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歯茎がやせることと治療の難しさ

2023年7月22日

「お食事、問題なくできていますか?」
「なんでも噛めてます」

 残っておられる歯が少なくなっている方、大きい入れ歯がお口に装着されている方とお話しすると、「なんでも噛めています」とおっしゃられる方が意外と多いです。もう少し踏み込んで、お食事内容を聞くようにしています。そうすると、あることが浮かび上がってきます。実際のお食事は、意識するしないに関わらず特定の食材やかみごたえのあるものを避けておられるということです。お食事は毎日のことなので、何かの食品を避けていることに気づきにくいです。

 歯が残っている本数により、このように摂取できる食品に差が出てきます。歯の欠損が多くなり、入れ歯を装着し、使っていくとしたらこのように摂取できる食品を選んでいくことになります。入れ歯治療で歯の数を元あった通りに回復すると、なんでも噛めるようになるんじゃないか?と思われる方もいらっしゃいます。そこで、入れ歯の状態を思い浮かべてみてください。

 歯がなくなったところは柔らかい歯茎になっていますね。そこに樹脂でできた入れ歯を入れます。そして何かを噛むわけです。樹脂でできた入れ歯(金属の床の入れ歯も同様)で噛むとすると、柔らかい歯茎に沈み込んでいきます。本来歯というのは硬いものです。歯で噛むと歯の根を通じて顎の骨に力が伝わります。入れ歯の場合は柔らかい歯茎に力が伝わります。つまり、柔らかい歯茎に固い入れ歯を入れて、固いものを噛むというのは、特別なことであると思いませんか?
 また、それぞれの患者さんの歯茎は同一の状態ではなく、顎の骨の吸収により歯茎が痩せてしまい、入れ歯が安定しにくかったりします。しっかり噛む力を受け止められるような歯茎の質でないこともあります。同じ方でも、加齢により歯茎の状態も変化していきます。患者さん特有の状態に合わせて入れ歯治療を行う必要があるのです。画一的に、入れ歯で歯を補ってはいおしまい、ということにはならないのです。加齢による変化で言うと、例えば老眼や補聴器もその時の状態によって変えていくわけです。歯ももちろんその時の状態で必要なものが違ってきます。それがいつ来るかは経過を見ていかないとわかりませんし、それを先送りするにはリハビリテーションが必要です。そもそも老化は病気ではないですよね。止められません。不幸にも歯の欠損の状態になってしまったら、オーラルフレイルの図を用いて、患者さんによくお話をします。フレイルになる前に事前対応ができるなら、やっておきませんか?というように。


 
 入れ歯の調子が良ければ、精神的、肉体的にも状態が良くなります。日中は常に入れ歯を装着することが望ましいです。なぜなら、上下の歯を噛み合わせられると身体に力を入れることができるからです。入れ歯は運動機能の向上に寄与します。生理的な噛み締める顎の位置があります。日中に入れ歯を入れておらず、身体のバランスが取れない、力が入らない状態でもし転倒でもしたら、最悪寝たきりになってしまいます。寝たきりのきっかけは骨折だからです。
 低栄養の方におすすめなのが、ひき肉です。包丁で叩いたり、フードプロセッサーで細かく調理しても良いと思います。入れ歯で硬いものを噛んでいたら、顎が吸収していきます。でもそればしょうがないことです。それが老化というものです。しかし、家族とかけ離れたものを食べるものよくないです。お世話をするご家族の負担が大きいです。調理法を変えて準備していくもの重要です。
 治療を受けること自体は、そんな快適なものではありません。みんな嫌なのです。病気の初期段階で、放置してどうにもならない状態を避けるため、早い手を打つと良いです。例えば歯周病で歯の周りの骨が溶けていっている状態があるとすると、それを放置しておくことにより炎症で骨がなくなっていきます。歯を残せる治療もできない、抜歯後にブリッジやインプラントができない状態かもしれません。歯周病の放置により、入れ歯しか選択肢がなくなってきます。その入れ歯を作製していく歯茎も、条件が悪くなってしまいます。安定しにくい入れ歯になるということです。
 といっても一般的に事前対応をバッチリしている場合というのは、少ないものです。
・学童期・・・親が頑張る
・成人期・・・健康が当たり前と思って気がゆるむ。言っても響かない
・高齢期・・・ようやく健康に気をつけ始める。
これは、歯科の勉強会である先生がお話しされていたことですが、本当に同感です。歯を失う原因の一位が歯周病ですが、症状がなく経過しますので、歯が揺れ出した頃には重症すぎて救うことができなかったりします。
 では歯が多く失われてしまった場合、機能回復のために何ができるでしょう。どうして歯周病にならないよう、進行しないようにしてこなかったんだとかごちゃごちゃ言ってもしょうがないです。積極的な治療をするとしてインプラントは非常に有効な手段ですが、全ての患者さんには適応できません。全身疾患や外科処置を受け入れがたいなどの理由があるからです。入れ歯でなんでもできるわけではありませんが、状態を放置するよりかは随分QOL向上や健康寿命延長に役立つと思われます。

 入れ歯を装着し生活することで、脳が活発に働きます。話したり食べたりするときに実は脳の機能をたくさん使います(高次脳機能)。食事をするときに今から食べるものを見ますよね。海馬は前に食べたものを再び見たときに働いています。咀嚼できるように準備します。噛めずにおやゆやとろみペーストばかりの食事を摂り続けると、脳が働かなくなるのです。

入れ歯治療で難しいことって?
 歯茎がしっかり残っているかどうかについてお話しします。

 こちらのレントゲン写真の症例のように、顎の骨が細くなってしまうことがあります。入れ歯を使い続けることで歯茎が痩せるのですが、下顎の場合、舌の圧も関係しています。舌圧のため吸収は舌側から大きく生じます。
 歯茎の中には顎の骨があります。吸収するのは歯茎のお肉というより顎の骨です。吸収する因子は次の3つが考えられます。
①解剖学的因子
②新陳代謝的因子
 これは不衛生な口腔内環境に関係あります。入れ歯も食後の洗浄が必要で、不衛生な状態ですと入れ歯の床の汚れに菌が増えてきて、その内毒素により吸収が生じると考えられています。
③力学的因子
 過大な噛みしめなどの力が力が発現することで生じます。
④骨密度の因子
 骨粗鬆症などの理由です。高齢の女性に多く認められます。運動、日光にあたること、睡眠が不足していることが原因です。

 これらの因子から顎の骨を保全する必要があります。骨の吸収が進行しないように歯周病治療にしっかり取り組むこと、温存することで周囲の骨の状態が悪くなるような歯を抜歯すること、入れ歯治療にて咀嚼能率の高い人工歯を選択するなどです。

顎が痩せてしまったら・・・
 顎の骨が吸収し続けて、お口の中をみるとまるで歯茎が凹んだような状態の方もおられます。そこまで病気が進行してしまうと、どうしても入れ歯の安定は得られず、せっかく入れ歯を作ってもふわっと入れ歯が浮き上がってしまう、噛むときに動いてしまう、入れ歯がずれて歯茎に傷ができて痛いという困ったことになります。入れ歯単独での治療では、患者さんの望まれる機能回復が難しいです、インプラント治療を組み合わせて、入れ歯の動きを止めてしまうという方法も考えられます。

 入れ歯が動いてしっかり噛めないなどお困りの方は、こちらの治療も検討されても良いかと思います。

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