こんにちは、こさか歯科クリニックです。
今回は高齢の方の栄養摂取についてのお話です。
⚫️高齢者の栄養と食事・食形態
NYUの留学中に食べたステーキ。赤身で食べ応えがありました。
高齢の方の栄養摂取について、補綴の勉強会でも取り扱われる問題であります。
歯が弱っていたり、噛めない入れ歯を装着されておられる場合、
柔らかく炊いたお米や麺が多くなりがちであると。
この写真のような塊である必要はありませんが、とにかくタンパク質不足になる方が多いとのこと。
プロテインやビタミンでも栄養摂取できるという意見もありますが、
楽しみがないですね。
高齢者にとって「口から食べる」ことは生活の楽しみであり、生きがいでもあります。しかし、ときに食事という行為が命取りになってしまうこともあります。その原因の1つは、「本人の摂食感下機能に合わない食事をとること」です。食事中にむせ込みが生じたり、食事時間が長くなったりする場合、「食事が摂食の下機能に合っていない可能性」が考えられます。そして、これらの問題に対して何も対策を講じなければ、いずれは誤嚥性肺炎や窒息を引き起こしてしまうかもしれません。
もう1点、機能に合わない食事をとることの弊害として、「食欲低下や偏食などによって食事量が減少し、低栄養(栄養失調)や脱水が生じてしまうこと」があげられます。高齢者は成人に比べて体内水分量が減少することから、もともと蓄えている水分量が少ないために脱水状態に陥りやすくなります。そのため、食欲不振やの下障害による水分摂取量の減少には注意が必要です。また。高齢者のなかには喉の渇きを感じづらくなっていたり、トイレに行<のが億劫で水分を控えてしまったりする方も少なからずいるため、心疾患などによる制限がない限り、季節に関係なく水分は十分に摂取する必要があります。
●低栄養
—低栄養の問題点—
低栄養の問題点
低栄養になると、体重や筋肉量が減少することでADL (日常生活動作:Activity of Daily Life)が低下し,寝たきり状態になってしまう可能性があります。また,免疫力が低下して風邪などの感染症に罹りやすくなったり。重症化して肺炎になったりするリスクが高くなります。誤嚥も肺炎のリスク要因ですが、栄養状態がよく、免疫力が低下していなければ,たとえ誤嚥をしても肺炎にまで至らない場合もあるのです.ほかにも。低栄養により(床ずれ)ができたり、傷や病気の治りが遅くなったりします。
低栄養は、特別なきっかけで生じるわけではなく,ちょっとした不注意で簡単に陥ってしまいます。たとえば「歯が抜けた」「義歯が合わない」などは高齢者に容易に起こりうることですが、それがきっかけとなって歯ごたえのある食べ物を避けたり、食欲が低下したりすると、食事量が減少し、栄養バランスが偏ってきます。そのため必要な栄養量を確保できなくなり、低栄養状態に陥ってしまいます。
特に問題視されているのは,PEM (Protein Energy Malnutrition)といわれる,タンパク質とエネルギー不足の低栄養状態です。高齢になると肉類を敬遠しがちですが、その理由の1つに「噛みにくさ」「飲み込みにくさ」があります.肉や魚など筋肉のもととなるタンパク質を摂取して栄養状態を維持するためには,歯の治療だけでなく、肉や魚を食べやすくする工夫も考ラス要があります。
—低栄養のリスク評価—
高齢者の栄養状態を評価するには、まずは体重(kg) を測ることから始まります。加えてBMI(体格指数:Body Mass Index)と体重減少率を算出します。
BMIと体重減少率は、高齢者の低栄養のリスク評価を行う指標となります。BMIは「体重(kg)→(身長(m) ✕身長(m))」で求められ、18.5~25未満を標準とし、25以上は肥満。18.5未満をやせとしています。
体重減少率は,「(通常体重(kg)一現体重(kg))→通常体重(kg)✕100」で求められ、どのくらいの期間で体重減少が起こったかによってリスクが異なります。診療室においても、高齢者の体重を把握することが必要でしょう。
このくらい歯があり、しかも修復された跡がないような口腔内だと、
病気のリスクが低いと考えられます。
咬合が崩壊してしまった患者さんのレントゲン写真。
残っている歯も揺れが大きく、残すことが難しい部分があります。
下の歯が残っている側は、上の歯茎の吸収が著明です。
力の問題が顎の骨の吸収を進行させると考えられます。
このような状態だと、義歯を入れて安定させるのが非常に難しいです。
天然の歯のようには噛めないですし、ここまでになる前に歯科を受診し、治療を受ける必要がありました。
—高齢者の必要栄養量とは?—
高齢者が必要とする1日の栄養量はどのくらいでしょうか。厚生労働省が示している日本人の食事摂取基準の一部ですが、18~29歳の成人期と比較して、70歳以上では必要エネルギー量は減少します。これは、加齢による除脂肪組織(筋肉や骨など)が減少することで基礎代謝が低下するためです。しかし、タンパク質をはじめとするほかの栄養素は、同等量の摂取が必要であることがわかります。つまり,高齢になっても、肉や魚の摂取量を若いときより減らす必要はないということです。
—必要栄養量を確保する方法—
十分なエネルギー量とタンパク質量を摂取しないと,PEMとよばれる低栄養状態になること、また水分量の摂取不足は脱水を引き起こすことは冒頭で述べました。そこで、1日に必要なエネルギー量とタンパク質量。水分量を確保するためのポイントを以下にあげます。
①できるかぎり欠食をしない
朝.昼.夕と規則正しく食事を摂るようにします。体調の悪いときや食欲のないときでも、レトルト食品や果物、デザート類をすこしでもいいので食べるほうがよいでしょう.体調の崩れをきっかけに欠食が慢性化することがありますが、そうなると摂取栄養量が不足しつづけてしまうことになります。
②間食を取り入れる、少量頻回食にする
1回で1食分の量を食べられないという場合は、1日3食にこだわらず、間食を摂ったり、5食にするなど食事回数を増やしたりすることで、1日の必要量を補給するようにします。
③毎食タンパク質を含む食品を取り入れる
肉,魚卵,大豆製品、乳製品のいずれかを毎食摂ることで、筋肉のもととなるタンパク質を補給します。
④水分補給はこまめに
水分はこまめに摂取するようにします。食事が十分摂れていて、食事時にお茶などの飲み物を摂取している場合でも,食事時以外で計500mLくらいは摂取できるとよいでしょう。
⑤栄養バランスを考える
エネルギー源となる主食,筋肉のもとになるタンパク源を補給する主菜、身体の調子を整えるビタミン・ミネラル類を補給する副菜や汁物、というように、一汁二菜または一汁三菜を目安にしましょう 。すべてを手作りしなくても、スーパーの総菜やレトルト食品。冷凍食品などを取り入れながら、なるべく多品目の食材を食べるようにします。
⑥栄養補助食品を活用する
通常の食事量が摂れない場合は、少量でも必要なエネルギー量やタンパク質量などを摂取できる、栄養補助食品を活用してもよいでしょう。
●摂食嚥下機能に適した食形態とは?
「噛みにくい」「飲み込みにくい」と感じている高齢者が必要栄養量を確実に摂取するためには、摂食の下機能に合った食形態に調整する必要があります。では,噛みにくい、飲み込みにくい場合はどのような工夫が必要か考えてみましょう。
「パンがパサパサして食べづらい」という場合は、飲み物やスープに浸したり,フレンチトーストにしたりすると食べやすくなります。また、まとまりにくくばらつきやすい米飯は,ひきわり納豆やとろろなど粘りがあるものといっしょに摂ることで,ばらつきやすさが軽減されます。
●その他の工夫
認知機能の低下や覚醒状態の悪化などにより食事が進まない場合は、「はっきりとした味つけにする」「香辛料などを利用して香りを強くする」「体温と差がある温度にする」などの刺激があったほうがよいでしょう。
また、好きなものや好きな味、なじみのある料理を中心にした献立にしたり、きれいな器に盛りつけたりすることで,食欲が増進されて食事が進むこともあります。こうした工夫は医学的ではないかもしれませんが、高齢者の食事を提案するうえで、本人や家族の「語り(ナラティブ)」から得られる情報がとても重要です。食形態を含む食事内容の提案は、摂食嚥下機能評価に基づいて行うことが大前提ですが、本人や家族の嗜好や生活スタイルに合わなければ、難しいです。食事はあくまで生活の一部です。高齢者が食事を楽しめるようなサポートができるといいですね。