歯科の訪問診療
私たちの訪問診療での取り組みをご案内します。開院直後は外来のみ診療しておりましたが、徐々に往診のご要望をいただくようになり、可能な限り訪問診療をしております。初回から訪問診療のご依頼をいただく場合と、外来で診させていただいていた患者様が、全身疾患により通院困難となり訪問診療に移行する場合があります。
外来のように診療チェアーに寝てもらい、ライトが当たっている状況ではないですから、訪問診療の際は様々な工夫を凝らして対応します。
院長の勤務医時代は、3年間週2回の頻度で訪問診療に携わっていました。今から15年ほど前のことです。当時は香川県の歯科医院に勤務しており、寝たきりの患者さんのところを回って口腔ケアをしたり、居宅へ伺い入れ歯を修理、作製したり、様々な経験をさせていただきました。基本的に車社会で、身体が思うように動かせず、ご家族が車で歯科に連れていくのも難しいような方はたくさんいらっしゃいました。居宅への訪問診療では、ご夫婦または1人暮らしのご高齢の方が多かったです。臨床経験も少なく、的確に診療できていなかったと思いますが、患者様のもとへお伺いすると、喜ばれたりして嬉しかったです。
私たちの訪問診療の取り組み
歯周病治療、口腔ケアは、まず歯科の訪問診療といえばこのイメージがあります。口腔ケアは毎回大きい変化はありませんが、継続することにより確実に感染症のリスクを軽減できます。
まず、口の病気は細菌感染症であることをご存知でしょうか。なぜ虫歯や歯茎の病気(歯茎の腫れ、出血、歯のぐらつき)が生じるのかというと、お口の中にいる無数の菌による感染で生じるのです。
お口の清掃状態が良くなければ、歯の周りにべとべとした汚れのようなものが付着します。これは単なる食べかすの蓄積ではなく、プラークといって細菌の巣であります。虫歯、歯周病は、実はこのプラークに潜んでいる細菌によって引き起こされるのです。生まれつきお口の中にいるものではありませんが、生活をする中で、家族間で感染が起こります。
歯周病菌が引き起こす病気は、日本人の80%が感染している歯周病です。これが歯を失ってしまう原因の第1位です。歯の周りの病気と書く通り、歯を支えている顎の骨が溶けて無くなっていきます。口腔内だけではなく、実は健康的な生活を送る上で全身の健康への悪影響が大きいのです。具体的には、心臓病、糖尿病、誤嚥性肺炎、血管障害、早産などです。罹患している方が多く、症状が出ないまま進行しやすいので、あまり病気に対する危機感がないように感じます。歯周病は、食べ物を噛み砕いて栄養摂取する活動を困難にしてしまいます。尚且つ死に直結するような全身疾患を引き起こす恐ろしい病気です。
口腔内のバイオフィルムを除去、綺麗な状態を維持する
このような口腔内に存在する悪影響のある菌を可能な限り取り除いていくことが、全身の健康を維持するために必須なのです。特に、訪問診療を必要とされる方は、他科の疾患をお持ちの場合が多く、高血圧や糖尿病、血管障害が多く見られます。ケアをすることにより持病が改善することも期待できます。逆に、口腔内の菌の塊が血流に乗って他科疾患を引き起こしたり、炎症が持続することにより持病の増悪も進行します。
口腔ケアにより歯周病菌をはじめとする悪玉細菌が増殖しにくい口腔内環境にしていきます。今まで十分なケアができていなかったとしても、今からケアに取り組んでいくことができる最善ではないでしょうか。
メディセル
実際の施術の様子は
です。
このように、頭頸部の咀嚼筋や姿勢を保つ筋肉を中心に、皮膚の上からメディセルを作用させていきます。とても気持ちよく受けていただけます。施術を受けられた方からは、メディセルについて次のような感想をいただいています。
・60代女性 施術6回
顎が外れそうな感覚が以前ありました。施術後は、外れる感覚が弱まっていき、大きく口を開けられるようになりました。さらに、肩こりや眼精疲労がマシになりました。頭がスッキリして、まるで温泉に入ってリラックスしたような感覚です。
・40代女性 施術19回
口が開きにくい、顎関節の音、肩こり、頭痛、寝つきが悪い、疲労が取れないというお悩み。
施術後は、顎の音はまだあるが、口周りの不快感は減ってきており、肩こりと頭痛の改善が見られました。
かなり症状が強い方でしたので、繰り返し施術を行い、症状改善を図りました。
義歯作製、修理
リハビリテーション
口腔内の残っている歯が少ない、または義歯を以前使用していたが使わなくなったなど、患者さんによって様々な状況があります。基本的に上下の歯を噛み合わせる部分が減っていくと、どこで噛んだら良いのかわからなくなってきます。私たちが食べる時以外にも、上下の歯が噛み合う局面があります。身体を動かすとき、力を入れて踏ん張るような時です。噛み合わせを失ってしまうと、身体のバランスを失い、運動制限につながります。転倒もしやすくなります。転倒により大腿骨骨折→寝たきり→病院で亡くなる、といったよくない流れになります。
訪問診療での入れ歯治療ですが、依頼が多いのは、入れ歯が合わない、ご家族からの相談で「入れ歯を入れるのを嫌がるようになった」などです。以前作った入れ歯が合わなくなってきているとしたら、顎が痩せてしまい、入れ歯の適合が著しく悪化していることが考えられます。その場合、可能な状態であれば修理で対応します。長年慣れておられる入れ歯があるなら、そちらを修理して使い続けるのが患者さんへの負担も少ないです。入れ歯の床に亀裂が入っていたり、割れてしまったような状態でも、訪問診療の準備の中に修理対応できる材料を入れております。その場で即修理し、お渡しします。修理が不可能なほど破損が大きい場合は、新製していくことになります。
また、歯が何箇所か抜け落ちてしまい、以前の入れ歯が合わなくなってしまった場合、その入れ歯を修理してリハビリ可能な状態にしにくいため、新製することになります。
義歯作製の手順は複数回あります。最初に、今までお使いの入れ歯やお口に残っておられる歯、歯茎の高さや幅、粘膜の状態を調べていきます。場合によっては、残っている歯の状態を改善してから入れ歯作製します。歯型をとって次の週に出来上がるようなものではなく、噛み合わせの記録をとり、お顔や発語の調和が取れているかを確認して、仕上げていきます。あまりこれらの工程を飛ばして完成しないほうがい良いです。作製工程の中で、修正が可能な段階で修正をかけることが重要です。完成後には歯の位置や向きなど修正不可能であるからです。
入れ歯完成後は、新しい入れ歯にお口の感覚が慣れていく必要があります。一般的に、以前入れ歯を使用されたご経験のある方は、入れ歯自体への違和感、異物感に慣れておられますので、リハビリを進めやすいです。歯の欠損を長年放置されて、入れ歯を入れた経験がない場合、入れ歯にすぐ慣れるかというと難しいと思います。ご高齢であるほど、口腔内の感覚が入れ歯に慣れていきにくいのではないかと考えられます。その場合、入れ歯の設計を工夫したり、違和感がなるべく減らせるような調整をして、徐々にリハビリを進めます。
このように、訪問診療では虫歯治療よりも口腔ケア、メディセルによる機能回復と不快症状の改善、入れ歯治療が主になっています。