こんにちは、こさか歯科クリニックです。
口腔機能についてのトピックです。
⚫️成人期以降(高齢者)の口腔機能の変化
—まずは知っておきたい!食べることのメカニズム—
①食べ物の認識
NY大学の短期留学中、よく食べていたチキンオーバーライス。
初めて見る食べ物ですし、見た目はぐちゃっとしていてどんな味かわからないわけです。
それに対して、よく食べるものは目で見て食物の性状や味、温度も予想できます。
ちなみにこのチキンオーバーライスは、外食した中でもピカイチのお味でした。
本来、私たちがものを食べるとき、捕食すること前に過去の経験などからその食べ物はどのようなものか(噛む必要がある食品なのか?舌で押しつぶして食べるものなのか?嚥下だけで対応するものなのか?など)について、食べ物を見る、触る、匂いを嗅ぐなどして判断します。
②食べ物の取り込みと咀嚼
前歯は、ものを噛み切る「咬断」に向いた、シャベルのような形状をしています。
食べ物を口腔内に取り込む前に、口唇や前歯によって適当な大きさに切り取られ、舌は食べ物を迎えるかのように切歯の付近まで突出します。この際にも口唇や舌は食べ物の物性や温度などを感知して、その後の処理方法にかかわる情報を得ます。ある程度の固さをもち、咀嚼のが必要な食品に対しては、舌で受け取った後。すばやく咀嚼する側の歯の上に舌で食べ物を移動させ、舌と顎の動きの協調運動により上下の歯列で粉砕処理します。プリンのような軟らかい食品の場合、舌と口蓋で押しつぶすように処理されます。このとき、鼻腔は咽頭と交通し、呼吸をすることが可能です。
奥歯はものを噛み砕くために適した形態です。
特に第一大臼歯は、7割くらいの人がものを最初に噛み砕く機能を有しており、
主機能部位と呼ばれる噛み合わせのエリアがあります。
③食塊形成と飲み込みの開始
咀嚼が進んで口の中にバラバラに粉砕した食べ物は、そのまま飲もうとすると誤嚥してしまうことがあります。なぜなら、嚥下の際に私たちが息を止めていられる時間は0.5秒ときわめて短いためです。口の中でバラバラに広がった状態で飲もうとすると,早く喉に向かうもの、後から向かうものも含め、0.5秒に間に合わなくなってしまいます。そこで,バラバラに広がった食べ物を舌で上手に一塊にまとめあげることが必要になります(食塊形成)、この際に、唾液と十分に混ぜられるとより飲み込みやすくなります。
食べ物が一塊にまとめられると、軟口蓋が持ち上がることで鼻咽腔が閉鎖されます。この際に舌の前方が強く口蓋に押しつけられ、波打つように動かしながら咽頭に食べ物を押し込みます。
④咽頭(のど)への送り込み
舌の後方は口蓋や軟口蓋に向かって動き、食べ物を押し込みます.食べ物は一気に咽頭の下方に流れ込みます。そのとき、気管の入り口にある喉頭蓋が倒れ込み、同時に声帯など気管を保護するいくつかの構造物が閉鎖し、気管を閉じます.これにより、食べ物が気管に入り込むのを防止します(この食べ物を飲み込む間,息が止まっている時間が0.5秒)。
⑤食道への送り込み
舌根部は咽頭の後壁に向かって食べ物を押し込み、咽頭の後壁は前方に張り出すことで食道への押し込みを助けます。
⑥飲み込みの完了
食べ物は、すべて食道内に押し込まれました。あとは食道の蠕動運動により胃に向かいます.食べ物が食道に押し込まれたと同時に、喉頭蓋は跳ね上がって気道が開放され、呼吸が再開されます。
—高齢期にみられる口腔機能の変化—
成人期以降に起きる口腔機能の問題としては、一度獲得した機能が生理的に低下したり、病気が原因で失われたりすることがあげられます。
—筋力の低下–
加齢とともに全身の筋力は低下します。これは、生理的に起こる筋肉量の低下に加えて、低栄養などによる筋肉量の減少からも影響を受けます。この変化は、口腔や咽頭の筋肉にとっても例外ではありません。ロ腔や咽頭の筋力が低下することで、結果、噛む機能や飲み込む機能も低下するのです。特に舌は筋肉の塊ですので,舌の筋力の低下は、噛む機能。飲み込む機能に加えて、話す機能に影響を与えます。
—唾液の減少—
唾液は、噛んだ後の食べ物に湿り気を与え、まとまりやすく変化させるのに必須です。また、食べ物の味を含んだ物質を、味を感じる細胞(味蕾)に届けるのは、唾液の役目です。唾液の分泌量は、加齢そのものでは大きく変化しないといわれています。しかし,高齢者が服用している薬の多くは唾液の分泌を妨げる作用をもっています。特に「多剤服用患者」とよばれる。
多くの薬を飲んでいる高齢者では、唾液分泌が薬の影響を受けている場合が多くなります。
–喪失歯の増加—
現在、80歳で20本の歯を有する人の割合は、50%を超えているといわれています。しかしながら、いまだに残りの50%の人は歯を喪失し、義歯などの補綴装置を使うことで口腔機能を保っているといえます。しかし、義歯による咀嚼機能の回復には限界があり、組織機能の面では天然歯の有意性は揺るぎません。つまり、喪失歯の増加は咀嚼機能の低下につながるといえます。
⚫️口腔機能が低下することによる問題
—摂食嚥下障害—
高齢になると、加齢による機能の低下に加えて、複数の全身疾患をもっていたり、多種多様な薬を服用していたりするため、摂食嚥下障害になる危険性が非常に高まります。高齢者に多いの嚥下障害の症状としては、咀嚼ができない、食べこぼし、嚥下反射が遅くなる、食道の入口の開きが悪くなる、飲み込むのに時間がかかる、唾液が少なくなる,むせたときに咳をすることが下手になる、などがあります。また、摂食嚥下機能に影響を及ぼす副作用がある服用薬としてアトロピンなどの抗コリン薬、三環系抗うつ薬、抗てんかん薬などがあり、注意が必要です。
—誤嚥—
気道と食道はこのように交差しているので、
摂食嚥下の過程で誤って食物が気管内に入らないよう、
筋肉が協調運動をしているのです。
食物が通る際は、通常気管へ入らないように蓋がされるわけです。
声帯を越えて気管内に唾液や食べ物が侵入することを「誤嚥」といいます。声帯を越えなく喉頭内にこれらが入り込んでしまった際には、「喉頭侵入」といいます。食べ物や唾液が誤嚥や設
喉頭侵入を示すと、それを喀出するために咳嗽反射が起こり、「むせ込み」がみられます。ですから「むせ」がみられた際には,誤嚥や喉頭侵入を起こしていると考えて間違いありません。一方で、誤嚥してもむせず、睡眠中に無自覚に唾液とともに細菌が気管や肺に入る場合もあり、「むせなし誤嘸(不顕性誤嚥)」とよばれています。
—窒息—
「窒息」とは、空気の道である気道、すなわち口から咽頭、喉頭、気管にかけての道に食べ物が詰まり、呼吸ができなくなったことを指します。この窒息は、命の危険に直結するために注意が必要です。窒息事故は、さまざまな食品によって起こります。死亡に至た窒息事故の原因食品を消費者庁の報告からみてみると、1位である「餅」についで,「米飯」「パン」「肉」「魚介類」と続き、われわれ日本人が普段から食べてい食品が並びます。特に嚥下機能が低下した高齢者おいては、窒息への配慮が必要です。
—脱水・低栄養—
私たちが1日に食べたり飲んだりしている食事やお茶の量を想像してみてください。3度の食事に加えて、おやつや夜食、紅茶やコーヒーなどを頻繁に摂取していると結構な量になることがわかります。1日分を並べれば、テーブルいっぱいになるような量です。一方。摂食嚥下障害がある人では、十分な食事を摂ることが難しくなれば、当然「低栄養(栄養障害)」に陥ります。
「嚥下障害の人はスプーン1杯の水で溺れる」という言葉があります。通常、水というと誰しも飲みやすいものと思いがちです。しかし、嚥下障害の人にとって、水は動きが速く口腔内でバラバラに広がることから。もっとも誤嚥をしやすく、飲みにくいものなのです.水は、私たちが生きていくために毎日摂取しなければならない重要なものです。嚥下障害になり、水やお茶,みそ汁などの水分を摂るときにむせるようになると、知らず知らずのうちに摂取量が減少し。「脱水」につながります。
—食べる楽しみの消失—
「生きるために食べよ、食べるために生きるな」・ギリシアの哲学者・ソクラテスの名言としていまも残るこの言葉は、日々、忙しく働く私たちにも教訓を与えてくれます。しかし、「食べることは生きることである」ことも事実で、特に摂食嚥下障害患者さんにとっては、食べることが制限されるなか、「食事を楽しめない人生なんて!」と思うのも無理はありません。
食べるものに制限があっても、食べる楽しみを味わってもらえるような支援を継続することが必要です。