こんにちは、こさか歯科クリニックです。
今回は、子どもの歯ぐきの病気と、その特徴についてのお話です。
来院された時、歯の表面に何日も付着しているような汚れが多かった口腔内。
ブラシで清掃したところ、歯茎の赤みが強く、出血が多かったです。
⚫️子どもは歯周炎にならないのか?
子どもに認められる歯周疾患は,デンタルプラークの蓄積が原因となる歯肉炎(プラーク性
歯肉炎)がほとんどで、歯周炎はごくまれです。
1歳半までの30%以上の子どもが、歯肉の発赤・腫脹を伴うプラーク性歯肉炎に罹患しているといわれています。その後,成長とともにプラーク性歯肉炎は増加しつづけ、思春期には半数以上にも及びます。それでも、成人になるまでにアタッチメントロスや歯槽骨の破壊を伴う歯周炎を発症することはほとんどありません。
子どもの口腔内からは歯周病菌があまり検出されず、歯周組織の抵抗力も強いため、歯周炎を発症しにくいようです。しかし、成長するにつれて歯周病菌が増加していくだけでなく、歯周組織の抵抗力が低下していきます。そのようななかで、プラーク性歯肉炎は歯周炎を誘発するリスクファクターになるため、子どものうちから歯周状態の健康を意識しておくことが大切です。
●歯周病菌と歯周組織のバランス
子どもの歯周組織は抵抗力が強く、病原性の高い歯周病菌が存在することもまれです。そのため、デンタルプラークが蓄積しても、歯肉炎(プラーク性歯肉炎)を引き起こすだけで、歯周炎まで発症することはほとんどありません。しかし、プラーク性歯肉炎を放置したまま油断していると、子どもが成人になったときに、病原性の高い歯周病菌の定着と歯周組織の抵抗力の低下を生じて、歯周炎が引き起こされます。
⚫️歯周病菌の出現
デンタルプラークは歯肉緑上プラークと歯肉
縁下プラークに分類され、それぞれの環境の違いにより構成される細菌の種類が異なります。
歯肉緑上プラークは歯面に形成され、酸素が浸透しやすい環境下で生存できるう蝕の原因菌をはじめとする口腔レンサ球菌などが生息しています。それに対して、歯肉縁下プラークが形成される歯肉溝は、構造的に酸素が侵入しにくい環境であるため、空気を嫌う多くの歯周病菌は歯肉溝に生息します。子どもでは歯肉縁上プラークの構成菌は成人とあまり変わりませんが、歯肉溝に存在する菌は成人とは大きく異なり、歯周病菌はあまり検出されません。
しかし、歯周病にかかわる菌は成人になってから突如出現するわけではありません。子どものうちに定着する歯周病原性の弱い菌が、思春期になって現れる病原性のやや強い菌の定着のために必要であるとされています。さらに、成人になって出現する病原性の高い菌の定着に、小児期および思春期に形成された菌がかかわると考えられています。また、歯周病菌は保護者から子どもに伝播することが知られており、重度の歯肉炎に罹患した子どものデンタルプラークからは多くの歯周病菌種が検出されることがあります。したがって、子どもの歯肉炎を放置することは、歯周病菌の定着時期を早め,歯周炎を発症するリスクを高めることになります。
●歯肉縁上プラークと歯肉縁下プラーク
う蝕の原因や歯周病性の低い滞在菌は歯肉縁上プラークに生息しているのに対して、病原性の高い歯周病菌は歯肉炎縁下プラークに生息しています。子どもでは歯肉溝が浅く歯周病にかかわる菌は少ないですが、口腔衛生状態の悪い子どもでは病原性の高い歯周病菌が存在することがあります。
⚫️子どもの歯周炎
1. プラーク性歯肉炎
子どもの歯肉炎は、プラーク性歯肉炎がほとんどであるため,デンタルプラークを除去することで容易に解決できます。プラーク性歯肉炎を有する子どもでは,デンタルプラーク除去時に歯肉に痛みや出血を伴います。そのため,子どもは歯磨きを嫌がり、歯肉炎をさらに悪化させるという悪循環に陥ることがあります。また,子どもや保護者の十分な協力が得られなければ,歯肉炎が一時的に改善したとしてもすぐに再発します。子どもに歯磨きを習慣化させるためには、歯科衛生士が子どもや保護者に根気よく指導を行うことが必要です。
萌出途中の永久歯の歯肉炎は、深い歯肉溝にデンタルプラークが蓄積することで容易に生じ,特に萌出性歯肉炎とよばれています。萌出性歯肉炎の好発部位は大臼歯ですが、前歯や小臼歯に生じることもあります。また、小学校高学年から中学生ごろには,ホルモンの変調,受験やクラブ活動による不規則な生活、口腔衛生に対する関心の低さなどが重なり、歯肉炎の罹患率が高くなることから、特に思春期性歯肉炎とよばれています。萌出性歯肉炎や思春期性歯肉炎による疼痛や炎症が頭著な場合には、抗菌薬や鎮痛薬を処方することもあります。これらの歯肉炎を発症する年代では、歯科受診の機会が少なくなる傾向にあるため、定期検診の重要性をよくご理解いただくことが大切です。
2.口呼吸由来の歯肉炎
口呼吸由来の歯肉炎は上顎前歯部に好発し,露出した唇側歯肉が乾燥することにより発赤や
腫脹を生じます。口呼吸は、口唇閉鎖不全、歯列不正、気道の狭窄、鼻疾患などさまざまな原因により生じるため、原因を明確にして除去することが必要です。
口呼吸由来の歯肉炎は,プラーク沈着が直接の原因ではありませんが、口腔衛生状態が不良なほど悪化するため,口腔内を清潔に保つことも大切です。
3. 歯肉増殖
歯肉増殖は薬物の副作用や遺伝的要因に分類され、全顎的に歯肉肥大を認めます。薬物性の歯肉増殖は、てんかん発作の治療に用いる抗けいれん薬のフェニトイン、臓器移植の拒絶反応を抑える免疫抑制剤のシクロスポリン、高血圧や狭心症の治療に用いられるカルシウム拮抗薬のニフェジピンなどの服用により生じます。
増殖した歯肉は非炎症性で硬く、歯冠を完全に覆うこともあり、歯肉切除を行わなければ改善させることは困難です。歯肉増殖の直接の原因はデンタルプラークではありませんが,歯肉
切除を行ったとしてもプラークコントロールが不十分であれば再発しやすくなります。
清掃状態をチェックするための染め出し液。
磨き残しがある部位について、患者さんと共有することで
普段お掃除ができてるようでできていないところを改善していきます。
小児歯科だけでなく、大人の方の歯周病治療や健診時にも必ず染め出しを行なっております。
4.歯肉退縮
(咬合性外傷由来,機械的刺激由来)
歯肉退縮は,叢生により唇側転位した下顎の
永久前歯の唇側に多く認められます。このような歯は、歯ブラシが他の歯よりも強くたることに加え、唇側の歯槽骨が非常に薄いために容易に歯肉退縮を生じます。
また,特定の歯が歯ぎしりなどで強い咬合力を受けると。歯周組織に炎症を生じて歯肉退縮を引き起こすことがあります。ブラッシング指導や咬合調整だけでは改善が期待できない場合には、矯正治療で歯を適切な位置に移動させる必要があります。
⚫️子どもの歯肉炎
1.慢性歯周炎
小児期に原因不明の重度の歯周炎を発症することがごくまれにあります。小児期の歯周炎は、乳歯と永久歯のそれぞれに認められ、短時間のうちに歯槽骨吸収や歯の動揺を生じることが多いです。
小児期の歯周炎は全身疾患と関連していることがあり、遺伝性のものと免疫系に関連するものに分類されます。遺伝性のものとして、家族性周期性好中球減少症、ダウン症候群、白血球
接着能不全症候群、パピヨン・ルフェーブル症候群、チェディアック・東症候群、組織球症症候群などがあげられます。一方、免疫系に関連する疾患としては、白血病や糖尿病などがあげられます。これらの疾患をもつ患者さんは、小児科領域から紹介されて歯科領域でフォローすることが多いです。
上記の全身疾患を有する子どもは、病原性の高い歯周病菌が存在しなくても、歯周組織の抵抗性が極端に弱いために歯周炎を発症します。
歯周炎の原因が全身状態に起因するため、歯周組織に対する治療で歯槽骨の吸収を抑えることは困難です。それでも、歯科医院ではスケーリングや抗菌薬の局所投与を行い,歯周炎の悪化を遅らせる必要があります。歯周組織の痛みや歯の動揺などの症状が改善しない場合には、該当する歯は自然脱落や抜歯の対象になることもあります。
小児患者さんのブラッシング用歯ブラシ。
毛先が柔らかく、歯肉炎のある状態でも用いやすいタイプです。
2. 非炎症性歯周病変
(低ホスファターゼ症)
デンタルプラークの蓄積による炎症が原因でない歯周疾患のことを「非炎症性歯周病変」というよび方が使われはじめています。たとえば、低ホスファターゼ症がこれに該当します。低ホスファターゼ症は、遺伝子の変異により血中のアルカリホスファターゼ活性が低下して骨の形成不全を生じる疾患であり、歯科的には乳歯の早期脱落が特徴的です。乳歯の早期脱落は、セメント質形成不全により乳歯と歯槽骨との結合が不十分であることに起因します。
乳歯が早期脱落した症例では印象採得が可能になるころから、咀嚼や発音、審美性の改善のために小児義歯を装着します。これまで低ホスファターゼ症は、予後不良の難病とされてきましたが、近年開発された酵素補充療法という治療法により患者さんの寿命やQOLが向上してきています。
低ホスファターゼ症では早期発見が重要であり、疑われる症例はできるだけ早期に小児科領域に紹介することが推奨されます。歯だけにしか症状が出ない症例もありますが、歯科領域から小児科領域に早期に紹介することができたおかげで、全身に生じていた骨の異常を早期に発見できた症例も存在します。