩年まで自立を維持できる10%の人を除いて、期間の長短はあるにしろほぼすべての人が自立した生活が困難な時期を過ごすことになり、歯科医院への通院が不可能となることを示しています。
60歳代前半から一気に自立度を低下させる19%の多くは、病気などで一気に通院が困難になった方たちで,皆さんが診療室に勤めている限りはお会いすることはないかもしれません。一方で、いま、元気に来院してくれている高齢者のなかには、もうすぐに、約70%のコースに乗っている人たちも多くいるはずです。
つまり、高齢者についてはある意味,ほぼすべての人が通院不可能になることを考えて,歯科治療の計画を立てる必要があります。次のリコールやメインテナンスの際には、もしかしたら体調を崩して診療室に来ることが困難になっているかもしれませんし,「次の診療の機会は訪問診療で…」ということになる可能性もおおいにあるのです。

 

●口腔機能は低下する〜診療室でも早めの対応を!

 

すべての人の口腔機能は低下します。70歳の患者さんも80歳の患者さんもいつまでも口だけが健康というわけにはいきません。誰もが老いたくはありませんし、いつまでも若いままでいることを望みます。しかし、残念ながらすべての人に老いは訪れ、身体機能。認知機能の低下に伴って口腔機能も低下し。口腔衛生管理が徐々に困難になってきます。手を細かく動かすことが困難になり、口腔器官の運動能が低下することで自浄作用も低下し、口腔内が不潔になりがちになります。
つまり、高齢者の口の機能の低下に気づき、早い段階で改善・予防することができれば、齲蝕や歯周病の予防となるだけではなく、その後の口腔機能をできる限り維持し、最期まで自分の口で食事を楽しむことにもつながってくるのです。

 

●運動障害性咀嚼障害とは?

 

咀嚼障害は、その原因から「器質性咀嚼障害」と「運動障害性咀嚼障害」に分けることができます。器質性咀嚼障害とは、歯をはじめとする咀嚼器官の欠損によって起こる咀嚼障害です。この器質性咀嚼障害に対しては、義歯などの補綴治療による咬合回復が咀い機能改善のための唯一の方法となります。
一方,避けては通れない生理的老化により身体機能は低下を示し、また、依然日本人の死亡原因の上位を占める脳血管疾患などによっても身体機能は障害されます。これら身体機能の低下や障害は、口腔にも及んで咀嚼障害を引き起こし、これを「運動障害性咀嚼障害」とよびます。この場合には、一般的な歯科治療による咬合回復に加えて,筋肉に負荷を与え運動機能の回復を目指すレジスタンス訓練や,巧緻性の訓練の実施も必須となり、歯科診療室においても「器質性咀噂障害」と「運動障害性咀嚼障害」の両面からアプローチしていくことが求められています。
このように、社会が高齢化し、歯科においても齲蝕・歯周病などの口腔疾患だけではなく「口腔機能」にもアプローチすることが重要視されています。

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