Tag Archives: 口腔機能、口腔機能発達不全、口腔機能低下

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こんにちは、こさか歯科クリニックです。

 

今回は、インビザラインの歯の動かし方と実際の症例についてのお話です。

 

インビザライン症例

歯が重なって生えている、叢生の改善ため治療を行いました。

術前術後の口腔内写真から見ていきます。

✳︎術後の歯に、一部アタッチメント(樹脂の突起)が残った状態での撮影です。

正面

術前

術後

右側

術前

術後

 

左側

術前

術後

上顎

術前

左上犬歯を抜歯しました。

術後

下顎

術前

右下中切歯を抜歯しました。

術後

叢生を改善するために

抜歯せずに、良い仕上がりで早く治療が終われたらとても良いです。ただ、叢生を改善するためには、狭いところに並んでいる歯をきれいに並べていくためのスペースが必要となります。

まずは、身体に侵襲の少ないことからスペース作りをしていきます。

①詰め物、被せ物を仮の材料に変える。

矯正治療後に、詰め物や被せ物をやりかえる予定のところは、最初から仮の材料に置き換えておきます。これにより元の歯の幅を減らすことができます。

②臼歯の遠心移動

臼歯を奥の方へ移動させ、葉を並べるスペースを作ります。MAXで上顎は4mm 、下顎は3mmまでとされています。例えば、矯正治療に先立ち親知らずを抜歯することも多いですが、その場合は第二大臼歯の後ろの骨がスカスカの状態になりますから、より遠心移動がしやすい状況になります。

遠心移動の際、歯を動かしやすくする目的で、頬側にアタッチメントをつけます。

③側方拡大

歯列を横に拡大することで、前歯のガタつきをきれいに並べるスペースを作ります。片方でMAX2mmまでです。

④IPR

歯と歯の間を機械で削り、スペースを作ります。一つの歯の面を1mm以上削ると、しみやすくなったりする健康上の問題が発生します。インビザラインのIPRの最大量は、一つの歯間につき0.5mmの設定ですので、健康上の問題にはなりません。

IPRを最大限に行うと、上顎で14.1mm、下顎で12.1mmのスペースを作り出すことができます。

インビザライン治療用の口腔内スキャナー(iTero)で口腔内をスキャンし、pcで矯正治療のシミュレーションをする際、1本ずつ正確な歯の幅径がわかります。IPRを行う際は、その中でもボルトン分析という項目もチェックし、周りや反対側の同じ歯と比較して、幅径が大きめの歯に対しIPRを行うプランにすると、バランスをとりやすいです。

IPRは基本、最初のプラン、30枚くらいで1回、追加の修正プランで1回で終わらせるようにしています。

細いバーを用いて、歯と歯の摩擦抵抗が大きいところに、歯肉縁下0.5mmまでIPRをします。

抜歯して矯正治療する上で考慮すること

①抜歯した方が患者さんにとってメリットが大きいか。

上に挙げた4つの方法を駆使して、患者さんの主訴が解消できるかという点が重要です。そこには、治療期間や費用とのバランスも入ってきます。例えば、4つの方法を全てやり尽くしたとしても、実現できないような治療ゴールなら意味がありませんし、抜歯を併用することで大幅に治療期間短縮と費用削減ができるのであれば、そちらの方がメリットが大きいと判断できます。

基本的に上下顎全体を触っていくような矯正治療であれば、一度のマウスピース作成だけで最後までシミュレーション通り行くことはなく、3回程度は修正のマウスピースをオーダーし、仕上げていきます。大体最初の計画で小臼歯抜歯したスペースは、30枚くらいでその半分のスペースを埋めていくくらいのイメージです。

ちなみに、マウスピース26枚で半年、54枚で一年かかります。

②主訴が上顎前突だけなのか。

上顎前突は、いわゆる出っ歯のこと。オーバージェットという出っ歯の指標があるのですが、上顎前歯が下顎前歯より何mm出ているか、という意味です。これが5mm以上ある場合、上顎の歯を抜歯した上で前歯を引っ込めるメリットが大きいと考えられます。

特に、臼歯関係が正常であるⅠ級においては、出っ歯のケースで奥歯の遠心移動を行うと、せっかく整っている臼歯関係が変わってしまうため、抜歯矯正が良好な結果となります。

③抜歯したところの隙間。

大体上顎抜歯矯正では前から4番目の第一小臼歯を抜歯します。犬歯と第二小臼歯が隣り合う関係に仕上がるのですが、必ずそこに隙間が残ります。目で見てわかるほどではなく、1mm以下のほんのわずかな隙間です。患者さん自身も普段の生活で気になることはないと思われます。

前歯の叢生の治療時の注意点

①唇側に出さない。

私たちアジア人の顎の骨の特徴でもありますが、欧米人と比較すると唇側の顎の骨が薄いです。CT撮影することでより正確に確認できます。矯正治療で前歯を唇側に出していくと、骨のないところに根が露出してくるため、最悪抜け落ちることになります。治療計画作成時に、前歯をこれ以上唇側に出さないように注意しています。

もちろん、前歯が歯列のアーチより舌側に位置している場合は唇側に出して揃えます。

 

②IPRをしっかり入れる。

歯の軸が捻転しているような時、歯と歯の重なりが大きいような状態とすると、IPRを0.5mmしっかり入れて、摩擦をとっていくことが重要です。

③1本抜歯を検討。

アーチから最も離れている歯や、根管治療など大きい治療介入されている歯を選んで抜歯を行い、できたスペースを使って歯を並べることも検討していきます。

 

アライナーの歯のうらに突起がある?

上顎前歯の裏に突起が設定されることが多いです。ほとんどのケースに用いられているのではないかと考えられます。

これは、バイトランプという仕組みです。

実は、アライナー装着した状態で過ごすだけで、上下顎奥歯は1.0mm〜1.5mm程度圧下させる力がかかります、圧下というのは、歯を顎の骨に押し込む力のことです。この理由は、上下顎の歯に装着したアライナー自体の厚みがあるからです。

歯列全体はきれいに整ってきているのに、奥歯が噛み合わなくなってきたというのは、アライナー矯正治療あるあると呼ばれているくらいです。

バイトランプが設置されていると、上下顎の歯を合わせたときに下の前歯の先端とバイトランプが先に接触するため、臼歯を圧下させる力がかかりにくくなります。

噛み合わせを仕上げる際に、シーソーの原理で、前歯がバイトランプで接触し、臼歯は逆に挺出(顎の骨から上に出てくること)が生じます。

奥歯の噛み合わせが弱くならないよう、治療計画作成時にもあらかじめ他の対策をしています。

インビザライン矯正では、上下の歯の接触強さを設定できるため、最初から奥歯の咬合接触を強くなるような歯の動きを盛り込みます。どうやっても奥歯は圧下されやすいため、このような計画にしておいて、最終的には生体がかみやすい位置まで落ち着いてきます。

他のバイトランプの目的としては、

・前歯の高さを揃えるレベリング

・逆被蓋改善

・歯並びに影響する舌の癖を解消する

・歯並びのカーブ(スピーの湾曲)の改善

が挙げられます。

 

治療がスタートしてから重要なこと

毎日アライナーを装着する日々がスタートするわけですが、マウスピース矯正治療全てに共通することとして、患者さんに装着する・しないが委ねられるわけで、

「なんとなくつけるの忘れちゃった」

という感じだと、シミュレーション通りに歯は動いてきません。あくまでも1日20〜22時間装着されていたら1週間で次のアライナーに変えるということが重要です。

「じゃあ、1日あまりつけられないから、1ヶ月くらいつけてたら十分動いてる?」

と聞かれたこともあります。アライナー自体が劣化して目に見えない範囲で後戻りが生じますので、やはり良くないです。

チューイーをしっかり噛んで装着しましょう

治療スタート時にチューイーという白いゴムを渡しています。

アライナーを外し、食後、歯磨きしてまた装着するのは毎日やることですよね。

必ずチューイーを使ってアライナーがしっかり適合するように噛み込んで入れる必要があります。

これで、治療計画の再現性が非常に高まります。

毎回面倒に思われるかもしれませんが、アライナーが甘く入っているか、しっかり適合しているかで治療経過に大きく差が出てきます。何より、治療期間の無駄な延長につながりますので、チューイーを常に持ち歩き、装着時に必ず使用することが重要です。

 

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歯科の定期健診でがんを発見する

2024年10月18日

こんにちは、こさか歯科クリニックです。

私たちのクリニックの特徴として、

健康な人が訪れる

ということが挙げられます。

定期的に歯科受診をし、溜まった歯石を除去したり、虫歯や歯周病のチェックをするのはもちろん、

普段ケアがどの程度できているか、磨き残しを染め出しして、

検査結果をしっかり患者さんと共有するのです。

60分かけて検査や口腔内の清掃指導、歯石やバイオフィルム除去を行います。

磨き残しの染め出し液:毎回プラークチャートと言って、磨き残し部位の記録を行います。

はっきりと数値で経過を追えますので、モチベーションアップにとても役立ちます!

 

この時、口腔内の粘膜、舌の性状、口唇もチェックします。

今回のトピックは、定期的な歯科受診で病気を発見することについてです。

⚫️口腔がんから患者さんを守る

●歯科医院は口腔科です。

 ”口腔がん”と聞くと難しく考えてしまう方も多しのではないかと思います。歯科は「歯のことを扱う病院なので,がんは関係ない」と思われる方もおられるかもしれません。しかし、口腔粘膜を診る専門診療科は歯科以外に存在しません。

●口腔がんの発症率・口腔がん検診で発見は難しい

 口腔がんは頻繁に発生する病気でしょうか。日本において毎年新規に診断される口腔がんは、人口10万人あたり4,5人と推計されます。人口10万人あたり6人未満の発症率のがんは“希少がん”とよばれており、口腔がんは希少がんに分類されています。しかしながら、口腔がんの患者さんは現在8,000人を超えており、増加傾向にあるのです。

 ご存じのように、口腔がんが進行すると、食事をはじめ。会話や呼吸が障害されるだけでなく、生命の危機に脅かされる可能性があり、できる限り早期に発見することが必要です。歯科医師は”口腔がん検診”を各地で実施して、口腔がんをできる限り早期に発見しようと努めていますが、口腔がんの発症率を見てもわかるように、口腔がん検診で口腔がんを発見するのはきわめて困難なのです。

 口腔がんは、血液検査やX線検査で簡単にわかるような検査法がありません。歯科医師が検診会場に出向いて、口腔粘膜を検診するしかないのです。熟練した歯科医師でも口腔がん検診で1日に診察できる住民の数は、せいぜい100名程度だと思われます。口腔がんは人口10万人に5人とすれば2万人検診をしてやっと発見できる程度ですから、口腔がん検診で発見するのはいかに難しいことかご理解いただけると思います。

●口腔がん発見における

歯科医院・歯科衛生士の役割

 口腔がん検診が日常の歯科治療のなかで行えるとしたらどうでしょうか.。20歳以上の歯科受診率は50%を超えています。数千万人が歯科を受診しているわけですから、口腔がんが発見できる可能性がずいぶん高くなります。

 残念ながら、”診察時に口腔粘膜を診察し、口腔がんを発見する”ことをされている歯科医師の先生は、まだほとんどいないのが現状だと思います。患者さんの多くは“歯にかかわる主訴”で来院しているので、どうしても歯に意識が集中しがちです。患者さんも歯科医師に口腔粘膜のことを相談してもよいか,ためらう方が多いように思います。

 歯科衛生士は歯科医師よりも、歯肉をはじめとする口腔粘膜を診ています。さらに患者さんにより近い存在として認識されているのではないでしょうか。歯科衛生士は口腔がんを発見するチャンスが多いのです。難しく考える必要はありません。口腔粘膜が正常か異常か、それを判断し、歯科医師に診断を委ねる、すなわちトリアージ(診断の要否の選別)をすればよいのです。このことで歯科衛生士の技量も医療人としてのレベルも格段に向上すると考えます。

⚫️がんの正体とは

—がんを身近に考えるために正しく知りましょう—

●がんは毎日うまれている

まず、”がん”と聞いて、自分とは無縁の病気と考えてはいないでしょうか。日本人の半分は“がん”で死ぬ、そんな時代です。そういう意味でも決して無縁の病気ではありません。

 それだけではありません、実は成人の身体では、毎日5,000個のがん細胞が発生しているといわれています。元気に仕事をしているあなたの身体にも,もちろん私の身体にも、です。しかし幸いなことに、毎日このように生まれるがん細胞は免疫細胞により死滅するか、がん抑制遺伝子という遺伝子の働きにより自動的に死滅していきます。ですから,通常では皆さんの身体にがん細胞が増殖することなく、健康でいられるのです。

 では、どうして”がんになるのでしょうか。

●がんは遺伝子異常の積み重ねで起こる

 人間が生きていくうえで,外界との接触は避けられません。このような刺激は、人間の身体を構成する体細胞の遺伝子に傷をつけてしまいます。よくタバコやアルコール摂取ががんのリスク因子だといわれますが、このような化学的

刺激や細菌・ウイルスなどの生物学的刺激、不適合な義歯や補綴物、日光の曝露などの物理的

刺激はすべて遺伝子変化をもたらします。

 遺伝子変化は通常は修復されますが、繰り返されることや傷の程度によって修復されないままになると、遺伝子異常として残ってしまいます。複数の遺伝子がこのようなしくみで異常を起こしてしまい、かつ発がん遺伝子に異常が起きて発がんのスイッチが入り、がん抑制遺伝子に異常が起きてがん細胞が死滅しなくなると、

がん細胞はもはや,増殖するしかなくなるのです。

 いったんがん細胞が増殖しはじめると、がん細胞は頼みの綱であった免疫細胞からの攻撃から逃避できる機能も獲得してしまいます。遺伝子異常の積み重ねで”発がん”するので,がん患者さんがご高齢の方が多いのはこれが理由です。

 遺伝子異常で“がん”になるというと,「じゃあ、がんは遺伝するのか?」と思う方がおられるかもしれません。親の遺伝子にさまざまな傷がついたとしても、それは遺伝しません。よく、「がん家系だから」と言う方がいますが、多くのがんは遺伝せず,“がん家系”というのはたとえば、タバコや飲酒の習慣、食事の傾向や、腸内細菌の形成は同居する家庭内では共通しており、家族で同じような刺激を共有することであてかも”がん家系”のようにみえることがほとんどです。

●早期がんには症状がない

—訴えがあってから診るのではもう遅い—

さて、すこし”がん”が身近に感じられたでしょうか。がんの成り立ちを理解したところで、口腔がんの話に戻りましょう。前項でお話ししたように、”がん”は1つのがん細胞から始まり、増殖することによって形作られます。自分の身体の細胞が変化してできたがん細胞ですから。“がんになったばかりは症状がない”のです。がんは組織を破壊しながら大きくなりますが、神経を破壊するところまで進展しないと痛みを自覚することはありません。

 口腔がんにおいては“痛み”のほかに、「噛めない」「飲み込めない」「口が開かない」というような症状の訴えがありますが、これらはそれぞれ“がん”が「歯槽骨を破壊して、歯が動揺する」「舌の筋肉を破壊して、舌が動かなくなる」「開閉口筋を破壊して、口が開かない」という状態で,かなり進行した口腔がんということになりす。つまり,患者さんが訴えてからロ腔がんを発見するのではかなり遅いのです。早期発見のためには、歯料医での日常的な口腔粘膜の観察と正しい知識を患者さんや一般の方に知っていただくことが大切です。

●口腔がんは発がんの手前で発見するとことが可能な唯一のがん

 他の部位の“がん”では、血液検査やX線で精密検査をすべき患者さんを絞り込むことができます。しかしその一方で、内視鏡やCTなどを使わないと診断につながりません。前述のように口腔がんにはいまのところ血液検査やX線

検査のような有効な検査法がありません。その一方で、口腔がんは直接目で見ることができるので、歯科での治療で毎回口腔粘膜をチェックさえすれば,精密検査をつねにしていることになります。特別な装置も薬剤も必要ありません。

 さらに、口腔がんには前触れと考えられる粘膜の変化があります。口腔がんの前触れを歯科医院で察知できれば、口腔がんを早期発見し、口腔外科専門医と連携することは困難ではありません。

睡眠時無呼吸症候群、口呼吸、歯根膜について

2024年10月9日

こんにちは、こさか歯科クリニックです。

健康に関するトピックです。

⚫️自宅でもできる睡眠時無呼吸症候群予防

 睡眠時無呼吸症は、何らかの原因により舌の根元が喉を塞ぐことから起こります。

舌根はこのような構造になっています。

 

 つまり、「舌が下がっている」ことが原因なわけです。舌は筋肉ですから、自分で意識して鍛えることも可能です。

 いびきが気になる人は、口周りや舌の筋肉を鍛えることができる「あいうべ体操」を普段から心がけることで、症状がかなり改善されます。

 睡眠時無呼吸症候群は、口呼吸の癖がある人もなりやすいとされています。口周りの筋肉を鍛え、口を閉じて鼻で呼吸することができるようになる「あいうべ体操」は、睡眠時無呼吸症候群の予防として最適と言えます。

⚫️掌蹠膿疱症と口呼吸

 皮膚病のひとつである「掌蹠膿疱症」。手掌、足底に無菌性の膿疱が反復して出現する、慢性難治性の疾患です。

 この病気の原因は明らかにされていませんが、膿疱は無菌性であることから、金属アレルギーや病巣感染が大きな誘因となるのではと考えられています。

 病巣感染とは、「身体のどこかに限局した慢性炎病があり、それ自体は異常を引き起こさないが(あっても軽徴)、まったく関係のなさそうな臓器に、反応性の器質的・機能的な二次疾患を引き起こす病態」です。

 病巣感染の一次病巣は、扁桃と口腔内でそのほとんどを占めていることはすでに述べた通りです。口呼吸を続けていると、上咽頭や扁桃部が細菌感染を起こし、免疫システムに異常を来します。その結果、風邪をひきやすくなったり、掌蹠膿疱症やアトピー、その他さまざまなアレルギー疾患となって現れるのです。

 扁桃は、風邪をひいて喉が痛くなったり、疲れが溜まったときに腫れたり、身体防御機能が落ちるとよく症状を示すところです。慢性的に細菌が侵入してしまう場所です。

 また、口腔内は体の中で最も細菌が棲みつきやすい場所です。口呼吸は、口腔乾燥症によって歯周病や口内炎を発症し、「歯性病巣感染」としてさまざまな臓器における疾患の起点となります。

 掌蹠膿疱症などの皮膚疾患は、病巣感染を無くすことによって、ステロイド剤などの薬剤を

使用しなくても、治療をすることが可能です。

 病巣感染を取り除き、鼻うがいと鼻呼吸を心がけてもらうことで、治る可能性は非常に高くなります。

⚫️咀嚼運動と脳の関係

 NHKの人気番組で、咀嚼運動が脳に与える影響が紹介されました。

 ほぼ寝たきり状態だった高齢者の歯を治療して口から食事を摂れるようにすると、なんと自立歩行するまで回復したというのです。

 また、終日ベッドに横たわり、介護者の問いかけにも反応しなかった男性に、歯科医師が義歯を製作して装着すると、QOLが劇的に回復しました。「気力が甦った」といきいきとした表情で述べる男性の姿が印象的でした。

 ある大学の研究では、歯の本数が少ない人ほどアルツハイマー症で脳内の海馬が萎縮していたことも明らかにされました。

 番組内で、東北福祉大学の渡邉識教授は、「噛むことは脳を活性化するだけでなく、体のバランスを取る重要な役割を担う、生きるために必要な力」と、結論づけています。

 歯の組織には、歯根膜という歯槽骨をつなぐ繊維性合組織が存在します。咀嚼と脳をつなぐ重要な働きをするのが、この歯根膜です。歯根膜は、歯と歯槽骨をつなぐという役割以外にも、「噛み応え」を感じるという役割や、咀嚼の際には歯にかかる衝撃を和らげる役割があります。それだけではありません。歯根膜は、脳内の三叉神経につながっているのです。

 咀嚼運動にらよって発生した刺激は、歯根膜から三叉神経を通して脳の中枢に送られます。そして、脳内の運動、感覚、記憶、思考、意欲を司る前頭前野まだ活性化させます。

 本来、食べるという行為は、非常に刺激的な作業です。味覚においては、舌の味蕾ご食べ物の味を電気信号に換え、顔面神経、舌咽神経、延髄、視床を経て大脳の味覚野に送られ、海馬、扁桃体、前頭前野へ伝えられます。脳には過去の記憶ぎ保存されているので、味とともに食事にまつわる思い出が蘇ります。まさに脳を活性化する大切な作業なのです。

 高齢者ほど噛むことによって脳の連合野が顕著に活性化することも明らかになりました。脳の連合野は、五感情報や運動情報などを、より高次のレベルで処理する領域です。積極的な咀嚼が加齢による衰えに歯止めをかける、いわばアンチエイジング効果が期待できることになります。

 また、認知症によるコミュニケーション力の喪失や徘徊行動などを見ると、前頭前野の働きに直結していることがよく分かります。脳の神経細胞は加齢によって減少するものですが、脳に刺激を与えて活性化させれば、残った神経細胞によって脳の機能を維持することができるのです。

 歯が抜けると歯根膜も失われますが、その場合には口腔内の軟組織が歯根膜の代わりを果たすことが明らかになっています。義歯でも噛むことができれば、脳は活性化します。

 近年では、義歯を装着することによって車椅子を使用していた高齢者が自立歩行できるようになった事例を日本歯科医師会が再三にわたり紹介しています。理由として、食物の経口摂取が可能になって体力が回復したことに加え、正しい咬合を回復したことで身体のバランスを取りやすくなったことが、大きな理由として指摘されています。

⚫️子どもと歯根膜

 

 

 噛み合わせが悪い不正咬合の子どもは、集中力が低下する、学力が伸びないなど、脳への悪影響が見られることがあります。

 それには口呼吸がひとつの原因になっていることは、すでに述べた通りです。本来なら鼻から入れる乾燥して冷えた空気が脳を冷却してくれますが、不正咬合により口が閉じられない状

 また、噛み合わせが悪い状態というのは、ちゃんと噛めていない状態なわけです。ということは、歯根膜に刺激が伝達されていないのです。歯根膜に刺激が伝達されないと、脳にも十分に刺激が伝わっていきません。ちゃんと噛めてい状態なわけです。ということは、歯根膜に刺激が伝達されていないのです。歯根膜に刺激が伝達されないと、脳にも十分に刺激が伝わっていきません。ちゃんとと噛めない、咀嚼がしにくい、というのも、子どもの集中力や学力低下の立派な原因です。

 だからこそ、子どものうちから矯正治療をしてちゃんと噛めるような歯にすることが大事なのですが、矯正治療は根本的な解決にまで結びつきません。編正治療で見た目を美しくできても、正しい咀嚼ができない状態、口呼吸のままの状態では、脳への悪影響は継続されていくからです。

 不正咬合でなくても、正しい咀嚼ができない子どもは多く見られます。子どもが好む柔らかい食べ物が多くなったせいか、昔ほど「よく噛んで食べる」ことの大切さを子どもに伝えている家庭は少ないように感じます。

 子どもたちがこれから先の長い人生、生涯にわたって心身の健康を維持していけるように、口呼吸の大切さや咀嚼の大切さを、周りの大人たちは伝えていかなければいけません。

 

⚫️セロトニンと歯根膜

 人間の精神面に大きな影響を与える神経伝達物質であるセロトニン。このセロトニンが不足すると、うつ病などの精神疾患に陥りやすいと言われています。

 セロトニン研究の第一人者である有田秀穂氏は、うつ病治療において代表的な治療薬とされ

るSSRIの使用を「あくまで対症療法に過ぎない」とし、「生活習慣を改善しなければ本質的な治癒には至らない」と述べています。セロトニン神経を活性化させるために効果のとのひとつとして、有田氏はリズムを伴う運動を挙げ、「咀嚼」をその代表例と指摘しています。咀嚼運動の前後の状態を調べると、脳内に増加したセロトニンが血管内に輩出されていることが確かめられています。

⚫️ダイエットと歯根膜

 歯根膜は、ダイエットや肥満防止にも関わっています。噛む回数が増えると、脳にヒスタミンという物質が分泌されます。ヒスタミンは、脳の満腹中枢を刺激し、脂肪を燃やす脳内物質なので、噛む回数を増やし、歯根膜への伝達をしっかり行うことで、痩せるというわけです。

噛むときに大切なのは、柔らかい食べ物でもしっかり噛むことを心がけ、必要以上に固いものを噛もうとしないことです。噛み過ぎは、歯の摩耗を招きます。

成人期以降〜高齢の方の口腔機能について

2024年7月27日

こんにちは、こさか歯科クリニックです。

口腔機能についてのトピックです。

⚫️成人期以降(高齢者)の口腔機能の変化
—まずは知っておきたい!食べることのメカニズム—

 

①食べ物の認識

 

NY大学の短期留学中、よく食べていたチキンオーバーライス。

初めて見る食べ物ですし、見た目はぐちゃっとしていてどんな味かわからないわけです。

それに対して、よく食べるものは目で見て食物の性状や味、温度も予想できます。

ちなみにこのチキンオーバーライスは、外食した中でもピカイチのお味でした。

本来、私たちがものを食べるとき、捕食すること前に過去の経験などからその食べ物はどのようなものか(噛む必要がある食品なのか?舌で押しつぶして食べるものなのか?嚥下だけで対応するものなのか?など)について、食べ物を見る、触る、匂いを嗅ぐなどして判断します。

 

②食べ物の取り込みと咀嚼

 

前歯は、ものを噛み切る「咬断」に向いた、シャベルのような形状をしています。

 

食べ物を口腔内に取り込む前に、口唇や前歯によって適当な大きさに切り取られ、舌は食べ物を迎えるかのように切歯の付近まで突出します。この際にも口唇や舌は食べ物の物性や温度などを感知して、その後の処理方法にかかわる情報を得ます。ある程度の固さをもち、咀嚼のが必要な食品に対しては、舌で受け取った後。すばやく咀嚼する側の歯の上に舌で食べ物を移動させ、舌と顎の動きの協調運動により上下の歯列で粉砕処理します。プリンのような軟らかい食品の場合、舌と口蓋で押しつぶすように処理されます。このとき、鼻腔は咽頭と交通し、呼吸をすることが可能です。

 

奥歯はものを噛み砕くために適した形態です。

特に第一大臼歯は、7割くらいの人がものを最初に噛み砕く機能を有しており、

主機能部位と呼ばれる噛み合わせのエリアがあります。

 

③食塊形成と飲み込みの開始

 

咀嚼が進んで口の中にバラバラに粉砕した食べ物は、そのまま飲もうとすると誤嚥してしまうことがあります。なぜなら、嚥下の際に私たちが息を止めていられる時間は0.5秒ときわめて短いためです。口の中でバラバラに広がった状態で飲もうとすると,早く喉に向かうもの、後から向かうものも含め、0.5秒に間に合わなくなってしまいます。そこで,バラバラに広がった食べ物を舌で上手に一塊にまとめあげることが必要になります(食塊形成)、この際に、唾液と十分に混ぜられるとより飲み込みやすくなります。
食べ物が一塊にまとめられると、軟口蓋が持ち上がることで鼻咽腔が閉鎖されます。この際に舌の前方が強く口蓋に押しつけられ、波打つように動かしながら咽頭に食べ物を押し込みます。

 

 

④咽頭(のど)への送り込み

 

舌の後方は口蓋や軟口蓋に向かって動き、食べ物を押し込みます.食べ物は一気に咽頭の下方に流れ込みます。そのとき、気管の入り口にある喉頭蓋が倒れ込み、同時に声帯など気管を保護するいくつかの構造物が閉鎖し、気管を閉じます.これにより、食べ物が気管に入り込むのを防止します(この食べ物を飲み込む間,息が止まっている時間が0.5秒)。

 

⑤食道への送り込み

 

舌根部は咽頭の後壁に向かって食べ物を押し込み、咽頭の後壁は前方に張り出すことで食道への押し込みを助けます。

 

 

⑥飲み込みの完了

 

食べ物は、すべて食道内に押し込まれました。あとは食道の蠕動運動により胃に向かいます.食べ物が食道に押し込まれたと同時に、喉頭蓋は跳ね上がって気道が開放され、呼吸が再開されます。

 

—高齢期にみられる口腔機能の変化—

 

成人期以降に起きる口腔機能の問題としては、一度獲得した機能が生理的に低下したり、病気が原因で失われたりすることがあげられます。

 

—筋力の低下–

 

加齢とともに全身の筋力は低下します。これは、生理的に起こる筋肉量の低下に加えて、低栄養などによる筋肉量の減少からも影響を受けます。この変化は、口腔や咽頭の筋肉にとっても例外ではありません。ロ腔や咽頭の筋力が低下することで、結果、噛む機能や飲み込む機能も低下するのです。特に舌は筋肉の塊ですので,舌の筋力の低下は、噛む機能。飲み込む機能に加えて、話す機能に影響を与えます。

 

—唾液の減少—

 

唾液は、噛んだ後の食べ物に湿り気を与え、まとまりやすく変化させるのに必須です。また、食べ物の味を含んだ物質を、味を感じる細胞(味蕾)に届けるのは、唾液の役目です。唾液の分泌量は、加齢そのものでは大きく変化しないといわれています。しかし,高齢者が服用している薬の多くは唾液の分泌を妨げる作用をもっています。特に「多剤服用患者」とよばれる。
多くの薬を飲んでいる高齢者では、唾液分泌が薬の影響を受けている場合が多くなります。

 

–喪失歯の増加—

 

現在、80歳で20本の歯を有する人の割合は、50%を超えているといわれています。しかしながら、いまだに残りの50%の人は歯を喪失し、義歯などの補綴装置を使うことで口腔機能を保っているといえます。しかし、義歯による咀嚼機能の回復には限界があり、組織機能の面では天然歯の有意性は揺るぎません。つまり、喪失歯の増加は咀嚼機能の低下につながるといえます。

 

⚫️口腔機能が低下することによる問題

 

—摂食嚥下障害—

 

高齢になると、加齢による機能の低下に加えて、複数の全身疾患をもっていたり、多種多様な薬を服用していたりするため、摂食嚥下障害になる危険性が非常に高まります。高齢者に多いの嚥下障害の症状としては、咀嚼ができない、食べこぼし、嚥下反射が遅くなる、食道の入口の開きが悪くなる、飲み込むのに時間がかかる、唾液が少なくなる,むせたときに咳をすることが下手になる、などがあります。また、摂食嚥下機能に影響を及ぼす副作用がある服用薬としてアトロピンなどの抗コリン薬、三環系抗うつ薬、抗てんかん薬などがあり、注意が必要です。

 

—誤嚥—

 

気道と食道はこのように交差しているので、

摂食嚥下の過程で誤って食物が気管内に入らないよう、

筋肉が協調運動をしているのです。

食物が通る際は、通常気管へ入らないように蓋がされるわけです。

声帯を越えて気管内に唾液や食べ物が侵入することを「誤嚥」といいます。声帯を越えなく喉頭内にこれらが入り込んでしまった際には、「喉頭侵入」といいます。食べ物や唾液が誤嚥や設
喉頭侵入を示すと、それを喀出するために咳嗽反射が起こり、「むせ込み」がみられます。ですから「むせ」がみられた際には,誤嚥や喉頭侵入を起こしていると考えて間違いありません。一方で、誤嚥してもむせず、睡眠中に無自覚に唾液とともに細菌が気管や肺に入る場合もあり、「むせなし誤嘸(不顕性誤嚥)」とよばれています。

 

—窒息—

 

「窒息」とは、空気の道である気道、すなわち口から咽頭、喉頭、気管にかけての道に食べ物が詰まり、呼吸ができなくなったことを指します。この窒息は、命の危険に直結するために注意が必要です。窒息事故は、さまざまな食品によって起こります。死亡に至た窒息事故の原因食品を消費者庁の報告からみてみると、1位である「餅」についで,「米飯」「パン」「肉」「魚介類」と続き、われわれ日本人が普段から食べてい食品が並びます。特に嚥下機能が低下した高齢者おいては、窒息への配慮が必要です。

 

—脱水・低栄養—

 

私たちが1日に食べたり飲んだりしている食事やお茶の量を想像してみてください。3度の食事に加えて、おやつや夜食、紅茶やコーヒーなどを頻繁に摂取していると結構な量になることがわかります。1日分を並べれば、テーブルいっぱいになるような量です。一方。摂食嚥下障害がある人では、十分な食事を摂ることが難しくなれば、当然「低栄養(栄養障害)」に陥ります。
「嚥下障害の人はスプーン1杯の水で溺れる」という言葉があります。通常、水というと誰しも飲みやすいものと思いがちです。しかし、嚥下障害の人にとって、水は動きが速く口腔内でバラバラに広がることから。もっとも誤嚥をしやすく、飲みにくいものなのです.水は、私たちが生きていくために毎日摂取しなければならない重要なものです。嚥下障害になり、水やお茶,みそ汁などの水分を摂るときにむせるようになると、知らず知らずのうちに摂取量が減少し。「脱水」につながります。

 

—食べる楽しみの消失—

 

「生きるために食べよ、食べるために生きるな」・ギリシアの哲学者・ソクラテスの名言としていまも残るこの言葉は、日々、忙しく働く私たちにも教訓を与えてくれます。しかし、「食べることは生きることである」ことも事実で、特に摂食嚥下障害患者さんにとっては、食べることが制限されるなか、「食事を楽しめない人生なんて!」と思うのも無理はありません。
食べるものに制限があっても、食べる楽しみを味わってもらえるような支援を継続することが必要です。

口腔機能、その成り立ち

2024年7月2日

こんにちは、こさか歯科クリニックです。

なぜ、歯科診療室で口腔機能をみることが重要なのか?
ヒトは、どのように口腔機能を発達させるのか?
についてのお話です。


下の前歯の方が上の前歯よりも出ている、逆被蓋の状態。不正咬合の一種。

 

⚫️ヒトの口腔の発達は母胎内から始まる!

 

口は、「呼吸」と「嚥下」という,ヒトが生きていくうえでなくてはならない2つの機能を担う器官です。そのため、これらの機能は胎生期のかなり初期から発達しています。
受精後,胎児は胎生24週には吸啜の動きが出現し,28週ころには吸啜との下が同期するようになります。吸啜の動きを自分の指で繰り返し練習することで、出生後すぐに哺乳を行い。栄養を摂取することができるのです。このように、胎児の吸啜・嚥下運動は、母胎内ですでに感覚・運動系の発達として獲得されています。そして,出生後の食べる機能(摂食嚥下機能)もまた,感覚・運動系の発達としてなされていきます。
この機能は、口腔と咽頭の形態発育との関連がとても深いのです。ヒトの哺乳期の口腔や咽頭は,吸啜(哺乳)を行うのに適した形態をしていますが、その後離乳が始まり、固形の食べ物が食べられるようになるにしたがって口や顎が成長し、ものを噛んで食べるのにふさわしい形態に発達していくのです。

 

●成長・発達による口・喉の変化(嚥下時)

 

①乳児のころ(乳児嚥下)
哺乳期の舌は前後の動きが主であり、喉の位置(気管と食道の入り口)は高い。
②離乳食が始まったころ
舌は上下に動いて食べ物をつぶすようになり、下唇が内側にめくれ込む動きもみられる。
③乳歯が生えはじめたころ
舌のさらに複雑な動きができるようになり、下唇のめくれ込みはみられなくなる。また、喉の位置も下がり、発声のための音をつくる空間ができていく。

 

●”食べる機能”発達の原則

 

食べる機能(摂食嚥下機能)の発達には、原則があるとされます。それは、「個体と環境の相互作用」です。子ども本人の「発達する力」と、周りを取り巻く「環境」からの刺激がバランスよく働きかけあうことで,感覚・運動の統合がなされ、食べるために必要な機能の発達が促進されます。また、食べる機能の発達には適切な時期があり、年齢が低いほど内発的な力が旺盛です。しかし、最適な時期を過ぎたとしても,時間がかかるかもしれませんが食べる機能の獲得はなされていくと考えられており、何歳になってもあきらめるべきではありません。

乳歯列から成長し、生え替わりの途中の時期。このように乳歯の間の隙間が目立ってきます。永久歯への生え変わりに向けて、顎が成長していきます。

 

●“食べる機能”の発達の順序とは?

 

食べる機能はある一定の順番で発達していきます。全身の姿勢や運動に関連する粗大運動の発達では、じめに頸定し(首がすわり),座位がとれるようにり、つかまり立ちをし,一人歩きをする,といった番がありますが、食べる機能も同様で、哺乳からしなり咀嚼機能が獲得されるわけではなく、口唇を閉たり、舌が前後から上下,左右へと動いたりするこができるようになりながら咀の動きが獲得されてきます。そして、その動きには”予行性”があることもいわれています。これは、「獲得された動きを十分に経験することで、次の段階の機能が獲得されやすくなる」ということです。つまり、そのとき食べられる形、軟らかさの食事を十分に食べているうちに、次の段階の機能が自然と引き出されてくるということなのです.

 

●口腔機能の発達はヒトそれぞれ

 

機能の発達は、日々順調に進んでいくわけではありません。階段を上がったり降りたり、あるいは螺旋階段を登るように遠まわりしながら伸びていく場合もあります。ヒトほど個人差の大きい動物はいないといわれるほど、食べる機能の発達過程にも個人差があります.これは機能面のみならず、歯の萌出時期や口腔形態の違い,個人の性格や家庭環境による違いなど、さまざまな要因が影響するためです。したがって、同じ月齢,年齢で比較することは意味がないばかりか、かえって弊害を招くことが多くなります。
このように、ヒトは自分のもっている力に加え、実にさまざまな要因の影響を受けながら口の機能を発達させていきます。このことは、健康な子どもも発達に遅れのある子どもも、変わりはないのです。


下の前歯が見えないほど深く噛み込んでいる、過蓋咬合の状態。顎の成長に影響があります。

 

⚫️人は、どのように老いるのか?
●いま来院している高齢者はいずれ通院不可能となる

 

日本人はどのように老いていくのでしょうか?全国の高齢者を20年間追跡調査し(N=5717),高齢者の自立度の変化パターンを調べた報告があります。その調査によると、男性では
60歳代前半から一気に自立度を低下させるパターンは19%で、脳血管疾患への罹患など全身疾患がその原因となります。一方で,75歳以降に徐々に身体機能の低下を示すのは約70%であり、加齢とともにその発症率を増すさまざまな疾患に加え、低栄養に伴う筋力の低下などが原因と考えられます。
高齢者の多くが憧れる“ぴんぴんころり (亡くなる直前まで元気に生活すること)”は10%程度にすぎず、多くの高齢者が徐々に身体機能・認知機能を低下させ、自立度を低下させていることがわかります。手段的日常生活動作について援助が必要。加えて基礎的日常生活動作についても援助を必要とする。
「手段日常生活動作」とは、買い物や洗濯などの家事や、交通機関を利用した外出や服薬管理、金銭の管理など高次の生活機能を維持するために必要な能力です。一方、「基礎的日常生活動作」は、食事や着替え、就寝・起床、入浴やトイレに行くなどの基本的な生活動作を示しています。つまり、70%の人が80歳を前にして、齲蝕や歯周病の予防が可能な口腔衛生管理ができなくなる恐れがあり,80歳代前半には外来受診が困難になるといえます。また、晩年まで自立を維持できる10%の人を除いて、期間の長短はあるにしろほぼすべての人が自立した生活が困難な時期を過ごすことになり、歯科医院への通院が不可能となることを示しています。
60歳代前半から一気に自立度を低下させる19%の多くは、病気などで一気に通院が困難になった方たちで,皆さんが診療室に勤めている限りはお会いすることはないかもしれません。一方で、いま、元気に来院してくれている高齢者のなかには、もうすぐに、約70%のコースに乗っている人たちも多くいるはずです。
つまり、高齢者についてはある意味,ほぼすべての人が通院不可能になることを考えて,歯科治療の計画を立てる必要があります。次のリコールやメインテナンスの際には、もしかしたら体調を崩して診療室に来ることが困難になっているかもしれませんし,「次の診療の機会は訪問診療で…」ということになる可能性もおおいにあるのです。

 

●口腔機能は低下する〜診療室でも早めの対応を!

 

すべての人の口腔機能は低下します。70歳の患者さんも80歳の患者さんもいつまでも口だけが健康というわけにはいきません。誰もが老いたくはありませんし、いつまでも若いままでいることを望みます。しかし、残念ながらすべての人に老いは訪れ、身体機能。認知機能の低下に伴って口腔機能も低下し。口腔衛生管理が徐々に困難になってきます。手を細かく動かすことが困難になり、口腔器官の運動能が低下することで自浄作用も低下し、口腔内が不潔になりがちになります。
つまり、高齢者の口の機能の低下に気づき、早い段階で改善・予防することができれば、齲蝕や歯周病の予防となるだけではなく、その後の口腔機能をできる限り維持し、最期まで自分の口で食事を楽しむことにもつながってくるのです。

 

●運動障害性咀嚼障害とは?

 

咀嚼障害は、その原因から「器質性咀嚼障害」と「運動障害性咀嚼障害」に分けることができます。器質性咀嚼障害とは、歯をはじめとする咀嚼器官の欠損によって起こる咀嚼障害です。この器質性咀嚼障害に対しては、義歯などの補綴治療による咬合回復が咀い機能改善のための唯一の方法となります。
一方,避けては通れない生理的老化により身体機能は低下を示し、また、依然日本人の死亡原因の上位を占める脳血管疾患などによっても身体機能は障害されます。これら身体機能の低下や障害は、口腔にも及んで咀嚼障害を引き起こし、これを「運動障害性咀嚼障害」とよびます。この場合には、一般的な歯科治療による咬合回復に加えて,筋肉に負荷を与え運動機能の回復を目指すレジスタンス訓練や,巧緻性の訓練の実施も必須となり、歯科診療室においても「器質性咀噂障害」と「運動障害性咀嚼障害」の両面からアプローチしていくことが求められています。
このように、社会が高齢化し、歯科においても齲蝕・歯周病などの口腔疾患だけではなく「口腔機能」にもアプローチすることが重要視されています。

口腔機能の発達や、機能障害を回復するリハビリなど、お問い合わせはお気軽にこちらからお願いします。